第十二話 ナイトメアパニックパレード.2
前回のあらすじ
訃報とトラウマ
「ああ!クソ!キリがねぇな!」
「大丈夫、数は減っています。このまま押し切りますよ?」
「気やすめでも今はありがてぇ情報だな!お前ら、ドロシーと1〜12で0を陣形Dで周辺を警戒警護、残りはドロシーから教えてもらった通り俺とで各個撃破!」
「りょうかーい」「任された!」「ほいほい」「俺も警護がよかったー!」「オマエさぼりてーだけだろー」「あいつらめんどくせーしなー」
イマイチ緊張感に欠ける移動である。生存していたメイド隊の二人がテキパキと簡易的な担架を作ったかと思ったら丁重にお母様を横にして運びだした。そして、その周囲を囲む様に『影』のメンバーが警護をしながら別館を後にする。
なまじその殆どが年端のいかない子供達の為どうみても色々と絵面に緊張感がな……(ズドシュ!バシュッ!スギャァッ!)サーセン。物凄く安心して移動ができます。
「しかし助かったぜ、ドロシー。アンタ、アレの対処法よく知ってたな?俺らじゃ細切れにして無駄に増やすばっかりだったわ」
「アレの存在は知っていても対処法まで知るものは意外に少ないですしね。アレのお陰でこれまでの歴史上の被害がどれだけ出たのか分かりません」
そんな風に忌々しく口にはするものの、ドロシーの表情は何処か哀しげだった。
☆☆☆☆☆
ドロシーからもたらされた情報は私達の状況を好転させつつあった。
「あの白いバケモノの名は此方の国では『ハイキブツ』、私の生まれ故郷では『ナレノハテ』と呼ばれるモノです。その中でも核がない事を考えると最悪な事態は避けられている様です」
「『ハイキブツ』?『ナレノハテ』?」
「とりあえずはこの国にならって『ハイキブツ』と。アレはとりあえずは動きが鈍く、やり方さえ理解してしまえば誰でも容易く殺せるほど脆いモンスターと考えていただければ」
「嘘だッッッ!!」
「ッ!?お、お嬢?」
「いえ、失礼。続けて、ドロシー」
おっおぅー♪思わずナタ持ったヒロインみたいに叫んでしまった。
けど、絶対嘘だ!私アレに追っかけられたんだかんな!?一応TECスキルカンストしてんのに追いついてきてたんだかんな!?扉だってブチ破って追っかけてきたんだかんな!?大体その容易く殺せるモンスターにお父様殺されちゃったんでしょうが!?
「お嬢様が嘘だと感じるのも仕方がありません。アレはターゲットを殺す事に特化した性質を持つ魔物ですので」
「マジかー……」
どうやら知らず知らずのうちに死亡フラグの地雷原にまた放り出されていたようだ。ドロシーの話す真実にフラグ地雷原の面積は広くなるばかり。
ドロシーが話してくれた『ハイキブツ』の使うスキルはどれも危険極まりないものばかりであった。
【邪眼・混乱】
対象に対し、混乱系(スタン・恐怖・失神)の状態異常を引き起こす。一定MID以下の場合レジスト不可。
【捕食】
対象に大ダメージ。一定確率で即死、かつ混乱系の状態異常時必中即死。
【追跡】
自身のTEC値を一定時間、ターゲットのTEC値の同数値(上限有り。スキルレベルにより変動)に上昇させる。
【鑑定】の副次効果のライブラリからスキル情報を確認する。私がハイキブツから受けた悪寒の正体はアレか。本当に危なかったなー。ドロシーが間に合わなかったら私も今頃ハイキブツにムッシャアされてたところだ。
「けど、ドロシー。良く私の居場所分かったね。ドロシーが来てくれなかったら本当に危なかったよ」
「そりゃあ館内を走り回りましたよ。緊急事態でしたがレイ様達が援護に来てくださったので対処法をお伝えして私とレイ様で探し回ったんですから」
私、【捜索】のコモンスキル持ってませんし、と悪態をつくドロシー。【捜索】はTECスキルLv3で選択習得可能になるコモンスキルだ。ゲーム内ではパーティー内に持ってるキャラが一人居れば全員に行き渡る為、斥候担当必須のスキルだった。ついでに言うと、『影』のメンバーは誰も【捜索】は持ってないらしい。聞くと、陣形に影響出るからなんだそうな。
アンタら良くそれで今までやってこれたわね?って言ったら、【情報収集】は全員とってるからその都度情報更新しながら最速でブチ殺せば済む話だろ?って返された。こっわ。
☆☆☆☆
「ここまで核持ちが居ないとは。ふむ……、と言うことはやはり……」
ドロシーが言うには『ハイキブツ』には大まかに分けて、寄生個体、繁殖個体、変異個体と三種類に分けられるらしい。
寄生個体と言うのは見た目は結晶核に酷似しているのだが、自ら動く事が出来ない。しかし、人間やモンスター、果ては妖精や精霊等にすら何でも寄生すると言うある意味三種の中では非常に厄介なタイプ。しかも寄生個体は寄生した生物の攻撃性を上げ、より凶暴な化け物へと変貌してしまう。通称『厄腫』。
繁殖個体とは、本体である『女王』が巣を作って住み着く習性があり、寄生した『厄腫』に似た『兵隊』を自ら生み出し巣や兵隊の規模を拡大していくタイプ。産み出された『兵隊』は癌腫と言う核の代わりである肉腫(ドロシー曰く核無しと呼称)が埋め込まれており、癌腫が残っていれば、無尽蔵に再生する。
主に『兵隊』は狩りや警護、育児を担当すると言った様々な雑務を担う。狩りを終えた『兵隊』は『女王』に自分ごと捕食され、胎内で造り替えられる事で増殖する。
防衛本能の高さ故か、『兵隊』とは打って変わって非常に戦闘能力が高い。しかし、この『女王』の核を破壊し機能を停止させると、その『女王』から産み出された『兵隊』の活動も停止し、その肉体も崩壊する。
そのコミュニティを形成する事から、通称『女王蟻』。
そしてそのどちらでもなく、突然変異を起こし、『ハイキブツ』の特性だけが残っている個体が変異個体。三種の中で最も危険で脅威度も異常。通称『シロガミ』。
どの個体にも言える事だが、基本は呪いの集合体を核に詰め込んだモノである為、核の機能が停止すれば呪いも消滅してしまう。
☆☆☆☆☆
話をまとめると今ウチに襲ってきてるお客様は。その殆どが核なしであり、核持ちを倒せば核なしの『兵隊』は全て機能停止するそうな。簡単に言えば、このハイキブツ達は本体が存在し、その本体である親機が子機を生み出してエサを探しにここまできた事になる。
つまり今まで散々暴れ回ってた子機を私達は対処を知らずに下手に攻撃して殺し損ねた結果、アウトブレイクを引き起こしていたのだった。
つまり何が言いたいのかって?
大元辿ればうちの近所に繁殖個体が居るそうです。
またかよぅ、死亡フラグ〜ぅ。もうヤダー。
「お嬢、とりあえずこの街も捨てた方がいい。怪我の功名って言って良いのか知らんが、お嬢のおかげで街の中にもハイキブツだらけってのが分かったし、無事な街の連中も屯所の奴らと固まってとっくに避難したらしい。それにたとえ遭遇しても流石に対処法知らねえならまだしもレクチャーした後ならアレに殺される心配もとりあえずは大丈夫そうだ」
その対処法とはざっくり言うと集団で固まって行動し、タンカーにヘイト集めをさせてしまうというものだった。いくら【邪眼】が対処出来まいと、【捕食】が即死技だろうと、そもそも当たる前に殺ってしまえば済む話だ。【追跡】で一時的にTECが上がってもタンカーと同じ位になるなら、そのタンカーよりTECが上の人がアタッカーになってしまえば必然的にハイキブツも一網打尽である。
しかし……まさか火に弱いとは。予想外にも程がある。火だるまにすれば再生も何も無い。全部燃えるので擬似核もろとも灰になるらしい。試してみたけどあんまりにもあっさり倒せてしまった。私の悪夢は一体なんだったのさ?
とりあえずの『兵隊』対策のパターンとしてはこんな感じ?【咆哮】 →【シールドチャージ】→【初位火球】
……冷静さを取り戻せばなんて事はなかった。しかもこのコンボ、2人居れば完成する上に一連のスキル全部取るのに最速でLv15で使えるわ。つかTEC関係ないわ。つかウチの騎士の人たち片手間で打てるわ【初位火球】。火起こしに使ってるわ【初位火球】。
もっと酷いコンボだと
【初位炎壁】→【咆哮】→【初位炎壁】→【咆哮】(ry
無限ループかよ。
……どっかでみたぞ、こんなコンボ。
火に弱い事はドロシーも知らなかった様で、もしかしたらこの個体種だけかも知れないとの事。他にも土魔法で死ぬ個体も居たし、氷魔法で死ぬ個体も居たと言う話だった。なんかそう言うの居たな?同じ個体種だけど属性が違うやつ。ゲームだけど。
つか私の涙返せ。とんだトラウマ詐欺だわ!
「お嬢のおかげだねー!」
「さっすがー。ソロでダンジョンでやってる人は覚えるスキルも頭の回転も違いますわー」
「ちょっ!?おまっ!しーっ!しーっ!」
「………お嬢様?」
まるでホラー映画に出てくる怖いシーンみたいにドロシーがゆっくりと振り返ってくる。い、いや、便利なのよ?【捜索】!離れた所に指定スキルとか発動するのにも使えるし!ダンジョンでレベリングする時バックアタックの防止にも繋が……はい!ごめんなさい!だからお願いだからそんな目で怒らないで!もうしない!しませんから!!
「って、あ、あれ?なんか変な所に妙な反応が……」
地図を取り出し、【捜索】を発動しながら妙な感覚の位置を確認する。
「ん?この場所ってドーラ洞窟の方角か?」
場所はドーラ洞窟の方角、正確にいうとそこはドーラ渓谷という複数の領地の境目が重なる激流スポットである。思わず足滑らしかけて落っこちそうになるくらい危ない場所だったっけ……ごめんなさい、ドロシーさん。もう一人で行ったりしません。だからそんな目で睨まんといて下さい。
☆☆☆☆☆
ドーラ洞窟、その最奥。そこを抜けると丁度複数の領地の境目となっている渓谷が存在する。渓谷にはまるでアリの巣のように至る所に洞窟の出口が広がっており、迷路の様その内部は複雑な迷路と化している。しかもその道中は多数のモンスターの巣窟になっている……筈だった。狩り尽くされた洞窟内から更に獲物を取ってくる様にモドキ達がぞろぞろと姿を現してくる。
今、そのドーラ洞窟を支配しているのはただ一種の魔物のみ。
「れ………べ…………か………あ………………」
その巨大な何かはどくんどくんと鼓動をあげながら丸々に食い太った兵隊を触手で突き刺し、ぐぱりと開けた捕食口に放り込む。グチャグチャに咀嚼されミンチにされたモドキと、砕かれ溶かされて胎液となったナレノハテの核が混ざり合い染み込んでいき、徐々に繭となった肉塊のなかにヒトに似た何かが形成されていく。どろりとした液体に包まれ産み落とされた繭は、転がりながら渓谷に落下して水流に流されていく。
下流まで流されるとそこには大量の流されて来た繭が流れついていた。そこに待ち構えていた様に兵隊達は流れ着いた繭をとり上げると、まるで赤子を抱き抱える様に洞窟の中に運んで行く。
兵隊がたどり着いたのは、同じく繭を運び集めている他の兵隊達。そして、それを一つの山に押しかためた様な巨大なファームだった。繭を丁重に置き終えた兵隊は再び作業に取り掛かる様に闇の中に消えていった。そしてその中の繭の一つがバキリと割れ中から全身真っ白な赤子が姿を表す。
「……ぐ…が……あ……あ……。ああ。あーあー?あーぁ?あー!」
まだ生まれたばかりのソレは手元にあった繭を掴むとまるで果物をかじる様に繭の中身ごと喰らい始め、周囲は羊水と同種の体液で染まっていく。その様子は生まれた女王蟻が他の卵を喰らって特別な一匹になるかの様だ。
これまでうまれてきたできそこないとはわけがちがう。やっとここまでかんせいした。
兵隊達はその存在が生まれた事に歓喜した様にガチャガチャと口を鳴らして膝をつく。まるでその光景は新たな女王が産まれた事に歓喜し、忠誠を誓っているかの様に。
ーーーーわたしがーーーーーーー
ーーーーーーわたしこそがーーー
ーーわたしこそがこのせかいのしゅじんこうだーー
闇の底で姉妹の繭をかじりながら不気味に破顔う、まっしろな少女の姿がそこにあった。
喜べ、この章最後の死亡フラグやぞ。
「嘘だッッッ!!」
補足
この世界において一つのスキルに複数の効果が付いています。ただし、副次効果を発動するにはそのスキルを覚えた上で、その系統のスキルレベルを更に上げる必要があります。
例)
【捜索】(習得TECスキルLv3)
・効果:認識
周辺エリアに居る対象が自分に対して敵意を持っているか否かを認識する。
・副次効果:マッピング(発動条件TECスキルLv4)
周辺地域を知覚して近くの状況を認識する。TECスキルレベルが上昇する毎に周辺地形マップの詳細がより精密になっていき、周辺エリアのどこに何があるのかまで見える様になる。
・副次効果:サイドターゲット(発動条件TECスキルLv5)
遠距離から指定のターゲットを正確に認識する。通常、一定範囲の距離でしか発動できないスキル等も認識したターゲットを距離を無視して指定して発動する事ができる様になる。




