屋敷の秘密 その2
ルチアがやってきて、本格的に屋敷での生活が始まり……今日で三日。
特にこれといった仕事もなく騒動もなく、俺は暇を持て余す日々を過ごしていた。
今まで俺が担当していた毎日の家事、その全てがルチアの仕事になったことにより、一気にやることがなくなってしまったのだ。
仕事がなければやることが無いというのはクレオも一緒なのだが、クレオは最近あのハイエナ達関連で忙しくしていて……結果、暇を持て余しているのは俺だけという有様になっている。
もちろんただ暇を持て余しているだけではなく、自分なりに飛行艇の勉強をしようとしたり、ルチアの仕事を手伝おうとしたりしていたのだが……勉強は座学だけではなんとも上達が実感出来ず、実感出来ないからこそ集中出来ず……そして手伝いのほうは、
『お金を頂いているのですからお手伝い不要です!
アタシがきっちりやります!』
と、そんな言葉でルチアに拒否されてしまっている。
実際ルチアは大したもので、こんなに広い屋敷の掃除と、洗濯、料理をほぼ完璧にこなしていて……そうしながら余った時間にアリスと一緒に遊んだり、クレオとオシャレについて語り合ったり、町に遊びに出かけたりしているのだからなんとも凄まじい。
屋敷の掃除は全ての部屋ではなく、使用している部屋だけ、面倒な場所……外壁や屋根は業者に任せるからやらなくて良いとはしているものの、それにしたって廊下や寝室、食堂に風呂と掃除すべき場所はかなりの数があるというのに、全く苦にもせずこなしているのだから、本当に頭が下がる思いだ。
本人からすると、使用人としては破格と言って良い給料を貰えるのだからこのくらいは、とのことらしいが……それにしたってなぁ。
もちろん料理の腕も抜群で、同じ材料で同じ料理を作っているのに、俺とは比べ物にならない味のものを作り出すことが出来る。
『ラゴスさんの料理は、使うハーブも分量も問題ないんですけど、順番とかタイミングがちょっとだけ問題ですね。
ちゃんとハーブがどういう味で、どういう目的でいれられるもので、どういう結果をもたらすのか頭に入れて、自分なりのタイミングを作り出さないと駄目ですよ』
そんなことを気にしているのはプロの料理人だけだろうと思っていたのだが、ルチアによると割と何処の家庭でも当たり前に気をつけていることであるらしく……実際にやってみせられた上に、とんでもなく美味い一皿を出されてしまったら、もう返す言葉もなかった。
その上ルチアはアリスともクレオとも仲が良く……たったの三日で昔からの親友かと思う程に仲良くなっていて……いや、うん、本当にすごいなあの子は。
使用人としては間違いなく大当たり、グレアスの親戚というメリットもある上に、アリスとも友達になってくれた。
不満点は一つも無し、理想の使用人。
あのグレアスの姪っ子ということで、変な性格だったらどうしようという不安も僅かながらあった訳だが、今となってはそれも杞憂に終わった。
「……ああ、でも手伝いをさせてくれないのはちょっとした不満かもなぁ。
家事の手伝いでもしてないと暇過ぎるんだよなぁ……」
なんて独り言を呟きながら、寝室に備え付けてあった執務机の椅子をぎしりと鳴らす。
ベッドにクローゼット、チェストに鏡台に、机に椅子に本棚。
それらは最初から屋敷に備え付けてあったもので……そうした家具があったおかげで新たな生活に移行するのはとても簡単だった。
どれもこれも上等な作りで、上等な木材が使われていて……本当にこの屋敷がたった500万で良いのかと、購入した今でも疑わしい気持ちが湧き上がってくる。
と、そんなことを考えて集中を乱し、机の本立てにかけていた教本を読む気力を失った俺は……大きく両手を振り上げて、椅子にもたれかかりながら背中をぐいと伸ばし……ため息を吐き出してそのままだらんと、脱力した両腕を下に垂らす。
「あー……暇だ……」
そんなことを呟いて椅子をギシギシと鳴らし、窓から吹き込んでくる風を感じながら何度も何度も鳴らして……そんな風にどうしようもない時間を過ごしていると、部屋のドアがノックされて、
「あの、少しよろしいでしょうか?」
とのルチアの声が響いてくる。
「どうぞ、入っていいよ」
そう言葉を返すとドアを開かれ、ルチアがきびきびとした動きで部屋の中に入ってきて、
「あの……書庫の掃除をしていましたら、その、変な仕掛けを発見しまして……」
と、何故だか申し訳無さそうに報告してくる。
書庫、とは名ばかりの、空の本棚が並ぶ一室。
そこは本棚全てを埋めようと思ったら、とんでもない金がかかるぞという規模のもので……使う予定はないから掃除しなくて良いと言ってあったんだが、どうやら時間が余ったからと、気を利かせて掃除をしようとしてくれたようだ。
「仕掛け……?
どんな仕掛けなんだ? 冷房……じゃぁないよな。
書庫の冷房もしっかりと確認したはずだし……」
「はい、冷房のではなく……その、本棚の一部が動くようでして、その裏に小部屋が……」
「小部屋? 中に入って確認はしたのか?」
「はい、本当に小さな小部屋で、机と椅子があるくらい……だったんですが……。
机の上と言いますか、壁に埋め込む感じと言いますか、大きな機械があって、その確認をして頂きたく……」
とのルチアの言葉を受けて、俺はすぐさま立ち上がり、ルチアに「分かった」と返す。
ちょうど暇だったし、機械なら俺の専門だし。
と、そんな理由で俺は、少しワクワクとしながら書庫の方へと足を進めていく。
本棚に仕掛けがあって、その上秘密の小部屋なんて映画みたいで面白いじゃないかと足早になり……ほぼ駆け足になって書庫へ向かい、本棚が整然と並ぶ書庫の最奥……空の本棚が、他の本棚の後ろに回り込むように移動している一帯へと足を進める。
「確かに本棚の裏側は見ようと思っても見えないもんだが……よくもまぁ、本棚の後ろに本棚をスライドさせるなんて面倒な仕掛けを作ったもんだな。
もう少し簡単な仕掛けがあっただろうに……」
なんてことを呟きながら本棚を触り、床に埋め込まれたレールを確認し……本棚の背後に隠されていた小部屋へと足を進める。
ここは管理していた人も存在を知らなかったのだろう、埃がたっぷりと積もった小さな小部屋には……いくつものスイッチがついた複雑な作りの、縦横1m程の大きさの機械があり……それを見た俺は、首をぐいと傾げる。
「無線通信機だよな、これ。
……外にアンテナなんかあったか?
それとも何処かにあるアンテナと有線で繋がってるとかか?
無線ってことは島外との連絡用なんだろうが……どっかのお偉いさんの愛人の屋敷になんだってそんなものが?」
首を傾げながら俺がそんなことを言うと、いつの間にやら俺の側にやってきていたルチアが「こ、怖い」とそんなことを呟いて、俺の服の端っこをぐいと掴んでくる。
通信機が怖いというよりも、何故ここに通信機があるのかその理由が分からないことが怖いと、そう言っているようで……俺はルチアを安心させるためにも、疑問を解消するためにも、設置された目的を探ろうと通信機のことを、そこから伸びる配線の先を調べ始めるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回謎判明……そう大した内容ではないです。




