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プラットホーム



「あ……あ……っ!?」



言葉が出ない。


まさか……まさかそんな……






 ぷしゅーっ




列車のドアが音を立てて開く。


疲れた顔の乗客達が、重い足取りで改札口へ向かう。


思わず腰を浮かせた私の、その様子に怪訝な顔を向ける者、全く気にせず歩き去る者。



誰も、誰も今起きた事に注意を払っていない。


通り過ぎる人々を目で追いながら、私は混乱していた。





何故?

  どうして皆気にしていない?

 気付いていないのか?

         誰も気付かなかっただと?

   そんな馬鹿な!?

 人がぶつかったんだぞ!?

         衝撃があったはずだ!

そうだ!運転士、運転士は見てる。




よろよろとした足で先頭車両まで近付いた私に、運転士が声をかけた。



「どうかなさいましたか?」


「ひ、ひと、人が」




「……は?」



私のたどたどしい物言いに首をひねる。


言葉を上手く出せず、慌てた私はそのまま車両の正面を急いで覗いた。



血、血が、びしゃりと潰れた……潰れてついた血が……











……無い。




「危ないですよ、下がって下さい」



そんな馬鹿な……





♪♪♪♪~……

「回送列車が出発します。危険ですので白線の後ろまでお下がり下さい」

 ♪♪♪♪~。




警笛と共に列車が元来た線路を戻っていく。


その姿を見送り、呆然とした私はどさりとベンチに腰をおろした。





……いったい、なんだったんだ?




確かに人影が飛び込むのをこの目で見た。


しかし……血塗れになったはずの正面には何の痕跡も見当たらなかった。


あれはいったい……





人影が立っていた暗がりを見る。うなじから背中までぞわぞわとした感覚に突き動かされ、私はプラットホームの端へふらふらと近寄った。


先程人影がいたとおぼしき場所に向かう。




あれは何かの見間違いか……それとも夢、悪夢を見たのか?疲れのせいでいつの間にか居眠りをしてそれで……



そう信じたかったのだ。

そんな事は実際に起きてなどいない。

その証拠が欲しかった。



あの人影が立っていた場所まで5m……





あと3m……







1m……









…………指?




ゆ、指、指が、四つの指が、ホームの縁を掴んでいる!?──崖から這い上がろうとする様に!地獄の底から這い出そうとする様に!



四本の指がコンクリートのホームに爪を立てて、身体を持ち上げようと指の関節に力が入るのが見える!


だ、誰が?

いる訳がない!

今列車が通ったんだぞ!?

ホームの下にいられるはずが無い!




だが、

  力を込めた指が、

   身体を持ち上げる様に、


ゆっくりと、

    黒い頭が、


   ゆっくりと、

       べっとりとした赤黒い頭が、


 ゆっくりと、

     赤黒く濡れた頭が、


ゆっくりと、


    ゆっくりと、

        ホームの縁から、








ゆっくりと、

せり上がってくる!



頭の丸みが少しづつせり上がり、額が現れ、そして……










見開いた目が私を見た。





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― 新着の感想 ―
[良い点] にええええっ!! しまった!夜に読んじゃったー!!(。≧Д≦。)
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