第十五話 独りよがりのヒロイズム
前回のあらすじ
黒幕登場
「やれやれ、ちょっとした寄り道のつもりだったのですがねぇ」
ファロス伯率いる隊がマグノリア領に戻る少し前。クラール領北西部、位置的にはドーラ山脈から流れる河川敷、そこから流れ着いた『兵隊』を相手にフリード隊は足止めを受けていた。ドーラ鉱山洞を避ける形で迂回する為にクラール領にやってきたのだが
「これは失敗でしたね。この調子では恐らく……」
クラール領の領主の娘も聖女候補ではあったが残念ながら聖女では足り得なかった。しかし剣士としての才覚には恵まれていた為、数年後には学園でレベッカ達達と共に学んで行くことだっただろう。そうなればいずれ、国を守る英雄としての頭角も表す事もあっただろう。
「我々でも足止めを受けるレベルですからねぇ。残念です」
ファロス伯爵の予感は正しかった。クラール領の領主の娘、パリス・クラールはもう既にこの世に居ない。正確に言うならもう既に喰われた後だった。
比較的ドーラ鉱山に近いクラール邸のある首都パザーラは鍛治業が盛んだったのだがそれが災いした。対抗策を立てる間もなく首都は陥落、パリスもレベッカ同様籠城で持ち堪えようとしたが、足りない物が多すぎた。
レベッカの様な行動力、レベッカの所に居たドロシーやレイ達『影』の様な戦力、そして何より足りなさ過ぎたのは時間だった。もし彼女がレベッカの様にレベリングをする事が出来ていたら生き延びる術が身に付けられたかもしれない。もし自分の領地内でドーラ鉱山洞の異変が起きていた事が知る術があったならば逃げ延びることが出来たかもしれない。しかし、そんな時間も術も彼女には全く足りなかった。
そうして喰われて混ぜられて喰い喰われるだけの栄養源と成り下がったパリス・クラールはファロス伯爵によって存在も知られぬ事なく切り捨てられるのだった。
☆☆☆☆☆
「レベッカぁぁぁぁぁぁッ!!」
「っらっあっ!」
まるで鞭のような一撃がとんでくる。一撃一撃は重いけど耐えられるし、回避し切れる。
「っちぃ!」
「まだまだねぇ!アンタくらいの速さならまだトワの方が全然上ですわぁ!」
「おまえあああ!!!」
何を拘っているのかわからないけどアイツはあくまで人間としての動きにこだわった。そこが理解できないけど、お陰でどう言う攻撃が飛んでくるのか理解できる。伊達に『影』の皆と遊びと称した戦闘訓練をやり抜いてないですわぁ!え?戦績?惨敗ですが何か?
「っと、うわっ!?」
「死ねぇっ!」
盾で蹴りをガードの構えを残しながら後ろに飛び、その衝撃を受け流しながら回転しシロガミの後頭部をそのままの勢いで殴り飛ばす。
「あぐっ!?」
バウンドする様に地面に叩きつけられるシロガミ。よろよろと立ち上がると睨みを効かせながら自らに《治癒》かける。おいおい、まるで私が悪もんみたいじゃない。
「まぁお陰で何に拘ってんのか何となく分かってきたけどね」
何にせよまだ確証が持てない。
「がぁぁぁああっっっ!!!」
ベキベキとシロガミは両腕をラウンドシールドの様な右腕とロッドを模した左腕に変形させた。
「ホントいい性格してるわー」
私は苦笑いすることしかできなかった。
☆☆☆☆☆
「…《鑑定』」
ああ、こいつやっぱりか。
◼️◼️りー・ダー+%2€5[41☆
クラス:偽◼️の#女
HP 6<%€々:1+/+24・66々→
MP 4$3/52¥%
STR 鑑定不可
VIT 鑑定不可
INT 鑑定不可
MID 鑑定不可
TEC 鑑定不可
こいつ、スキルの使い方を知ってる。
《探索》は自分に対する敵意にマーキングが出来る。けれども、自分と相手との差かTEC数値の差、《隠蔽》使用時の補正値などにより《探索》でも引っ掛からなくなる。更に言えば《探索》にも効果範囲があり、この辺りまで離れてしまえば、さすがにいくら敵意があろうと察知できない。だからコイツの存在には気づかなかったんだ。
それにコイツ知能がないどころか、スキルの上げ方、使い方を知ってる。少なくとも《隠蔽》の使い方を知ってる。ステータスが鑑定不可になってるのは私よりレベルが高い証拠。少なくとも高MIDによる強制レジストの証拠だ。
「ぎちりっ!!」
一方で向こうも此方を《鑑定》して来た様だ。ズキリと嫌な感覚が私を襲う。向こうはレベッカのステータスがちゃんと見れた様だ。そもそも私のレベルより強いだろうからね。
「どういうこと?なんなのあなた?なんでなの?」
「私はあなたが何を言いたいのかサッパリ。でも私もあなたに聞きたいことがあるのだけど」
ここで私は彼女にとって最も言われたくないであろう一言を告げる。
「ナタリー・ダーニックの名前が書き換えきれてないわよ?そんなにその名前に未練があるのかしら?」
その言葉にシロガミがピクリと反応した。
「ふざけるなぁアアアアア!!なんで!?なんでおまえが!なんでおまえがレベッカ・マグノリアなんだ!?私の方が相応しいはずなのに!!なんで!?」
───は?今なんて言った?
その叫びと同時に再び襲ってくるシロガミ。私はその攻撃に合わせる様にスパイクを振り被って弾き返す。うん、見える。流石にレイやらドロシーやらの動きを見て来てるからそれに比べればまだ遅い。
「《パワースイング》ッ!」
「がっ!?」
攻撃を弾き返され空中に投げ出されたシロガミの横っ腹を思いっきり叩きつける。
「今、何て言ったのあなた?」
「っ!?」
理解出来ない事をコイツは言った。
(私が聖女に選抜され、自分が選ばれなかった事に対する嫉妬からと言うのなら分かる。でも)
「答えてくれない?あなた、今なんて言ったのかしら?」
「五月蝿い!黙れぇ!!」
叫びながら襲ってくるシロガミを私は脅威とは感じなかった。寧ろ、それとは違う何かの感情の形に変えつつあった。
「聞き間違いじゃなければあなた、レベッカ・マグノリアに相応しいのは自分だと?」
「そ、そうよ!何でアンタみたいなのがレベッカなのよ!?アンタは全然レベッカじゃないッ!!」
はっきり言って理解出来ないにも程があった。
元来、プライドが高く聖女としての教育を受けて育ってきた彼女は、十輝星に選ばれる聖女にはなれなくとも僧侶としての素質がある。それにあの選抜は本来ならば聖女候補を選抜するものであって聖女そのものを選抜するものではない。
それでも聖女になる事が全てであった彼女はその宿願を叶える事が出来なかった。最早、なりふり構って居られなくなったナタリーは他の候補者を殺してでも聖女になろうとし、それを糾弾され後にも引けなくなった。
その結果全てに絶望し、魔物核を取り込み化け物へと変貌してしまう。それが私の知るナタリー・ダーニックと言う人間だった。
この世界においても、それがナタリー・ダーニックという人物だと言うのなら私も納得がいった。ところが、いざ対面してみればそうでは無かった。
彼女は聖女になろうとしていたのではなく、レベッカ・マグノリアに成り代わろうとしているのだ。
「………ねぇ、さっきから全く理解出来ない事があるんだけど」
自分でも驚くほど冷静だ。
いや、いまでもあたまのなかはぐっちゃぐちゃだ。
でも、それとは別に今自分の状況を理解する事に集中していた。
(こんな感情、なんて言うんだっけ?……あーそうだった)
私は思い当たる感情の名称を口に出して
「八つ当たりだわ」
シロガミを蹴り飛ばした。
☆☆☆☆☆
私だってこれまで多くの命の犠牲の上に立っている事くらい理解している。だから、死んだ人は弱いから死んだ。そう言う理由でなら、死ぬのは嫌だけど私が死ぬ事に対して私はもはや憤りなんて感じない。問題なのはそこじゃない。
「何でさっきから取り巻き呼ばないの?」
「え?」
「理解できないのよ。アンタの目的が全く理解できない」
理解が出来ないのだ。殺したいならさっさとすればいい。私に成り代わりたいならさっさと私を殺せば良い。それだけの戦力もあるはずだ。流石に一人でならともかく複数の取り巻きから兵士から袋叩きにされれば抵抗できずにすぐに死ぬ。
「私を殺したいんでしょ?だったら兵隊呼ぶなり集団で襲うなりすればいいじゃない」
「そんな事するわけ無いでしょう!?」
「……は?」
ここで更に思わぬ言葉が飛んでくるのだった。
「レベッカは聖女なのよ!?そんな卑怯な事するわけないじゃない!!」
それを聞いて私の頭の中は一瞬真っ白になった。卑怯……?卑怯って何?へ?ちょっ……ちょっと待って?
「卑……怯……?」
どの口が言ってんの?
「レベッカは清廉潔白で誰からも愛される理想の聖女よ!アンタみたいに紛い物なんかじゃない!」
ふざけないでよ……。
「それなのに何でアンタは何でそんな『癒しの聖女』を蔑ろにする様なステータスなのよ!?」
そこまで言われて、やっと全てを理解する。でも、それはそれで更に新たな疑問が生まれてくる。しかもその疑問とは別に私の中で形容し難い感情が込み上げてくる。
これまで散々多くの人達を殺して来その理由が、私を殺したい理由が、全然理想のレベッカじゃないからって何?自分の方がレベッカに相応しいからって何?
「その上でアンタに一対一でげぴゅ!?」
「ちょっと黙って……」
私の武器がシロガミの顔面を捉える。
「アンタまさか、そんな事の為にこんな大虐殺やったの?」
まさかコイツ、自分がレベッカじゃない事に失望してこんな事したっての?私はそんな理由で多くの人たちがコイツの餌にされていた事に失望してしまうのだった。
「ふざけないでよ…。なんなのよそれ?」
この感情をどう捉えたら良いのだろうか?そう考えるとやはり八つ当たりでしかなかった。この人はこの人なりに苦悩はしてきたのだと思う。けど、だからと言ってその鬱憤を他人にぶち撒けて良いものでもない。気に入らなかった結果だからってこんな惨劇を起こして良いものでもない。
それは私自身にだって言える事だ。
私だってレベッカなんかになりたくなかった。
『転生したらヒロインなのに?』
それ、死亡フラグの地雷原に放置されても同じこと言える?私、こっちに転生して1年足らずだけど週3のペースで命狙われてたのよ?レイ達雇ったからやっと枕高くして寝れる様になったけど、報告受けたら唖然としたわ!寧ろ前より襲撃の回数が増えてたって。
こんなちょっと後ろ振り向けば死神がフランクなノリで挨拶して来そうな生活送りたいって言うなら遠慮なくどうぞ。1ヶ月もてばいいですわね?
だがシロガミ、アンタはダメだ。
「これはもう単に意地の問題だわ」
何度も言うが私はレベッカが嫌いだ。けれどもこの1年にも満たないこの生活を得るにあたり、私は死に物狂いで戦って来た。それをコイツは否定した!それが許せない!
「来なよ、ナタリー・ダーニック。アンタには私の八つ当たりに付き合ってもらうわよ」
十日程経空いてしまいました。
すみません;
次回決着です。




