閑話 暗躍する人々
前回のあらすじ
レベッカ(黒)
「ファロス殿!ファロス殿!ファロス殿は居られるか!?」
フリード邸にやって来た突然の来客に、邸内は騒然となる。運悪く、その来賓に鉢合わせになってしまったメイドは内心涙目になりながら対応する事しかできなかった。
「ご主人様は視察に出ておられます。申し訳ありませんが、日を改めて頂く訳には参りませんでしょうか」
「何だと貴様ァ!?このワシを誰だと思っておる!?たかがメイド風情が出しゃばるでないわ!」
あいにく本当に視察に出てしまって居るファロス伯は何処のお偉いさんがどう怒鳴り散らしても出てくることは物理的に不可能である。
だが、そんな事など彼からしてみればお構いなしだった。
「一体何事ですかな?」
「おお、ファロス殿!一体どちらに!?」
丁度その現場に遭遇する形でファロスが帰宅するとメイドは首を垂れて、その場を後にする。
「申し訳ありませんグラハム司祭殿。早急に陛下に御報告する事と聖女様に謁見する用事と視察に出なければならないことが重なりましてな」
「せっ、聖女様に…!?さ、左様でしたか……(この男……一体、聖女様に何を?)」
ファロス・フリードはその立場上様々な人脈を持つ。特に、他の貴族達からもやっかみを受ける原因を作っているのが各勢力のトップとの付き合いだ。
その中でも聖女教の象徴である聖女を務め、聖皇国のVIPであるのと同時に十輝星の内の一人である『癒しの聖女』アグリアスはファロスにとっても気の許せる友人であるという。
「残念ながら聖女様には会えず仕舞いでしたがね。教皇様にはお会いすることはできたのですが、些事をお伝えするのも何でしたし、司祭殿が来てくださって丁度良かった」
「きょっ、教皇様に!?」
「まぁまぁ、王都で良い茶葉を手に入れましてな。さぁ、どうぞどうぞ」
「う、うむ……」
☆☆☆☆☆
客室へと案内されたグラハムは落ち着かない様子でメイドに淹れられた紅茶に口をつける。
「どうです?中々良い茶葉でしょう?セレクセル商会の新商品との事でしてマーガレット夫人からお勧めされましてな。いやぁ、良い買い物をしました。はっはっは」
「そ、それで、丁度良かったとは一体?」
「ああ、その事ですか。ええ、そうですね。司祭殿もお忙しいお方ですからなぁ。マルド、例の物を此方へ」
「はい、旦那様」
マルドと呼ばれた執事は一礼するとファロスから鍵を受け取り、厳重に施錠されたケースから一つの包みを取り出す。包みから出されたモノにグラハムは目を見開きながら後ずさる。
「なっ!?こ、これは!?」
「ええ、先日の騒動の主犯格とされるモノの腕だそうですよ。まぁ、相対した者からは『彼女は無実』だそうですが」
「!?…………っ」
それは、レベッカから預かっていた『ナタリーの腕』だった。
「まぁモノがモノな訳でして私としては聖女様に浄化してもらおうと思いましてね。ですが、あいにくアグリアス様はお忙しいお方ですからなぁ」
「そ、そうですな……ハ、ハハ(この男、一体どこまで掴んでいる!?)」
ファロスがアグリアスを指名した事にグラハムは生きた心地がしなかった。
(確かにハイキブツのコアを渡しはした。だが、それは全て聖女様の為。ひいては聖女教の為ではないか。今、新たに聖女を迎えるという事は、アグリアス様の地位を揺らがせる要因にもなってしまう。だからこそ始末をつけるべきだったのだ)
「司祭殿?」
「あ、ああ!は、ハハ。それでなんの話でしたかな?」
「新たな聖女様の経験にもなるでしょうし、レベッカ嬢に浄化をお願いしようかと思いましてな。如何ですか?」
「え?な、今なんと!?」
「ええ、ですからレベッカ嬢にお願いしようかと……」
「い、生きておられたのですか!?」
「ええ、彼女は今回の功労者でしてね。彼女が首謀者を討伐したのですよ」
生きていた事に喜び驚いていたのではない。生き残ってしまっていた事に驚愕していたのだった。
(マズイマズイマズイ!生き残っていただと!?何故生きている!?あの男は必ず殺せると抜かしておったではないか!おのれぇ!)
「ですが、『不浄なるもの』の浄化は我々の仕事なのです」
「だからこそ、でしょう?彼女が十輝星に選定されれば聖女教にも関わる事もありましょう」
「そ、そう……ですな……ええ、わかりました。お任せしいたます」
こうして、『ナタリーの腕』はファロスの元で処理されるという運びになったのだった。
☆☆☆☆☆
「良いのか?アレ放っといてよ」
グラハムを見送ったファロスにそれを暇そうに眺めていたレイが近づく。
「構いません。司祭殿が黒幕というわけではないでしょうしね。不用意に噛み付けば要らぬ毒を飲み込まねばならなくなります。それは面倒だ」
「よく言うぜ。アンタその面倒事を自分の楽しみのためだけに喜んでやるタチだろうが」
「はっはっは、まさか。後はまぁ教皇様にお任せしましょう」
「は?教皇様って?」
「言ったでしょう?あの場にスニーキングしながら聞いていた筈でしょう?教皇様には会えたと」
「こっわ……。何でわかったんだよ?」
「ふっふっふ」
不気味に笑うだけだった。
「ったく、俺らやお嬢の事もあんな簡単に受け入れるとかどう言う神経してんだか知らんが、相変わらず何考えてるか分からん旦那だな、アンタ」
ファロスが王都に行った用事とはレベッカの後見人になる事の了承を取り付ける為だった。新たな聖女の誕生に我も我もと取り合いになる前に先手を打ち、さらにその付き人としてレイ達を取り込んだのだった。
「大体何でアンタんとこで奉公せにゃならんのかね?」
「あなたをヤマザルに仕立て上げたのはあなたを手の内に入れなければならない理由があったからですよ」
その言葉にピクリとレイが反応する。
「テメェ……」
「まぁ、そのあたりは先に目をつけたレベッカ嬢に流石と賞賛しなければならない所ですが」
「………」
「まぁ良いでしょう。お陰で、レベッカ嬢とあなたを手の内に引き込めた」
「何が狙いだ?」
「そうですねぇ……ならば情報を二つ開示するとしましょうか」
手渡された手紙の封を開けるとレイは目を見開きファロスを睨みつける。
「私はあなたと事を構えるつもりはありません。私にとって、聖女教はそう言う存在であるというだけの事。ですので、レベッカ嬢次第という事になりますな」
「テメェは何処まで……ッ!」
「あくまで私は国の騎士ですので。では」
ファロスはレイの肩を叩き屋敷へと戻って行く。握り締めた手紙を焚火で燃やしつくすと、レイは誰にも聞こえないような悪態を吐いて影のメンバーの元へと戻って行くのだった。
お久しぶりです。更新遅くなりごめんなさい。
次回から第二章開幕です。




