俺は彼らの気持ちが理解できない~なお、周りは同性同士のカップルだらけである~中編
中編となります。
この辺りはノリノリで書いていました。
楽しんで頂けますように!
リオノール帝国には大陸中の子供が集まる教育機関『エヴァンス学園』が王都近くの郊外に設立されている。
巨大な学園で、寮や商店街、食事処も複数あり、学園都市とも呼ばれている。
13歳から18歳までの貴族・庶子問わず大勢の子供が集められ、様々な教育が施されるこの学園では──・・・
将来の伴侶を見つける者も多い。
どうしてなのか大抵相手は同性なのだが。
男女で校舎が別れているからか、普段女子生徒を見かけることは少ない。
けれど、交流会や文化祭など、女子生徒と触れ合える機会は多々設けられているのだ。
にも関わらず、身近でカップルになる者がとても多い。
俺はため息をつきながら、校舎の廊下を歩いていた。
「エリィ!どこに行くんだ?」
「・・・リチャード」
友人であるリオノール帝国、侯爵家三男のリチャードが話しかけてきた。
彼とは幼馴染である。
なので、王子である俺への態度もけっこう気安い。
「・・・その呼び方はやめろと言っているだろう」
「なんでだよ、可愛いだろ、エリィ♡」
「ぶん殴るぞ?」
どうやら最近、仲の良いもの同士で可愛い愛称で呼び合うのが流行っているらしい。
まるで女性のような名で呼び合っているものが、そこら中にいる。
気持ちが悪いだけだと思うのだが。
俺に可愛らしさも求められても困惑する。
「そんな厳めしい顔すんなって!これから、どこに行くんだ?」
「生徒会室だ。副会長のクレイから呼び出されている」
「クレイに?なら、俺も一緒に行こうかな?なんてったって、俺、生徒会会計だし♪」
「好きにしろ」
この学園には生徒をまとめる役目として生徒会なる組織が設立されている。
優秀で人気のある者を頂点に据えているが・・・
何故か毎年似たようなタイプの者が、その後継に選ばれることが多い。
よく選ばれているタイプは───・・・
・人を見下した発言をしたり、偉そうな態度を取る俺様生徒会長。
(俺だったらそんなトップは嫌なのだが)
・要領が良く猫を被っているが、実はプライドが高く見栄っ張りでもある腹黒副会長。
(眼鏡率が高い)
・明るくノリもよいが、言動や態度が軽薄で浮ついているチャラい会計。
(よくそんなものが会計になれるなと思うが、リチャードは優秀な人間である為、チャラさは問題にはならないようだ)
・何故か双子限定の書記。
双子でも条件がある。
そっくりな容姿で、区別がつかないような者でなければならないらしい。
なので、双子の見分けが出来る者に、双子たちはやたらと懐くそうだ。
ちなみに俺も懐かれている。
何故だ。
そして彼らはよく入れ替わりをして遊んでいたりするので、とても性質が悪い。
それで二人の区別がつくのか双子は常に確認しているのだ。
慣れていない者たちは確実に騙される。
双子は自分が試しているのに、騙された人間を決して許さない。
理不尽である。
学園側は、こんな生徒たちをいったい、どこから探してくるのか。
いくら生徒数が多いとはいえ・・・
毎年不思議で仕方がない。
「おっ!着いた、生徒会室だ♪」
「失礼します」
コンコンとドアをノックしてから、扉を開ける。
すると、「きゃあ!」という声が聞こえてきた。
声の方を向くと、そこには副会長であるクレイと一人の男子生徒が半裸になり、ソファーでむつみ合っていた。
あああああ、これは・・・
頬が引きつり、思わず遠い目をしてしまう。
「し、失礼します!」
俺の横を、可憐な見た目の男子生徒が走り抜けていく。
服装が乱れたままで。
俺は・・・どこから突っ込んでいいのか、わからない。
男なのに『きゃあ』と叫ぶのもどうなのだろうか・・・
いや、それは個性だと思おう。
「おいおい、いい所を邪魔するなよ」
ソファーからクレイが気だるげにこちらを見ている。
俺は眉をひそめた。
「生徒会室に呼び出したのは、お前の方だろう」
「ああ、そうだったか?」
ニヤニヤ笑っているクレイの姿に、リチャードが怒りの声を上げる。
「クレイ、いい加減生徒会室に生徒を連れ込むの、やめろ!迷惑だ!」
「リチャード、お前もいたのか」
「いたよ?!いましたよ?!!」
「そんなチャラそうな見た目をしておいて、真面目だな、お前は」
「なにその偏見?!真面目とか真面目じゃないとかの問題じゃないだろ!それに俺は一途なんですー!」
二人がそのまま口喧嘩を始めそうだったので、俺はそこに割って入った。
「どうでもいいが、要件はなんだ、クレイ」
クレイは面白くなさそうに、服を整えながら返事を返してきた。
「ああ、そうだ、そうだ。お前、今年は学園祭に参加できないんだって?」
「ええー?!本当か、エリィ!」
「だから、エリィと呼ぶなと言っているだろう・・・ああ、もうすぐ兄の結婚式があるからな。そちらの方の準備で忙しい」
リチャードの頭に拳骨を叩きこみ、クレイにそう告げる。
そして改めて彼に向き合った。
「学園祭で何かあるのか?」
「あるだろう、毎年のお愉しみイベントが」
「いてて・・・あ、あれだろ、ミス・ミスターコンテストと、女装コンテスト!」
「ああ、それにダンスパーティーもあるしな」
ニヤリと笑っているクレイ。
クレイの言うダンスパーティーとは・・・
最大級の告白イベントである。
ここでカップルが誕生することが多い。
もちろん男女ペアより、同性ペアの方が圧倒的に多いのだが。
特に女装コンテストに出たヤツの人気は高く──・・・
この女装コンテスト。
面白おかしいものではなく、ガチで女性らしい美を競うコンテストなのである。
なので、美しいと噂される生徒が、本気を出し挙ってコンテストに挑んでくるのだ。
「準備の段階から参加できないのは残念だが、仕方がない。だが、当日は少し様子を見に来ようと思っていたんだが」
「ほう、来るつもりだったか。いや、王子様に告白したいと思っている生徒が思いのほかいるようでな。混乱を招きそうだったから、事前に確認をしておきたかったんだ」
「・・・そうか、それはすまないな。どうやら俺は参加しない方が良いらしい。当日の運営は宜しく頼む」
「それが生徒会の仕事だしな、気にするな」
「助かるよ」
「え、マジでそんなに沢山エリィに告白しようとしているヤツがいるの?俺聞いてない!」
「いや、俺も知らなかったしな・・・」
クレイが直接俺に確認したかった話の内容にも頭を痛めている。
そうなのだ。
俺はこの国の王子である。
王子という肩書と、見た目もまあまあ整っていることから、俺は割とモテるのだ。
女性からも、男性からも・・・
だが俺は男性には興味がない。
いくら女性より細い男性がいようが、女性と見紛うばかりの男性がいようが、男の身体に興味を持ったことは一度もない。
なのに、彼らは瞳をキラキラさせて俺に告白をしてくるのだ。
やめてくれ、そんな目でこちらを見ないでくれ。
どんなに願っても俺は彼らの願いを叶えてやれないのだ。
三人で会話をしていると、生徒会室の扉が開き、残りの生徒会役員が入ってくる。
「あ──!!エリオスがいる!!」
「エリオスだ──!どうしたの?!どうして生徒会室にいるの?!」
例の双子が矢継ぎ早に話しかけてくる。
双子の名前は、シオンとレオン
外見は瓜二つの双子である。
「二人とも元気いっぱいだな。ちょっとクレイに呼ばれたんだ」
「クレイ、ズルい!一人でエリオスと会うつもりだったの?!!」
「あ、でもリチャードもいるじゃん!」
「俺、最初からいたよ?!おい、双子!エリィにべったり引っ付くなよ!」
室内が一気に騒々しくなった。
だが、一人だけダンマリを決め込み、無言で窓際に置かれている机に着いた男がいる。
双子と共に生徒会室に入ってきた男子生徒。
彼は──・・・
公爵家の嫡男、アレックス。
エヴァンス学園の生徒会長である。
「騒々しいぞ、お前たち」
アレックスの一声で、会話が止まる。
ピシッとした空気が流れ、部屋の雰囲気がガラッと変わった。
悪ふざけをしていたクレイたちも真っすぐにアレックスを見ている。
流石、全校生徒をまとめる生徒会長である。
俺は感心して、アレックスに微笑んだ。
「アレックス、お邪魔しているよ」
俺の言葉に、アレックスは俺をジロリと睨んでくる。
「会議を始める。部外者は出ていってくれ」
「わかった。すまないな。もう行くよ」
「そうしてくれ」
アレックスは何故か俺にアタリがキツイ。
幼かった頃は仲が良かったのだが。
嫌われるようなことをした記憶がないんだけどな・・・。
彼は完璧な俺様生徒会長だと言われている。
だが俺の前では一度も偉そうだったり、俺様な態度をとったことがない。
ただただ俺には、ひたすら冷たいのだ。
まあ、王子の俺に偉そうには出来ないし、扱いには困るか・・・
彼も幼馴染であるのだが、なんだか距離をおかれているようで、少し寂しいと思った。
「学園祭の準備、頑張ってくれ。俺は参加できないけれど、応援している」
「・・・参加できない?どういうことだ」
「国務があるんだ。是非参加したかったんだが・・・俺が顔を見せると混乱が起きそうだし、学園祭の間は来るのを控えるよ」
「・・・どういうことだ、クレイ」
アレックスがクレイを睨みつけている。
えー・・・と。
俺の話しは無視なのか?
「エリオスをダンスパーティーに誘おうとしている生徒が大勢いるって情報を掴んでな。混乱が目に見えているから王子様には参加を見送ってもらったって訳だ」
「・・・チッ」
・・・?!
アレックスが舌打ちをした?!
らしくない姿に首を傾げる。
何か不都合なことがあったのだろうか。
「・・・事情はわかった。もう出ていけ」
「あ、ああ。じゃあ、またなアレックス」
「・・・ああ」
アレックスの態度がおかしかった気がする・・・
そんなことを考えながら、校内を歩いていた。
すると、前方から学生服を着た生徒が歩いてくるのが見えた。
俺は俯いていた顔を上げ、前方から歩いてきた生徒を見て・・・
眼を見開いた。
彼は・・・ゆっくりと俺の横を通り過ぎ、歩き去って行ったのだが・・・
俺は思わず振り返ってまで彼の後ろ姿を見ていた。
茫然としながら口をポカンと開けてしまっている自身に我に返り、急いで顔を引き締める。
だが、動揺は隠せない。
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
今すれ違った生徒・・・
肩幅が・・・
異常に・・・
広かった・・・
頭のサイズは小さいのに・・・
なんて肩の大きさだ・・・
なんだあいつは。
同じ人間なのか。
肩幅だけが異様なくらいに大きい生徒に非常に困惑した俺は、その後アレックスの様子がおかしかったことを忘れ、悶々と肩幅の広い彼のことを考え続けてしまっていた。
仕方がない。
だって・・・誰しも気になるだろう?
後編は明日7:00を予定しています。
後編が一番長いです。
ぎゅっと話を詰め合わせた感じになります。
読んで頂けると嬉しいです。