第十三話 突撃!図書館卿のマイルーム
【前回のあらすじ】
ダンジョンのキングとガチバトル。
「何この魔力障壁?まさか私の攻撃どころか音すら遮断するなんて…」
エレイシアは一刻も早くレベッカに合流すべく突如出現した壁を突き破ろうと模索していた。しかし壁の先に居るであろうレベッカ達の気配がそもそも感じられない。
「空間移動……不可。空間連結……不可。空間削除……不可。空間認識……存在無し!?」
エレイシアが最も得意な分野として空間魔法が挙げられる。故に、今現在レベッカが居ると思われる障壁の内部になんとか侵入を試みようとしているのだが、それが叶わない。空間が存在してさえいれば空間を連結するなり削除するなりして孔を開け移動を可能にするのだが。
「嘘…?この先の中に空間が存在していない?いや、そんな筈はない。さっきまでそこにいたって言うのに?それじゃレベッカは今何処に?」
思案に集中し過ぎていた為に自身の状況に気づくのが遅すぎた。
「え?しまっ!?」
気付いた時にはエレイシアはエマの接近を許してしまい、再び意識を闇に囚われてしまう。
「ゼェッゼェッゼェッ!くっ!図書館卿ッ!」
エレイシアを連れ立ち、エマは天井に向けて叫ぶ。
「貴女の妹君はちゃんと保護したわ!盟約は果たして貰うわよ!」
エレイシアとエマの足元に魔法陣が浮き上がると何処かへと転移が行われた。
☆☆☆☆☆
「何で……私なんかと……?」
声が聞こえた。否、彼の言葉が理解出来てしまった。
理解しなければ相手とは言葉を交わす事もなく、その意思も思惑も、理解することは無かった。
(彼にとってはこれは決闘だった……)
溢れ出した感情が止まらない。明らかに私よりも強い相手。しかし、彼は私を対等に、一対一で相手にするのに足る相手と認めてくれたのだ。
「それなのに私は……」
本当に運だけ。勝ち目なんてまるで無かった。
もし、ここに来た時魔力酔いなんて言う症状が存在することを知らなければ?もし、その時エレイシアに魔力を抜かれて瓶に移されていなければ?もし、アステリオスが武器を手放さなければ?もし、アステリオスに殴り飛ばされて気絶しかけた後追撃を受けていれば?もし、アステリオスの戦斧が立てかけられて居なければ?もし、アステリオスの戦斧が梃子の原理で飛び上がらなければ?もし、アステリオスを戦斧の一撃で倒すことが出来なければ?
どれか一つでも私の勝機が欠けていたら敗北していたのは私だった。
「強くならないと……。それにまだ終わってない」
これ以上は止めよう。これ以上自分を蔑むのは、同時にアステリオスに対する侮辱に他ならない。これは私への戒め。
「アステリオス。今はまだ私は立ち止まれない。けど私は貴方のことを忘れない。だから…」
私は涙を拭い、周囲に散らばるアステリオスの遺体、そして戦斧を回収する。
「いつか貴方のお墓を作るよ」
私は彼の戦斧に額をつけ心に誓うのだった。
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/緊急クエスト発生/
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不意にクエストウィンドウがアラームと共に開きだす。
「なっ何!?緊急クエスト!?」
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『EQ-FH-2-D -Fugitivorum-』
・不正アクセス者が逃亡を図っています。彼等の逃亡を許した場合、より一層の世界の混乱が予想されます。一人でも多くの逃亡者を捕らえ、処分を行ってください。
《該当対象》
★狂信者
★嫉妬
★蛮勇
★愚者
☆番人
《成功報酬》
☆学園都市プロテア
☆学園都市プロテアの住人
☆エクストラクラス・キー2の解放
・エマージェンシークエストの為、一人でも討伐ないし捕縛が成功すれば成功報酬が支払われます。しかし、一人でも逃亡を許せば後々世界に混乱を及ぼす可能性があり、さらにその数によって大幅に被害が上昇して行きます。また制限時間は解除されますが、逃亡を許した場合はクエストが継続され、更に討伐対象が増える可能性があります。
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クエストウィンドウに触れた私は愕然としてしまい、事態の把握が出来ずに混乱する。
(エマージェンシークエスト?何これ?どう言うこと?クエスト内容が大幅に変わってる?しかも何よその一匹逃せば増殖する害虫みたいな厄介な内容は?)
番人っていうのはゲートキーパーの事だろうか?リストを見ると番人の星だけ色が変わっている。多分アステリオスの事だと思うけど。じゃあ増えてる奴って何よ?いやそもそも元々あった狂信者が誰なのかも分からないのに更に対象が増えたって言うのが余計に酷い。
「な、何で貴女がここに居るのよ!?」
「え?」
その時不思議な事が起こっ…ンッン。突如周囲の景色が切り替わり古い蔵書の並ぶホールの様な部屋に私は転移した。
☆☆☆☆☆
「エリー、ごめん!」
「ぐえ!?」
その声に振り向くとエレイシアは焦点が合っていない様にぼーっと突っ立っていた。私はその隣に居たエマの声に反応する様にソードメイスを引き抜き、エレイシアを蹴り飛ばしながらエマを殺しに掛かる。
「《生命の根絶》ッ!」
「《シールドスロー》ッ!」
「げゔっ!?」
しかし投擲されたタワーシールドに私は弾き飛ばされ下階に落下してしまう。ユウトはエマの元に駆け寄りながら床に突き刺さったタワーシールドを引き抜き此方に警戒する。
「レベッカ!?…お前らァ!」
我に返ったエレイシアは至近距離から魔法を繰り出す。思わぬ事態に一瞬迷いを見せるユウトだが、何とかエレイシアの説得を試みながらエマを守ろうとする。どうやらエマの補助魔法によって強化がなされている様で、あのエレイシアの攻撃魔法を受けてびくともしない。
「エマ!大丈夫か!?」
「私は大丈夫。ユウトが守ってくれてるから」
「げほっげほっ!カハッ!《初位治癒》ッ!痛っつつ……ってアイツら何してんのこんな状況で?」
ガラガラと瓦礫を退かしながら何とか立ち上がる私はエマとユウトのイチャイチャしてる現場を見せつけられていた。側から見ればユウトを巡って壮絶な修羅場と化している。他所でやれ、他所で。
「それより図書館卿ッ!盟約を!早くして!」
その声に反応してかエレイシアを囲う様に壁の様な物が出現し、鳥籠を形成しながら上昇していく。
「盟約?《隷属の魔眼》なんぞ使っておいて盟約とは笑わせる」
「姉さん!?」
「エリーのお姉さんってあの人が?」
エレイシアを閉じ込めた籠の上にふわりと現れ腰掛け、読みかけの本を閉じてエマを一瞥するのはビスクドールを思わせる様な生気の薄く気怠げな一人の美女。私は何とか息を整え、武器を腰に納め彼女の前に跪く。
「お初目に掛かります、図書館卿。私はフリード卿の元にお世話になっておりますレベッカ・マグノリアと申します」
「マグノリア?ああ、お前があのマグノリアの娘か」
その出立ち・威圧感に押し潰されそうになるが、それでも私は何とか言葉を紡ぐ。
「あの者らは王女殿下を謀り、更には妹君を拉致しようとした賊です。彼等を即刻引き渡して頂きたいのですが」
「ふむ……」
暫しの沈黙が流れる。エマとユウトは此方の様子を伺っているが、何故か余裕の表情を浮かべている。何だ?何であんなに余裕がある?それにさっきの盟約って何の事?
「私には特に関係無いしその要請に従う必要も無いな」
思わぬ発言が、そして私とエレイシアが想定していた最悪の事態が図書館卿から発せられたのだった。
☆☆☆☆☆
「姉さんッ!どう言う事なんだ!?」
「お前は黙っていろ、エレイシア。そもそも私は国に雇われてる身ではあるが、服従する様な関係では無い。此処はあくまでも私の世界であり法だ。アルテナの事など知ったことか」
エレイシアの訴えを図書館卿は退ける。
「私が優先するものは盟約だ。それが果たされている以上、その優先事項を変えるものが無い限り貴様の訴えは私には届かんよ」
最悪だ。よりによってこんな最悪な事態になるなんて。図書館卿はやはり味方にはなってくれなかった。ユウト達と通じて居たのだ。
「さぁ図書館卿、それじゃさっさと私達を転移させてもらいましょうか?」
「それについても一応伝えておく事がある。金輪際貴様らとの盟約は破棄させてもらう。それと転移に応じる人数は一人だけだ」
「なっ!?何でよ!?」
「これだけの勝手をされて私が従うと思ったか?甘く見過ぎだ。だが盟約の範囲で許容してやろうと言うのだ。感謝してもらいたいものだがな」
彼方も彼方で上手くいかなかった様だ。その隙を逃さず私は階段を駆け出す。
「そこを退けェッ!」
「断るッ!俺はエマを守るんだ!」
ソードメイスとタワーシールドが衝突し合い、金属音と共に火花が散る。ユウトは私の攻撃に完全に対応すべく武器を持たず防御に専念している。オイ、変な世界に私を巻き込むな!時間稼ぎのつもりならこれ以上厄介な事この上無い!
「《鎧通…》」
「《シールドタックル》!」
「(マズッ!?)キャンセル、《クローキング》!」
「えっ!?」
私は後方のユウトを無視して《潜伏》を解除して走り抜ける。
「くっ!《シールドスロー》ッ!」
「《絶対障壁》ッ!」
此処でとっておきの《絶対障壁》を使い、迫り来るシールドを砕いて私を包む障壁も砕け散る。ああもう!ただでさえリチャージが長いってのにッ!
「盾が!?」
「クソ女ァァァッ!!」
「ひっ!?」
私は装備しているラウンドシールドを外すとそれを掴みフリスビーよろしくエマに向けてぶん投げる。
(逃すわけにはいかない。此処でアイツらを逃せば何が起こるか分からない。ただでさえ《隷属の魔眼》なんて聞くからに厄介なモノを持ってるエマは特に逃すわけにはいかない。さっきのリストに当てはめると最低でもどれか一つにエマは当てはまるのだろう。ユウトは逃したとしても魔眼持ちのエマだけは何としても此処で討ち取るッ!)
しかしエマは足を止めて進行方向の先に突き刺さるシールドを間一髪で避けて図書館卿に詰め寄る。
「図書館卿!助けてっ!?」
「その要請をするなら転移の話は無しだ」
「ああもう!こうなったら!」
エマはショルダーバッグに手を突っ込み、何かを引っ張り出すと床に叩きつける。
「アンタのせいよ!アンタのせいで全部台無しだわ!アンタが余計な事をしなければ!」
「余計な事?」
「そうよ!モブのアンタ達がしゃしゃり出なければ私達は!こんな面倒な事をしなくて良かったのに!」
叩きつけられた所から煙が起こり、何かがむくりと立ち上がる。
「ルォォァァァアアアアア!!」
ぞくりとした。あの存在に覚えがあったからだ。
「シロガミ!?」
「れべっが・まぐのりあああァァァアアアアアッッ!!!」
咆哮をあげて私に向かって走り出して来るのは一体のシロガミ。ラウンドシールドを引き抜き《防御力強化》をかけた上でシロガミの攻撃を受け流そうとするもぶっ飛ばされてしまう。何度突き落とされればいいのよ私は!?
「ぐっ!?何で……私の名前……を?」
「何……で?何でこんな所に……?」
そしてもう一人、その存在に対して覚えがある人物が居た。
「………エリー?」
「何で!?何でお前がそんな事になってるんだよ、イカロス!?」
私を殴り飛ばした相手のその正体。それは私に決闘を挑んできた相手、エレイシアの許嫁、アドニス家の後継者とされている人物。イカロス・カルフォス・オーネストの変わり果てた姿だった。
誤字報告して下さった方、ありがとうございました。
そして相変わらず遅筆ですみません。
【訂正事項】
魔法系スキルの表記を変更させて頂きました。
ややこしくてすみません。
【魔眼系スキルについて】
魔力を消費せず、条件さえ整えば効果を発揮する特殊スキル。ただし、肉体(主に脳)を酷使する為に体力(HP)を消費する。
効果発動条件は魔眼のタイプによって様々だが殆どの場合、以下の3種に分けられる。
・干渉型
最も多い種類かつポピュラーな型。他者に影響を及ばせ、視線を合わせる事で効果を発揮する。【隷属の魔眼】等が該当。
・認識型
自身に影響を与える型。【時間視】【鑑定眼】等が該当。
・攻撃型
直接攻撃を与える型。最も種類が少なく、直接ダメージが与えられる魔眼。【閃光の魔眼】等が該当。
また魔眼にはそれぞれランクが存在し、最も弱く扱いも容易な【1型】、使用者の精神にも支障が出る【2型】、強力すぎて使用者の命にも関わるレベルの存在である【3型】と分類されている。
(作中に出てきた【隷属の魔眼】は【1型】レベルの効果しか出ないのに【2型】レベルの副作用が出る粗悪品。本来存在する3型とされる【眠りの王】の贋作の様な物だがそれでもランクとしては1.5型と認識される)
現在【三型】の中でも特に有名な物が【災厄の三姉妹】と呼ばれる三種の魔眼であり、過去【災厄の三姉妹】三種を集めた者が居たが凄惨な末路を辿ったと言う。




