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転生クーデター  作者: ねこなべ
第一章 転生したら死亡フラグ踏んでました。
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第五話 はじめてのおつかい

前回のあらすじ

おうちがもえました。

「おおっとぉ!オレっちが一番乗りィッ!」

「させません!」


 銀閃が燃え盛る館内エントランスで衝突し合う。一つはまるで道化の様に笑う影、そしてそれを迎え撃つ様にこの国では珍しい形状の剣、聖王国家アルテナの同盟国より取り寄せたをカタナを脇に抱えるのはこれまた不釣り合いな格好をした淑女。メイド隊分隊長であるドロシーが侵入者を相手に拮抗していた。


「ッ!?チィッ!マジかよ!他の連中にしてもそうだけどここのメイドやら、衛兵やらやたらと楽しませてくれんじゃん!」


 燃え盛る火が影の顔を照らすと、素顔を覆い隠す様にすっぽりと仮面を被っていてその正体はわからない。挑発する様に振る舞い、こちらの動きを止める様に投げナイフを投げ込み、隙あらば正確に急所を、命を狙ってくる。

 

「ぜあっ!」


 一方でドロシーも侵入者を一刀両断にすべく接近し、一撃必殺の一閃を繰り出す。スキルの大半をカタナを扱う事をベースにしたドロシーの一撃は回避し切った筈の賊の腕に僅かに斬り傷をつける。


「おっとっと。あっぶねー。アンタ相手ならここはダンチョーに譲った方が良さそーだねー」

「世迷言を……逃がすと思っているのか?賊め」

「ま、オレッち一人なら逃げんのはちょーっとたいへんそうだけどさーぁ?そろそろオレっち達もクライアントからいい加減ケツ叩かれちゃってんだよねー」

「………達?まさか!?」

「そーゆーこと。おねーさんとヤリあうのも楽しいんだけどさー。俺ら『影』が取りに来たってわけよ。おねーさん達の大事な大事なお嬢様のお命をさ♪」

「っ!?」


 賊が後退する様にバックステップをすると闇夜から漆黒の龍がドロシーを襲うのだった。


☆☆☆☆☆


そして現在。


 戦闘があちこちで起こっている。命を狙われてるのは知ってるけどこんなにもあからさまに来るとは。

 て言うかドロシーさん、めっちゃ強かったんですね。今まで悪戯しててすみませんでした。


「くっ!?きゃあっ!?」


 それまで猛攻に何とか耐えていたドロシーが吹っ飛ばされて壁に叩きつけられる。


「かっふ………お逃げ……ください。お嬢……様」


 白いエプロンが真っ赤に染っていた。見ると身体中あらゆる所から裂傷していて、血が流れ出している。


「ひぐっ!?」


 ただでさえそんな縁の薄い日本に居た私には目の前で命が消えようとしている現場を前に吐き気と血の気が引くのが両方一気にくる。『私』にとってはつい数日だけどドロシーはお姉ちゃんの様に見守り、私が悪さをすれば叱り、姉を失った私のそばにずっといてくれた人だ。その人の命が尽きようとしている。


「やだ……やだよう………しんじゃやだようどろしぃ」


 声が震えてうまく言葉が出ない。お父様やお母様も危険だ。たすけなきゃ、たすけなきゃ、たすけなきゃ。


「いけません……お嬢様っ……」


 ゲホゲホと血の塊を吐き出して私がやろうとした事を無理矢理手を握り返して押し留める。いつの間にか私はドロシーのそばに駆け寄っていたようだった。


「それは……旦那様や奥様とお決めになったでしょう?お二人が良いって仰るまでヒミツにしましょうって」


「へぇ、教えてほしいモンだなぁ?俺にもさぁ。お嬢様のヒミツってヤツをよ?」

「ッ!?あがっ!?あああァァァ!?」

「ドロシーっ!?」


 影がドロシーの腿に拾ったカタナを突き刺し踏み抜く。吹き出した血がそこら中を真っ赤に染め上げ、嗅ぎ慣れない匂いが辺りを充満させる。


「っと、やりすぎちまったか。折角の手土産にできそうな情報が得られる前に死んじまったら元も子もねぇ」


 ズコッと言う音と共に引き抜かれたカタナはドロシーの手元に転がされる。


「ほらほら、がんばろーぜぇー。メイドのおねえーちゃーん。かわいいかわいいお嬢様がスライムみてーにプルプル震えちゃってるよー?」


 ドロシーが私を抱き寄せ、カタナの切先を賊に向ける。私は影に見えないように回復魔法を解らない程度にドロシーに掛けていく。

 その時だった。外で炸裂音がすると、その炎に当てられ室内が明るくなる。


「ったく。あいつら派手にやり過ぎだろ」


 燃え盛る炎がようやくその正体を照らし出す。それは、龍の頭を模した被り物の面をつけ、ボロボロの外套を纏った一人の男の姿だった。


「まさか……『顎』?存在してたの?」


 ドロシーが絶望混じりな表情で男を見つめる。


「その名で呼んでくれる奴が居てくれるとはねぇ?最近じゃあお貴族サマは俺らの事をヤマザルなんて呼んでくるモンだからさぁ」


 ゲラゲラと笑いながらこちらを見下ろす『顎』。尤も仮面からは表情は見えないが絶対に笑ってない。自信ある。笑ってないって自信ある。


「ま、ワルイねぇお嬢ちゃん。こっちもお仕事なんだわ。お前さんに恨みは無いんだけどさ、お金貰ってるからやんなきゃなんないんだわ」


 何故だろうか?私にはこの人が『私』と被って見えてしまったのだ。普通に考えたらあり得ないんだけど、何でだろ?


「おっおぅー♪」


 あ、変な声出た。


「ぷっ、ギャハハハハハハハハ!おいおいおい、お嬢様、アンタ命狙われてんのわかってる?もうすぐ死んじまうんだぜ?」


 ドロシーもあまりの出来事に呆けてしまってる。わかってるよう。出ちゃったんだよう。小っ恥ずかしいのわかってるよう。


 でも……おかげで私が『今』やれそうな事、この状況がひっくり返せそうな事を落ち着いて考える時間が僅かに出来た。


「あのさ………」

 

 私を抱えるドロシーの手を外し、震える足を何とか耐え立ち上がると、『顎』を前にして見上げる。


「私に乗り換える気……無い?」

「は?」

「お嬢様!?」


 頭の中を整理する。ハッキリ言って正気の沙汰じゃない。けれど出来なきゃ死ぬ。やっても死ぬかも知んないけどとりあえずやんなきゃ死ぬ。


「………だ、ダーニック家………ですよね?雇い主」

「…………?」


 ぐりんと首を傾げる『顎』。何で知ってんの?みたいな感じなんだろう。

 その辺りはおおよその当たりはつけている。何故ならダーニック家の御令嬢はレベッカ同様聖女()()に挙がっていた、いわばレベッカルート最初の噛ませライバルキャラだ。レベッカルートにおける聖女の選定で十輝星の一つ『癒しの聖鍵』、その雛形のコアに触れると言うイベントを通じて正式な聖女認定を受けるのだが、それにライバルとして登場するのがダーニック家の御令嬢だった。

 それまで散々他の候補者の邪魔をした挙句、コアからは拒絶された途端、突然儀式そのものを無茶苦茶にしてやろうと魔核を喰らい最初のBOSSモンスターとして戦う事になるのである。

 要するに『顎』はレベッカルートには未収録ではあったけどその前に起こっていた襲撃者の一人だ。ここからは全くの私の想像と今ある情報とハッタリのみで事を進めなければならない。


「お嬢様、一応俺らお金貰ってるってわかってる?」

「わ、分かってる!で、でも……」


 恐らく私を殺す気は()()まだない。これだけの襲撃をしておきながら私に一切の手出しをしていない事を踏まえると恐らく狙いは……

 私にトラウマを植え付ける事、いつでも殺せるという状況を作る事、更に雇い主に対してこれだけの被害を与えてきたと言う報告。『顎』は雇い主から金を毟り取る為にギリギリのラインをひたすら攻めているのだ。つまり………


「私なら……貴方達の()()()()()事ができる」


 本当に求めているモノはお金ではないと言う事。何故ならさっき言っていた『顎』と言う呼び名に対しては案外気を良くしていたのに対し、『ヤマザル』と言う呼び名に対して忌避感を抱いていた気がしたから。自分で言ってたくせに。


「……………………………」


 よし!アタリを引いた。って言うかあれ?


「なぁクソガキ?オマエ、ソレナニイッテルのか分かってんのか?」


 地雷踏み抜いたーーーーーー!?怖い怖い怖い怖い!でもここで失敗すればトラウマで済まされるどころか皆殺される!


「5年!5年で貴方達の烙印を削いで見せる!だからお願い!それを報酬に私と契約してください!」


 何で5年かって?5年後には私達にとって避けられない運命が確実にあるからだよ!レベッカ以外のルートか、それともレベッカ以外のルートでクーデタールートか?ってねェッ!


「冗談にしても笑えねーぞクソガキ?何でお前が俺らの()()について知ってんのか知らねーが、テメェがたかだか5年で削ぐダァ?それが出来りゃ……」


 徐々にブツブツと独り言に切り替わって行く『顎』。


「………5年か。まぁいいだろう」


『顎』が上を向きこの世とは思えないような金切声を上げる。思わず耳を押さえしゃがみ込む。音が鳴り止み、恐る恐る周りを見るとぞろぞろと部屋は人で溢れかえっていた。

 外では必死に消火活動が行われていて、私や生存者を呼ぶ声が飛び交っている。


「テメーら、今日から俺らのご主人サマになるお嬢様だ!アイサツ済ましとけぇ!」

「よろー」「うっすー」「よろしくお願いします」

「怖がらせてごめんねー」「メイドのねーちゃんまたやろーねー」「ギャハハハハ」


「えっと……お断りします……」


 お、おう。アットホームだな。ドロシーさんも思わず本音でとるがな。


「確かに5()()()()だ。だが、もし契約を反故にしてみろ。そん時ゃ一族全てを根絶やしにしてやっからな?」


 フランクなノリで死刑宣告受けました。


「ちゃ、ちゃんとお守りしまーす」


 守れたらね。


「悪かったな、メイドのねーちゃん。ま、そんなわけでヨロシク頼むわ」

「あ、ハイ。えっと……え?え?」

「んじゃま、改めて。俺はレイ、ヨロシク頼むわご主人サマ」

「はいはい、お願いしま……は?レイ!?レイっつった!?」


 私達の命の安全を確保したのを確認すると私の混乱を無視して『影』のメンバーに指示を出してレイは被り面を脱ぎ捨て、さっさと消火活動に加わって行ってしまった。


「あ………あああああああ!?」


 まさかこんな所で出会すとは思いもよらなかった。フロハーの攻略対象にして十輝星の一人。

『蒼星の双刃』ハーフエルフのレイ。

死亡フラグが終わったと思うじゃろ?

はいこれ次の時限式死亡フラグ。

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