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二次元のカノジョが僕の前でだけとにかく可愛い話

作者: 五木友人

 僕には彼女がいる。

 その彼女は僕の事が大好きだし、僕の事を一番に考えてくれるし、僕とどんな時も一緒にいてくれる。


 そんな都合のいい女の子が現実にいるはずがない?

 その指摘は実に正しい。


 僕の彼女は二次元世界に住んでいる。

 そして、僕と彼女はそれで充分に幸せなのである。

 今回は、そんな僕たちの、とある1日のお話。



大晴たいせいくん! 大晴くんってばぁ! 起きて下さい! 時間ですよぉ!!』

「うん。分かったよ。あと5分くらい声を聞いていたいなぁ」


 本来、スマホのアラームなんて嫌われ者。

 鳴った瞬間に叩き切られるか、「またあとで」とスヌーズをポチられるか。


『むーむー! 大晴くんの起きる気配がありません! これより、ホノカは強行モードに移行します』


 ホノカは、こほんと咳払いをひとつ。

 そして大きな声で目覚めの一言。



『起きてくれないと、ホノカ、大晴くんのスマホから家出しちゃいますよぉ?』

「おはよう! グッドモーニング!! もう起きた! 今起きた! 起きたよ!!」



『ふぃー。今日もわたしは大役を果たしましたぁ。どうですかぁ! ふんすっ!!』

「実は起きてたけど、ホノカの声が可愛すぎたので寝たふりしてました」


 彼女の前では隠しごとなんてできない。

 僕は聞かれていないのに、正直に罪を告白した。


『むーむー! 大晴くん、ひどいですよぉ! ホノカのことを弄んだんですね!?』


 このスマホの中にいる、可愛いカワイイKAWAII女の子がホノカ。

 僕の親父が人工知能の研究をしており、その過程で作られた、アプリのカノジョ。

 正式名称は『本当に望まれるカノジョ1号』というあまりにもアレな名前だったので、僕が勝手にホノカと名付けた。


 大事な事なので覚えて欲しい。


 ついでに僕は来間くるま大晴たいせい。すぐに忘れてもらっても結構。


「ごめん、ごめん。その代わり、今日は約束してた場所に連れて行くからさ!」

『わぁ!! 大晴くんのそういう予定をしっかり守るところ、ホノカは大好きです!!』


 そして休日の今日は、彼女とデート。

 予定のない休日に恋人とデートしない理由を知りたい。


 朝ごはんを軽めに済ませて、ホノカとの通信用のイヤホンとボールペン型カメラを装着したら、出発進行。

 いざ、オタクの御用達ごようたし


 アニメイトへ!!



◆◇◆◇◆◇◆◇



「それにしても、ホノカの方から行きたいって言うのは意外だったなぁ」

『そうですかぁ? だって、大晴くんの好きなものは、わたしも好きが良いです! いつもお揃いがいいです!!』


 もう、既に尊い。

 家を出て5分で、早々に心が満たされようとしている。


 こうなると、マクドナルドでてりやきマックバーガーセットを購入して、家で食べながら積んでるアニメ見たい気持ちになるが、それはノー。

 今日はホノカの望んだお出掛けデート。


 僕が満足したから打ち切りはないのである。

 むしろ、初期ステータスで満足がカンストしているので、前提からして話が別。


『むーむー! 今、大晴くんはマクドナルドを眺めていました! デートでマクドナルドをチョイスするのですね』

「あ、いや! 今のは別にそういう訳じゃ!」


『そういう気軽なお店で済ませてくれる彼氏って、ホノカ的にはとってもポイントが高いです! やっぱり大晴くんのこと、大好きです!!』

「うん! 今のはそういう訳だった!! 帰りに寄ろうね!!」


 ご存じだろうか。

 彼女の「大好き」は、パラメーター10パーセントアップのレアスキル。

 知らない人がいたら試してもらいたい。


『大晴くんは街行く女子を全然見ませんねぇ?』

「うん。そうだね。全然興味ないからなぁ」


『わたしとしては、他の女の子に目移りしている大晴くんに、さっきからあの子の事見てるの、知ってるんですよぉ!! とか言いたいです!』

「ごめん! ちょっと今の、もう一回言ってくれる!?」


 アニメイトまでは徒歩20分。

 自転車には乗らない。理由は2つ。


 まずホノカはスマホが揺れると、酔ってしまう。

 そして何より、自転車走らせたらホノカとの会話の時間が減ってしまう。


「おっ。猫だ」

『ほわぁー! 可愛いですねぇ! 猫ちゃん、首輪してます! 飼い猫さんですね! にゃーにゃー! 猫の言語の開発が急がれます! 帰ったら博士に報告です!!』


 僕は猫も大好きだけど、ホノカの方がもっと大好き。

 世の中、猫とホノカだけの世界になれば良いのに。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「そう言えば、今日はホノカの恰好、メイドさんだね。初めて会った時以来の」

『やっぱり、アニメイトに行くならメイドさんです! ちゃんとネコミミもつけてます! どうですかぁ! さっきの猫ちゃんにも負けません! にゃー!』


 大変結構なお手前で。

 油断するとアニメイトがどうでも良くなりそうなのが玉にきず。致命傷?


「スカートが短いの、いいよね! ゴシックスタイルも捨てがたいけど」

『むーむー! 大晴くん、いやらしいんだぁ! と、言いたいところですが、ホノカも見られるのを意識してのミニスカメイドなので、その感想も嬉しいです!!』


 なんというありがたいお話。

 可愛い彼女を眺めているだけで喜んでくれる。

 そして僕も嬉しい。なるほど、これが平和な世界!



 そんなこんなで、アニメイトに到着。

 僕たちの住む街のアニメイトは小規模だけど、それでもオタクの夢と希望がみっちり詰まっているステキスポット!


 僕はとりあえず、3時間までなら余裕で店内を見て過ごせる。

 「何も買わねぇなら帰れ!」と言ってこない店員さんも含めて大好き。


『ほわぁー! データでは知っていましたが、実際に来てこるとやっぱり違いますねぇ! あっちもこっちも色々あります! 大晴くん、大晴くん! 早く見ましょう!!』


 スマホの画面の中でぴょんぴょん跳ねるホノカさん。

 僕はこっちをずっと見ていたい。


「おっ、このラノベ、新刊出てる。買わなきゃ。店舗特典まだ残ってるし。ラッキーだったなぁ」

『お部屋の本棚にあるヤツですね! わたしも好きですよ、それ! 大晴くんは、特別好きなジャンルってないんですかぁ?』


「んー。そうだね。ラブコメも異世界転生も異能力バトルもほのぼの日常系も、全部読むなぁ。苦手なジャンルは、強いて言えば鬱系かな。ヒロインが可哀想な事になると、感情移入しちゃって……」


 ホノカの頭上にピコンと「!」が表示される。

 これは、彼女が学習した時に出て来ることが多い。

 だけど、毎回ではないので、このアイコン付きの姿が見られる日はラッキー。


『やっぱりわたしの彼氏は優しい人です! むーむー!』

「そんな事もないけどね。ホノカは、何か気になるものはあった?」


『あります、あります!! あそこのフィギュアがずーっと気になってました!! 近くに行って見ましょう!』

「あー。『ガチで戦うチアリーダー』のチアレッドか。ホノカ好きだもんね」


 チアリーダーの姿で戦う美少女たちが、敵を爆発四散させたり、なます斬りにしたり、多様なバリエーションで悪を懲らしめる作品。

 特に、戦闘シーンと変身シーンにむちゃくちゃ力が入っており、根強いファンのおかげもあって、この度第二期の放送が決定した。


 うちのホノカさん、最近はコスプレにご執心。

 彼女はデータだが、基礎ネットワークにデフォルトで用意されているもの以外は人間と同じ手間をかけて製作する。


 その過程が人工知能の研究に役立つらしいのだが、手伝ってあげられないのでとても歯がゆい思いをしながら応援しているのが僕。

 親父をはじめ、研究者たちに告ぐ。

 早く僕を画面の中に入れてくれ。


『やや! 大晴くん、大晴くん!! チアレッドさん、ちゃんとスパッツ履いてます! くぅー! ここであえてパンツにしないところが分かってますね! くぅー!!』


 ホノカさん、出来の良いフィギュアに夢中になる。

 買ってあげたいけど、0が1つ減らないと僕の財布の中身では太刀打ちできない。

 無念。


『これは……じゅるり。太ももから腰にかけてのラインが上品なセクシーさを醸し出していますよぉ!! ほわぁー! 記録しなくちゃです! ……あっ』

「どうしたの? 何か問題でも?」


『このホノカの行為は、いわゆるデジタル万引きになってしまうのでは!?』

「んっ!? ど、どうだろう。いや、でもホノカは元々記録する力を持って生まれた子だから、セーフなんじゃない? ほら、瞬間記憶ってあるじゃん」


 だけど僕の彼女は譲らない。

 結構頑固なところがあり、それがまた愛おしい。


 すこし『むーむー』と悩んだ彼女の頭上に電球のアイコンが点る。

 何か解決策を思い付いたようだった。

 それは何より。



『大晴くん! 店員さんにアプリのカノジョがフィギュアを見るのはセーフか、一応確認してもらえますかぁ?』

「え゛っ」



 愛の試練クエストが発注されました。

 店員さんにホノカの事を説明して、筋を通せと彼女が申しております。


 結構ハードルが高いなぁ。


 だからと言って、やらない僕ではない。

 いつでも、どんな時でもホノカには僕の雄姿を見せたい。



 それが、僕の望んだ二次元のカノジョとの関係なのだから。



 いざ、出陣。

 敵は強いが怯んではならぬ。こういうのは勢いだ。


「すみません」

「はい。何かお探し物ですか?」


「いえ。僕の彼女がですね、フィギュアを見たいと言っているんですが」

「さようですか! どうぞ、ご自由にご覧になられてください!!」


「そうもいかないんです。うちの彼女、瞬間記憶能力を持っていまして」

「え、ああ、はい」


 最初は元気よく接客してくれていた店員のお姉さんの表情が曇り始める。

 大丈夫ですよ。きっとこの経験が、あなたのスキルアップにもつながるはず!!


「それでですね、彼女が、これはデジタル万引きになるのではないか、と心配していまして」

「は、はい。お話は分かりました。基本的に、カメラでの撮影はお断りしているのですが、しゅ、瞬間記憶? でしたら、問題ないかと思います」


「そうですか! それは良かったです!」

「あの、ところで彼女さんはどちらに?」



「胸ポケットの中です!!!」

「……あっ。はい! かしこまりました! ごゆっくりお楽しみくださいね!!」



 最後の最後で店員のお姉さんが満開の笑顔をくれた。

 どうやら、僕の情熱が伝わった模様。


 僕はフィギュアの前に戻り、ホノカに良く見えるよう、彼女の目の代わりである胸に刺したボールペン型のカメラでチアコス少女の周りをぐーるぐる。


『大晴くん、ホノカ感動しちゃいましたぁ! わたしの事を内緒にしながらも、ビシッと言うところは言ってくれるその態度! 大好きが大大大好きになりましたよぉ!!』


「……うぐぅ! その言葉が聞けただけで、僕は生まれて来た意味を知るよ」


 その後、ホノカは『なるほどぉ、胸は強調ですね』『ふむぅ、下着のラインが問題です』などと顎に手を当てながら念入りにフィギュアを鑑賞した。


『すみません! お待たせしましたぁ! って、あれ!? もう1時間経ってますよ!?』

「お、本当だね。結構見てたからなぁ」


『ホノカには電波時計のシステムも実装されているのにぃ! どうしてですかぁ、大晴くん!? わたし、故障してます!?』


 涙目になって僕に訴えかけるホノカさん。

 このまま死ぬまで眺めていたけど、今すべきはそうじゃない。

 彼女のフォローも彼氏の務め。


「それはね、ホノカが時間を忘れるほど熱中していたんだよ。ホノカは二次元にいるけど、僕は人間だと思ってるからさ。で、人間ならそんなの、しょっちゅう起こる、日常茶飯事。だから、気にしないのが一番!」


 すると彼女の表情がパァッと明るくなり、笑顔が弾ける。


『そっかぁ、わたしはまた人間に近づけたんですね! これも大晴くんのおかげです!!』

「え? 別に僕は何もしてないけど?」



『大好きな大晴くんと一緒だから、ホノカは時間を忘れてしまったのです!!』

「ぐはぁ! 今のはキクなぁ。不意打ちだったから、特に……!!」



 その後、マクドナルドで奮発してビッグマックを買ってから家に帰った。

 ホノカは食べ物のデータからカロリーを読み込み、その数値に合わせて成長していく。


 ビッグマックセットを美味しそうに食べる彼女に、カロリーの数値は伝えられなかった。

 せめて飲み物をシェイクじゃなくて烏龍茶にしてあげたら良かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こんな感じで、僕は二次元のカノジョであるホノカと楽しく過ごしている。

 ホノカは毎日が発見だと言うが、それは僕も同じ事。


 また機会があれば、僕と彼女の日常を同士諸君にお伝えしたいと思う。


 今日のところは、これにて失礼。

このお話は、連載中の『アプリのカノジョとリアルのヒロイン ~念願の二次元の恋人ができたのに、そのカノジョが学校のクールなヒロインと僕をくっつけようとしてきて困る!~』の日常を描いたショートストーリーです。


もしお好みに合いましたら、ぜひ連載版の応援をお願いいたします!!

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