第六話 ねこといっしょ
【前回のあらすじ】
世紀末デスロード
「んーモフモフー……」
現代で言う所、プロテアからノースまで乗って来たライドランナーが夜行バスなら街中で走る馬車は乗合バスに近い。
今私達が乗っているラプターカートは貸切仕様の様で他の冒険者が乗り合わせて来る事もなく快適に街中を走っている。街中を軽快に走る様はタクシーと言うより人力車に近い開放感だ。
「あのさぁ、レベッカ?」
「ん?どったの?」
「いや、その絵面は流石にヤバいわ。アンタが誘拐犯に見える」
「失敬な。どこをどう見たらそう見えるのよ?」
どこがそう見えるのだろうか?私はルルゥを後ろから抱っこしながら馬車に乗ってるだけなんだけど?嗚呼、モッフモフ。
「うにゃ〜…。さすがのニャーもちょっと正直身の危険を感じてるにゃ…」
「ヒューマ目線で考えてみ?その異常さが身に染みるから」
「可愛い子になんて事言うのよ、エリー!?見損なったわ!!」
「いや…、うん。まぁ、うん。……もう何も言うまいよ。(よっぽどストレス溜まってたんだなぁ…)」
呆れと憐れむ様な表情で此方を見てくるエリー。ちょっと、可哀想なものを見る目で見てくるのをやめてくれません?
「悪かったね、君も。道案内して貰った上に馬車の手配までしてくれてさ?」
「いえいえ、ニャーも行き先は同じですからにゃー。ニャーもこれからギルドに用事があるんで丁度良かったにゃ。
それに王都の区画並みにこの街は広いですからにゃ。基本的に区間移動は馬車なんですにゃ」
「へぇ、そうなんだぁ?」
ここに来るまでの出来事を不意に思い出す。道中手練れの冒険者達で組まれており、そのメンバーもB〜A-であった事を考えると相当難易度の高い護衛ミッションだったのは言うまでも無い。
私が上手く立ち回れたのはレイ達に普段からしごかれていた事と、先輩冒険者達が私達を含めた学生や新人達をフォローしてくれたお陰だろう。本当に頭が上がらない。
「そう言えばさぁ、エリー。何で此処に転移港が無いの?他の都市部にはあったと思うけどアレが有ればあんなに危険なルートを通る必要も無かったと思うんだけど」
何故あのノールデン商会は毎度の事こんな危険を冒しながら態々陸路で荷物を運ぶのか?
王都に匹敵する規模の都市なら転移港が有ればあんな危険な真似をせずとも物資を運搬する事だって可能な筈何じゃないのか?
そんな疑問を不意に思った私はエリーにその疑問をぶつけてみた。
「あー。それは何と言うかノースの立地のせいだろうね。仮にあったとしても今回の様な物資の運搬には《転移》は使えない」
「そうなの!?」
意外な事実に思わず声が出てしまう。
「レベッカは知ってると思うけど転移港ってのは転移陣をより大きくした代物で、一度に数十人を転移させることが出来る長距離転移装置のようなヤツだね。
本来なら荷物の運搬などにも利用されるけど固定の位置にしか転移させることができないし、通常防犯的な意味で大都市や首都の所定の場所にしか設置されていない」
フロンティア大陸の地図を取り出したエリーは、分かりやすく噛み砕いて説明してくれながら現在転移港が設置されている都市を指差して案内してくれる。
エリーの説明では、他の大都市で言うと水の街イスヴェルや工芸都市ゼルバン、遊楽都市ドリムタールと言った場所には大型の転移門が設置されており、多少値は張るが長距離を一瞬で移動が可能となっているのだそうだ。
「既に原理は確立されて、尚且つ特許も取ってるから答えるけど、今現在使用されている《転移》は言うなれば《収納》から派生したスキルだ。それを転移門に固定し、貼り付けてる訳。
言うなれば転移する対象をアイテムとして収納し、転移先にて取り出すイメージだね。なので人間や小型の騎獣ごと転移させる程度ならまだしも、今回みたく中型や大型ごとを転移させるとなると術者や転移門に余計な負荷がかかる。単純に計算しても中型の騎獣を一体転移させるだけでも既存の最大サイズの転移門と倍の術者の人数が必要だしね。大型なんて言ったら単純に考えて更に倍のサイズの転移門が必要になるし、下手したら姉さんクラスの術者が何人も必要になるだろうね」
学園都市では図書館卿の恩恵によるものではあるが転送陣による区間転移が可能になっていたけど、まさか転移にそんなコストが掛かってるとは。……あれ?ちょっと待て?
「アンタそんなコストのかかるスキルを学園内の至る所に仕掛けてるわけ?歩くのが面倒だからって?」
「あ、バレた?」
何というコストの無駄遣い。姉妹揃ってやる事なす事が規格外過ぎる。
「ま、まぁ、アレは姉さんの物とは別枠だよ。私オリジナルの転送魔法。指定された短距離限定の代わりに低コスト。しかも姉さんと違って出来たとしても同施設内の距離を移動を可能にする程度の物だよ。
しかも学園内とは違って今回のは座標設置した座標点とを交換する事でって…ンッン、話が脱線した。
そのことは置いといて、仮に転移が可能だったとしてもさっき言った様にノースの立地が悪い事が一番な設置出来ない理由だと思うよ」
「立地?」
「確かに此処は大都市に分類されるし、防犯防衛的な意味でも問題ない。けれどもこの都市が『北壁』に近いのが問題なのさ」
「『北壁』の先にあるジュマの森は別称アンダーラインと呼ばれててね。この更に先にあるベルトラインの最終防衛ラインとなってるんだ。
そんでもって、このジュマの森は魔族領から人間領への侵入を拒むダンジョンにもなっていて、そこらかしこにバーサーカーが彷徨ってるらしい」
バーサーカー。第三級危険種モンスターの事だ。このバーサーカーがモンスターと言うのは少し語弊がある。と言うのも、バーサーカーは元々がモンスターでは無かった点にある。
彼らは元々、ジュマの森に探索に行きベルトラインへの進行ルートの確保に向かった冒険者達の成れの果てであると言う。彼らの中の生存者がその深部から帰還して明らかになった事だが、その深部に行くにつれ瘴気に当てられていき徐々に気が狂いはじめ、最新部に行く頃には、聖職者を除き最早誰も正気ではなかったのだそうだ。
今でもジュマの森では冒険者だったモノ達が徘徊する狂気の森となっているのだろうか。
「話を戻すけど、王都からここまでの直線上に街や村が無かったろう?万が一『北壁』を破られた際、真っ先に狙われるのは此処ノースだろうからね。仮に設置されていたとして、『北壁』を突破されてノースが支配された場合、転移門でノースから王都まで一直線って訳さ」
「ふーん、なるほどねぇ〜」
「………………」
ルルゥの様子がどうにも気になる。その様子が気になるのかエリーがじっとルルゥの顔を怪訝そうに視線を送っていた。
「んにゃ?どうかしましたかにゃ?」
「んーん、なんでもないわ。気にしないで
(にしてもこの子、どっかで見たことあるのよね?何処だったかしら?)」
視線に気がついたルルゥの問いに何事もなかったかの様に振る舞うエリーは終始何かを考えてこんでいる様だった。
☆☆☆☆☆
ギルド前で別れたルルゥと別れた私達はギルドカウンターにて配達終了の札を提出すると、待合室に通される。
「やぁやぁ、先程はどうもですにゃ」
「クソが…。どっかで見たことがあるはずだよ。ルルゥ・ツー・ゴールデンキャッツ!」
「ちょっ!?エリー!?」
突然攻撃体制に入るエリーを必死で止める。その場に居たルルゥは突然の事に身を屈めながら怯える。
「ちょっ!?エリー落ち着いて!こんな所まで来てお尋ね者になるつもり!?」
「離してレベッカ!コイツ殺せない!」
「アンタいったい何処でそんなネタ仕入れて来た!?」
「こ、ころされっ!?殺されるニャーっ!?」
ちょっとしたひと騒動の後、事情を察したのであろうノースギルドの秘書の方が美味しいケーキと紅茶を差し出してくれた。甘いものに目がなかったのかエリーも機嫌をある程度は直したらしい。しかし、それもわずかな時間だったらしい。
「コイツこんな成りしてるけどノールデンの子飼よ。つまり貴女を今回の指名依頼してきたアネットのグルって訳」
「人を詐欺師みたいに言うのはやめて欲しいもんだにゃー」
「そんなに邪険にしなくても。ルルゥまでそんな人間って訳じゃ無いでしょうに」
苦虫を噛み潰した様な顔でエリーはルルゥを一瞥して悪態を突く。
「はぁ、ホント危機感ないわね。レベッカ、友人として言わせてもらうけど、そのあたりちゃんと危機感持った方がいいわよ?
アネットはああ見えてノールデンの頭取よ?その息がかかってる奴らなんてろくなモンじゃ」
ダンッ!とデザートフォークをテーブルに突き刺す音が静寂を強制的に作り出す。
「アノクソアマ、マタヤリヤガッタ。クソガクソガ、イッタイドンダケアチシニシリヌグイサセリャキガスムンジャゴラ。マタトラブルハコッチニオシツケテウワマエハネヤガッテクソクソクソクソ……」
ルルゥは苛立ちを隠せぬ程様な形相でブツブツと何かを呟いていた。
「え、えーと、ルルゥ…さん?」
「ハッ!?ニ、ニャー?何か?」
「うん、ごめん。貴女も苦労してんのね」
先程の失礼な態度を一変させてエリーもルルゥに謝罪した。
☆☆☆☆☆
「それで私らをわざわざ呼び出して何の用なの?」
「実は今回の依頼の事なんですが。この後、継続して北岸の機械壁に今回運んで頂いた物資の一部を運んで欲しいんですにゃ」
「どう言う事?それなら直接『北壁』に向かった方が良かったんじゃ?」
「いや、それはちょっと無理だわ。確かに北壁はここからでも見えるけど、実際には此処から更に二日は掛かる距離にあるのよ。安全圈のギリギリの所にあるのがノースだからね」
ああ、成程。ここが最後の中継地点だった訳だ。
道中一緒だった冒険者や他の所から要請された冒険者達がここで集合し、交代要員として『北壁』防衛に当たると言う事か。
「そう言う事ですにゃ。運搬してもらうのは『北壁』の維持に必要な衣食類や聖水樽を計20ダース。それと交代要員の冒険者や聖職者が各30名。
これを『北壁』の中央都市に運んでもらい、終了とさせて頂きたい」
「その交代要員に私らは入ってないの?」
「流石に学生さんらにこの仕事は任せられないにゃ。
それに国に要請できにゃい代わりにニャーみたいにゃ雇われ領主はギルドと連携して冒険者を雇うにゃ。お陰でこの街も結構繁盛してるにゃー」
「なるほど」
「尤も、胴元に売り上げの上前跳ねられてるけどニャー」
ルルゥはそっぽを向いて笑顔を皮肉っぽく曇らせる。それにしてもこの街の宿場料金が特殊だったり、依頼料が高めに設定されていたのはこう言う為だったのね。
「わかった。受けるわ、その依頼」
「え?レベッカ!?」
「まぁ、折角ここまで来たんだし『北壁』見学して帰りましょう。ね?」
「はぁ…。アンタがそこまで言うなら付き合うしか無いかー」
「あ、ありがとうございますにゃ!」
渋々ながらエリーも私の決定に頷いてくれた。それに私も私で少し気になる事がある。気のせいだったなら良いとは思うんだけどね…。
しかし、私はこの時思いもよらなかった。まさかこの時、否、アネットに目をつけられてしまったその時点で私は逃げられない罠に嵌ってしまっていた事に…。
★★★★★
「意外でしたな」
「そうでしょうか?」
フリード家の応接間にて2人の人物が一つのテーブルに敷き詰められた計画書を前に相対する。一通り説明を受けた屋敷の主は来訪者に向けて意外そうな顔をする。
「トリトンを貿易港にする事は別な構いはしないが、勝手に貿易港にする事を良く上層部が通したものだ。それにこの話、何も私でなくとも他にも話に乗りそうな人物は居そうなものですがねぇ?
彼女を庇護している当家にわざわざこの様な案件を持ちかけてくるとは。それがどんな意味を持つのかお分かりかね?私に彼女を切れ、と言っている様なものだ」
「ああ、その事でしたか。別に切れと申し上げているわけではありません。私はーーー」
彼女は怪しく口元に指をなぞらせながら笑顔を見せる。
「貴殿に彼女の遺志を次いで欲しい、と。そう申し上げているのですわ」
大変遅くなりました!
いつもながら遅筆過ぎてすみません。
《転移港について》
主に大都市に設置される事が許可されている、長距離移動を一瞬で移動が可能な装置。装置は収納を拡大化し広域展開化する術式が敷かれており、その中に転送対象を『アイテム』として収納し、任意の地点に転送・展開するシステムが組まれている。(本来の転移魔法はシステム自体が違うらしい:エレイシア談)




