第五話 絶叫物の後に癒しを求めるのは間(ry
【前回のあらすじ】
ヤバい人に目ぇ付けられました。
「おい!矢が足りねえぞ!矢筒を回せ!」
「倒した野盗の方はどうするんですか!?」
「放っとけ!ランドシェイカーに追いつかれる!奴に北岸に食い付かれたら俺らは奴隷どころの騒ぎじゃねぇぞ!?奴は此処で仕留めろォ!!」
怒号が飛び交う。前方の馬車からは遊撃に走る『影』のメンバーや配備された冒険者達が倒した野盗を甲板から蹴り落としていき、飛び移ろうとした別の野盗に激突して騎蜥蜴ごと転げ落ちていく。
「焔の精霊よ、爆炎の槍にて貫き爆ぜ砕け!」
複数の火球がジーレの周囲で固定し、豪炎を纏った槍を形成して高速回転する。
「《爆炎煉獄槍》!!」
「ギャウン!?」
迫り来るデザートウルフ達は射出された《爆炎煉獄槍》に貫かれるとそのまま転倒していき、更に後方から迫るランドシェイカーに触れ爆発する。しかし、その爆発の直撃を受けて尚もランドシェイカーは馬車に接近してくる。
「シシリー!殿の馬車に強化魔法お願い!」
「は、はい!《硬度強化》《速度強化》《持続回復》!」
「ウオラァアアアアア!!ぶっ飛べェェ《ヒートゲイザー》!!」
そこらかしこで戦闘が繰り広げられる。商団の両サイドからは船体に張りつこうとする野盗やデザートウルフの集団、後方からは巨獣クラスに分類されるランドシェイカーが最後尾の馬車に接近して来る。その様はさながらどこぞの世紀末映画の様でもあった。
「《振り注げ流星群》!!」
「ゴァァアアアアアアア!!!ガバっ!?」
他の馬車から《陣位転移》してエリーが駆けつけると叩きつける様に大量の小隕石が打ち込まれてランドシェイカーは転がりこんで瓦礫に突っ込む。
「後方何やってんの!?五時方向、もう一匹来るよ!」
地鳴りを上げて今度は地中の中からランドモーラーが飛び出して来た。
「チクショォォ!?ホントにこの魔境がよぉおおおおおおお!?」
ガットの叫びはランドモーラーに突き飛ばされ、かき消されていった。
☆☆☆☆☆
「はーい、点呼確認したら各パーティ毎に食料受け取ってくださいねー」
「いやしかし、随分と手慣れてるな。あのお嬢さん」
「お陰でここまで来るのに死傷者無しと来た。結構キツイ筈なんだがな、北岸行きの便なんて」
「全くですよ。馬車の損害率だってほぼ軽微で済んでますからね。お陰で荷物は万全の状態で送り届ける事が出来ます」
中継地点での野営地点。学生の殆どは三日目にしてほぼ憔悴しきって居たが、レベッカは執務隊を引き連れ炊き出しに追われていた。
「アイツ、本当に化け物か?」
「全体指揮しながら普通に戦闘してたぞ?」
「クソ……アレがあの『正義の聖女』の実力か…」
レベッカに宛てられた『正義の聖女』と言う二つ名。これは彼女がこれまで公に解決した大事件。ダーニックの反乱、偽勇者事件。これら二つの解決に尽力した事が大々的に取り上げられ、元々聖女候補でもあった事もあり非公式ではあるが暫定的に宛てられる事になった二つ名である。
そんな話が進んでいたとはレベッカ本人も露知らず、知らされたのもつい最近の事だった。尤も、本人としては下手すれば最悪の未来に繋がる可能性もある為、全力で否定したい英雄譚だったのだが。
「いててて!おい!もっとちゃんと治せよ!」
「ひい!?ごめんなさいごめんなさい!!」
「おい、ガット。シシリーに当たるな」
「あん?んだよリット。文句あんのか?んぶ!?」
べしんと薬草束を投げつけるとシシリーを立ち上がらせて食事に向かわせる。
「あるに決まってんだろうが。シシリーは大事な支援職だ。その怪我だってテメェが全体指揮を無視して勝手に突っ走ってモグラ野郎にぶっ飛ばされたからだろうが。その程度、薬草でも食ってろ。他人の貴重な休憩時間まで奪うんじゃねぇよ」
「んだと!?支援職なんぞ後ろでくっついて楽してるだけの寄生じゃねぇか!?こんな時くらいしか役に…ッ!?」
ガットの足元に《火炎矢》が突き刺さる。放たれた方を見ればジーレが後ろを振り向きもせずエールの入った小樽をぶら下げている。
「あのねぇ、そこの脳筋ゴリラ。シシリーが居なければ殿の馬車は今頃粉砕された挙句、後続の馬車も被害にあってたのよ?それどころか私達の中から既に死んでた人が居た筈だわ。誰のおかげで生き残ることが出来たのかよ〜く考えなさいね?馬鹿みたいにただ突っ込めば良いってもんじゃないのよ?」
「あ、ああ……分かったよ…すまねぇ」
シシリーはジーレに駆け寄り頭を下げる。
「ジーレさん!あ、ありがとうございました!」
「何言ってんのよ。私は正当な評価をしただけよ。ほらほら、もし手伝うんならアンタの推しの正義の聖女様を手伝いなさい。あの子も喜ぶわよ?」
「は、はい!」
シシリーの背中を押してやるジーレをバルトとリットがニマニマと何か言いたげに近寄る。
「な、何よ?」
「「いんにゃ、べっつにー?」」
「り、リットだってフォロー入れてたじゃない?」
「ま〜、俺は一応パーティリーダーだしな〜?流石にウチのメンバーを勝手にコキ使われたら腹も立ちますわ〜」
「ふーん、あっそ」
「まーまー、まーまー、お飲みなさいよ」
「なんか変に誤魔化された気分だわ」
こうして夜はふけていく。その一方でアインが捕らえた野盗の男を尋問していた。
「さて、どうしてこの様な事をしたのか教えていただきますでしょうか?」
「い、言える訳ねえだろ!?」
「何にしても貴方は此処で処置していきます。ならば後は喋るだけかと」
情報が聞けても聞けなくてもこの場で殺処分する事を明言するアイン。その眼光は本気であり、その圧に蹴落とされ観念したかの様に生き残った野盗の男はアインを見上げる。
「くっ…そ。あー、わーったよ!何が聞きてぇんだ?」
「何故商団を狙うのか?とかその辺りでしょうか?商団の馬車を襲うにしてもランドシェイカーまで引き連れて一体あなた方は何がしたいのですか?」
「ッ!?………やっぱり言えねぇ。言えねぇ……ッ!」
「何故そんな頑なに……ッ!?」
何処からかボウガンが発射される音が聴こえ、アイン達はその矢を弾き更なる襲撃を警戒する。しかし、野盗の胸に数発矢が突き刺さり地面を血の塊が濡らす。
「がふっ…あり………がとよ……」
「チッ!やられたか……」
襲撃者の気配は周辺にはもう無い。恐らくこの男を処分する為にやって来たのだろう。
「ゲホッゲホッ…メイドの…嬢ちゃん……、アン……タの…かふっ…雇い……主に…ハァ…伝えな」
血を吐きながら、最期の気力を振り絞り男は呟く。
「いますぐ……ニゲ…ろ……ノ………スは……終わ………る……」
☆☆☆☆☆
「との事でした。いかがいたしましょう?」
「またとんでもない事を言い遺してくわね……」
ドロシーとアインからの報告を受けて私はまたも頭を抱える事になる。北岸は終わるって言われても、それはもうトンチキレベルの破滅フラグにしか聞こえないんですが?また地雷原を鼻歌交じりでスキップしてこいってか?もう勘弁してつかぁさい。
「とは言え今更引き返しても、それはそれで問題なんだよなぁ〜」
もう後二日程で北岸の偕楽園に着いてしまう。今更中止して戻るとなっても食料も資材も足りない。しかも無理して慣行して来た為に熟練の冒険者達はともかく、学生パーティの疲れがピーク近い。
今回の進行は無理矢理直進しながら最大戦力最高速度でもって突き進んで来た為、本来なら7日以上掛かる日程がこの調子だと学園都市を出発して5日で走破してしまう勢いだ。
というのも、この商団の護衛は学生が混ざる事自体が本来ならあり得ないからである。通常熟練の冒険者達が危険性を考慮し、蛇行を繰り返しながら安全なルートをその都度変えつつ進む様な依頼だった。
しかし今回のメンバーは総じて約1/3が学園の生徒にして適正ランクも度外視だった為、逆にそんなに時間を掛ける余裕がなかった。余り時間を掛け過ぎると未熟故に気が緩んでしまうし、盗賊やモンスターが急に襲って来た時の対処が遅れる。
ならばと常に緊張感のある直進ルートを使い一気に走り抜けてしまおうと言う魂胆だったのだが、盗賊達もまさか直進ルートを通って来るとは思わなかった様で、これまで襲われたのはたった3度程。商団の団員であるジョンス氏曰く、これでもかなり少ない方だと言う。
寧ろ騎蜥蜴を野盗から奪って来れた事もありかなり収益はプラスされたとの事だそうな。商魂たくましいなぁ。
「ただ少し気にはなるのです。何せ『北壁』が絡んでる商団ですし、万が一『北壁』に何かあれば北方境界大陸が更に南下します」
「そうなんだよなぁ。どっちにしても北岸の偕楽園まで物資は届けなければならないしねぇ…」
「では?」
「とりあえず、この事は伏せといて。他の冒険者に今離れられると、どうにも出来なくなる。荷を下ろしたら直ぐにでも帰還出来る様に準備をお願い」
「了解しました」
まだ着いてもいないのに、何でこれから始まる強制フラグの始末を考えなきゃ行けないんだか……。
☆☆☆☆☆
それから2日後予定通り何事もなく直進ルートをかけ抜けた私達は漸く北岸の城壁門に到着した。門を潜り抜け街に入ると其処は見渡す限り人、人、人。本当にここ最前線か?と思うぐらいの街並みはまるで祭りが日常的に開催されているかの様。何というか現代の日本風に言うと京都と浅草をごちゃ混ぜにした様な賑わいである。
「すっご……」
「私も話には聞いてたけど、これはまた凄い賑わいだね。娼館もあんなに表通りに出てる街なんてここ位じゃないかい?屋台の種類もあんなに……。いや高いな!?」
「って私ら北岸の偕楽園に行くはずよね?さっき行商街ってあったけど!?」
「ほっほっほっ、此方には初めてでしたかな?でしたら此方で合ってますぞ。このエリアはいくつかに分かれたエリアの一つ行商街です。ご存知の通り此処は北方境界大陸と非常に近い上に基本的に物資は定期便頼りですからね。物価も総じて高くなりがちなのですよ」
私とエリーが行商街の街並みにはしゃいでいると、ノールデン商会の商団長のフレメン氏が話しかけて来る。
「ここ北岸は王都並みの大都市ですからな。その為、いくつかの特化した区に分かれているのですよ。
東西南北の外周にある検問区『城壁門』から始まり、カジノやテーマパークのある東街『遊園地』。北岸の製造部署のある西街『鳴る金槌』。商売特区のここ、行商人の行き交う南街『行商街』。宿や酒場、ギルドカウンターの集中している北街『偕楽園』。この街の統治者や権力者が集中する北岸の中央街『中央都』。
そして北岸より更に北にある最前線『機城壁』、通称『北壁』です」
「アレが………」
街の展望台から遠くに薄っすらとその先を遮る様に機械仕掛けの壁が見える。巨大な壁はまるで生前読んだ漫画のバリケードの様で、中国に観光に行った時に見た万里の長城の如く大陸を覆う様に聳え立っていた。
「我々の商団は主にあの『北壁』維持のために大量の物質を運んでおります。アレが崩壊する事はフロンティア大陸中が火の海になることを意味してますからな」
「そう言えば北岸の偕楽園までの護衛の筈でしたけど何でまた此処へ?」
「なぁに、元々の取引日にいらっしゃるのが偕楽園だったと言うだけなのですよ。特に理由はありません。
ここの領主様がお忙しい方でしてな。一箇所に留まっておられる方では無いのですよ。我々の商売はいつも同じ様に到着するとも限りませんし、早い事に越した事はないですしね。それで今回は到着が早まった事で取引場所が変更されましてな。今しがた取引が完了した所です」
ノールデン商会は都市の防衛の資材も取り扱っている為なのか、ゴルド領の領主とも付き合いがあるらしい。まぁ担い手が中央貴族だしなぁ。
フレメン氏は私達を偕楽園へと案内がてら北岸について説明してくれる。『北壁』の向こう側にあるのはジュマの森と呼ばれる天然のダンジョンが広がっている。
ジュマの森は北方境界大陸、引いては魔王討伐の侵攻ルートの為に開拓が進められていると共に、魔物の侵攻を阻止する一種の迷牢でもある。
その為、常に先行班が組まれジュマの森のモンスターの掃討とマッピングを行なわれており、『北壁』には常に見張りが常駐しているのだそうだ。
「道中、本当にご苦労様でした。おかげさまで無事出荷する事が叶いました」
「いえ、偶々です。此方こそ無茶なルートを通る事になって申し訳ありません。学生だらけの未熟な者達だらけでさぞかしご心配お掛けしたと思います」
「なんのなんの。いやぁ、レベッカ様やエレイシア様等は流石ですな。是非に今後とも宜しくお願いしたいものです」
「安全で健全な内容でしたら是非」
「はっはっは、これは一本取られましたな」
「そう言えば宿は如何されるんですか?」
小粋なジョークが交わされた所で宿の話になる。正直娼館宿は勘弁願いたいんだけど、どうしたもんか?
「それなのですが見ての通り此処は娼館宿が殆どでしてな。若い衆は兎も角、私の様な歳の者は刺激が強過ぎまして。多少割高になりますが猫猫亭と言う食堂宿に泊まる予定です」
「何ですかその可愛いネーミングのお店は?」
フレメン氏、見た目もトル◯コチックのやさおじな感じなので猫と合わさると妙に和むというか…。
「いやぁ、実は此処の領主様のオーナー店でよく使わせて貰ってるのですよ。ケットシー族との相部屋さえ良ければ誰でも泊まれるそうですよ?」
猫カフェかな?まぁそれは兎も角、割高かぁ……。うーん、悩む。というのもこの街、娼婦や娼夫との同伴で宿代が半額になるシステムが導入されている。何でなのかと思って街の娼婦に《鑑定》かけてみたらまさかのサキュバスでした。そういう事かよ…。
でもコレ暗黙の了承の様で、誰も何も言わないところを見るとお互いwin-winの関係なんだろう、きっと。
さっきパラディンの女騎士がサキュバスの娼婦を連れ添って店から出て来たし。これで尋常沙汰にでもならば大問題なんだろうけど問題無しなんだろう。
うん、ヤベェなこの街。
「とりあえずクエスト完了報告をしておきたいので先にギルドカウンターに行って来ます、では」
「ではこちらも失礼します。ご苦労様でした」
こうしてとりあえず私はクエスト終了のサインを貰い、ギルドカウンターのある偕楽園に向かうのだった。
☆☆☆☆☆
「此処が偕楽園のギルド支部か」
「なんか凄いって言うか……」
偕楽園の街並みにもまた圧倒されていた。娼館が多いと言うイメージもあったからか、いわゆるそう言うお店の佇まいなのかと思ったらまさかのホテル街みたいな街だった。
しかもその建物が近代都市と言うか何というか。無駄を一切省いた結果、結果的にこうなったと言うか無機質と言うべき建物がズラッと並んでいた。それで居て街並みは物凄く妙な清潔感があるというか。
「いやビジネスホテルじゃん!?」
「び、びし?え?」
「え、あ、うん。なんでも無いっす」
いや困惑もするわ。こんな中世ファンタジー世界に不釣合過ぎる近代ビル群なんて建ってんだから。まぁ、わざわざ屋根をつける必要も無いし、何だったら屋上を見張り台にする手間も省けるし、無駄に拘ることもないのか?
「ニャー?もしかして、冒険者の方ですかにゃ?」
「ん?」
「え?はっはい!えっとギルド支部を探してまし…て…?」
思わず後ろから声を掛けられて驚くも、その声の主の方に向かって目線が徐々に下がっていく。
「そうでしたかにゃー。それはちょうど良かったですにゃ。あちしもこれから丁度ギルドに用があるので案内しますにゃ」
「あ、ありがとうございます…?えっと…あなたは?」
「ああ、失礼しましたにゃ。あちしの名はルルゥ。ルルゥ・ルゥテンにゃ。以後よろしゅーにゃ」
そこに居たのは金色の体毛を持つ猫獣人の姿だった。ネコちゃん!?
どうもねこなべです。
色々と立て込んでしまい投稿遅れました。
すみません。次回はいつもの通りの予定です。
☆☆☆☆☆
【登場魔法スキル】
《爆炎煉獄槍》
・火属性最高位魔法。
・詠唱が必須な上に精霊言語で詠唱しなければならない為、《言語理解》も必須となる。(ただし、《火精霊の加護》を始めとする火属性関連のスキル数に詠唱を省く事も可能)
・着弾し殺傷したターゲットを生体爆弾に変える魔法スキル。爆発の規模はターゲットのサイズによる。術者によるが初弾の段階でもミスリルを貫いて焼き切る程の火力があり、更に追撃の爆発波は《爆裂火炎弾》並の威力を持つ。
・主に戦争や攻城戦等の様な集団戦に用いられる事が多い。
・詠唱速度にも関わる為、実戦で扱うためにはウィザードでもほぼ火属性に特化したスキル調整が必要となる。
【登場騎獣】
☆ライドランナー
種族:ゴーレム
・今回の馬車として使われていた大型騎獣。
・見た目は陸上を走行する船。
・自走式であり船内に大量の物資を運び入れる事が出来、普通の馬車を使うよりも遥かに安全に運搬が可能となっている。
・とことん目立つ為、野盗から襲撃される事が多々。その為、改造が施され、甲板・見張り台・砲台等が追加されている。今回に至っては転移紋まで設置されている。
・コストが高い。維持費が高い。数が少ない。しかしそれを踏まえてもメリットの方が上回る。あとロマン。




