第十六話 騎士として【前編】
大変長らくお待たせしました。スミマセン。
【前回のあらすじ】
初ご…ゲフンゲフン。シロガミ暴走。
物心がついた頃、私には父から自分の支えるべき女性を教えられた。彼女は私よりもずっと年上で姉のような存在で永遠に歳を取ることのない上位の存在なのだと言う。その名はエレイシア・クロム。
そして私に与えられた役割はその生涯を彼女を守る為だけに存在し、あらゆる悪意から、あらゆる敵意から、あらゆる誘惑から、あらゆる脅威から遠ざけ守り抜く事。それを偽装婚約者として生涯全うする事だった。
ところが入学式早々に厄介な者に遭遇した。その名はレベッカ・マグノリア。あの年齢にしてLv77。それはあの測定器の件で確定したのは事実。しかし何も強さだけで私はあの令嬢を危険視したわけでは無い。
幼少期から数々の逸話を残す彼女は貴族間の中でも有名だった。特に『ダーニック家の内乱』と後に呼ばれる様になったハイキブツを利用したクーデター計画を自分の領土を犠牲にしながらも終結させ、首謀者を打ち取っている事件は今も語種である。
しかも結果的に見ればフリード家が後見人になると言う形ではあるが復興事業全般自体はマグノリア家が主導となり、各地の冒険者ギルドから派遣されてきた者、ドーラ地方で生き残った民がマグノリア領民に組み込まれる形で復興作業が行われている。
これらの功績により彼女は学園卒業後、中央子爵の爵位を将来すでに約束されていると言う噂だ。それだけだったのならば英雄譚ともなるだろうが…
果たして当時の年齢で喩え他にもフリード卿率いる鳳凰騎士団が同行者が居たとしても、ドーラ地方ほぼ全域に拡がってしまった規模の被害が出た内乱を終結させ、その復興までも指揮出来る人間など本当に居るのだろうか?
フリード卿の思惑に操られている傀儡であるならば、まだ警戒する必要など無かった。そもそも自分にはどうすることもできないのだから。
しかし、自分の父親を失い領土の大半を復興に専念しなければならない状況の筈の彼女は、入学式で奴隷を引き連れその奴隷達と朗らかに談笑し、自身の実力を大衆に見せつける姿は、どう見ても悲壮感漂う雰囲気には見えなかった。
強くならなければならなかったと言われてしまえばそれまでだが、そんなレベッカ・マグノリアに異常性を感じた私は彼女を学園に在籍させるわけにはいかなかった。それに、『我が婚約者』にレベッカ・マグノリアについて興味を持たせるわけにはいかなかったのだ。
喩え自分がみっともない道化を演じようとも…。
☆☆☆☆☆
「ゲバァァァァ!?クルルルカァァァァァァァァ!?」
「ゴロズ!ゴロジデヤル!!」
イカロスはアロガンツを貫いた触手槍を引き抜くと大盾を持つ腕に巻き付かせ床に叩き付ける。その衝撃でアロガンツの腕はへし折れ盾を手放してしまう。
「ギャァアアアアア!?」
「ツェアァァァァアアアアアッ!」
ショートソードを振り回し、イカロスを威嚇するもそれに合わせ割り込む様に乱入してソニア様のバスターハチェットがショートソードを破壊する。
「ハッハァッ!お仲間同士で仲良く潰し合いの所悪いが私を除け者にするなよ!寂しいだろうがァァァ!!」
三者共互いを敵と認識し合い瞳に怪しげな光が灯り、再び戦闘が再開される。
「いや戦闘狂かよ!?」
「ええ、ウチの主がすみません」
「うわっ!?あ、ええと…ティルトさん?何だか随分雰囲気が違う気がするんだけど?」
「そりゃ演技に決まってますよ。私の任務はソニア様のかわりに勇者を監視する事が目的でしたので、あの様に振る舞って居ただけです」
そ、そうなんだ。いつの間にか横に現れたティルトの真実に若干驚き呆気に取られていると、様子を伺いながらナインとフォウが此方に向かって来る。
「お嬢、とりあえずどうするよ?アレに飛び込む勇気は俺には無いぞ。レイじゃあるまいし」
「私でも死ぬ。アレに対応できるのマスターとトワトエ組くらい」
「アレに飛び込めなんて言わないわよ。ていうか武器も盾も無いのに何殴り合いで対応してんのよ、あのバケモン」
笑いながらアロガンツからの攻撃を回避しながら隙あらば二人を纏めて殺そうとバスターハチェットを振り回すソニア様。そんなソニア様の猛攻をものとせず折れた腕もいつの間にか再生して今度は素手で殴り殺しにかかるアロガンツ。硬質化した椀部を盾にしながら二人の攻撃を捌きながらもアロガンツを殺そうと触手槍を振り回すイカロス。
「カハハハハッ!」
「クギャァァァァアアアアアッ!」
「………………」
そんなとんでも無い猛攻が指をさした先では嵐の如く繰り広げられていた。…容器の無いミキサーか何かかな?
「まだだ!まだまだ愉しませろォッ!!」
「ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!!」
「…………………」
「もうソニア様だけで良いんじゃ無いかな……」
「言うな」
「我々は今のうちに図書館卿達の保護を優先しましょう」
思わずナインのぼやきにツッコミを入れてしまった。とりあえず私達はティルトの提案に乗り、彼女と共にエリー達の救出の為に図書館卿の元に向かう。
しかし私達のそんな軽率な行動によって、彼等のその攻防は突然終結させられた。
☆☆☆☆☆
「ぐっ!?」
突然イカロスがソニアの一撃を【シールドパリィ】で弾き飛ばすとそのままレベッカ達の方向目掛けて蹴り飛ばして来る。
「ソニア様!?」
「チッ!大事無い!」
宙に投げ出されたソニアはレベッカたちの進行方向の先の壁に激突させられるが、何事もなかった様に着地して再び参戦しようとする。が、その時アロガンツの両腕はイカロスによって斬り飛ばされていた。切り飛ばされた腕がジュウジュウと泡立つ様に消えていく。
「アギャアァァァアアアアア!?」
風切り音と共に血を振り払う。
「あれはシャルトワール!?」
「何故奴が!?」
ソニアとティルトは突然目の前の怪物が引き抜いた剣を見て驚愕する。まさかと思い、ソニアはその戦いを見守ることしかできないエレイシアを目に留める。
イカロスは再びアロガンツに接近すると首を狙って薙ぎ払いを繰り出す。しかし寸でのところでアロガンツは体を斜めに傾け、イカロスの一閃は肩口から首筋にかけてを削ぎ落とすだけに留まってしまう。
アロガンツはそのままの体制からイカロスの腕をサマーソルトで蹴り上げ、避けたシャルトワールを蹴り飛ばす。そしてそのまま距離をとり、階段目掛けて走り抜けようとした。その筈だった。
「ルゥオアァァア!!」
イカロスは蹴り飛ばされて宙に浮いたシャルトワールを掴み、そのまま逃げようととするアロガンツの尾を踏む。重力に引っ張られる様にアロガンツは地面に勢いよく叩きつけられ身動きが取れなくなるとイカロスはふくらはぎを縫い付ける様に地面にシャルトワールを貫く。そして……
「ガボウッガシュッ!!」
無防備になった隙を逃さず、後頭部を引っ掴むとグイッと引っ張り起こし、燃え盛るブレスを口内に溜め込みそのまま傷口目掛けて噛み付き、そのまま体内目掛け【竜噛熱咆哮】を放つ。ボンッ!と一瞬アロガンツの肉体が弾ける音がすると、周囲に焦げ付いた肉片が飛び散る。
「カ……ア…………」
まるで漫画のように口から煙を吐き出しアロガンツはがくりと下を向くと顎から舌をだらんと垂らし傷口や口から煙を出しながら倒れた。
「終わった……の?」
「いや、仲間割れが終わっただけだ。まだ奴自身が残っている」
「…………………ガフッ!ガフッ!」
イカロスは肉が焦げついた様な血の塊を吐き散らしながらそのまま階段を登って行き、図書館卿の前まで辿り着く。
「図書館卿!」
「えっ!?」
一同は図書館卿が襲われると思い駆けつけようとした。しかし、図書館卿の前にイカロスは一度膝を着くと再び階段の踊り場まで移動し、仁王立ちの様にレベッカ達の前に立ち塞がった。正体を知るレベッカはともかく、ソニアはその行動に困惑している様だった。
「どう言う事なんだ、あれは?図書館卿説明してくれないか?そいつは一体何者だ?」
「……何故だ?何故お前はそうまでして私達を……?」
そして図書館卿もまた困惑していた。此方に意識を向けて来るイカロスに警戒するソニア達。しかし、レベッカはその違和感に気がつき、イカロスに近づく。
「お嬢!」
「大丈夫。ううん…そうじゃない。彼は……イカロスはもう」
「イカロスだと?まさかそいつ、あのイカロスなのか!?」
ソニアがイカロスの正体を知り驚愕する。ソニアや勇者と接戦を繰り広げる程の実力を得る為の代償は余りにも大きすぎるものだった。その結果がこれだ。
過ぎたる力を求め過ぎた者は太陽に焼かれて地に落ちる。それでもレベッカはイカロスに敬意の念を抱き、安らかに眠る様に心の中で祈りを捧げる。その祈りと共に、まるで自分の役目が終わりを告げたと言う様に、ビキリとヒビが入りぐしゃりと崩れ落ちていく。
「ああっ!ああっ!あぐ……ううう……」
エレイシアの悲痛な声が響き渡る。
「イカロス……ッ!イカロスーーーッ!」
「何故だ?何故お前はそこまでする?私はお前をただの代用品としか思っていなかったのに……」
最早、エレイシアの涙や声が彼に届く事はない。そして図書館卿の疑問ももう彼から返ってくる事もない。崩れた石像の様に灰になりバラバラに崩れて形が無くなったイカロスはシャルトワールを残して消滅していった。
「イカロス……」
(もう全ての疑問も何もかもが分からずじまいになってしまった。どうして私に対してあそこまで敵対心を抱いていたのか?何故私をあそこまで警戒していたのか?何であの勇者達に道具として使われていたのか?疑問に思う事は多いけれど、どうか今は安らかに…)
しかしその時だった。
「クルルルルァァァァァァァァッ!!」
☆☆☆☆☆
「ぐう!?があっ!?」
「姉さん!?」
「しまった!?」
全てが終わったと一安心して気が緩み切っていた。突然死んだと思っていたアロガンツが雄叫びを上げ、ぐりんと首を回して図書館卿を籠に入れられたエリーごと舌で絡め取ったのだ。
「マグノリアの!シャルトワールをこちらに寄越せ!!」
「え!?」
「説明してるヒマはない!早く!」
「はい!!」
私はソニア様にシャルトワールを拾い上げるとソニア様目掛けて投げ渡す。
「ハァッ!」
ソニア様はそのままアロガンツの首を薙ぎ払おうとする。しかし、その瞬間嫌な予感が不意に頭をよぎる。
「ダメです!まだそいつの首を切り落としてはダメです!」
「ッ!?」
私はソードメイスを取り出すと伸び切った舌を思いっきり斬りつける。しかし、異常なほどの弾力性を持つ舌は全く傷一つ付くどころか、ぐにぃっと弾き返したのだ。
「クッソ!やっぱりかよ!?」
「どうした、お嬢!?」
「コイツ、まだ足掻く気だ!この状態で首なんて斬ろうもんならエリーか図書館卿に寄生して復活する!」
「がはッ!くっ!………ッ!ッ!!」
「何だと!?」
ソニア様も後一瞬遅ければ奴の首を刎ねてしまうところだった。
(どうする!?どうする!?どうする!?考えろ、考えろ、考えろ!何かないか!?何か!?何かないか!?早くしないと図書館卿が危ない!コイツの舌を切り落とせる何かがっ!?)
「あ………」
ストレージの中にあったのは一振りの戦斧。コイツにも出来るかわからないが、あのアステリオスすら一撃で葬ったのだ。
(装備なんて出来やしないけれども、もしあの時と同じ状況が再現出来たら?いや、もしじゃなくて、やらなければ此処で全員死ぬ!)
天井を見上げる。
(あそこまで一気に上昇して天井を蹴って落下速度を上げながら、あの戦斧を振り抜けば舌を切り落とせる?いや、それしか無い!)
「ナイーーーーーン!!!」
私は助走してジャンプしながら踊り場を飛び降りる。
「え!?ハァっ!?」
「私を天井まで吹き飛ばしてェェェーーーーー!!」
「はいいいいい!?ちょっ!?あーもう!どうなっても知らないからなぁ!!我呼び込むは風精の悪戯《風爆衝》!!」
私の足元に空気の渦の塊が迫る。私はすぐさま足元にラウンドシールドを向け、魔法を詠唱する。
「我を守護せし精霊よ、法の理に基き我が盾に祝福を!
《守護の法盾》!」
全文詠唱ありきの守護魔法がラウンドシールドにエンチャントされる。《風爆衝》がラウンドシールドに激突し天井目掛けて弾き飛ばされ、私は一気に打ち上げられる。
「んぎぃいいいいいいいい!!!」
天井に到達した私は風圧に耐えながらアロガンツを視界に捉え、その時を待つ。
「《身体能力向上》!《攻撃力向上》!《速度上昇》!
《御使いの祝福》!」
天井に押さえ込まれながら自分自身に強化魔法を施し、風圧が途切れた瞬間ラウンドシールドを捨て、アロガンツの舌目掛けて天井を蹴り落下する。
「アアアアアッ!!!ギッ!」
ヒュゴウッと言う音を立てて落下速度が上昇する。そしてストレージからズルリと戦斧が姿を現し…
「ッラァアアアアアッ!!!」
ザギュンと言う音を立てて舌はまるで張り詰めたゴムを切った様に切れた。ビャルルルと音を立てて二人を縛り付けていた舌先は解け、弾け飛んで宙を舞い消滅する。
そしてもう一方もまた引っ張っていた力に引き戻されるゴムの様に引き戻されていく。
「あぎゃああアアアアア!?」
「今アアアアアッ!!」
「シィッ!!」
バチィイイン!と破裂音と共に引き戻された舌がアロガンツの頭部を捉える。そして、その勢いに宙を舞っていた頭部が勢いに耐えられるはずも無く、そのまま床に激突して砕け散り崩壊する。頭部を無くした胴は最早残る意味をなくし、ボロボロと何も残る事なく灰になり散っていった。
大変長らくお待たせしましてしまい本当に申し訳ありません。
ここ数ヶ月色々と別作業と並行して行う事があり、中々更新出来ませんでした。
《スキルコストについて》
スキルにはHPを消費するHPスキルとMPを消費するMPスキルがある。また、殆どの場合例外中の例外ではあるが同じスキルを使用する場合でも術者によっては本来MPを消費して使用するスキルをHPを消費して使う者や、その逆のパターン者も居る。
その理由としてはHPスキルは非常に効果が大きい反面HPを消費する為窮地に陥りやすく、ヒーラーもしくは回復手段等が必須となる。永続スキルなどが多く、非常に火力も高いスキルが多い。
反面MPスキルは効果が一時的ではあったり時間経過や行動によってMPが回復する為コンスタンスに使えるスキルである。緊急事はマナポーション等が必要となるがそれでも消費量も抑えられるので非常に使いやすいスキルとなっている。ただし、HPスキルとは違い火力や殲滅力が低かったり、効果も一時的である為使い所を選ぶ。
また、両方の利点を活かし、HPとMP両方を消費する事でコストカットをするスキルも存在する。(ただし、そういったスキルはそうせざるを得ない場合が多く、禁術等に分類されるケースが殆どである)




