ランドール伯爵領ヘ 領都到着
やっと到着。オスカー君が知らないうちに、惑星開発プログラムが着々と(笑)
明日明後日、この冬一番の寒波だそう。どの店も買い出しの客でごった返してます。豪雪にならないと良いなあ。
未開の草原の道の先。
初めに見えたのは門だった。城壁は無い。ただ、二本のそっくり同じ柱が並んで立っていた。
それが目の錯覚だと分かったのは、進んでも進んでも門が近くならなかったからだ。
なんだあれ。これだけ遠くから見てあの大きさって、どれだけでかいんだ。
馬車の周囲を囲む護衛の騎馬兵は驚いていない。馬車に同乗しているグレーン卿を見たら、ニヤニヤしている。
「驚くのはまだ早いですよ。領都内の建物を見てからにして下さい」
つまり、天津箱舟由来ってことだな。自重無くやらかしたと。
神の御業なら何でも有りか。地形変えて海峡作っちまうんだから、今更何が有っても不思議はないよなぁ。ハハハハハ。
門だと思った二本の柱は、建物だった。
地上から真っ直ぐそそり立つ長方体。どの面を見ても四角。屋上だって地面と平行の四角。
普通、これだけ大きな建物なら、斜めの屋根や半球状のドームが複雑に絡み合ってないか。柱に彫刻が有ったり、バルコニーが突き出ていたりとか。なんでこんなにシンプルな形なんだ。
ケチを付けられたのは、そこまでだった。
規則正しく並ぶ窓は、全部が鏡になっていた。そこに映る風景には歪みが一切なく、窓ガラスの品質の高さを示している。ガラスだよな、あれ。建物内がうっすら透けて見えてるし。
そして大きい。とにかく高い。大木なんてレベルじゃない。断崖絶壁を見上げる高さだ。
「これがツインビルです。地上五十階、地下十階、合わせて六十階建てです。領都の建物の基準になりますから。住民は基本的にこの規格のマンションに住んでいます。建物一棟で六百戸ほど。家族の人数に応じて一戸当たりの占有面積を上下させます。全戸単身用にすると、二千人弱が住める計算ですね」
建物一つで、村の人口以上を収容できるとか。実物見なきゃ、到底信じられない話だ。
「と言っても、現在は地上二階までしか使用していません。心理的抵抗が激しくてですね、高層階は怖くて住めたもんじゃないそうです」
王宮や貴族街の一等地なら、四階五階が珍しくないんですけどねと、グレーン卿が笑い飛ばした。
タムルク王国で見た田舎の村を思い出す。ほとんどが平屋で、宿屋を兼ねた村長の家くらいしか二階建ては無かった。そんなところから移民して来てるんだ。そりゃ、怖いだろう。
門、改めツインビルの間を抜けて、領都に入った。
大通りの中央は水路になっている。幅が広い。水路だけで、王都の大通りくらいある。水路の両側は、それぞれ馬車が五台は並んで通れる広さだ。
「これは、通りと言うより細長い広場じゃないのか」
「いえいえ、片側五車線、路面船便用水路付き。都市計画としては、ごくごく標準的ですよ。せっかく一から都市づくりできるんですから、理想を追求しないと。それにこれくらい道幅が無いと、建物の圧迫感が強すぎます。風通しや日照が足りなくなりますよ」
まあ、確かに。
通りの外側は、見通しの良い更地が続いて……いなかった。大穴が幾つも開いて、巨大建築物の基礎と地下部分を建設中だった。
視察のタイミングがもっと後だったら、立ち並ぶ高層建築群に迎えられただろう。遠目に見える完成した建物は、建設労働者の住居だとか。
「建設ラッシュが一段落すれば、高所アレルギーも治まってますよ。自分の手で建てるんですからねぇ。安全性だって体で納得出来ますよ」
笑顔のグレーン卿に、息子のカークが声をかけた。
「スミスさん、それって荒療治過ぎませんか。鬼畜の所業だと思いますけど」
「おやおや、カーク様、難しい言葉をご存じですね。大丈夫です。人間は慣れる生き物です。一世代過ぎれば、笑い話になりますよ。部屋の中に居れば、窓の外を見ない限り高さなんて意識の外に追い出せますからね。早速、試してごらんになりますか」
「やります。僕は平気です」
おいおいカーク、子供らしい万能感なんだろうけど、根拠のない自信だろ。足が竦んでよろけたらどうする。
それより気になるんだけど。
五十階まで、階段を登るのか。体力が保たないと思うぞ。
次回はダンジョンの視察かな。出て来い、ファンタジー!
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。エンディングに向けて、着々と進んでます。




