プロローグ 2
ロゼッタとアルフレッドの婚儀は厳かな鐘の音で始まった。いくつもの鐘が徐々に鳴らされ、神殿中に響く。
ロゼッタは隣に立つアルフレッドを横目で見やった。目の見えない彼がこの音で驚いているんじゃないかと思ったからだ。けれど、アルフレッドは先程のように暴れたりも、口を開くこともなかった。
(確かに落ち着いている)
ロゼッタは神殿の入り口が開くと同時にそっとアルフレッドの手を取った。アルフレッドもまた少しだけ握り返してくれる。
ゆっくりと誓いの言葉を交わす祭壇に近づく。ロゼッタはその度に足が止まりそうだった。
ロゼッタたちの宗教では離婚が認められていない。一度、神の前で誓った二人を別つことができるのは死のみだ。司祭の口上を聞けば、ロゼッタとアルフレッドは夫婦になる。それまではロゼッタの秘密を守らなければならない。
祭壇の前に着くと二人は敷かれた絨毯の上に膝をついた。そして神へ祈りを捧げるために繋いでいた手を放す。それがロゼッタは少し寂しいと思った。アルフレッドはうつむきがちに手を胸の前に組んだ。ロゼッタもまた目を閉じ自分の手を組む。
「花婿、クウェール帝国第三王子アルフレッド・リニール・クウェール」
アルフレッドが返事をする代わりに顔を上げる。
「花嫁、リローテッド国第一王女、ロゼッタ・フィオナ・リローテッド」
「はい」
「そなたたち二人を、神の御前で夫婦と宣言する。それに先立ち、申し出があるならこの場でのべるように」
ロゼッタは言ってしまおうか、と迷った。隣には呪いに犯されたアルフレッドがいる。目が見えない彼は一人異国の地で生活せねばならないのだ。ロゼッタの秘密を知ってしまえば、普通の夫婦にはなれないのだ。
しかし、ロゼッタの答えが出る前に司祭は次の言葉を述べてしまう。
「では会衆で、何か申し立てる者は立ち上がるように」
神殿は沈黙で満たされている。
ロゼッタは自分の関節が白くなるまで手を握りしめた。二拍待つと異議はないとみなされる。その時間がロゼッタにはとても長く感じた。
婚姻証書とペンが二人の前に運ばれる。アルフレッドがペンを持たされ、おおよその場所に空いている手を導かれる。目の見えない彼は決められた場所より少し外れたスペースに自分の名前を書いた。ロゼッタはそれに寄り添うように震える字で自分の名前を記す。
「誓いの口づけを」
見えない彼の代わりにロゼッタが自ら自分のヴェールを上げ、アルフレッドにキスをする。
「ごめんなさい、アルフレッド様」
ロゼッタはそう小さく零す。その言葉はすぐ近くに立っている司祭には届かず、彼は婚姻の成立を宣言した。
「ここに神に祝福された新たな夫婦が誕生したことを宣言する」
神殿中に拍手が響く。後は祝いの言葉を聞き、祝宴を聞くだけだ。今度はアルフレッドがロゼッタの方へ手を伸ばす。それを握り返して二人は立ち上がった。