第十二話 弱者と強者
ダンジョンに放り込まれました。
私はエリーの真剣な眼差しに頷き、気を引き締め覚悟を決めドアを開ける。しかし、部屋を抜けた途端、私は思わず後悔してしまうのだった。
「ナニ………コレ………?」
エリーのゲート魔法は表現するなら星の見える夜空。しかし、『図書館卿』のゲート魔法は表現するなら宇宙空間そのもの。
「ア………あ………タスけ………?」
本当にコレがアレと同じモノ?魔力酔いとか浮遊感とかそう言うレベルのものではない。押し潰され擦り潰されそうになるプレッシャーとか魔力と言う名の死の概念そのもの。目の前に直視出来ない恐怖を無理矢理頭を押さえつけられ凝視させられる死が其処に…。
「……ッカ!レベッカ!!」
パァンと両頬を叩き抑えられ私は我に帰る。
「レベッカ!大丈夫!?」
「っ!?え、エリー?私……は……?」
それでもまだ乗り物酔いに似たような気持ち悪さが残り足元がふらつく。
「もしかしてマジックポーションとかその手のものを飲んだりした?あーそか、マナが急活性化して悪酔いしてるんだ。ちょっと失礼」
私は上着を脱がされ腹部を露わにされると、手を当てられて何かが一気に引き抜かれるような感覚に襲われる。
「がっはっ!?うぅ……一体何を……?」
「ごめんね。姉さんの簡易迷宮に対応させる為に一回魔力を空にした。今ならだいぶ違う筈」
「うぅ…今度は魔力が枯渇して…アレ?魔力が回復してきてる?」
驚いた事に一度抜かれて空になった筈の魔力が回復するのと同時に私の不調も段々と回復して行った。もったいないからこのマナ瓶に詰めとくねーと空き瓶に注いでいくエリー。ソレ再利用出来るんだ?
若干引き摺りながらエリーから視線を外し、改めて周囲を見回すと不思議な空間に居た。
「ここは一体?」
「うん、ほんとそれに関しちゃホントごめん。説明する前に出ちゃったもんね。此処は姉さんの『簡易固有迷宮』のルートの一つ『刻限迷宮』って言う場所だよ。姉さん曰くシュミレーターとかって言う物の一種らしい」
シュミレーターって…。何か随分とゲームじみてきた。
「要は最短最速でゴールエリアまで突っ走るダンジョンなんだけど……」
後方から飛び掛かって襲ってくる大型コウモリのグレイバットを振り向きもせず火球で撃ち落とす。
「まぁつまりはこう言う事だよね」
「なるほど…」
「パーティアベレージによってモンスターのレベルが変わるらしいけど、君ホントにレベル80くらいなんだねぇ。普段の私じゃグレイバットとは言え少しは時間かかるのに」
「な………なん……だと!?」
それはつまりエリーは私より強いってことか!?い、いやまあ別に自惚れてた訳じゃ無いですけどぉ?私より強い奴らなんて既にいっぱい居ますけどぉ!?……いやまさかこの学園で私の身近に私より強いのが居るとは思わなかった。普通に考えれば『図書館卿』の家族がそんなに弱い訳がなかった。
「んじゃ、気を取り直して行くよ、レベッカ!」
「お、おー」
なんかもう色々と情報過多でついていけなくなってきている私だった。
☆☆☆☆☆
「次!バックアタック!エネミー5来るよ!」
「了解!」
エリーの指示でエリーとの立ち位置をスイッチしながらゴブリンとウェアウルフを迎え撃つ。機動力の高いウェアウルフを私が叩き飛ばして後続のゴブリンに叩きつけ、エリーが範囲魔法でゴブリン達を纏めて消し炭にする。
あれから部屋を3回ほど切り替わったけどモンスターが3グループ出る度部屋が切り替わり、その都度体力も魔力も自動回復すると言うのを繰り返す。即席パーティではあったが息のあったコンビネーションで進撃する。何これ楽しすぎる。
「んで、次が」
「そうだねぇ。次が禁断魔導書保管庫。通称・グラスルーム。『図書館』の中枢にして姉さんのプライベートルームだ」
「グラスルーム?」
「此処には本当にヤバい禁書が保管されてたりするからね。触れるだけどころか言葉の羅列だけで開いても居ないのに発動してしまう禁書なんかも保管されてるんだ。冗談じゃなくガラス細工みたいな部屋だからグラスルームって言うんだよ」
思わずゾッとする。ホントなんて所に住んでるんだろう。そんな部屋がこの扉一枚隔てたエリアで繋がって居るとは。まー、姉さんがその辺きっちり管理してるからよっぽどの事がない限り事故なんて起きないけどねー、なんて言ってるけど私には冗談に聞こえません。
「因みにこのルート以外での道で来る事は?」
「まぁ〜出来なくは無いけど、多分ほぼ無理だと思う。特別な開通方式でも無い限りはコレが最短だし、そもそもその方法って姉さんとの関係者のみだろうし」
その関係者の括りにあの自称勇者達の可能性って言うのが否定出来ない所でもある。とにかく今は会って見ないことには何もわからないことばかりだけども。
「姉さん入るよー!」
「待って心の準備が!?ッ!?」
「アレ?こんな部屋あったっ…ぐえっ!?」
思わず私はエリーの肩を引っ掴むとエリーの前に自分を盾にする。次の瞬間凄まじい衝突音と共に予め張っておいた《絶対障壁》が効果を失い砕け散り、衝突して来た何かが後方に後ずさる。
「な、なに、今の……?」
「エリー、無理矢理引っ張ってごめん!でも立って!どうやらただで通してくれなさそうよ?」
「な、何で……何で……姉……さん?」
目の前にいるのは巨大な戦斧を杖にして体制を整える巨躯。ヒトの上半身に牛の下半身と頭部を持つ怪物。ダンジョンの主として名高き王、ミノタウロスが其処に居た。
☆☆☆☆☆
そんな風にエリーを鼓舞してた私ですが。
(あっぶな!?良かったー!《絶対障壁》張っといて!一歩間違ったら死ぬ所だった!って何よこれ何なのよこれェェェ!?)
内心ではもうパニック状態。ポーカーフェイス無かったらギャン泣き、失禁等を始めとしてフルコースで披露する所でした。恐ろしいにも程がある。しかも鑑定したらコイツ……
アステリオス Lv87
種族:ミノタウロス
HP::150,256/150,256
MP:3,496/3,756
STR:37,964
VIT:3,796
INT:963
MID:963
TEC:963
……何そのふざけたステータス!?と言うかなんだそのイカレた攻撃力?STRに振りすぎて他のステータスも訳が分からな……語呂合わせ!?今気がついたわ!?殺す気満々かこのやろう!?
「ウゴァアァァァァァァァァ!!!!」
「なっ!?レベッ」
「エリー!?」
突然の雄叫びに突如地面から壁が現れて私とエリーを分断されてしまうのだった。
「くっ、《鎧通し》!」
渾身の一撃を隔たれた壁に叩き込むが手応え無し。壁にはヒビすら生えず、向こうの方からエリーの声すら聞こえない。
(鎧通しは障壁貫通の特性があるのにこの壁はそれすら通さない!?)
エリーの事は正直心配ではあるけど、どのみちこの壁を突き破る事は恐らく不可能。コイツを倒さない事にはエリーの元には辿り着けないだろう。……タブン。
「グルォォオオオ!!!」
「わざわざ待ってくれてるなんて随分と紳士的ねェェェェ!?」
アステリオスは戦斧を握りしめながら雄叫びをあげ、戦斧を引き摺りながら前進してくる。私はその場を飛び退いてタックルを紙一重で避ける。レベル差があろうがヤバい攻撃力だろうが当たらなければ意味などなかろうなのだァ!危うくミンチになるとこだったけどォ!?
「がっ!?あっ!ぐ……!」
突然の衝撃に受け身を取るのが遅れてしまった。タックルを避けて油断してしまったのか、タックルの体制のままからのバックナックルを受けて跳ね飛ばされてしまう。プリースト系のスキルでダメージは軽減出来ていたものの、それでも下手をすると痛みだけで意識を失いかねない。
「くっ、《初位光球》!」
何とか立ち上がり、バックステップを挟みながら《初位光球》を打ち込み距離を取る。私の魔力じゃ大した火力にはならないけど目眩し位にはなる筈……って!?
「……ッ!?……まさか……嘘でしょ?」
アステリオスの眼前に壁が競り上がり、私の《初位光球》を塞ぐ。嫌な予感は更に続く。壁の向こうで風切り音が唸りを上げていたのだ。
「ぐっ!《絶対障壁》っ!?発動しない!?しまっ……!?」
目の前には一面に破砕された壁石の弾丸が迫ってきた。
☆☆☆☆☆
辺り一面に突き刺さる様に凄惨な弾痕が残る。砕かれて半身程になった戦斧を立てかけ、吹き飛ばされて身動き一つしないレベッカを見つめるアステリオスはフシュウと鼻息を吐き出すとゆっくりと近づき出した。
──フン、やはり弱き者だったか… ──
彼は思う。
不意打ちとは言え自分の渾身の《蹂躙せし雄牛》を受けて無傷どころか、繰り出した自分の方が弾き飛ばされた事実に。
──面白いと思った。この者ならば我の乾きを癒してくれる。この闘争心を満たしてくれる筈と… ──
だが所詮それまでの女。見ればまだ年若い少女だった。そんなものがたった一度、唯の一瞬ではあったが彼が渇望した脅威・強敵に思えてしまったのだ。
──しかし妙な技を持つ者だ。喰らえばその技、得られるかも知れぬ。ならば、死する前に食らわねば──
経験上生きたまま喰わなければスキルを手に入れる事は叶わなかった。ならば完全に死んでしまう前に喰わなければ勿体ない。
アステリオスはズタボロになったレベッカの両足を掴むと逆さ吊りにする様に持ち上げ頭から丸齧りしようと口を開く。
──さらばだ、弱き者よ。我の血肉となり、貴様達の神にでも新たな人生を造り直してもらうのだな──
「悪いけど私、そう言う神様って信じてないのよね」
「ッ!?」
突然アステリオスの口の中に何かを放り込むと、レベッカはそのままスパイクを引っ張り出してその顎を鋭く打ち付ける。
「ぐおうあがァァァァァァァァァ!?」
口内から大量の出血と激痛に戸惑いレベッカを離してしまい、更にその中身が傷口から入り込みアステリオスの判断力をより鈍らせる事になる。
「アハハハハ……ハハハ……ほんっとうに!ほんっっっとうに情けない!私はッ!私はァァァァァッ!」
──何だ!?何をされた!?我は一体!?──
苦しみながら口を押さえるアステリオス。しかも方向感覚もおかしくなり、うまく立ってもいられない。
「うまく立てないよねえ!?私も経験済みだから良ぉく分かるわ!魔力酔いだなんて経験無い事なんて理解も出来ないもんねェ!?」
ロングメイスに切り替えてアステリオスのリーチの外から攻撃を加えるレベッカ。先程アステリオスの口に放り込まれたのはエリーがレベッカから抜いたマナそのものだ。エリーが再利用出来ると言って予備のストック分としてレベッカに数本渡してきた物でもある。
「ハァッ!ハァッ!ごめんなさい、アステリオス。私には貴方に決闘を申し込まれる様な資格はない!強さもない!こんな騙し討ちみたいな方法でしか貴方を倒す事ができない!」
目の前で血塗れになって立ち回る少女はまるで懺悔をするかの様に泣きながら自分自身を蔑み、侮辱し、嘲笑する。
──まだだ!何を言っているのか分からないが、この女はまだ何かを隠している!──
「《初位光球》!」
「があぁぁぁぁぁあァァァァァァァァァァァァ!?」
何とかバランスを保ちつつ立ち上がろうと片膝をついた所に目掛けて強烈な光が目に直撃する。続け様に眉間に何かが触れると更なる衝撃が走った。
「《鎧通し》ッ!!」
「ッ!?」
地面に後頭部が叩きつけられる。鎧通しの核に使われたのは先程アステリオスが自分でレベッカに叩きつけたストーンバレットの破片だった。
「こっちよ!」
「ガッ!?グッウ……ぐがぁあああああ!!」
「本当にこんな騙し討ちで貴方を討ち取って申し訳ない。私はこんな所で死ぬわけにはいかない、だなんて言うつもりもない。ただ、私は先に行かなければならない。だから今ここで死ぬわけにはいかない。だからごめん。恨んでくれて良い。貴方には私を恨む理由も資格もある!」
レベッカの《初位光球》の目潰しと脳震盪により視界もぼやけ、正確な判断がつかなくなってしまい、背後から石が投げつけられアステリオスは逆上した。否、してしまった。
「ガッ!?」
もし視界が良好だったならば、足元に何があったのかに気づいていただろう。もし冷静でいたならば、少なくとも飛び込んでいこうなどとは思わなかっただろう。だがアステリオスは判断力も視界も欠けてしまっていた為にレベッカがその場に置いていた折れ曲がったロングメイスの存在に気付かず転倒してしまった。
「ガッハッ……!?」
「生命の根絶!」
レベッカが打ち付けたのは立てかけられた戦斧の柄。だがそれはテコの原理で持って持ち上げられ、ブオンと言う風切り音と共に上昇していく。レベッカはスパイクを手放し飛び跳ねた戦斧に向かって駆け出し、柄を掴むとそのままの勢いで回転しアステリオスの首目掛けて落下する。
「あなたの決闘を汚してごめん……」
──構わん、知恵ある者よ──
思わず目が合った瞬間そう言われた気がした。そして………
「……うぅ、あ…あ………ぁぁぁ。うあぁ……。ぐぅうううう!!ぢぐじょう!ぢぐしょう!!ああぁあ!うわぁぁああああああああ!!」
アステリオスの首は胴から切り落とされたのだった。
時間かかって申し訳ありませんでした。もう少し早めに上げる予定だったのが編集し直す必要があり、ここまで時間かかってしまいました。相変わらず遅筆ですみません。




