第九話 街道街奴隷のお嬢様(?)
【前回のあらすじ】
ロイヤルな破滅フラグが立ちました(未遂)
「旦那様、レベッカ様から黄種連絡便が届きました」
「ほう、早速ですか?」
執事から手渡された手紙の蝋封を開け、中身を確認する。フリード卿はニヤリと口の端を吊り上げると封書にレベッカからの手紙を仕舞い、更に命令書を書きレベッカの手紙を導入した手紙を執事へ手渡す。
「早速役に立ってくれた様で何よりですな」
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私がおじ様の元に送る連絡書にはそれぞれ報告用、緊急用、火急用と別れている。それぞれ内容に合わせ緑色、黄色、赤色で蝋封して送る事になっている。これは万が一私が自分で処理出来ない事態に対しておじ様に相談ないし私の意見を打診するのが目的で現場の状況報告書として私に用意して頂いたものだ。
今回で有れば本来ならば緑色印である内容だが、王女殿下が関わっておいでの様なのでワンランク上の黄色印を使用しました。私の立場での勝手な判断ではこの事態に対処出来ないからね。なんかあった時おじ様達が『何も知りませんでした』は通じないからね。報連相は大事。
流石に勇者として王女殿下がお認めになったパーティをまだ真っ向から怪しいと言うわけにもいかないので、その部分は濁したけど。
『学園内でのトラブルが原因で王女殿下が倒られてしまいました。学園内外で不用意に王女殿下に近付こうとする輩が居るかも知れませんので警護の強化の必要性を愚考致します。
また現段階ではまだ調査段階ですが、最近学園都市近郊で奴隷商に貴族位の子息や令嬢、冒険者等が複数名にわたり、何の落ち度も無く奴隷落ちしておりました。調べられる範囲で調べました所、どうやら《魅了》にかかっていた模様。
関連性は不明ですが万が一の為、警邏には『魅了防止護符』等の物が有れば其方の装備、並びにクレリックの配備を推奨致します。』
文面はこんな感じ。
(問題はアレが誰によるものだったのか?と言うことよね)
あの場でもつい濁してしまったのだが、実を言うとあの時の
《魅了》は勇者ユウトによるものではなかった。ならば何故私はユウトを攻撃したのか?
答えは否。私はユウトを攻撃したのでは無い。
ユウトは咄嗟に私の攻撃に反応し、スキルで攻撃対象を強引に引き寄せたのだ。自分の仲間を守る為に。それが例え、自分の仲間の中に私に《魅了》を仕掛けた人間が居たのだったのだとしても。
「お嬢様、これから何方に?」
「そうね…一先ずレイ達の報告までは様子見かしらね。それまでは見回り強化ってとこかしら?」
「不躾ながら申し上げますが、お嬢様がそこまでする必要があるのでしょうか?余計に立場を悪くされてしまうのでは?」
「良いのよ。私の立場を多少悪くしようとも結果的に守りたいものが守れればそれでね」
幸か不幸か私には《魅了》に対しては抵抗力があった為、彼等に相対したとしても対応は出来るかも知れない。とは言え本当のことを言えば、余り目立つ行動は避けたい所だし関わるべきではなかった。しかし、今これを放置しておけば更なるとんでもない事になりかねない様な気がしてならなかった。リミットクエストの事もあったし。
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「まさかアンタら『ヤマザル』がお客様になるとはね」
「言動には気をつけろよー?俺はアンタを殺すだけで済むが、場合によっちゃ国家反逆罪が適応されるぞー?」
ナインはレイからの指示で学園都市から馬車で2日程離れた街道街ロードレンチに来ていた。ここは各地方への中継地点の様な場所で多くの物流が流れている。
彼らの目の前に居るのはここロードレンチで奴隷の転売を商いにしている男だ。この町では結構な顔役の筈なのだが目の前に居る彼らに萎縮してしまっている。
大きな樽をテーブルに足を放り出して金貨を弾きながらふんぞりかえるナイン。そしてその背後には『影』のメンバーが武器をチラつかせ威嚇しながら控えていた。
「わ、わかってるよ。ほんの冗談じゃねぇか。勘弁してくれ、アンタらのそれも『薬師』相手に喧嘩なんて売らねえよ!おっかねぇ!ほら、アンタが欲しがってるブツだ!」
バサリと乱暴に渡された紙束には奴隷売買が行われたリストが書かれていた。既にこれまで奴隷落ちした者はほぼ全てが取引が完了しており、ここから買い戻すとなるとかなりの手間だった。更に言うと買い取り先の名簿にある名はレベッカが関われば足元を見られてしまう様な相手ばかりで渡された金でどうにかなるレベルでは無かった。
「俺らも毎度こんなのばっかりだと商売あがったりだ、まったく。最初は亜人とか売れそうな奴らだったのによ」
「最初?」
「ああ、近頃は元貴族令嬢やら元冒険者やら元正規団員やらと扱いに困る奴らばかりでな。つい先日も何処ぞの貴族令嬢が売りに出されたばかりだ」
「今そいつは何処に?」
「ドリムタールへ出荷の予定だ。あんな面倒なのはウチじゃ捌ききれねえからな。にしてもおかしいんだよなぁ」
「おかしい……とは?」
ナインの隣にちょこんと座るフォウが割って入る。
「あ、ああ、その売られた令嬢ってのがな。自分はティルト・アンダーソンだって言い張るんだよ。途中までは不気味なくらい大人しかったんだが、出荷準備中に急に人が変わっちまったみてえに突然取り乱してよ。支援しているパーティの視察に来たのになんで自分が奴隷にならなければならないんだーって急に騒ぎ出してな」
ったくアンダーなんちゃらが何だってんだと愚痴る店主を横目にフォウはその奴隷の資料を興味深そうに読み込んでいた。ナインはその様子を見て店主に持ちかける。
「なぁ?その奴隷見せてくれねぇか?気に入ったら此方も即金で出荷額の倍出すからよ」
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「毎度ありー」
「ったく、結構ボリやがって」
無事取り引きが成立し令嬢を引き取ることになったナインだが、その額は何だかんだと足元を見られて結局出荷額の2.3倍の価格にまで跳ね上がってしまった。しかし、フォウが威嚇のために獲物を投擲しだした時は肝が冷えた。それを踏まえたらアレで良く済んだものである。
「ふう、全く散々な目にあったわ」
「おーおー、救ってもらって置いてよく言うなー」
買い取った女奴隷はまるで自分の立場が不服と言った具合で悪態をつく。
「それに継いては感謝する。私は『ヤマザル』と呼ぶ気はないが其方をどう呼べば良い?」
「俺はかまわねぇけどあんまりそう言う事ウチの団員に言うなよー?首から上がカッ飛ぶぞー?」
「私達を狂犬みたいに言うのはやめて。ナインも大概だから。むしろ怒ったナインの方が怖いから。我々の事は『影』と。私はこのパーティの斥候を務めさせて頂いておりますフォウ、此方がリーダーのナインです」
「ああ、分かった。それで君らの主人はどちらに?至急上に報告せねばならん事が出来たのでね。礼金等の取り決めの話もしなければならないのよ」
そんな話が飛び出てナインは驚いて吸おうとした煙草を落としてしまう。
「ちょっと待った!礼金!?そんな金があんなら何で奴隷になんてなったんだ!?」
「ああ、そう言えば自己紹介が遅れたな。私の名はソニア・レヴァンス・アルマー。今回は勇者の監視監督が目的で此方に出向いて来たのだ」
「は?」
「時間が惜しい。すまないが話は移動の最中にさせてもらう。行くぞ」
「おいおい、あのレヴァンスだと?またとんでもなく厄介な案件に首突っ込んだんじゃねぇの、コレ?」
妙なデジャヴを感じながらソニアとその警護をしながら進む同僚を追うナインだった。
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一方その頃、学園都市東地区イストにある冒険者ギルドにて。レベッカとの一件の後ギルドが経営するBARパークレートの一角に彼らは居た。
「はぁ…、散々な結果になっちゃったわね」
「ふん!あんなのが聖女だなんてホントどうかしてるわ!」
「仕方ないさ。───、それで俺たちはこれからどうするんだ?」
「そうですね……」
興奮するティルトを宥めつつ今後の方針を決めるユウトは、とある少女に声をかける。
「一度王女様にご挨拶してから次の町に出立しましょう。折角、わたくし達を勇者パーティとして認めてくださった方ですし、それくらいはしていかなくては恩義に背く事になってしまいます」
仲間がその提案に賛成しお気楽ムードの中、ローブに隠れていて見えないがその口元は怪しく吊り上がっていた。
また間が空いてしまってごめんなさい。導入部分の話の修正やら話の必要な流れを書いてたら予期してなかった登場人物が増える増える;
《街紹介》
・街道街ロードレンチ
元々街道沿いにテントを張って休息を取っていた商人一団がその次に通りかかって来た商人一団とその場で取り引きを行い始めたのがきっかけで生まれたテント街。その規模は徐々に大きくなり二つの商団からまた一つまた一つと加わって行き、村の規模から小さな街程の規模にまで発展した。現在では王都や学園都市から各地への中継地点になっており、多くの旅人や商団等が行き交っている。
名前の由来はroad&wrench(道と工具)から。




