第四話 地獄の沙汰もKanJou次第
【前回のあらすじ】
お刺身プレゼンテーション
───何故?何故?何故?
何の為に此処まで準備して来たの?
───何の為にここまで上り詰めたの?
いや、寧ろこれは────
──そう。そうだとも────
────【「9#+*(¥】で見たモノが事実なら────
──────あの厄災はもう間も無く来るはず────
────ならば問題無い────
────いつもの通り────
────いつもの通り────
───計画を実行に移すのみ───
───うふふふ…あははは!あははははは!
全ては私の思いのまま!
アッハハハハハハハハハ───!!
まるで狂ってしまったかの様に彼女は月夜に舞う。その笑い声はこれから巻き起こる惨劇の協奏曲の様にも聴こえた。
☆☆☆☆☆
「レベッカさん、私達友達ですわよね?」
「は?はぁ……?」
「うふふっ。じゃあ、よろしく〜」
私は指折り数えながら高笑いをしながら立ち去る通算23組目のクラスメイトを呆然と見送る。
「一体、何事…?」
「…何なのでしょうね?」
今日はドロシーに同行して貰っている。理由としてはレイからの進言。件のエンブレムの事で調べたい事があるので動ける人間を総動員したいとの事で殆どの『影』メンバーは出張らってしまっている。
因みにあのエンブレムについてドロシーにも聞いてみたが全く知らないとの事。まぁ、ドロシーなら知っててもおかしくはないと思ってたけども、どうやら本当に知らない様だ。
「それにしても随分とまぁスライムの如く掌の柔らかい連中ですね。つい先日お嬢様の取合いをしていたかと思えば低レベルと侮り、そうかと思えば今度はああやって自分は友達だと言い張る始末」
「止めてよー、余計なトラブルはー?私は気にしてないしあんなのただの挨拶回りみたいな物でしょ。それでなくともただでさえノールデンのお嬢様に目を付けられかけたんだから」
「あのノールデン家ですか?お嬢様、その様な事がある時は護衛をお付けください。せめて私かアインを付けてくだされば…」
「もしそんな事すれば、挨拶の時点でお茶会の場が血で染まるわ。だったら無理してでもマチルダを呼び寄せるわ」
「……先代はご隠居された身です。あまり無茶を仰らないで下さい。そうでなくともあの方はその気になれば私達よりよっぽど…いえ、失言でした」
「失言て、アンタね……」
マチルダは私がこの世界に転生して目を覚ました際にトレイを落として爆走していった妙齢のベテランメイドの事である。彼女は御歳60になる見た目は田舎のおばあちゃんのような人だが、人は見た目によらないとは良く言ったもの。
年齢の事もありメイド長の座を降り現在は隠居の身なのだが、ドロシーがその座につくまで父の代からメイド長を長年務めていた人物である。先代メイド長の名の実力は伊達ではなく、かつては『雷神』という異名を誇っていた女傑である。
ダーニック家の反乱の際に襲い来る『蟻』達をトリトの防衛ラインで血祭りにあげ、キルスコアトップを飾ったのは実はマチルダだったりする。
ホントにドロシーと言いマチルダと言い、一体どういう経緯で集めて来たんだろう?もしかしてクーデターとか考えてないよね、生前のパパン?
「レベッカさん?レベッカさんはいらっしゃいますか?」
「んえ?」
頭を抱えてもうこの世に居ない父に疑問を投げかけていると、学園都市支部のギルド職員が私を学園の教室まで探しに来た。私が彼女の呼び掛けに応じて近づくとギルド職員は小声で誰にも聴こえない様に囁いてくる。
「ああ、いらっしゃいましたか。すみませんが、私と同行をお願い出来ますか?折り入って少しお話が有るのですが」
「はぁ、分かりました」
私はドロシーを引き連れてギルド支部にやって来ると、そのままギルドマスターの私室へと案内された。
☆☆☆☆☆
「いや、済まないな。突然呼び出す様な真似をして」
「あのー、何か私やらかしたんでしょうか?」
「いやいや、いつも溜まっている依頼を片付けて貰っている訳だし感謝している」
ランベルト・ディクソン。この学園都市支部のギルドマスターにして学園都市の教頭をしている方である。元AAAランクの冒険者にして最もSランクに近い冒険者として活躍していた方なのだそうだ。その面影は温厚な性格と中年太りで為形を潜めているが、見事なスキンヘッドと顔や袖口から垣間見える傷跡がその歴戦のオーラを語っている。
「今日来て貰ったのは君に指名依頼が来た為だ。事が事なので指名依頼についてもきちんと説明しておかなくてはならないし、その依頼内容についても説明しなくてはならなくてね」
「はい?あ、えーと……指名依頼ですか……?」
席に座る様促された私は思わず頂いたお茶を思わず吹き出しそうになる。どうしてこうも厄介事と言うものは次から次へとやって来るのか…。
指名依頼とは特定の人物を指名参加とした特殊依頼の事である。冒険者としては成功者の証とも呼ばれるその依頼内容は討伐・捜索等似分類問わず。指名式の為、法外な程依頼料が高い。当然ながら成功報酬も規格外になる事が多く、相場ランクより2倍から3倍程。危険度合いによっては相場ランクの10倍にまで跳ね上がったケースもある。
ここまでの内容だけならデメリットよりもメリットの方が上回る様にも聞こえるが、問題なのはこれがランクの制限が無いことにある。喩え、この依頼の難易度が依頼を受ける冒険者の適正ランクが足りてようとも足りなくともこの指名依頼が発生した時点でこの依頼はほぼ確実に受けなくてはならない。
と言うのも実はこの指名依頼という物、発注そのものがとんでも無く高額になっている。しかも、この依頼者は前金として半額を事前に支払い、成功報酬として残り半額を事になっている。これはどちらも支払いを渋ったり、依頼料を横領しにくい様にした処置である。逆を言えばすでに金銭のやり取りが発生している為にクエストを断るとなると場合によっては全額のキャンセル料を支払わなくてはならなくなる事もある。その為、結局この依頼は暗黙の了解で受ける事が必然とされてしまい、どんな手を講じてでもクリアしなければならなくなってしまう。
しかしそれでも指名依頼を扱う程の実力者であるならばまず居ないと思いたいところだが、金に目が眩み依頼領絡みでトラブルになり行方を行方を晦ます者も存在し、指名手配犯になる者も後を断たないと言う。
「すまないな。指名依頼の相手が私も中々に断りにくい内容でもあってね」
「ノールデン商会……。あー、完ッ全に目を付けられた訳ですか……」
「ん?ノールデンと何かあったのかね?」
「い、いえ〜、別に何も無いですヨ〜」
「私の言っている事とは商団の行き先の事だ」
ディクソン教頭先生に指さされた箇所に目を向けると、商団の行き先についての項目だった。
「『北岸の偕楽園』……って歓楽街じゃないですか!?」
「まぁ、確かにな。とは言え『北方境界領土』からの侵入を防ぐ為の駐屯地への中継地点でもある。その為の物資の運搬の護衛だ。どうか頼めないだろうか?」
「うぐ……」
断りづらい。正当な理由もあるし、歓楽街だからと言って無下にしていい理由にもならない。何よりこの人は現場をよく知る人だ。『北岸の偕楽園』が無くては立ち行かない理由だって理解出来る。
(あーもう!しょうがないなぁ!!)
結局、私はその依頼を受けざるを得なかった。喩えそれがノールデン商会、ひいてはアネットの思惑による差金だろうが何だろうが。
「しかしよりによって指名依頼か……」
「何か問題が?」
「大アリ。と言うか先が思いやられると言うか…」
(あの連中急に手のひら返すように友達だとかって言い寄って来たのかと思ったら、こう言うことかよ!?)
ギルドカウンターを後にした私はまだ見ぬトラブルに頭を悩ませながらドロシーに弱音を吐く。
彼らの挨拶回りは要は名前貸し。何処かで事前に情報を仕入れて来ていたのだろう。勿論、嫌がらせでは無くギルドからの善意もあっての事だ。指名依頼は通常の依頼とは大分異なる。クエストクリアした指名依頼は参加しただけでもその名声は大きな物となる。
問題なのはこれが私個人だけでクリアできる内容では無いからだ。言わばこの指名依頼と言うのは大規模レイドを縮小化しクエスト内容を多様化した物と考えてもらえれば分かり易いだろう。
その為指名依頼の責任者は参加者リストを作成し、召集をかけ、クエストに必要な消費アイテム、食料、その他諸々を準備しなくてはならない。
つまり彼らの協力を必要とするかもしれないのだ。
「自分の無力さがホント情けなくなる」
「御安心を、お嬢様。私達臣下一同お嬢様のお側に」
「………ホント心強いわ。頼りにしてる」
ドロシーの忠誠の言葉に毒気を抜かれた様な気分になった私は、自身の胸に当てたドロシーの手の甲にコツンと自分の拳を合わせた。
☆☆☆☆☆
ゴルドラダ領はフロンティア大陸北部『北方境界大陸』に隣接する拠点『北壁』を守護する言わばデッドラインに位置する王都直轄領にして最重要領土だ。その為『北壁』を守護する為にその中継地点として『北岸の偕楽園』が建造されている。また、最前線の地でありながら歓楽街でもある事は有名であり、この地で豪遊する事は冒険者として一種のステータス何だとか。
今回の依頼内容はその『北岸の偕楽園』へ向かう大商団の護衛だ。その規模は大型馬車25台。このノールデン商会の定期便はほぼ隔週で行われており、その護衛依頼として指名依頼が使われているという。
少しでも依頼を成功させる確率を上げる為に実力の足らない私は外部から冒険者を雇い入れたり、パーティメンバーを募集するリストを作成したのだが、結構ギリギリの面子だ。寧ろ商団の護衛を面子に入れなければ一つの馬車に4人パーティを組むことすら出来ない可能性に少々不安を覚えたが何とかなるだろうと思っていた。
「なんて思ってた自分がいました」
出発日当日。『北岸の偕楽園』へ向かう商団の25機の馬車に商団の護衛が40人。こちらが用意したのは『影』メンバーが14名、執務隊からドロシー含む8名、冒険者38名、学園生徒22名が集まった。私が頼んだ手前、『影』のメンバーに戻って来てもらうのには気が引けたけどレイはアインを中心とした諜報を得意としたメンバーを送ってくれた。こう言う時には本当に助かる。のだが……
「うん、正直私も見積もりが甘かった……」
ぞろぞろとやって来た学園生徒の大半は私が想定すらしなかった最悪のケースに更に輪をかけていた最悪のケース。まさかのリスト外からの強制参加&適正ランクガン無視パーティの組み合わせでした。
「私、人望ないなぁ!」
「まぁ、これだけ集まりゃまあまあってとこだわねぇ」
「エリー!ありがとう!信じられるのは貴女だけよ!」
「出来れば巻き込まれたくなかったんだけどね?」
「あは、私達の仲じゃない。ぜってぇ逃がさねぇぞ☆」
「おっと、これは逃げるタイミングを逃したか。ま、単なる護衛依頼みたいだし別にいいけどさ。でもさぁ…」
因みに私が呼んだリストの方からは私の私兵とギルドに依頼した冒険者パーティ、そして名前貸し含めた学園の友人からはエリーが参加してくれただけに留まった。流石に公爵家であるマリアお姉様にまで声はかけられないし、鳳凰騎士団なんてもっての外である。そもそも私の私兵じゃ無いし、国の騎士団の一つなんだから。
仕方なく私は急遽今回の依頼の補充要員を募集することになったのだが、エリーが集まった学園生徒達を見渡すとやや呆れ顔でつい本音が出る。
「ざっと見たところアイツら明らかに実力不足じゃない?」
「否定は出来ない…。まぁ来てくれただけ有難いとは思ってる」
「そう言ってやるなよ、折角やる気出してるんだ」
そう言って私を慰めてくれるのは『紅蓮の牙』のリットさん。あれから昇級してAランクパーティになったんだそうな。
「本当にリットさん達には感謝してます。良く受けて下さいましたね?」
「なぁに。此方としても有難い話だったしな。それにレベッカ嬢と組む依頼は経験上旨みがある。それにシシリーにとっても良い経験になる」
シシリーはリットさんのパーティ『紅蓮の牙』に後に参入した新人のD級の冒険者の僧侶だ。リットさん曰く、腕はあるのに、経験不足からくる自信の無さが垣間見えるから、今回経験を積ませる為に参加させてやって欲しいとの事。私としても現在『槍術士』としてレベリングをしたいところなので、私の代わりができる人が居るだけでも非常に有難い。
「レレレレベッカ様!ひょっほんじちゅんっ!?本日はよりょじッおおねがいじまっ!?」
「お、落ち着いて、シシリー?ゆっくりでいいから」
「ひゃい!」
う、う〜ん?大丈夫だろうか?いやでもB級パーティについていけてるんだから優秀なのかな?ジーレさん達も気を許してるみたいだし。
「とりあえず指示はそちらに任せるが大まかな指示で構わない。こんな大商隊の移動の護衛だ。パーティ毎にやり方も違うだろうからな。
学生組は各パーティに伝達要員を決めておけ。伝達要員は一歩後ろから状況を常に正確に把握し、異常を感じたなら連絡要員に速やかに伝達する事。絶対に逃げるな!そして死ぬな!お前自身が欠ける事は商団を危険に晒す事と思え!
レベッカ嬢、お前さんは何でもかんでも責任なんて物は考えるな。上手くいけば胸を張れ。上手くいかなきゃ俺らの責任にしちまえばいい。団長なんてそんな気軽な心構えで充分だ」
流石Aランク冒険者パーティ。ありがたいアドバイスありがとうございます。リットさんの的確な指示のお陰でバラついてたパーティもまとまりつつ、商団は『北岸の偕楽園』へと出発していった。
☆☆☆☆☆
一方その頃──
『北岸の偕楽園』中央伯爵邸。
「ルルゥ様、失礼します」
「何にゃ?」
「中央から商団が『北岸の偕楽園』に向けて出立したそうです」
「そうかにゃ」
「予定は約二週間後との事ですが……」
「ふにゅ…、『北壁』の状況は?」
「依然芳しくはありません。物資次第といったところでしょうか?」
彼女はこの辺りでは珍しいソロバンを弾きながら考えた後、執事に向けて金の延べ棒を三つ手渡す。
「これで買えるだけの聖水樽と土魔導士を雇うにゃ。いくらか負担は抑えられるはずにゃ」
「しっ、しかしッ!これではいつまでも──」
「下がっていいにゃよ」
「くっ……はい、では──」
「リロイ、苦労かけるにゃ」
「勿体なき……御言葉です」
執事は唇を噛み締めながら退室して行く。その様子を物憂げにこの『北岸』の主ルルゥ・ツー・ゴールデンキャッツが見送った。
【後書き的ななにか】
お待たせしました。
そして毎度の事誤字脱字の御指摘大変申し訳ありません。
一応書き終えた後何度もチェックしてるんですが必ず何かしらミスってます。猛省しております。
相変わらずな感じで申し訳ないですが、楽しんで頂けたら幸いです。
☆☆☆☆☆
《指名依頼》
特定の人物を指名参加とした特殊依頼。冒険者としては成功者の証でもある。依頼の受注は本人の意思の自由ではあるが殆どが上位貴族等からの指名である為、実質徴兵と変わらないと言う者も多い。
その依頼内容は討伐、捜索等似分類問わず。指名式の為、法外な程依頼料が高い。当然ながら成功報酬も規格外になる事が多く、相場ランクより2倍から3倍程。危険度合いによっては相場ランクの10倍にまで跳ね上がったケースもある。
また、前金として成功報酬の半額を事前に支払う義務が依頼者に発生し、残り半額をクエスト完了時に支払う事になっている。しかし、実際そのクエストの難易度と報酬額は乖離している事が多く、依頼料によるトラブルで指名手配犯を量産する結果になる事も少なく無い。
《初登場人物》
☆マチルダ・ヤードライン
マグノリア家に仕えていた元メイド長。現在は引退し、トリトンに居を構えている。
かつては『闘我』の『雷神』と言う異名を持つSランク級冒険者であり、現在のメイド隊・執事隊を作り上げた張本人。
以前は結婚していたものの旦那の浮気疑惑が原因で殺し合いレベルから災害レベルの喧嘩に発展してしまい、それが原因で離婚している。(現在では和解、今では茶飲み友達)
☆ ランベルト・ディクソン
学園都市支部のギルドマスターにして学園都市の教頭をしている人物。現在ではその面影は温厚な性格と中年太りで形を潜めているが、かつては『闘我』の『風神』と言う異名を持つ元AAAランクの冒険者にして最もSランクに近い冒険者。
因みにマチルダとは元夫婦。過去に自分に仕掛けられたハニトラが原因で災害レベルの喧嘩に発展してしまい、離婚した経験がある。(現在では和解、茶飲み友達)




