第五話 面倒事はノシつけて押し付けるに限る
たいへんおそくなりました。
【前回のあらすじ】
リミットクエストが始まりました。
「はぁぁぁぁぁ………、ここまで来れば追ってこないわよね?」
あれから二週間余り経った。リミットクエストに進展はあったのかなかったのかと言うと全く進展は無かった。と言うのも、大きな理由は二つ程。
まず一つは私以外にこのメニューコマンド自体が認識できる物では無かった事だ。試しにレイ達に私の指先にあるメニューコマンドを発生させて見たものの返ってきた反応は「何も見えない」だった。
「お嬢、そこに何かあんのか?」
「あー、うん。聖女の試練の様なもん?やっぱり見えなかったかー」
「は?」
「つまり私一人でこなせって言うクエストよ。見えなくて当たり前なの」
「大変だねぇ、聖女サマってのも」
「聖女候補よ。はぁ……ズルはダメだって事ね」
ポーカーフェイス取っておいてホント良かった……。現状ワイヤーの上を命綱無しで綱渡してる様な気分だ。下手なしくじりで自分の自重でそのワイヤーで真っ二つにされる様なそんな感じ。
そしてもう一つの理由は現在進行形で起きている、異常なしつこさで勧誘に来ている探索部の連中から逃げ回っている為である。
「居たか?」
「いいえ」
「まだ学園内にいらっしゃる筈!何としても探し出すのよ!」
あの決闘騒動から私の知名度は(私にとっては)非常に悪い方向で広がってしまっていた。各探索部には是が非でも私の入部を取り付ける為に連日に渡って追い回してくる始末でクエストに関わる情報を得るどころでは無かった。
そんな訳で現在私はこの意味不明なクエストを単身でクリアしなくてはならないのにも関わらず、クエストに関わる情報すら何も見えてこないと言う悪循環に陥って居た。
「ホントにスニーキングスキル取っといて正解だったわ」
人の気配が消えたのを確認すると《クローキング》を解除する。《クローキング》は《ハイディング》の様にその地点周辺に遮蔽物が無くても隠れる事が出来る上に遮蔽物そのものが無くても隠れて移動が出来る《ハイディング》の上位スキルである。習得方法も《ハイディング》をマスターすれば自動的に《クローキング》になると言うコスパの良さである。尤も、スキル発動中の全ての耐性が極端に下がるのに加えて遮蔽物以外の何かに接触するとスキルが強制解除するなんて言うデメリットもあるけどね。
「なんかますます聖女からかけ離れていくなぁ」
もうどっからどうみても暗殺者です。ありがとうございました。しかしいつまでもこんな風に逃げおおせるわけにもいかないなぁ。
何処かに避難できる所を探さないと……ん?
「ここは……図書室?」
静まり返った一室に入ると、そこには何段にも列なった本棚が並べられており、見たこともない本が幾つも整頓されて陳列されていた。
「アニムス・ダリア戦記……」
近くにあった本棚にある本を何気なく手に取りパラパラと数ページ読んでみる。本の内容は良くある勇者の物語だ。勇者アルスが勇者に選定され、魔王を討伐の為に旅に出ると言うお伽噺。少し読んでから元の位置に本を戻すと、また違った文字で書かれた本がふと目に入った。
「え!?」
私はその文字に見覚えがあった。その本を思わず手に取る。その本は「ももたろう」だった。あの日本のあの童話の。本来ならここには存在しないはずのあの本が何故ここに……?
見るとそれだけでは無かった。金太郎、かぐや姫、一寸法師、風羅生門等日本の童話や小説をはじめ、アリスと不思議な国、白雪姫、ジャックと豆の木と言った海外の童話やシャーロック・ホームズ、指輪物語と言った小説が並べられたエリアがあった。
「ねぇ、その本の文字。もしかして……貴女読めるのかしら?」
「!?」
人の気配なんてしなかった。いきなり背後を取られ、声を掛けられた形となった私は直ぐに行動に出られず、相手の出方を伺う。
「ねぇ?質問に答えてくれない?」
「いや、あの……こちらとしても不法侵入してる身ですして」
恐る恐る横目で振り返るとそこに居たのはワインレッドヘアーの美少女でした。
「はぁ。じゃあそっちから聴きましょうか?不法侵入の生徒が何の目的でこんな所にいるのよ?」
「いやぁ、ちょっと面倒な勧誘に追われてまして…」
思わず正座で彼女の尋問に返答してしまう私だった。
「勧誘って…ん?貴女もしかしてレベッカ・マグノリア?」
「え?あ、はい。そうですけど……」
「あー、こないだ闘技場で大暴れしてた新入生って貴女ね」
心外な。大暴れしてたのはあのイカくさいバカ貴族の方ですわ。
「不法侵入の事は良いわ。でもここには禁書の類いも保管されてるからあまり不用意に触れないようにね」
「ハイ……申し訳御座いませんでした」
「で?勧誘って何の勧誘なのよ?」
「探索部の方々からです。ダンジョン探索のメンバーとしてだそうで」
最初はまだ普通の勧誘だった。しかし、私も立場があるし勝手は出来ないと断っていたにも関わらず、それが1つのパーティから2つ3つと日を増すごとに増えていった。次第に私の意見や都合など無視して行き、どこでどう話が捻じ曲がったのか私を捕らえたパーティに私がメンバー入りすると言うデマが出回る程、もはや収束がつかない事態になっていた。
「ホントどうしてこうなった…?」
「なるほど。それじゃあ出てってくれる?」
「そんな!?今の話を聞いてそんな塩対応!?」
私またあんな逃げ回る日々を送る羽目に!?ってリミットクエストも忘れてたわ!
「はぁ〜、仕方ない。その様子じゃ何が何でも居座りそうだし、居座られたら居座られたで探索部の連中が此処で暴れそうだしね。……押し付けるか(ボソッ)」
………今押し付けるって言いました?そう言いつつその目は面白いものを見つけた様な目をしていた。彼女は図書館の中央スペースまで移動すると魔力を床に込め術式を起動する。
「え!?これってゲート魔法!?」
「あー、そう言えばコレ準禁呪扱いされてるんだっけ。でも仕方ないでしょ。今ここから外に出たらまた大騒ぎになるだろうし、そんな事になったら此処に保管されてる禁書とかに下手に影響及ぼして大惨事になりかねないわ」
この世界には、ある理由から禁呪扱いになっている魔法が数多く存在すると、この世界に転生した後に習った。その中の一つがこのゲート魔法。規模にもよるが、この魔法は使い方次第で簡単に国落としも出来てしまうなどの理由で使用者が限定されているのだとか。尤も、ゲート魔法はそこまで使い勝手が良い物と言う訳ではなく、発動には凄まじい魔力を浪費するそうで、宮廷魔道士クラスがざっと100人居て10分待つか持たないかレベルと言う魔力消費量だと言う。
「この事は秘密ね?もし言いふらすような真似をしたら……分かってるわね?」
属性すら判別不能な魔法を指先に出現させながら彼女の素敵な笑しみに私は必死に首を縦に振ることしか出来なかった。
まったくどこのどいつだ、異世界転生したらチートキャラになれるだなんて言ったやつ?少なくとも私はチートなんてなったことすら無いし、よっぽど私以外の奴らの方がチートだわ。
「それじゃ、さっさと行くわよ」
「えっと、どちらに?」
「私達の問題を全て解決してくれる場所へよ」
そう言うと私の手を取りゲートに引き込んで行く。
「うわわ!?うひゃああああっ!?」
ゲートの中に放り込まれると、そこはまるで宇宙の様な空間に出た。当然の様にその空間は重量の概念など無く、ふわふわと漂うばかりだ。
「流れに身を任せなさい。私が連れてくから」
「は、はい!」
まるで風船にでもなったかの様に身を任せ周囲を見渡すと、魔力光が星空の様に幻想的に輝いていた。
「きれい……」
「ふふふ。貴女、見込みあるわぁ」
「え?」
空中浮遊を楽しむ様に飛び回りながら出口へと近づいていく。
「そうそう、自己紹介が忘れてたわ。私はエレイシア・クロム。図書館で司書官をしてる生徒よ。親しい人からはエリーって呼ばれてるわ」
ゲート魔法内部の魔力光に照らされながら悪戯っぽく笑う彼女はとても魅力的に見えたのだった。
構成に修正する部分が多数出てきてしまい随分と遅くなってしまいました。纏まった筈なのに修正したらさらに構成に修正しなければならず、エンドレス修正。本当に申し訳御座いませんでした。




