マーク君の卒業式
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「来賓挨拶。オスカー・ランドール大将閣下」
式次第を進める教師の声が、ホールに響き渡った。
今日は王立中央高等学院、通称貴族学園の卒業式だ。
俺の大事な長男が卒業を迎える晴れの日、保護者として出席するのは当たり前だろ。なのになんで来賓席に拉致されるんだ。挨拶させられるなんて、聞いてないぞ。
演壇が戦場にしか見えない。援軍は無し。単独で突撃するしかない。中央突破は成るか。敵はどこだ。
気合を入れ直して、足を踏み出した。
いや、卒業式なんだが。
「卒業生諸君、卒業おめでとう。今日から君たちは、社会の荒波へ一歩を踏み出す。学生という身分に守られた日々は終わりを告げた。理不尽なこと、思い通りに行かないことがいくらでもあるだろう。今、我が国は変革の只中にある。昨日までの常識が通用しなくなるだろう。だが、悲観することはない。君たちは若い。若いと言うことは、柔軟に対応できるということだ。常識が通用しないなら、新しい常識を作り出せば良い。理想を持て。そして理想と現実を擦り合わせる努力を怠るな。未来は君たちの手にある」
うう、我ながら偉そうなこと言ってるなぁ。それっぽく言葉を並べてるだけなんだけどな。ま、長すぎるスピーチは嫌われるから、ここらで終わらせとこっと。
「ちなみに私は学園の成績は中の下だった。文官になる才能は無し、商人になるのも無理。消去法で国軍に入隊したというのが正直なところだ。それでも大将にまで出世できた。人生、何が起きるか分からない見本だろう。君たちの人生はこれからだ。どこへ行き着くかは、君たち次第だ。君たち一人一人に、心より幸あれと願う」
よし、決まった。それらしく形になっただろ。これが俺の精一杯だ。
長男のマークが学園に通っていた三年間、俺はランドール伯爵領に詰めっきりだった。
領政は代官のグレーン卿に丸投げしてたんだけど、何と言うか、こう、ミリアの前世のニホンをモデルにした社会が再現されたんだとか。
正直、どの程度再現できてるかは、ミリアにしか分からない。ミリアに言わせるとニホンとは似て非なる非常識さらしいけどな。
いくら神代の古代国家だって、五十階建ての高層ビルが建ち並ぶなんて、有り得ないよな。
マイヅルは港町として発展中だ。国営の造船所で造られた外洋仕様の大型船が実用化されて、通商航路を行き来している。一年の官製貿易を経て民間に開放されたから、マイヅルには大商会の支店がいくつも進出してきた。
マイヅルに駐屯していた国軍は、新設された海軍に衣替えした。海上交通の警備と、密輸の取り締まりが任務だ。密輸なんてまだ一件も起きてないが、予め対策することで抑止力になるとか。
初代海軍司令官は、なんとこの俺。
領主を兼ねてるから連携は完璧って、そりゃ本人だからな。
それより軍と領主の癒着を心配しなくて良いのかと奏上したら、初代だけの特例で、二代目からはランドール伯爵家を避けるから問題無しと言われた。
役職の世襲は基本的に禁止だそうだ。これも封建社会脱却の方策だそうな。
特例多いな、我が領地は。ダンジョンの扱いもそうだし、初代の領地開発って、こういうもんなんだろうか。よく分らん。
「お父様」
在校生席から、ミリアが歩いてきた。
ミリアの後ろに従うのは、近衛騎士が二人。
本来、近衛が警護するのは王族だけに限られるし、学園の敷地は管轄外だ。つまり、ミリアは王族以上の扱いを受けていることになる。
事有るごとに聖女様の権威付けをしてくる王家には、ご苦労様としか言えない。
まあ、天津箱舟をご存じの高位貴族出身の皆様は、船長閣下命だ。大喜びで警護しているから、断ったりしたら国王陛下が突き上げ食らうだろう。
「やっぱり、マーク兄様が居なくなるのは寂しいです」
マークとは二歳違いだから、三年生と一年生でかぶったけど、もうマークは卒業だからな。
マークは、王命によりデアモント公爵家の後継が決定している。例の契約結婚の履行だ。王命である以上、誰も異論を挟めない。
舞台裏で王に命じたのは、今、目の前に居る娘のミリアなんだが。
「キャサリンお母様がお母様で無くなってしまうのも」
うんうん、解るよミリア。父さんもキャサリン義姉さんと離れるのは寂しいさ。
でも、キャサリン義姉さんの幸せが第一だからね。
大丈夫、ちゃんと好きな人と再婚するんだから、幸せになれるよ。
次話からキャサリン義姉さんの再婚話に入ります。リアーチェ義姉様の子供は、男の子かな。女の子かな。どちらにしましょう。
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