第八話 ロイヤル◯◯フラグ
【前回のあらすじ】
勇者、ブン殴りました。
「それで、何があった?」
勇者様御一行が立ち去った後、生徒会室に呼び出された私達はカイル殿下に尋問を受けていた。
「あのユウト君でしたっけ?私に対して多分《魅了》を使ってきたんだと思います」
「ふむ、そうか」
おや?全く驚いた様子がないなこのクソ殿下?何か心当たりがあるのか、カイル殿下は相関図のような物を書いた後それを見直す。
「まぁ、本人の意思かどうかは不明とだけ付け加えておきます。無意識で魅了してた可能性も否定出来ませんし」
「何故そう思う?」
「それこそ分かりませんよ。ただ、何となくとしか。単に悪意がなかったか、本人が本気でそう思い込んでいるかのどちらか。それならば無意識でしたとしても否定は出来ませんし」
多分、と言うのはあの取巻きの反応を見た感想だ。何か私はあの連中に心底嫌悪感湧いたけど。悪い人では無いのだろう、きっと。でも本音を言えば彼をそこまで疑いたくなかった。
『元同郷である日本人を疑いたくない』と言う、そんな仲間意識にも似た感情が芽生えていた事も私自身否定する事が出来なかった。
「そう言えば国認指定ってどなたがどう言う経緯でなさってる事なんです?」
「それに関してはあまり公にする事はしたくは無んだがな」
「このまま放置してもっととんでもない事態になっても知りませんよ?」
このやろう。そうなったらそうなったで面白そうだみたいな顔してやがる。国の王太子がする顔じゃない。
「今回の査定者は姉上だ。本来ならば我等からの推薦の後、国王・女王両陛下の認可の元に国認指定となるが、恐らくはそれを通してはいないだろうな」
「なんでまたそんなのが簡単に通るんです?」
「元々あの者は勇者教からの認定者だ。出生が平民だろうと奴隷だろうと連中が勇者と認定すればそれは勇者として認められるんだそうだ。全く、厄介な奴を送り込んでくれたものだ」
その顔は全くと言って良いほどそうは見えませんが?面白そうな玩具を見つけたクソガ…ンッンお子様な様だ。
未だ魔王が存在するこの世界では、勇者教は国に拘らず権力を持つ。恐ろしいのが、勇者教は国を持たない宗教権力である事。にも関わらず、その権力は国家レベルに相当すると言うのだから非常にタチが悪い。
今回は、そこからの認可者が一国の王女に接触し、尚且つ相手が勇者教認定者だった為、暗黙の了解で国認指定の認可が下りようとしたのだ。
そこに何かあると殿下は勘繰った結果、聖女候補に挙がっていた私に話を持って来たわけだ。大方の予想通り、件の勇者君は私にやらかして来た為に脊髄反射でぶん殴ってやったけど。
「そう言えばあんな事してしまいましたけど王女様は大丈夫なんですか?今頃私を極刑にしろとか言い出してくるかもと怖いんですけど?」
「ああ、それだったら大丈夫だろう。先程の騒ぎで糸が切れたように倒れたのが、王女殿下で俺の姉上アリシア・アインシア・アルテナ・フォルデーだ」
「極刑回避不可じゃないですか!?」
「だから俺も事情聴取を行ってたんだろうに」
ちくしょう。こんな予測不可な死亡フラグどうしろって回避しろって言うのよォォ!?
☆☆☆☆☆
「あっ……お姉様」
「っ……レベッカ」
丁度、生徒会室から出てくる所に出会してしまう。思わず溜息を吐いていた所を見られてしまった様で何事も無かったかの様にお互いに妙に取り繕ってしまう。
「疲れてはいないか、レベッカ?」
「あはは…、皇族の方が凄いと感嘆させられるばかりです。私では大して御力にもなれませんよ」
良かった。いつものお優しいお姉様だ。しかし不思議と元気がなさそうに見える。あのクソ殿下、この上でお姉様を傷つける様な真似しくさったら覚えとけよ…。
「ど、どうした!?」
「ハッ!?いえ!何でもありませんわ!」
いけないいけない。顔に出てたらしい。気をつけなきゃ。
「───それでですね」
「───そうなのか───」
何気ない会話をしながらお姉様と寮棟へと続く廊下を歩く。あぁ、ずっとこのままの時間が続けば良いのに。あっという間に私の部屋のある寮棟へとたどり着いてしまう。
「それでは名残惜しいですが失礼しますね、お姉様」
「ああ、また。もういくら言ってもお前は聞かんのだろうが、せめて人前でお姉様呼び早めてくれ。私が恥ずかしい」
「あはは、すみません。ところでお姉様」
「ん?」
「私はお姉様に絶対の忠義を持ってお慕いしております。あ、勿論義妹としてですよ?ですのでもし、お姉様を害する輩がいたら私がぶん殴ってでもお姉様を御救い致します」
「ああ。………いや待て、それもどうなんだ?」
「ダメです?」
「まぁ、気持ちは受け取っておく。親愛としてならまぁそう言うのがあると言うのもまぁうん、なんとなく理解はぁ〜、うん。まぁ仲のいい後輩位には」
よし、一歩前進出来たかな?
☆☆☆☆☆
握手を交わしお姉様と別れ、自室に入るとベッドにダイブ。
ひゃっほう公的事業なんてまっぴらごめんじゃーい!何が楽しくてあんな面倒事に巻き込まれなきゃいけないのよ?え?アンタ貴族令嬢だろうって?
ハッ!ウチはもうほぼ取り潰し状態な上に後見者のフリード卿がいてくれてるからね!実質、自由!自由なんだァァァ!!
「はしたないですよ、お嬢様」
「自室くらい良いじゃない」
「くつろいでっとこ悪りぃんだが、お嬢。報告書持って来たぜー」
「くっそう、ホント仕事早いわねアンタ」
「お仕事なんでね。フリード卿のオッサンに目をつけられると厄介なんでこっちも手を抜けられねぇんだわ」
現実逃避から引き戻されてしまった私はレイから手渡された報告書を読み漁る。本当はこう言う時PDFとかに纏めてくれると助かるんだけど、当然この世界には無いし、無いもの強請っても仕方ないか。
内容は、先程の自称勇者君とその取り巻き一同の出自から現在までの概要と、これまでの功績。そして彼等と勇者教との関係性についてである。
「あーやっぱり、異世界からの召喚者かぁ〜!」
「何か面倒事か?」
「面倒も面倒。それも特級レベルでの面倒事よ」
この国は聖女教と勇者教の二つの宗教が共に混在して居る国である。一応は我が国アルテナは聖女教が主な国教ではある。が、勇者教も容認している国である。我が国に限らず、諸外国の大体がそんな感じだろう。
と言うのもこの二つの宗教は元々が同じ志の元活動していたことに起因する。もう千年以上も昔の事なので文献もほぼ残って無いが、全ては原初の魔王を討伐する為に集められたパーティが後に勇者を筆頭に賢者、聖女、聖戦士だのと崇められ始めた。後に彼等全てが勇者のパーティであり一纏めにされ、この地に勇者教と言う勇者パーティを崇め、支援する宗教が生まれたのだそうな。
ならば何でそんな宗教が何で『容認』と言う扱いなのかと言うといくつか理由が存在する。
現在でもさまざまな憶測が飛び交っているが、そもそも勇者教の発足が平民によるものであった事が最大の理由であると思われる。元々、初代勇者とそのパーティメンバーの殆どが平民の出だった事もあり、勇者教は彼等の両親や育ての親等が教祖となったらしい。
対して、聖女教の発足は初代聖女とされる当時の王朝の王女の偉業を崇め、その信奉者によって設立されたとされている。だが、実際には貴族側が勇者教に対抗すべく生み出されたのが聖女教であると言うのが近年の見解である。
そんな訳で二つの宗教は勢力図としては上級貴族に行くほど聖女教、平民に近づくほど勇者教と言う二分する傾向になってしまった。
当然の様にお互いの元々の格差から犬猿の仲(と言うよりどちらが主導権を握るかで喧嘩腰)になってしまったのだ。
ならば何故アルテナは勇者教を認可しているかと言えば簡単に言えば防衛問題である。
勇者の名は伊達では無い。一人居れば上位騎士一個隊に相当するとさえ言われており各国こぞって欲する戦力でもあるのだ。そのそしてその管理は勇者教であり、国境なき権力者である。
更に勇者教を増長させる理由がもう一つある。それが勇者召喚である。詳しいことはよく分からないけれど異世界から召喚された勇者はこの世界に身体ステータスを帳尻合わせをするかの様に所謂チート能力を付加されてやってくるそうな。
当然ながら各国は毅然とした態度で彼等に対応をしようともした。勇者教は、その立場を傘に着て余りにも自由にそして横柄になり過ぎた。それはそれまで勇者を支援して来た国が離れて行くほどに。だがそれでも、勇者教はその在り方を変えることはなかった。
例え相手がどんな国相手だろうが貴族相手だろうが勇者教の傘下であれば勇者によって救助活動が行われる。逆を言えば傘下で無いのならばどんなに荒れ果てようが魔物に襲われようが放置されるのだ。
放置されるだけならまだ良い。中にはそんな異常戦力が国を相手に侵略行為までしてくるのだ。
その為仕方なく国も聖女教も勇者教を渋々ながらも容認せざるを得なかったのだった。
(ホント世の中腐ってるわね)
当然ながら各国や聖女教も勇者召喚を行おうともした筈だ。しかし、その結果は著しくなかった様だ。正しい召喚方法は勇者教上層部しか知らない様で、素人ではまともな形での召喚は叶わなかった。結果的にどうあがいても勇者教を容認せねばならなかったのだ。
多少の些事に目を瞑る様な事になったとしても。
さて話を先程の勇者ユウト達に戻すと、特級レベルで面倒事と言うのは勇者ユウトが異世界から召喚されたとされる勇者だからである。
私に突っかかってきた男爵令嬢の名はティルト・アンダーソン。ユウトのチート能力で拐かされて来たと思われるが、事実上辺境男爵なんて平民と大して変わらない為、実際のところ勇者に同行して個人的地位を上げようとしていたとしても不思議ではなかった。
だからこそ彼女の有り様は危険とも思えた。ユウトに見限られて捨てられてしまえば彼女に帰る場所は恐らく無いだろう。その証拠にユウトの周りは、まるでハーレムパーティでも作ってるかの様なメンバーだったのだ。しかし資料を見ると彼女に限らず他の二人も平民だったり、これまでのメンバーも地方貴族の令嬢だったりと勇者教にとっても都合のいい人間だった様だ。
レイに勇者達とのやりとりを説明すると、殺意を露わにしながら私に頭を下げる。
「茶化して悪かった。なんならあの勇者共皆殺しにしてくるが?」
「止めなさい、そんな面倒な事。私、勇者教に喧嘩売る気は無いわよ?」
「殴り飛ばしておいて良くおっしゃいますね、お嬢様」
「先に手を出そうとして来たのは向こうよ?そんな事よりレイ。アンタにやってもらいたい事があるんだけどお願いして良い?」
「勇者暗殺以外に何すりゃ良いんだ?」
「だからやめなさいって。レイ、なる早で奴隷商に勇者ユウトが昨今奴隷売買を行ったか確認取ってちょうだい。過去売られた人間が居たらその売った先の確認と買い戻しも。手遅れ以外は私の名前を出しても良いし、何ならおじ様の名を出してしまっても良いわ」
私はマグノリア家の家紋の入った命令書と金の入った袋をレイに手渡す。
「おいおいおい、お嬢はともかくオッサンの名は勝手に使っちゃ不味いんじゃねぇのか?」
「大丈夫よ、事が事だし。それに聖女教に関わる内容でもあるからね。それに、今のメンバーが初期メンバーって訳じゃ無いでしょ?てことは……」
指先にあるのは勇者ユウトの資料。
「この勇者様の元メンバーは今現在一体どうなってるのかしらね?」
「………なるほど。そう言う事か」
「お願いね、レイ」
はっきり言ってこの男、かなり危険だ。本人にその自覚があるのか無いのか全く分からないが、早急になんとかした方が良い。
私はドロシーに資料を渡し、暗記と処分を指示しながら彼女を伴って再び部屋を出る。
「下手すると国家レベルで手遅れになるからね」
毎度お待たせしてすみません、ねこなべです。
どうしても予定していたキャラとの繋がりが上手くいかず、時間がかかってしまいました。
【追記】一部編集ミスがあったので修正しました。




