第十一話 想定外の緊急事態
【前回のあらすじ】
お見送りしました。
「ユウト様、私が貴方を信じきれていなかったのは貴方のかつての仲間が奴隷に堕ちていたからなのです」
「な!?それは一体どう言う……」
「何を言っているのです?貴方が装備している物、それらは本来貴方が所持している筈のない物です。特にその鎧はこの国の聖騎士だけが装備を許されている物。聖鎧リフレックスです」
かつておじ様が私の選定の際に着ていた物と一致する。後に聞いたのだが、この国で8着しか存在せず又その製造工程も職人も複数人の名工によって作られ複製も模倣すらも禁じられている代物である。おじ様達聖騎士ですら公務でのみ着用を許されている物を彼が勇者だからと手に入れられる筈が無いのだ。
「これはかつての仲間から頂いた物だ。これからの戦いに必要だからと」
「残念ながらそれは許されることではありません。その鎧は言わば国宝の一つなのです。後継者に受け継がれると言うのならばまだしも、赤の他人のそれも元平民が勝手に手に入れられる物ではありません」
私が自分に《魅了》を仕掛けられた事を何故話さないのかと言えば、それは私が《魅了》が効かなかった事を自ら自供する様な事だからだ。つまりは相手にとって余計な警戒心を煽ることに他ならない。
それならば未だ未確定ではあるが奴隷堕ちしたかつての勇者パーティのメンバーが居たとハッタリでも仕掛けた方がまだ自然な流れだ。
「本当に知らないんだ!だってこの装備やこれまでの資金だって……」
しかし私はこの時点で、否『ユウトの質問』に答えてしまった。
その事事態が過ちだったと気付く事が出来てなかった。そして彼の様子で私もようやく自分のミスに気付いてしまった。何故なら…
生徒会室での最初の会合のあの時私に《魅了》を仕掛けてきたのはユウト・カンザキでは無かったのだから。
「ぁ……!?」
その視線に気がついた。周囲にいた筈の衛兵達は既に意識を手放していた。急いで他の三人を探すがそこに居たのは、ぼうっと魂の抜けた様な眼でふらふらと立つティルト。同様にもう一人の魔法士の様子もマフラーにウィザードハットに隠れて表情は見えないが様子がおかしな事になっている魔法士。
そして、その二人の背に触れこれ以上のない程の邪悪な笑みを浮かべるヒーラーの姿があった。
「ま、まさかあなたが!?一体どう言うこがッあぐっ!?」
突然ユウトが私に覆いかぶさってくると、私は羽交締めにされる。
「やめろ!やめるんだ!……エマ!!」
困惑しながらもユウトは私を拘束する手を緩めない。そして魔法士が私に近づくと私の額に触れ、短い電撃が疾る。
「ぐっあ……!そう言う……事か」
私はそこで意識を手放してしまった。
☆☆☆☆☆
「かっ……はっ……げほっげほっ!はぁっ…はぁっ…」
喉の奥に異物が詰まっていたかの様な感覚に包まれ、咳で吐き出す。飲み込んでいた唾が床を濡らす。
「此処は……?」
気がつくと私は何処か見知らぬ宿の一室に身体を拘束された状態で転がされていた。未だ残る酷い頭痛と吐き気を我慢しながら周囲を見渡すと、糸の切れた操り人形の様にぐったりとソファーに身を委ねている先程の魔法士の姿がそこにあった。
(他の三人がいない?いや、そんな事より……ッ)
私を拘束する拘束具は装着者の魔力を吸ってより強固になる様だ。このままだと私は例え拘束を解いても魔力が空の状態でこの状況を乗り越えなければならなくなる。
(まず拘束具を何とかしないと…っと)
ちょっと人には見せられない動きで拘束具を解除する。伊達にTECをカンストしてません。ただし我ながらその動きはちょっとキモい。
(魔力残量は心とも無いけどマジックポーションあったかな?)
予備はあった筈だけど、個数によっては手持ちの武器だけで戦う事になる。実は私の回復スキルはろくに使い物にならない上に習得してるスキルも物理スキル寄りなので、シールダー率いるあのメンバー相手にはかなり相性悪いかもしれない。
(《空間収納》は………開けられる!良し!)
私はそれだけ確認するとそこからマジックポーションを一瓶取り出し飲み干し、空の瓶をベルトに挿す。万が一の時には一応武器になるからね。対人戦の鉄則である。効果あるかは知らんけど。
(魔法士は私の予想通りならもうアイツらが居ないからもう操られてはいない筈……)
恐る恐るぐったりしている魔法士に近づき心音を確認する。
(心臓は……動いてる。生存中。ん?)
ウィザードハットにフードにマフラーまで被っていた彼女の素顔を覗き込む体勢になっていた。そーっとマフラーを外すと、その素顔に私は思わず声が出そうになった。
(なっ!?何で……!?何でエリーが此処に居んの!?)
魔法士の正体はエリーことエレイシア・クロムだったのだ。
「エリーッ、エリーッて。ちょっと、起きてーッ(小声)」
「んあー……んぐ……げう……かふっ!?あー、アレ?レベッカ?何でこんなとこに?あれ、此処どこ?」
小声でエリーを無理矢理起こすと、彼女はかなり気だるそうに周囲を見渡しだす。
「残念ながら私も分からないの。いやそんな事より、アンタ勇者パーティにいつ入ってたのよ?」
「は?勇者パーティ?何で私が勇者パーティに入らなきゃいかんのよ?」
「………て事はエリーは拉致られたのか。はぁ、まあコレでアイツらを勇者パーティを解任出来るどころか取り締まる理由が出来た訳か」
「ちょいちょい、物騒な話だにゃー。一体何があったのさ?」
私はこれまでの経緯を掻い摘んでエリーに説明した。すると、エリーはみるみる深刻な表情になっていく。
「まさか…あの時か……?するとまさか連中の目的は姉さん!?」
「何でエリーのお姉さんがここに出てくるのよ?」
「姉さんは八英聖の一人、『図書館卿』だからよ」
は?
「あの?勉強不足ですみません。八英聖とは?」
「あー、もしかして八英聖自体が分からないって感じかな?ざっくり説明すると八英聖とはアルテナ王国に雇用されている聖騎士の天命を持つ貴族の事だよ。例えば君が世話になってるフリード家や私の婚約者のイカロスの親のアドニス氏もそうだったね。分類的には傭兵に近いかな。何が言いたいかって言うと国益を守る義務がそもそも存在しないんだ」
「はぁ……?」
「つまり国益を守ろうが守るまいが自由なのさ。その代わりに他の八英聖に目をつけられるけど」
「段々と分かってきた気がする…」
ふと脳裏に思い浮かんだのがフロハーにおける最凶角ことファロス・フリードの素敵な笑顔。通りであんなにも世界情勢に敏感に裏切る訳だ。オマケに強いし。
「何にせよ早いところ図書館卿にお目通りを…」
「ストップ!レベッカ!ドアノブから離れて!!」
「!?」
エリーの声に思わず飛び退く。
「この配置……魔力回路……まさかコレ……『禁書庫迷宮』?」
あの…… 『禁書庫迷宮』って何ですか?絶望感半端ないんですけど?
「間違いない。だとすると此処はリラクゼーションルーム。ちょっと待ってて。これをこうしてこうやって…」
エリーはソファーの位置やサイドテーブルの位置をずらしたり本棚の本を入れ替えたりした後、ドアノブを二、三回ガチャガチャと回したりと行動に移す。
「エリー、一体何してんの?」
「正解ルートと最短ルートの確保をちょっとね。此処を出れば最短ルートで姉さんの所まで一気に通り抜けられる。ただその事で君に相談なんだけど…」
「?」
「私達は姉さんに意図的に此処に閉じ込められている可能性が高い」
「そうなの?」
「ただ問題なのはその理由だ」
「理由って何?」
「善意的に考えれば姉さんが私達を守る為に隔離したんだろうけれどもね。ただ、私にはどうもそれだけとも思えなくてね」
どう言う事?妹を守る以外の目的で隔離する理由があるんだろうか?
「さっき言っただろう?八英聖には国を守護する義務が存在しないって。もし私を操って連れ回していた連中と姉さんが繋がりがあったらってね」
「アイツらと図書館卿が?そんな筈は…」
「もし無かったと言うなら私が連中に連れ回された事態が発覚した時点で私を回収すれば済む話だったんだ。だが、今になって急に私が回収された」
「それはエリーが連中から解放された事と何か関連があった…から?」
「解放されたからなのか、姉さんの逆鱗に触れたからなのかは不明だけど、多分………ね。だとしてもあの連中は生きてるし、恐らくだけど連中も『禁書庫迷宮』の中に居る」
「なっ!?」
あれだけの事をしてた自称勇者パーティが此処にいる!?
「もし姉さん達の会合のその現場を私達に見せない為に隔離したのならばってね。何にしても私達はあの自称勇者パーティよりも先に姉さんに会う為に『禁書庫迷宮』を突破しなければならない。
『簡易固有迷宮』とは言え油断すると死ぬからね。それだけは覚悟しておいて」
私はエリーの真剣な眼差しに頷き、気を引き締めてドアを開けるのだった。
遅くなって申し訳ありません。
ストーリーの構成に大幅に修正を行った為に遅くなりました。
《迷宮紹介》
名称:禁書庫迷宮
分類:簡易固有迷宮
☆『図書館卿』の保有するゲート魔法にして固有結界魔法の一つ。有機物・無機物に関わらずあらゆる物を収納可能かつ運搬が可能であり、各ブロックごと移動させて移動・管理を行う。収納・移動を兼ね備えた魔法である。(表向き)




