第二話 地雷処理は情報と心構えが大事
「そうか……やはりあんな事があったばかりに……」
「すみません。お父様……」
「良いんだ、レベッカ。お前が目を覚ましただけで私はそれだけで充分だ」
あれから少しばかり大事になった。と、言うのも話を聞くに事の発端は私、と言うか私達姉妹の魔法の講義中に起きた事故によるものだったと言う。それからと言うものの約五日程意識を失い一時は心停止の状況にまでなりかけたと言うのだ。
私はそれを利用して、生まれてから目が覚めるまでの13年間の記憶がすっぽり抜け落ちてしまったという事にし、何となく両親の方が分かるという事と、それ以外が理解出来ていない事にした。
事故処理の事だが原因は不明だが講師は解雇処分との事だった。
お父様は言わなかったけれど恐らく処刑されているだろう。辺境とは言え、これでも貴族の家系である。暗殺を企てての事となれば処刑で済むのならまだ安い方と見るだろう。
何せ本当に今回の件は暗殺絡みなのだから。
転生前の話になるのだが、私がやっていたフロンティア・ハーツのバックグラウンドで明かされた話で、レベッカは幼少期から『癒しの聖女』としての才覚を徐々に発現させていた。
それ故に、後に聖王国アルテナの守護者に与えられるとされる十の武装、『十輝聖』に選出されるのを妨害する為、度々命を狙われる事になるのである。
つまり……
「この体に転生した時点で既に死亡フラグの地雷原に踏み込んでるんだよなぁ………」
『癒しの聖女』のスペックについては後々説明するとして、まず毒の類はまず何とか自分でどうにか出来る。今の年齢は13歳。つまりは既に聖女としての選定は受けている事になる。ただ、『癒しの聖女』と言う存在自体が希少過ぎるのと過去存在したのが約500年以上昔の話との事。
まぁ、今の私が『癒しの聖女』と言った所で誰も信じる訳が無い。と言うか『癒しの聖女』のスペックを知る私はそれを踏まえて、あえてステータスを調整して『癒しの聖女』を隠蔽する事すら可能である。
問題なのは鑑定スキル持ちの存在だ。すぐにでも鑑定スキルを使われた場合にはバレてしまうだろうけど、それにさえ気を付けながら対策が間に合えさえすれば私が『癒しの聖女』である事もバレる心配も金輪際なくなる訳だ。
「となると、最速で対策が必要かなぁ?」
「ん?どうしたんだい?レベッカ」
「いえ、何でもありませんわ。お父様」
と言うか、それまで隠蔽スキル持ちに守ってもらうしか無いんだよねー。今のところ。
それよりも会ってみたかった。
私の『姉』。シルフィール・マグノリア。本来ならまだ甘えたかったはずの一つ上のお姉ちゃん。もし、『癒しの聖女』のスキルを上げ切り、行使すれば会えるのだろうか?
ただ、私はあのスキルを習得する気はない。
人が《私は死を拒絶するモノ》を使うなど傲慢にも程がある。あんなスキル私は私の倫理観で使いたくないと考えるのだ。
人は一生が決まってるから懸命に生きるのだから。
たとえ、それが理不尽な目に遭って落とす事になってしまった命だったとしても。
一方その頃
「やはり失敗したか」
「出来れば二人共始末したかったのですが……」
「まさかとは思いますが、マグノリアの次女が『癒しの聖女』だとでも?」
「それこそまさかだろう。それより長女の方が聖女であった事は間違いないのだろうな?」
「それがどうも分からないのです。箝口令を敷いていたのか王家にも聖女の存在は報告は上がったというのは掴みましたが、それがどちらの事なのかも」
「馬鹿な!無能にも程があるだろう!」
「まぁ、そこは秘匿院の情報ですからね。聖女である事は間違いないからどっちにしても殺しておけって事でしょ。ダーニック家の御当主様はさ」
「クソッ!こっちは高い金を払って貴様らを雇ってるんだぞ!?」
「ダンナも大変だねー。オレらは金さえ貰えればちゃんとお仕事はするさぁ」
「きさっ!」
影は男の口に人差し指を押し付けながら自らの口元にも反対の人差し指を口元に立てて嘲笑う。
「値切った結果だろー?これでも結構サービスしてやったんだ。令嬢二人共事故に見せかけて一人は死亡、もう一人は恐らく後遺症が残る程の重症。それなのにウチは一人駒を失ってんだわ。ワカル?アンタらがオレらの提示額と指定した情報と武器を寄越してくれれば完璧にヤレた仕事なのよ」
夜闇の雑木林をより漆黒に染め上げてるのは人人人人人。
騒めく葉が風に揺れるようにゲラゲラと笑い声が重なる。
「………次こそは、やってくれるのだろうな?」
追加の料理の入った麻袋を影の手に向けると、影はニィッと口元を釣り上げながらそれを受け取る。
「成功するかどうかは時の運っすよー。ま、アレですな。
ご利用ありゃーっす」
「あざーっす!」「ぎゃっははは!」「まいどー!」
「いよっ!タイショー!」「太っ腹ー!」「アハハハハハ」
ガラガラと笑い声が薄れて行くとさっきまであれだけ漆黒が支配していた雑木林はまるで骨の残骸の様な影が刺すくらいしか無い程の木々が残っていただけで先程まで見えなかった月が辺りを照らしていた。
「クソ………ッ。ヤマザルめ……」
忌々しいと言わんばかりに男は踵を返すとその場を後にした。
この世界におけるステータスやスキルなどに関してはこの章が終了後、説明回を書く予定です。
こういう考えるの楽しいw