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翌日


駅舎を出ると全身に夏が照りつけてきた。



プラットホームと違いからりと乾いた風をわずかに感じる。


広めにとられた駅前の駐車場には車の影一つ無く、陽にさらされたアスファルトから焦げた様な臭いが昇っていた。





 みーーん、

     みん、

      みん、

     みん、

      みん、

     みんみんみんみん、


          っみぃいぃーー……




蝉の鳴き声が暑さを更に強めた。聴いているだけで汗が噴き出してくる。



桜の咲き始めの頃は真っ暗になっていた時間なのだが、まだ陽は高い。


駅舎と線路の辺りには住宅が無く、鉄道の騒音を和らげる目的で桜が列をなして植樹されている。


開発関係者もまさかミンミンゼミが桜を好むなどとは思わなかったらしい。春の景色が終わり緑が濃くなると、この辺りは蝉のせいで列車の通過音より騒がしくなった。



暑さとわずらわしさで足が止まり、陽射しに手をかざしながら空を見上げる。




やれやれ、雲一つ無い。




駐輪場から自分の自転車を出し、飲み干したコーヒー缶をゴミ箱に放ると、私は立ち漕ぎで家路についた。







けたたましい目覚ましに起こされ、窓の外を眺めれば雨。


昨日の暑さが嘘の様だ。山の天気は変わりやすい、と謂うが雨傘岳あまがさたけを間近に臨むこのニュータウンは天候の変化が大きい様に思う。



駅までは歩きだな、と早めに玄関を出た。


空一面を覆う重い雲から降りそそぐ雨が、家々の屋根を叩き、通りの側溝を流れていく。


勢いは強くないものの、それでも雨は傘をさす私の膝から下を濡らし、昨日の蝉達を黙らせていた。







駅舎に着くと改札口の前に人だかりが出来ていた。



私と同じ勤め人達に、制服に身を包んだ学生達。


同じ新興住宅地の住人、同じ列車を毎日利用する者達だ。お互い名前は知らなくとも、皆一度くらいは見覚えがある。



改札口の前には数人の駅員が通せんぼをする様に立ち、彼等の肩越しに見えるプラットホームには……






……警官?


駅員とはあきらかに違う制服を着た者達がいた。



その中には駅員も何人かいて、警官と何か話し合っている様子だが、向こう側の声は聞き取れない。


それは列車を待つ人々がざわついているからだった。皆改札口を通る事も出来ず、何の説明も無いせいで苛立ちと不安がつのっている。


知り合いと言葉を交わす者、スマホで何処かへ連絡を入れる者……



そのなかに、何度か顔を合わせた事のある中年男性がいた。


軽く会釈を交わすと何があったのか尋ねてみる。



「ぃやあ、ちっと分からんのですがね?電車が動かんのですわ」



どうも二~三本前の便から動いていないらしい。



「駅員に訊いても『お待ち下さい』ばっかでねぇ」



と、プラットホームから一人の駅員が走ってきて、通せんぼをしている駅員達と話し始めた。



「あ、昨日の駅員さんじゃん」



女子高生の一人が目敏く気付く。



「皆様、お待たせして申し訳ございません。不慮の事故が発生しまして、現在やむなく運行を見合わせしております」



制服にかかった雨を拭いもせず、あの若い駅員が頭を下げる。



「事故ってなんだい?土砂崩れか何かかい?」


「いえ、それは……。えー、ただいま代替のバスがこちらに向かっておりましてぇ。もう少々お待ち下さい」



誰かが発した質問に答えを濁し、彼はまた頭を下げた。



「今日中の復旧は無理ですか?」


「いえ、間もなく復旧される見通しですが、代替バスの到着とどちらが先かは分かりかねます」



ご迷惑をおかけします。そう云って駅員は三度頭を下げた。






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