第十五話 傲慢な狂信者
【前回のあらすじ】
予想外の救援者現る。
「無事か、マグノリアの?」
「え?あ…は、はい。ありがとう…ございます?」
目隠しをしながらエマを見上げ、プラチナブロンドの髪の髪を靡かせる女剣士。その出立ちはどこか高貴な騎士の様に見える。
「そうか。それは重畳」
私の返答を聞くと懐のポーチから小瓶を取り出し私の足に振り掛けてくれる。
「さてと、残りは飲んでおけ。それと…」
彼女が私の足にかけてくれたポーションの残りを手渡され、私は飲み干す。かなりの高位ポーションだったらしく、足の火傷だけでは無く身体の痛みも和らいでいく。
「少しそこで大人しくしていろ」
不意に女剣士はハチェットを一回り大きくした様な大剣を引き抜き、一薙する。
「ところでさっさと逃げなくて良いのか?折角魔王討伐という体で国外追放程度で済ましてくれているのだからそれで済ませばよかろうに、このままだと貴様も面倒な事になるぞ?なぁ、勇者殿?」
「貴女に言われるまでもないわ。ただ、今後邪魔になりそうだったから憂いを無くして行こうと思っただけよ」
鈍い音を撒き散らしながら上空から降り注ぐ魔法剣を弾き飛ばすと、雨の様な追撃を全て蹴散らしていく。それどころか降り注ぐ魔法剣を打ち返し相殺しながら会話をする余裕すらある。
「良いからさっさと行け。こんなところで時間を食い過ぎて手遅れになっても知らんぞ?それとも、此処で借りを返してやろうか?」
「……ふん」
「ま……て……」
(このままじゃクエストが失敗する!そうなってしまったら一体どうなってしまうのか分からない!アイツを逃すわけには…ッ!)
エマを逃がさない為に何とか立ちあがろうとする私を制する。
「放っておけ」
「…ですが……このままだと…これからも犠牲者が…………」
「安心しろ。その為の騎士団だ。ま、君に散々助けて貰っておいて言うのもアレな話だがな。カハハハ」
助けたっていつ私がこの人助けたんだろうか?
「それに、どうせアイツらはまたやって来る。それに今の様でアイツに勝てるのか?」
私はその言葉に一旦冷静になって今の自分の置かれている状況を確認する。
(…無理だ。こんな状態じゃどう頑張ったところでエマに敵わない。いやそもそも仮に私が全くの万全な状態だったとしても恐らく私はエマやこの人より遥かに弱いし勝ち目が見えない)
私はこれ以上どうする事も出来ない。このクエストは私にはどの道諦める事しか出来なかったのだ。
「……分かり…ました」
私はエマを憎らしげに睨みつけ、隣の彼女は最後の一本をエマの髪を掠める様に弾き返すと不敵な笑みを浮かべながら人差し指をエマに向け魔法を撃つ素振りをして挑発する。その様子を忌々しげに一瞥するとエマは転移陣に乗り何処かへと消えて行った。
「立てるか?」
「ええ…ありがとう……ございます」
(……これからどうしよう?)
女剣士は目隠しを外しながら私の手を取り立ち上がるのを手伝ってくれる。彼女は無事立ち上がった私の様子を見て安心した様だが、当の私はエマの気配が消えクエストが失敗した事実に絶望感やらで私は放心状態になってしまう。ふらつく頭で意識を朦朧としながら遠くでナイン達が騒ぎ立てるのが見えた。
(なんだってのよ、もう……)
「上だ!逃げろォォ!!」
「え…?」
「ッ!チィッ!」
私は女剣士に抱き抱えられながらその場を飛び退きながら床を転がる。その刹那巨大な大剣が私達が居た場所を粉砕したのだった。
「御怪我がッ!?」
「安心しろ、これくらいなんて事はない!しかし、一撃でコレとはあの女狐め。去り際に厄介な置き土産を…」
私を抱き抱える様に庇う彼女の背中はレザージャケットの下に着込んでいたチェインメイルごと大きく削がれていた。
「ティルト!暫く奴の足止めを頼む!」
「え…っ!?ティルト!?」
「相変わらず人使いが荒いですね、ソニア様」
そう言うや否や突然現れたティルトは目の前に現れた怪物を相手にヘイトを自身へ向け、私達を離脱しナイン達に合流させることに成功させると、ばさりとジャケットとチェインメイルを外し、慣れた手付きでポーションを背中にぶっ掛けるとレザーアーマーを装着する。いや荒っぽいな!?
「色々と済まないな、マグノリアの」
「あの?これは一体?」
「そう言えばまだ名乗ってなかったな。私の名はソニア・レヴァンス・アルマー。君に奴隷落ちになる危ないところを救って貰った人間の一人だよ」
「は?え?」
私は思わずナインの方を見るが、ナインは頭を抱えて首を振っている。いやそれどう言うリアクションよ?つーかなんであのティルトがここに居んの?しかも味方?そしてこの人はソニア・レヴァンス・アルマー?ちょっと待って情報過多が過ぎて倒れそう。
「お嬢が知らないのも仕方ねぇよ。その女は初っ端から偽名登録されてたんだからな。しかもかなりの地位ある貴族サマだそうだ」
「お前、それをわざわざ言わんでも良いだろうに!?」
ソニアと名乗る女剣士は高名な貴族様なんだそうな。そんな人が奴隷登録されてるとか何してんのさ?
「いやぁ、面目無い。済まないが話は後だ」
「そうですね」
とりあえず私は隣に立つ人のお家事情の事は頭から切り離し、目の前の粉塵の先にある相手を《鑑定》する。
「えヒュッ!?」
思わず変な声が出た。ステータスが文字化けしてるのは当然の事たが、そんな事よりもその名前に驚愕してしまう。
「コルルルルル……、コルルルルアアアアアアアァァァァァァァァ!!!」」
「!」
辺りの粉塵が咆哮と共にティルトごと吹き飛ばされる。そこに現れたのが一体何者なのか一瞬理解できなかった。
「まさか…アレって…」
聖鎧リフレックスを身に纏い、ショートソードに白銀のタワーシールドを構える様に立つ化け物の装備品を見ればすぐわかる事だったのだ。それでも理解できなかったのはそいつの名前だ。ユウトと言う名前が文字化けし、新たな名前が浮き出る。
その名は『傲慢な狂信者』。かつて勇者だったモノがそこに居た。
☆☆☆☆☆
私達の前に姿を現したアロガンツはイカロス同様にシロガミの様なモノだと思ったが何かが違う。
まるで亜竜の様な肌に粘着質な吸盤でも付いたかの様な先端を持つ尻尾。カメレオンの様なギョロリとまるで獲物を逃さぬ様、嬲るかのように蠢く双眸。
学園内にもリザードマンの生徒は居たが、あんな禍々しい姿はしていない。
私は《初位光球》を顔面目掛けて撃ち込むも周囲に乱反射されてしまう。
「ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!」
「落ち着け!リフレックスを装備している以上奴に魔法は効かん!」
そう言うや否やソニアさんは地を蹴り渾身の一撃を頭部に叩き込む。が、まるでゴムの様に弾き飛ばされる。
「ッ!?」
大きな隙が生まれてしまったものの、アロガンツは脳天に喰らった一撃が余程強力だったのかふらふらと立ちくらみをしていた為に私達は距離をとり、体制を整えることが出来た。
「無駄ですソニアさん!そいつにはナイフも刺さりません!」
「何だと!?どう言う事だ!?」
「《龍麟》持ちです!ランクはよくわかりません!私より明らかにLvが上なので文字化けしてました!」
「《鑑定》持ちか!?助かる!しかし面倒なッ!」
しかし本当は文字化けしながら見えてしまったのだ。一瞬だけだったが《竜麟:Arr》の文字が。
☆☆☆☆☆
スキルにはそれぞれランクが存在する。ノービス・エキスパート・スペシャリストのランク分けであり、それぞれN・E・Sと略称される。
そんな数ある防御系スキルの中でも《龍麟》単体にはランクが存在しない特殊なスキルである。これは元々防御力に関係無く物理被ダメージが1/2まで減少する為である。
しかもこの《龍麟》はパッシブスキルであり付属効果が存在する。《龍麟:炎E》といった具合に元々物理攻撃耐性に加え、属性攻撃や魔法に対しても耐性・無効化を得る極めて厄介なスキルである。
尤も、取得条件が竜種ないし龍血使用者に限定される。それ故に『竜種』という存在は特に厄介極まり無い存在として世界に君臨しているのだ。ただし、厄介なだけで弱点属性による魔法攻撃に極端に弱いという弱点は抱えてはいるのだが…。
☆☆☆☆☆
「くっ!そっ!」
「グラルルッ!カァアアアアアアア!!」
鈍い金属音が衝突し合い鳴り響く。恐らく竜種の系統に属するアロガンツはソニアの渾身の一撃を受けてなお無傷でいる事からそもそも《龍麟:Arr》が物理攻撃自体を無効化している可能性があった。アロガンツの盾に阻まれながらも何発か攻撃が当たるも先程の様に弾かれ、かえって大きな隙を作る事になる。
その隙をアロガンツが逃さずソニアに繰り出すもレベッカやティルトがすぐさまカバーに入り受け流しながら魔法攻撃や援護射撃で応戦する。しかし魔法攻撃を無効化出来る『聖鎧リフレックス』を身に纏っている為、唯一の弱点であると思われる魔法攻撃を一切遮断する。それでもアロガンツの苛烈な攻撃自体はレベッカやティルトが何とかいなしヘイトを散らすことには成功していた。それが終わらない綱渡りの均衡を生み出していた。
(あっぶなッ!?今の掠ってただけでも死んでたかも知んない!?)
ティルトはレベッカの見立てでは『影』のメンバーより数段上の実力者の様にも感じられた。本当に何で自称勇者パーティと行動を共にしてたんだろう?とレベッカが疑問に思う程だ。ティルトがカバーしなければレベッカも死ぬ可能性があった場面が何度もあった程だ。
(この女、なかなか出来る。正直過小評価していた)
一方でティルトはレベッカを過小評価していた事を素直に認めていた。自身も直接前線に加わりながらもこの場にいる前線メンバーに支援をかけ続けていた。流石は聖女候補と言われただけの事はある。些か自身も前線に出過ぎな気もしないでも無いが。
(しかしソニア様が落ちれば今の現状が瓦解する。いや、ソニア様だけじゃない。恐らくこの三人の内誰か一人でも落ちればこの状況が瓦解する。せめて後一手、もう一人アタッカーが居れば…)
レベッカの配下の者たち。あの者たちが動ければこの状況が変わる。とは言えその『影』のメンバーはシロガミ化したイカロスを抑え込む事で手一杯だった。
「クルォア!クルォア!カァアアアアアアア!!」
「ッ!?チッ!」
「ギャオウ!?ウギァァァァ!?」
突如エレイシアのある方向を向いたかと思うと彼女の居る檻に向かって舌を伸ばして捕食をしようとした。危うく捕食されそうになった所を図書館卿の《火炎障壁》が薙ぎ払う。その場面をイカロスが見た瞬間の出来事だった。
「ガァアアアアアアア!!」
「うおっ!?ヤベぇ!?お嬢逃げろォ!」
ナイン達の拘束を引き千切り、イカロスがレベッカ達に向かって走り出した。しかし……
「ゴロズゥ!ギザマァァァァッ!!」
レベッカ達に目もくれずイカロスの槍が貫いたのはアロガンツの首元だった。
毎度の事ながら遅くなってすみません
【竜種とワイバーンの違い】
竜種とは一般的には地龍の様な亜竜種や竜人種と言ったドラゴン種の眷属の全般を指す。中には竜種からドラゴン種にランクアップした存在も僅かながらに存在する。
一方で、ワイバーン種は竜種に属している様で実は爬虫類翼手目と言う爬虫類と蝙蝠の混成種の派生で実は竜種とは全く関係ない別の種族。別名コウモリトカゲ。
過去においてはワイバーンも竜種の一つとされていたが、骨格自体がそもそも鳥類に近く、骨の中身がスカスカだったり、ブレス器官を持たなかったりとそもそもが竜種とは全く違う系統である事が後に明かされた。
その為なのか、竜種との会話でワイバーンを竜種と間違える事は最大の禁句。めっちゃキレる。(竜人種の同僚が居る冒険者談)




