テイラム君はギルドマスター
雪です。本降りです。湿ったボタン雪になってきたから、どんどん積もってます。雷も鳴ってるし、当分止みそうにないです。
テイラム君、復活(笑)
「久しぶり~。会いたかったよぉ」
片手を挙げてニヘラと笑うテイラムの第一声がこれだった。
相変わらずで、あきれたけど安心したよ。
テイラムの役職は俺の副官。れっきとした国軍准将だ。港湾都市マイヅルへ派遣された国軍の、駐屯地に赴任している。
なのに何でデパ地下ダンジョンのギルドマスターしてるのかな。ギルマス室なんて専用の個室まで構えているし。ここ、民間施設だろ。
「俺はオスカーの副官なの。オスカーが留守してるんだから仕事無いの。手が空いてたからねー、誰もなり手がいないギルマスを押し付けられたんだよ。あ、ギルマスって、ギルドマスターのことだからね。ランドール伯爵領がちゃんと軌道に乗ってダンジョンの管理が安定したら、軍は完全に手を引くからさ。それまでの暫定処置だよ。詳しくは代官のグレーン卿に聞いてね」
マイヅルに派遣されている国軍は、カロテタリア騎士団所属の一個大隊千人。当然指揮官の大隊長が居る。実際に兵士を動かすのは大隊長の職務だ。
国土保全省の測量の手伝いって名目で駐屯しているから、実務の主導権は保全省の役人の方々にある。
一応俺が責任者として両者の上に居るけど、形式だけでずっと王都に居たしなぁ。テイラムの立ち位置が曖昧になった責任は俺に有るな。
それとはそれとして。
マイヅルを港湾都市として発展させるのは領主である俺の役目。ダンジョンを管理するのも俺。全部代官に丸投げしてるけど、責任者はランドール伯爵である俺なんだよな。
なのに軍の副官のテイラムを領地経営に駆り出すのは、さすがに拙いんじゃなかろうか。
「ま、それは表の話だけどね。ここからは舞台裏だよ」
うっ。また天津箱舟絡みか。
「なにしろ、天津箱舟の物品配布所だからね。公爵、侯爵の皆様方に任せたら、主導権争い勃発、待った無しだよ。グレーン卿が代官に成ったのだって、スミス公爵家の抜け駆けだって、そりゃもう非難ごうごうだったんだから。で、公私ともにオスカーの相棒の俺なら仕方ないって、妥協の産物で俺がギルマスになったんだよ」
高位貴族の皆様の非難ごうごうって。
考えただけで身震いするよ。触らぬ神に祟り無しだよな。
「俺以外なら、国王陛下か王弟殿下くらいしか皆様を納得させられないだろうねぇ。表向きの理由をどうやってもこじつけられなくて無理ってなったんだけど。そっちが良かった?」
テイラム、お前なぁ。
そのワザとらしい笑顔、ぶん殴りたくなるから止めろよな。
まさかギルドマスターとして表の顔になるとは思ってなかったけど、テイラムがデパ地下ダンジョンの準備段階からかかりっきりだったのは分かっている。
そっちが忙しくてタムルク王国へなかなか行けなかったくらいだし。
やっと来たと思ったらすぐ帰国するし。
俺一人で大変だったんだぞ、本当に。
「とにかく、なるべく早く国軍に戻ってくれ。軍の副官を自領の民間施設の責任者にしてるなんて、公私混同も甚だしい。不自然過ぎるだろ」
「はーい。待っててねー」
探索者ギルドを出た後は、ダンジョン入り口のある山を下って、マイヅルへ向かった。
代官のグレーン卿の案内で港の整備状況を把握して、どんどん発展していく活気に満ちた空気を息子のカークと共に満喫した。
軍の駐屯地と国営の造船所では、グレーン卿に息子を預けて、国軍大将の立場で視察。順調で結構、結構。
「それでですね、伯爵閣下。後回しになっている領主館、どうしましょうか。伯爵邸として豪華絢爛な城仕様にしますか。それとも領都に合わせますか。高層ビルに間借りするならすぐですが」
あ。すっかり忘れてた。
そっか。伯爵邸か。
脳裏にバルトコル伯爵邸が浮かんだ。無駄に広くて高くて豪勢で、眩暈がしそうな維持費が掛かるやつ。勘弁してくれ。
「えっと、グレーン卿はどうしてるんですか。じゃなくて、どうしてるんだ」
危ない、危ない。家臣に敬語は禁物って、分かってるから睨まないでくれ。
「領都行政府予定のビルに入居しています。効率を考えるならお勧めですよ。貴族の体面を優先するなら豪華絢爛な……」
マジで勘弁して下さい。将来どうなるかは分からないけど、当分、間借りで結構です。
復活のテイラム君。ランドール伯爵領は発展途上です。
ちなみに、高層ビルは豪華絢爛なお城よりコストが掛かってます。隔絶した技術と素材を、一から開発する手間がありますから。労働者だって、初心者を育成してますからね。そこを何とかしてるのが天津箱舟。はっきり言ってチートです。
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