終話 依頼
前回のあらすじ
レベッカVSナタリー(決着)
…「何があったのか話して貰えませんかね?レベッカ嬢」
さすがにこの場で起きた事をそのまま話すわけには行かない。しかし、どうする?この状況はどう見ても私が一連の騒動に関わっていると言われても仕方がない。
そこでふと私の手元にあった『彼女の腕』と『依頼』について思い出す。これは賭けでしかないけれど、同時に彼女からの『依頼』も同時にこなせる。
「この惨状を生み出したのがレベッカ嬢。貴女なのではないか?と言う疑問があるのですよ。ここに来る途中ハイキブツの発生を確認しましてね?ああ、一応貴女は私が聖女として認証したお方ですし、そんな事は…」
初めてフリード卿に出会った時の様に私は破顔う。
「何のことでしょう?」
「ふむ?」
私は『彼女の腕』を取り出し、フリード卿に手渡す。
「フリード卿、少しお付き合いしていただきたく。これよりダーニック領へ行く用が有りますので、出来れば御同行お願いしたいのですが」
「ダーニック領?一体何故?それにこれは?」
「今回の本当の被害者の証拠、だそうです。それがあれば、本件の首謀者を追い詰めるのも容易かと」
「それで?その事とダーニック領に行く事と何の関連が?」
「関連なんて特にありませんが、そうですわね……」
私はニタリと口の端を吊り上げる。
「わたくしの友人からの『依頼』を受けまして。出来るだけ急ぎたいのです」
待っててね、◼️◼️さん。貴女の『依頼』を今から果たしに行くからね。
☆☆☆☆☆
翌朝、ドーラ洞窟を抜けてダーニック領に辿り着いた私達は、その足で首都ハルツェンへと進行する。
「お嬢、無事で何よりだ」
「そっちこそね。何かされなかった?」
「状況が状況だったんでな。組み伏せられはしたが全員手荒な真似はされなかったよ。まぁ、ドロシーの方は割と手酷くやられたみたいだけどな」
「すみませんね。ドロシー嬢は中々の使い手だった様で少し本気になってしまいました」
この人相手に本気出させるって相当だな、ドロシー。ほら、そんな隅っこでふてくされてないでよ。
「シ…ハイキブツはアレからどうなったの?」
「戦闘中に突然止まって、全部消滅しちまった。タイミング的にお嬢が奥地で戦ってたって言う本体らしき奴が死んだからだろうな」
「めちゃくちゃつよかったー!」
「めちゃくちゃはやかったー!」
マジか。本能で《追跡》使ってレイ達に近いステータスまで行ってたのかよ。どうやら戦闘センスはマッドイーターの方が上だった様だ。理性がある分、そこに踏ん切れなかったって事か。
「しかし、お嬢様。よくお一人で討伐されましたね?私達でも手を焼くほどだったのに」
「え、え?あ、あー。まーねー」
まぁ、彼女がレベッカに拘らなければ私じゃアレに勝てるわけがないわー。
「それで、何故ハルツェンに?」
「まぁ、行けば分かりますよ。まだ生きてるそうですから」
フリード卿の疑問に私はそう答えるのだった。
☆☆☆☆☆
ダーニック家本邸に辿り着くと、そこはもう酷いの一言だった。まだ成熟段階だった為だったのか、中途半端に喰われて放置されて腐敗が始まっている遺体がそこらかしこに転がっていた。中には未だ生きていた人も居たが、高ランクのヒーラーでも居ない限り恐らく助からない。
「これは酷い」
「お嬢、ヒール使えなかったっけ?」
「使えたところで大した治療にもならないわよ。それこそ『癒しの聖女』サマでもない限りね」
まぁ、私は天命の効果で使えはするけどMIDスキル上げてないから大した回復力は無いし、そもそも助ける気はない。私は自分の天命バレるのイヤだし、何より自分の身が一番かわいいので。
「反応があるのはあの部屋ね」
《索敵》に反応があった奥にある部屋に行き着き、ドアを開けるとそこには二人のヒトだったモノが転がっていた。二つとも両腕両足を捻じ切られ、顔面を頬から大きく噛みちぎられて放置されていた。ロッドリー・ダーニック、フランジア夫人。ナタリーの両親にして『依頼』のターゲットがそこに居た。
「あ、あああ!やっど!やっどだずげが!」
「だずげでぐだざきい!だずげで……!」
フリード卿が近づき、《治療》を使いながら傷の具合を診る。噛みちぎられた顔は会話が出来る程には徐々に回復したようだが、その程度で完治するレベルではない。私が見たところアレは肉ダルマが正常な状態として固定する呪いが掛かっているようだ。多分アレを解除すると、途端に即死してしまうかもしれない。
「残念ですが、私ではこれ以上のあなた方の治療は出来ませんな。レベッカ嬢、貴女の見立ては如何です?」
「私でも無理かと。せめて『癒しの聖女』様でもここにいらっしゃれば違うかもしれませんが」
私の言う『癒しの聖女』とは私のことではなく、当代の『癒しの聖女』の事だ。500年居ないはずだったのではだって?あー、うん。つまりはそう言う事ですよ。言うに言えない大人の事情。新たな『癒しの聖女』は生まれてない事にしなきゃいけないとかそう言う事です。
ま、とてもじゃないけど私に治す気があってもコレを治すのは今は難しいけどね。
「そ、そんな……」
「!?あ、貴女…レベッカ様ですよね!?マグノリア家の!」
おっおぅー♪どうやら私に気が付いた様だ。おい、余計な事言わないでよ?
「娘がいつも言っておりました!レベッカ様は『癒しの聖女』であると!どうかお願い致します!私共をどうか…」
「何のことでしょう?」
「へ?」
夫人の口を遮る様に私は口を挟む。
「確かに私は聖女の儀にて『聖女』として認められました。ですが、それだけなのです。私が『癒しの聖女』様?おこがましいにも程がありましょう?」
その相貌にはありありと絶望感が漂い始めていた。
「もし私が『癒しの聖女』様を名乗ろうものなら、今この場で処刑されてもおかしくありません。『癒しの聖女』様は教会にいらっしゃるのです。
当然ご存知ですよね、ダーニック夫人?」
ガチガチと震え出してしまった夫人から離れると、更に私は付け加えた。
「それに私が見たところがその欠損箇所には強力な呪いがかけられていて私にも対処は出来ません諦めるしかないですね」
頑張ればできるかもしれないけどね。残念な事に私が手を出すとそれはそれで面倒な事になる。
「さてと、慈善事業はこのくらいにしてそろそろ本題に入らせてもらいましょうか」
「は、本題?」
「ええ…」
私はダーニック夫妻を見下ろしながらテーブルに腰掛る。
「賠償責任の件についてお話しさせてもらいましょうか?」
殺意と悪意、そして憎悪を込めて醜悪だと思える笑顔で語りかける。
「ば、賠償!?な、何を言って…!?」
「わかりませんかぁ?私はもうこれはダーニック家の侵略戦争であったと認識しています」
「何を言っているの!?侵略戦争!?何を馬鹿な!?」
「私は知らん!む、娘だ!娘が勝手にやった事だ!第一、私達だって被害者なんだぞ!?」
「そんなもん知ったこっちゃないんですよ」
私はそう言うとソードメイスの柄でロッドリー伯の顔面を殴って昏倒させる。
「ぶごう!?」
「あなた!?おのれ小娘ェェェ!ひっ!?」
今度はソードメイスの切先を夫人に突き付けながら語り始める。
「立場わかってます?あなたがたが画策したかどうかなんて私には関係ないんですよ。私はあなた方の一族がやらかした責任をあなた方に支払って貰いたいと言ってるんです」
「そんな……!?余りにも……」
「それにたった今仰いましたよね?娘が勝手にやった事だ、と」
「え……あ……わたしは……わたしは……」
追い詰められた人間と言うのは脆いもんだね。冷静な判断が出来ていれば余計な事を言わなかった筈なのに。私の言いがかりに引っかかる事など無かっただろうにね。
「フリード卿、この場合どれくらいが相場になるんでしょうか?」
「そうですねぇ。おおよそ金額にして三千万ギールと言った程でしょうか?」
「そうですか。ではダーニック家に三億ギールを請求致します」
ちなみに1ギール10円位の相場になります。近所の果物屋でリンゴ一個が12ギールで売ってます。
「はあああああァァァァ!?さ、三億だと!?」
「当然でしょう?マグノリアだけではないのですよ、被害に遭ったのは。ドーラ鉱山洞に隣接する領地は全てが被害者です。それに……」
私はテーブルから降り、ソードメイスを振り下ろしてロッドリー伯に突きつける。
「マグノリアの民が犠牲になった。私の家の者達も犠牲になった。そして、私の父ヒューズ・マグノリアも犠牲となりました。ここまでされても何も賠償がないと言うのならば、何が彼等に対して慰みとなるのです?」
私の本気の殺意が夫妻に向けられるのだった。
☆☆☆☆☆
とりあえず今後の賠償問題はフリード卿に丸投げする事になった。あの人なら今回の事をきちんと精査してくれるだろうしね。感情的に振る舞ったのはその為である。
「ここがナタリーの自室か……」
私にはどうしても気になる事があった。あれだけレベッカになりたがっていたナタリーだ。当然スキルやら天命やら色々と研究だってしてそうなものである。
「お嬢、こんな所に何の用があるんだよ?」
「一応ね。気になるって程じゃないんだけど、なんか知っておくべきなんじゃないかなって」
ナタリー、いや◼️◼️さんの事。彼女は何故あそこまでレベッカである事に拘っていたのか?もし、私が同じ立場ならレベッカになる事よりもナタリーの人生を生き、自身のバッドエンドを回避する事を模索する。
自分自身を変えることが出来ないのだから、足掻くのならむしろそっちの方が効率的だ。わざわざ、誰かを殺して自分が殺した相手に成り変わる事の方がよっぽど効率が悪い。
「となると……レベッカである事が何か重要な……?」
「何を訳のわからん事をぶつくさと……」
「ふむ、入らないのですかな?」
「「どわぁ!?」」
思わずハモった。心臓に悪いなぁ、この人。
「ナタリー嬢の私室に何か用事でも?」
「ええ、まぁ。ちょっと気になる事がありまして。良かったらご一緒します?」
「是非」
さすが、フリード卿。ブレないなー。ガチャリ、とゆっくりとドアを開けると、そこは異質な空間が広がっていた。
「な、なに……これ………?」
「何かの文字?いや、数式?術式か?」
あ、分かったこれ。アレだ。ドャァ式だ!よく推理物のドラマで頭の良い教授キャラがエフェクト混じりにドャァするヤツ!『ふっ、たのしませてくれる!』とかってキメポーズしながらドヤるヤツ!うん、きっとそうだ!
「わからない事だらけですな?レベッカ嬢読めますかな?」
「読めませんし、わかる訳ないじゃないですか」
私、文学部出身ですよ?こんなどこぞのエリート物理学者みたいな計算式とかわかる訳ないじゃん。でも、なんかキメポーズとか決めてみる?謎は全て解決した!って。すでにこの部屋自体が謎ですが。
そんな馬鹿な事を考えながら部屋を眺めていた時だった。一冊のノートに目がいった。
「何これ?……ヒッ!?」
「どうした、お嬢!?」
「う、ううん!なんでも……ない……」
思わず落としたノートにはびっしりと『たりない』と日本語で書き殴られていた。
「なんでしょうな?何かの暗号?」
「よく分かんねーな?」
うん、暗号じゃないですそれ。
「とりあえずここを出ましょう。変な術式がかけられてるやもしれませんしな」
「お嬢、立てるか?」
「うん、大丈夫。ひとりで歩ける。うん……?…!」
変な術式だらけの部屋を後にした私達、だったがレイに支えられて部屋を後にしようとした際、一つの暗号が読めてしまった。
『真実を追求するなら記憶書を求めろ』と。
───ねえ、◼️◼️さん?
あなた、ここで一体何をしていたの?
何の為にレベッカになろうとしていたの?
これにて第一章が終了となります。途中更新が遅くなってしまって申し訳ありません。
次回章は閑話を挟み学園編にようやく突入します。長かった……。
「え?もしかして私の死亡フラグってまだあんの!?」
この先ずっとやで?
ではまた。
追記:一部若干の修正を加えました。




