第十話 他人は余り人の迷惑を考えない
【前回のあらすじ】
お手紙書いてました。
あの騒動から数日後。『影』からの連絡待ちをしながら警備を振り分けるフレン・メッツェが部下からの一報を受けていた。
「まさかもう来たの?」
「はい。ですがどうにも対応が難航している様で」
「はぁ、まさかもう来るなんて。フラッド副団長に通達して。それとコレとコレを持たせて頂戴」
「畏まりました」
レベッカからのお手製で作ったアミュレットとメモを部下に手渡し、準備に取り掛かる。フレン・メッツェとは王宮に務める内事官の一人でフリード卿が騎士団側との緊急連絡先として配属した人物である。高ランクの《鑑定》が出来る人物でもあり、王宮内外の警護配備等を担当する人物でもある。
(それにしても、どうしてこう言う厄介事を持ち込む連中は行動が早いのかしらね?)
悩みの種に頭痛を感じながら同僚となった『影』のメンバーがまだ任務から帰還しない事に対して理不尽に恨む彼女が居た。
「レベッカ様から通達です。『獲物は檻に入った。猪は納屋に、兎は鍋に』との事です」
「了解しました。『レシピはシェフに』宜しくお願いします」
ようやく緊張から解放されたと言った具合に彼女はテキパキと馬車の手配と衛兵の配備の指示をこなすのであった。
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「だから俺達は勇者パーティだって言っているだろ!通してくれ!」
「申し訳ありませんがそれは無理です。お引き取りを」
「アリシア殿下が倒られたと聞いて黙ってられる訳がないだろ!彼女には恩があるんだ!それに俺達のパーティには回復士が居る!だから…」
「騒々しいですね、何かありましたでしょうか?」
「キミは……レベッカ!丁度よかった!彼等を説得してくれないか?俺達は───」
此方に向けないで欲しい、迷惑です。ただ他の人に関わらせたら余計な被害を生みかねないので私が関わらざるを得ないんだけど。くっそう。
私の方の準備が整いフレン女史に通達した後、合流地点にやって来ると既に押し問答が始まっていた。まさか本当にこのタイミングで直ぐに来るとは。コイツら時間の観念が無いのか?時間的には17時頃。現代社会では普通なのかもしれないけど、この世界じゃ普通じゃない。ましてや相手は王族である。謁見には色んな手続きが必要なの。時間もかかる。勇者だからって気軽に会える人らじゃない。そんな事が通用するなら皆悪用して王族に会いに来るわ。しかもアリシア殿下は回復なされたばっかりだっつの。
「私が対応します。彼等をお通し下さい」
「ハッ!」
「お願いします、ね」
フレン女史の部下が不安そうに私に告げて来る。でぇじょうぶだ、なんかあったらフリード卿が何とかしてくれる。…いや、切り捨てられるかもしんない。私も不安になってきたわ……。
「では御案内しますね」
「ああ」
私はユウト達を引率して中に案内して行った。
「助かりました。全然話を聞いてくれなかったものですから」
「この様な緊急時の事でしたしね」
「ええ、実はアリシア殿下が倒れてしまわれたと言う話を街で聞いてしまって。もしかしたら俺達が無理をさせたかもしれないと思ってしまって。そうしたら居ても立っても居られなくなって」
「そうですか……」
暫く歩いて行くと馬車が二台到着する。
「勇者様は此方に、従者の方々は彼方の馬車にどうぞ」
「なっ!?何で私が従者なのよ!?」
「よすんだ!だけど貴女が俺と一緒に乗ると?」
「何か問題でも?」
「い、いや……その……」
「まさか勇者様は二人きりだからと言って私を手篭めにする様なお方では無いでしょう?」
「そんな事しないよ!?」
「冗談ですよ。さぁどうぞお乗り下さい」
そう釘を刺してから馬車の戸を開けユウトを馬車にいざなう。渋々ながらも向こうの馬車にティルト達が乗ったのを確認すると私も馬車に乗り込むのだった。
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ガラガラと馬車が走る音だけが響くが、馬車の中は沈黙で支配されていた。
「あの……」
「何か?」
「あ……いや」
沈黙に耐えきれなくなったのかユウトが話しかけてくる。しかし私はそれに対して突き放す態度を取る為、再び訪れる沈黙。それもその筈だ。私は先程から殺気な様な圧を露わにしながらただじっとしているのだから。
それでも耐えられなくなったのかユウトは思い切った様子で話しかけて来た。
「少し話をしたいのだけど」
「私にはありません。それは私に要されるべき事ですか?」
「要されるべき事?」
「立場を説明する必要がありますでしょうか。あくまでもコレは付き添いの為に同行しているに過ぎません」
「な!?」
「改めて御説明しますが私はユウト様達勇者パーティを御案内する為に遣わされた人間ですので、余計な事をお話する事自体が憚れます」
「余計な事ってどう言う意味だ!?それにどうして俺の仲間を別の馬車に分ける必要があったんだ!?」
「誤解をさせた様なら謝罪致しますが、彼女達には余り勝手な行動をされては困るからです。ユウト様は理性的に行動出来る方の様ですから」
「それはどう言う意味なんだい?」
私の謝罪に心を落ち着かせたのか、少し落ち着いた様子で此方に問いただして来る。ホント情緒不安定だなぁ。
「正直に申し上げて私はユウト様達勇者様のパーティをそこまで信用しておりませんでした。ですが己の行動も反省すべき所があり、よくよく考えて見れば勇者様のパーティに誘われただけで私はユウト様に攻撃行動を取ってしまった。本当に申し訳ない事をしてしまいました。ですのでこの度、私は案内役を買って出たのです」
「は……はぁ………?」
「ですので現在私はユウト様へ何かをする事もこうして余計な事をお話する事も本来なら許されない立場なのですよ。御理解頂けましたか?」
「ぅ……わ、分かったよ」
「それは何より」
再び暫くの沈黙の中、馬車の走る音だけが響いていた。
☆☆☆☆☆
馬車が暫く走った後、緩やかにその足が止まる。
「着いたようですね」
「ああ、ってここは!?」
「ええ、丁度あちらも到着した様ですね」
そこはアリシア王女の居る王宮ではなく学園都市の壁門前。私達の所まで衛兵がやって来ると書簡を持って私の元にやって来る。
「レベッカ!一体これはどう言う事なんだ!?」
遅れてやって来たティルト達も合流し、困惑するユウトの様子を見て此方を睨みつけて来る。私はそんな視線を一切無視して
「改めまして勇者ユウト様、並びにそのパーティの皆様方。この度、王女殿下の名代を申しつけにより皆様に王命を預かっております。
『勇者ユウトとその一行は直ちに魔王領に赴き、魔王を討伐されたし』
以上です」
私からの事実上の敗北宣言。その宣言に気を良くしたのかティルトは満面の笑みを浮かべながら勝ち誇っていた。
「ふふん、やっと私達を認める気になったのね!」
「はぁ、そうですねー」
「なぁに?今更悔しがったってもう遅いんだから」
「はぁ、そうですねー」
そんなに嬉しいのかな?よっぽど私の態度も強がっている様に見えたのだろう。残念ながら私はこれっぽっちも悔しくもない。ぶっちゃけると勇者パーティに拉致されるのは勘弁願いたかっただけで別にユウト君が勇者だろうと関係ない。どうぞどうぞ、勇者を名乗って頑張ってくださいな。
「ユウト様、此方を」
衛兵から金額にして5万ギールの入った麻袋がユウトに渡される。
「此方は支度金です」
「こ、こんなに!?」
「ええ、それではお気をつけていってらっしゃいませ。吉報をお待ちしております」
私は深々とお辞儀をし、彼等を見送ったのだった。そう、これでこの場のミッションは全てコンプリートの筈だったのだ。
彼が余計な質問さえしなければ。
「待ってくれ、レベッカ。どうしても気になってしまった事がある。聞いてもいいかい?」
正直、気が緩んだと言っても良い。やっと面倒事から解放されたと。
「何でしょう?」
だから油断しきっていた。
「何故キミは俺をそんなに憎悪の対象として見ていたんだ?」
「(は?なんて言った?)……どう言う意味でしょうか?」
ポーカーフェイスを崩さぬ様に話すつもりだったのだが………
「俺は勇者として恥ずかしくない様に生きてきたけど……」
次に出た言葉が私の堪忍袋を引きちぎった。
「キミに嫌われる様な事を何かしたのだろうか?」
思いっきり油断しきっていたのだ。自分の思考回路を放棄する程に。
(……………………ア゛?)
だからその言葉を聞いて思わず頭が真っ白になってしまったのただ。
「ユウト様、私が貴方を信じきれていなかったのは貴方のかつての仲間が奴隷に堕ちていたからなのです」
私は最後の最後にしくじってしまったのだった。
近日中に更新して行く予定です。
【登場人物紹介】
フレン・メッツェ
・フリード卿の率いる騎士団【紅蓮】所属の執務官。26歳。
・元々商家の生まれであり、フリード卿に臨時に雇われた後そのまま団員として勧誘され、その後団員として雇われることになる。
・執務官として優秀であり更には【鑑定】持ち。
・古株からは何かとやっかみを受けたりするが、同年代や若い団員からは人気があり、密かにファンクラブが結成される程。ついでに言えばそのファンクラブから古株の方が圧される始末。
・未だ未婚であるが本人はさっさと結婚して退官したいと願っている。が、そのファンクラブのメンバー同士が牽制し合っている為、その日は未だ遠そうである。




