第三話 ぽてちがたべたい(現実逃避)
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。
ごくごくごくごく。ビリビリ。もぐもぐ。
ててててんてーてんてててんててん。
まるで作業の様に怠惰な日常。
『私』にとって『世界』とはここだけだった。
うばわれて、うばわれて、うばわれて、こわされて。
最後に残ったこの場所だけが『私』の『世界』。
幸いにも対価はある。燃料を買う術はある。
だからわたしはへいき。
だってわたしはここさえあればしぬまでえいえんにいきていけるんだから。
………………
………
…
「うぶっ………。はぁ………」
悪夢。と、一言で済めば良いのだがアレは確かに私にとってはある種の理想郷だった。目を覚ますとやはり現実なのだと理解してしまう。
ここが夢ならどんなに良かったことやら。
私の本当の名前は吉原マヤ。生前は元プログラマーを生業として有名ゲームメーカーの下請け会社に勤務していた。とは言えその実態は例に漏れずドブラック企業の下請けであり、連日連夜サービス残業は当たり前、過労、睡眠不足、多重のハラスメント、ストレス過多で大量のサプリが手放せない程になっていた。また、その当時親の反対押し切って自分のやりたい仕事に就きたいと田舎を飛び出して来たのでその事を親に相談することすら出来ず遂には入院を余儀なくされてしまった。更に追い討ちとばかりに、そんな私に解雇通知を受け、それがきっかけで何もかも失って………私は心身共にボロボロになっていた。
それでも生きていられたのはフロンティア・ハーツが私の拠り所になっていて、もはや依存性と言える程になってしまっていたからだった。
そんな最中、フロハーが配信終了と言うお知らせが届いた。元々クソゲー呼ばわりされることに定評あったけど、私にとってはなくてはならないもの。当然抗議メールを送ったりもしたけど結果は変わらなかった。
フロハー配信終了当日。本当に依存する物が何も無くなってしまった私は狂った様に残っていた親の遺産も私の貯金も何もかもの全てのお金をばら撒き、泣き、わらい、ビルの屋上からフライアウェイしたのだった。
この世の全てを呪い、嘲笑れながら……
そう考えるとホント我ながら黒歴史だわぁー。
享年26歳。我ながら業が深い。
そんな事を考えながらまだ重い体を無理やり起こし、先程までの悪夢のことはさっぱりと切り替えてこれからの計画をたてる。まず、真っ先にやらなければならないのは最速でレベルアップを図り最低でも年内にレベルを35、出来る事なら50にしてしまいたい。実はこれにはちゃんとした理由が存在する。
この世界のベースとなっているフロンティア・ハーツのシステムには基本ステータスに加え、スキルレベルと言うものが存在する。
基本ステータスは以下の通り
STR=攻撃力
物理攻撃力に関わるステータス
VIT=防御力
物理攻撃力に関わるステータス
INT=魔力
魔法攻撃に関わるステータス
MID=精神性
回復能力、魔法防御力に関わるステータス
TEC=精密性
命中率、機動力に関わるステータス
となっている。
しかし、本ゲームにおいては個人戦だけに留まらず戦争による部隊戦も存在し、その際には
・STR=殲滅力
部隊の突貫攻撃力
・VIT=防衛力
部隊の突貫に対する防御力
・INT=魔導殲滅力
部隊の遠距離攻撃力
・MID=魔導防衛力
部隊の遠距離攻撃に対する防御力
・TEC=指揮能力
部隊の機動力
となる。
更にレベルが5上がる毎にスキルポイントがボーナスとして加算される。レベルカンストすると100になるので最大20ポイントのボーナスポイントが得られる訳だ。
このスキルポイントを消費する事でレベル毎に選択出来るコモンスキル一つと選択したスキルLv毎にの基本ステータスに+100ptがボーナスとして加算されると言うものである。
例を挙げるとこんな感じ。
Lv35 レベッカ・マグノリア(予定)
HP:1500
MP:772
STR 125
VIT 150
INT 352
MID 420
TEC 121+700(SLv7)
けど本当に重要なのはここから。
私の天命である『癒しの聖女』は固有ステータスとして以下の効果が付く。
・MIDステータスにスキルLv5
・回復スキル使用時の効果30%UP
なので結果こうなります。
Lv35 レベッカ・マグノリア(予定)
HP:1500
MP:1272
STR 125
VIT 150
INT 352
MID 420+500(癒しの聖女)
TEC 221+700(SLv7)
因みに参考までにウチに仕える剣士の一人のステータスはこんな感じでした。
Lv35 一般的な剣士
HP:6750
MP:338
STR 350+300(SLv3)+200(剣士)
VIT 275+200(SLv2)+200(剣士)
INT 113
MID 225
TEC 259+200(SLv2)+100(剣士)
なので、特別『癒しの聖女』が優れてるとかそう言うわけではなく、ステータスとスキルのやり方次第というわけ。
更に言えば選択出来るコモンスキル同士を組み合わせて習得出来る天命の固有スキルによって戦局を左右されるのである。
ぶっちゃけると天命云々よりラスボス含めて個人戦より部隊戦の方が多い上に主要人物はだいたい部隊長なんだよね……。
そして散々脱線したが、何で私がTEC極振りするのかと言うと取得可能なコモンスキルが便利だからである。
まずLv3でポーカーフェイス。これはどんな状況においても(見た目だけは)弱気にならないと言うスキル。使い所としては交渉術かなぁ?戦争もあるので当然交渉もある。
Lv5は鑑定。鑑定成功率は自分の総合TEC/対象の総合TEC(上限100。小数点以下切り捨て)。対象のステータスやアイテムなどの鑑定を行う事が出来るコモンスキルである。当然ながら、TECが高ければ高い程、鑑定の成功率が上がる。
そしてLv7にて隠蔽。これは自分のステータスを隠蔽し、誤魔化す事が出来る他、自分自身を隠したりする事もできるなど超便利なスキルである。
けれどもその真髄はTECスキルのレベルが上がれば上がる程スキル自体に補正が入るのだ。TECスキルLv7の時点で文字化け、Lv8でステータスそのものを書き換え(た様に見せかけられる)、Lv9でスキルレベルそのものも書き換え(た様に見せかけられる)、Lvカンストで他者が鑑定可能な箇所そのものに制限をかけられる様になるのである。
まぁ所詮ゲームでのお話なので、一応現実であるこの世界も共通のことなのかは不明だけども。その辺は検証しながらと言う事で。でも、ある程度やってみたけれど効果はあったので恐らくは適応されている。
(問題は年内に私の素性を調べられたらアウトなのにも関わらずレベリングが出来ないという事……)
状況が状況なだけに私だけが「ちょっとお花を摘みに」行く感覚で「ちょっとレベリングでゴブリンの首を摘みに」なんて言える状況ではなかった。そもそも令嬢が命を狙われ続けているのだ。そんな空気じゃないわ……。
確かにあっちでも人生ナイトメアだったけど何もこっちでもナイトメアじゃなくても良くなくない?ちなみにゴブリンさんは今の私では10回程ヌッコロされた後30回程ちょっとここでは書けない事になってから「おお、お嬢様よ死んでしまうとは何事だ」と言う状況になります。あしからず。
ステータス補正やダメージの補足。
攻撃などの命中制度は上記の鑑定と同じく、
自分の総合TEC値/相手の総合TEC値×100=○%
となります。(小数点以下切り捨て)
ダメージ判定は基本
STR×スキル補正-VIT×スキル補正=最終ダメージ
INT+スキル補正-MID×スキル補正=最終ダメージ
となります。
ゲーム内での設定では。