光
グレアスに今回の仕事の件の話をした所、ことが人命救助だからと警察から一人、人員を貸し出してくれることになった。
その一人が回収船に同乗し、連中が変な罠を仕掛けないよう、後々になって難癖つけないように見張ってくれるという訳だ。
軍人のクレオがいる上に警察の証人がいるとなったら、いくら連中が巧妙な罠を張ろうとも無駄になるだろうということになり……そうして準備を整えた俺達は、翌日。
一緒に来てくれると言ってくれたアンドレアとジーノと共に遭難現場である群島海域に向かって飛び立ったのだった。
本土の方角へと真っ直ぐに二時間程の飛行、座礁した大型船が目印になるとのことなので、まずは目的座標付近まで雑に飛んでいって……大体ここら辺だろうという所まで来たなら、回収船から離れすぎないよう気をつけながら高度を下げて目を皿にしながら、ゆっくりと飛んでいく。
ちなみに人命救助に関しては俺達はノータッチだ。
あくまでその周囲にいるワイバーン達を落とし、救助できる環境を整えることが仕事になる。
救助船の方は俺達が仕事を受けたとの連絡を受けて近場で待機しているとのことなので、ワイバーンをなんとかさえすれば、すぐに救助活動を始めてくれることだろう。
『あ、見えた見えた、2時の方向……この角度だと島の陰に隠れてちょっとしか見えないけど、大型船の先端が……ほらほら、あそこあそこ』
ゆっくりと空を飛んでいると、アリスがそう声を上げて……すぐさま確認の為に旋回した俺は、小さな孤島の側で傾いている座礁船の姿を確認する。
座礁ってことはあの辺りに暗礁があるってことか……。
というかあんなデカイ図体でこんな群島海域に入り込むんじゃねぇよ。
「俺達が見つけたってことは皆も見つけているんだろうが、それでも一応『発見』の光信号を頼む。
予定通りアンドレアとジーノは回収船と座礁船の護衛、俺達とクレオでワイバーンを駆除するぞ」
俺がそう返すとアリスはすぐに『了解!』との返事をくれて光信号もすぐに放ってくれたのだろう、付近を飛んでいたクレオ達がエンジンを唸らせて、それぞれの動きを取り始める。
アンドレアとジーノは座礁船の側を飛び、俺達は高度を上げてワイバーン達を探す……が、孤島から離れた位置にあるどの島を見ても、ワイバーン達の姿は見当たらない。
「……木の陰とかに隠れてるってことも無くはないんだろうがなぁ。
そんなに大きい島ではないし、縄張りを作れる程のワイバーンがいるんだろうかなぁ……。
やっぱりこれ、罠じゃねぇのか」
そんなことを言いながら周辺の島の上空を一つ一つ確かめるように飛んでいると……ある島の木々が揺れて、そこから5匹のワイバーンが飛び出してきて、座礁船の方へと一直線に飛んでいく。
「おお!? マジで隠れてやがった!?
ワイバーンのくせに、こんなことを考える頭があるのか!?」
『言ってないで、ほらほら、早く旋回!!』
アリスとそんな会話をしながら慌てて機体を旋回させ、ワイバーン達の方へと機首を向ける。
座礁船の護衛についたアンドレアとジーノがなんとかしてくれるはずだが……5匹となると少しばかり数が多い、撃ち漏らすこともあるかもしれないと兎に角急ぐ。
そうして俺とクレオが座礁船の方へと向かう中、アンドレアとジーノが戦闘を開始し……早速2匹のワイバーンが血しぶきを上げながら海へと落下していく。
すぐさま反応し、迫るワイバーン達を見事に迎撃してみせたアンドレアとジーノ。
その腕に怯んだのか、座礁船へと一直線に向かっていたワイバーン達が動きを鈍らせる中、俺達とクレオの飛行艇が真上から一気に迫り……銃弾をばらまきながらワイバーン達のすぐ側を通り過ぎ、そうしてから機首を上げて機体を並行にし、海面スレスレを滑るようにして飛んでいく。
「何匹落とせた!?」
再度高度を上げながらの俺の声に、すぐさま後方を確認していたアリスが、
『2!』
との報告をしてくる。
3匹落とせなかったかと舌打ちするが、すぐにアンドレアとジーノの機関銃が唸り……周囲に凄まじいワイバーンの断末魔が響き渡る。
どうやら最後の一匹を落としてくれたようだ。
「これで5だが……アリス、一応索敵をしよう」
『うん、今してる……って6時に敵! 数は5以上!!』
また木の陰に隠れていやがったのかと再度の舌打ちをしながら慌てて戦闘態勢を取る。
まさかまた木の陰に隠れていやがったのか? ここらの島全ての島にそうやって隠れているのか?
そんなことを考えながら機首をアリスの示した方角へと向けて……機関銃のトリガーをぐっと押し込む。
『3時からも敵影! 私も応戦するよ!!』
直後聞こえてくるアリスの声。
数を数える余裕もないらしく、すぐさま後部銃座から銃撃音が響いてくる。
クレオもアンドレアもジーノも、トリガーを押し込みっぱなしなのだろう、四方から銃撃音が響いてきて……一体ワイバーンが何匹居るのか、今何処を飛んでいるのか……どの方向に海面があるのかすらも見失いそうになりながら、懸命に空を飛び続ける。
上も下も右も左も、何処を向いても敵がいるようで……それでも海面に落ちないように、味方を撃ってしまわないように、目を見開いてスコープを覗き込み、限界まで神経を尖らせ、歯をぐっと噛み込んでトリガーを押し込み続ける。
―――と、その時だった。
突然正面に凄まじい光が迸る。
俺は慌てて目を瞑り、左手で操縦桿を握り、右手でその光を少しでも遮ろうとしながら、通信機に向けて大声で叫ぶ。
「海はどっちだ!」
何も見えない、光しか見えない、方向が分からない、何処に向かっているのかが分からない。
このままでは海に突っ込んでしまうと、恐怖しながらそう叫ぶとすかさずアリスが、
『真下! 高度を下げないでまっすぐ飛べば大丈夫!』
と、返してくれる。
何も見えないが、突然の光に目がやられたままだが、それでもアリスを信じて真っ直ぐに飛んでいると……段々と視界が戻ってくる。
正面に見えるのは空。ワイバーンの姿は何処にもいない。
銃撃音が聞こえてくるのは後方で……どうやら俺は今、全速力で戦闘海域から離れてしまっているようだと気付いて、高度を上げながらの旋回行動を取る。
「今の光はなんだ!?
ワイバーンが何かしたのか!?」
高度を上げて上げて、速度を落としながら旋回して、座礁船とワイバーンと戦っているクレオ達を正面に捉えながらそう声を上げる。
『私は正面を見てなかったからよくわかんない。
気付いたらなんかすごい光が……って、ああ!!』
アリスが悲鳴のような声を上げる。
それとほぼ同時に俺は光の正体を悟る。
座礁船のデッキ……神官服姿の連中が、こちらに向けて、はるか上空にいる俺達に向けて何発も何発もフレアガンを撃ってきているのだ。
よりにもよって戦闘中に、俺達だけに狙いを定めて、この目立つ単葉機を……俺だけが持っている単葉機を目掛けて、何発も何発も。
たかがフレアガンでは、今の高度にはとても届かないのだが、それでも連中は懸命に、大きく口を開けて何かを叫びながらフレアガンを撃っている。
その姿を見た瞬間、身体中の血液が煮え立ったかのような錯覚を覚えて、座礁船めがけてトリガーを押し込みたくなってしまうが……ぐっと堪えて、連中なんかのために犯罪者になりたくないとぐっと堪えて、そんな連中を見なくて良いように、方向転換し、戦場へと機首を向ける。
『……何なのあれ、信じらんない……』
そんなアリスの呟きを耳にしながら俺は、とにかく今はワイバーンを落とそうと、ぐっと操縦桿を握り直すのだった。
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次回、因果応報的な




