最上級の一夜
一泊すると決めて、向かったのは宿の3階。港を一望出来るベランダのある白木造りの部屋だった。
ベッドは二つで俺とアリスの部屋、同じ3階にある一室がクレオ、もう一室がアンドレアとジーノの部屋ということになり……俺とアリスは、ベランダに置かれた椅子に腰掛け、港の方を見やりながらクレオ達が帰ってくるのをぼぉっと待っていた。
「結構良い部屋だねー」
そんな中、ぼつりとアリスがそんなことを言ってくる。
「ま、最上級らしいからな」
と、俺がそう返すとアリスは、ベランダに飾ってあった鉢植えを指差して小さく笑う。
「確かに最上級かもね、見てよあの赤い花の鉢植え。
値札がついたままになってる。私達が泊まるってなって慌てて花屋さんに買いに行ってそのまま飾ったんだろうね」
言われるがままに鉢植えを見て、500リブラとの値札を見て、ぶはっと吹き出した俺が部屋の中へと視線をやると、部屋のあちこちにも慌てて買ったらしい家具やら絵画やらの姿があり……俺は何をやってるんだろうかなぁと、ため息を吐き出してから声を上げる。
「一泊程度の客のために、こんなに買い物をして黒字になるのか……?」
「アレじゃない? 勲章持ちが泊まった最上級の部屋って感じで、これから売り出すつもりなんじゃない?
今日の買い物は初期投資、すぐに取り返せるだろうって感じで。
……そうなるときっと、食事とかも気合の入った内容になってそうだね」
「あー……そうかもなぁ。
それならきっと良い食事が……っと、クレオ達も来たようだな。
アリス、出迎えに行くぞ」
「はーい」
と、そんな会話をし、海の向こうから飛来する飛行艇を見やりながら立ち上がった俺達は、小走りで部屋を出て宿を出て港へと向かい……クレオ達が整備工場の連中に飛行艇を預けるのを待ってから、桟橋にてクレオ達を出迎える。
「クレオ、現場はあれからどうなった?」
出迎えるなり俺がそう言うと、苦い顔をしたクレオが言葉を返してくる。
「……まー、なるようになったって感じですね。
とりあえず船員、乗客の救助は完了。
神官達も救助されたんですが……ラゴスさん達にフレアガンを撃った連中は回収船に乗り合わせてた警察官が現行犯ってことで即逮捕。
航空法違反で厳罰ってことになるそうで……特にあの神官にフレアガンを直撃させたのは事が殺人未遂ですから、かなりの厳罰になるんじゃないかって話です。
救助船はこのまま本土近くの大病院のある島に行くそうで……警察官も同船し、逮捕した連中をその島の警察署まで連行するそうです」
「罠を警戒して頼んだ話だったが、まさかこんなことになるとはなぁ。
あぁー、くっそ……神官達と揉めたとなると、面倒なことになりそうだなぁ」
クレオの言葉にそう返した俺がガシガシと頭をかいていると、アンドレアとジーノがなんとも言えない表情をし、似たような表情をしたクレオが言葉を続けてくる。
「その神官達についてなのですが、内輪揉めっていうかなんていうか、逮捕された連中を擁護する派閥と、批判する派閥に分かれて救助船内で揉め続けているようですね。
救助船のデッキでそれはもう酷い揉め方をしていたものですから……空からその様子が丸見えでしたよ。
見た感じ擁護派の方が劣勢と言いますか、人数が少なかったですから……もしかしたらラゴスさんが想像しているような面倒なことにはならないかもしれませんね」
その言葉を受けて俺とアリスは、驚きながらお互いの顔を見合い……そんなこともあるんだなぁと、なんとも言えない表情をする。
そうして出来ることならそうなって欲しいと……俺達の方に矛先が向かないままでいて欲しいと祈りながら俺達は、兎にも角にもとクレオ達を宿まで……最上級の部屋まで案内するのだった。
その日の夜。
宿の1階にある食堂で俺達が最上級の……まぁまぁ普通に美味い、文句の付け所はないんだが、自分で作った方が余程に美味いかもしれないディナーを楽しんでいると、白衣白髪白ひげの、メガネをかけた細面のおっさんが食堂の窓から顔を突っ込んでくる。
「おーう、アンタらがあの子を助けたって空飛びかね」
空飛び。
飛行艇乗りのことを指しているのだろうかと首を傾げつつ……俺が代表する形で言葉を返す。
「飛行艇乗りなら俺達のことだが、アンタは……もしかして医者か?」
あの子を助けたという言葉と、おっさんが身にまとっている白衣からそうじゃないかと考えた俺がそう問いかけると、おっさんはこくりと頷いてから言葉を返してくる。
「そうそう、この島一番の医者だよ。
……あの子の容体、気になってるだろうと思ってね、報告に来てやったんだよ。
とりあえずあの子は無事だよ、分厚い神官服を着てたのと、すぐ海に飛び込んだのもあって、火傷は軽傷……跡も残らないだろうね。
フレアガンの燃焼剤と、煙を思いっきりに吸い込んじゃって、それで気を失ってたけど、そっちもまぁまぁ問題無し。
しばらく安静にしてたら問題ないだろうね」
「そうか……まぁ、軽傷ってなら何よりだ」
おっさんの言葉に俺がそう返し、アリスとクレオ、アンドレアとジーノも似たような言葉で続き……そうして俺達が良かった良かったと笑い合いながら食事を再開させようとすると……おっさんが何故だか、更にぐいと顔と突き出しながら言葉を続けてくる。
「それだけかい? 他に言うことはないのかい?」
「他……? 他ってなんだよ……?
……さては治療費か? 流石にそれは神殿かそいつ本人に請求してくれよ、こっちによこすのは筋違いにも程があるぞ」
おっさんの言葉を受けて、俺がそう返すと、おっさんは渋い顔をし……その顔をくしゃくしゃにしながらため息を吐き出し「そうかい」とそれだけを言って立ち去っていく。
その姿を見送った俺達は、食事の手を進めながら……あのおっさんは一体何が言いたかったのだろうかと、首を傾げるのだった。
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