屋敷の秘密
屋敷に引っ越し、一晩を過ごして翌日。
俺達は屋敷を掃除し、荷物を片付け、必要なものを買い出し、屋敷内を整えていった。
寝室は2階にあり、1階はキッチンやリビング、応接間に風呂やトイレなどがあって……使用人の為なのか離れなんかもあって、裏手には倉庫や地下食料庫までがあるようだ。
流石に食料庫を使うような用事は無いと思うが、それでも一応掃除し……ガスや電気など、生活に欠かせないライフラインは管理していた人がいつでも使えるようにと手配してくれていたのでわざわざ確認をする必要もなかったのだが……それでも念の為に問題なく使えるか、一つ一つをチェックしていく。
屋敷内の電灯、庭の電灯、玄関の電灯。
キッチンのガスコンロに湯沸かし器に、風呂周りは特に念入りに。
そうやって俺が屋敷の中を確認していると、リビングの飾り付けをしていたアリスとクレオが廊下に顔を覗かせて、声をかけてくる。
「ねーねー、ラゴス、変な機械があるよ。箱みたいな」
「自分も見たことない機械で……一体これが何なのか確認していただけませんか?」
リビングにそんな機械あったか? と、首を傾げながら踵を返し、リビングへと向かうと……敷き詰められた絨毯と、飾り天井と飾り壁が見事な、だだっ広いリビングが俺を出迎えてくれる。
元我が家にあったソファと椅子とテーブルを置いても、まだまだ空間が余る、ダンスホールかと思うその空間の、壁際……というか壁の中にその機械は置かれていた。
「ああ……スライド式の壁で機械を隠していたのか。
わざわざそんなことしてまで設置する機械ってなんだって……うお!? マジか、水冷式か!」
そう言って俺は、機械に駆け寄り、膝を床に突いて手を触れて……初めて目にする、本と映画の中でしか見たことのない機械に食いつく。
「……水源は地下水……この感じだとかなり近く深くから吸い上げてるみたいだな。
水垢が怖いが……まぁ、そこら辺は部品の交換で対処するのか。
整備はされて……いるな、部品もどれも新しい……まぁ、新しいも何も殆ど使われてないんだろうが……。
ってことはこれ……スイッチさえ入れたら動くのか……マジか」
白く四角い本体の蓋をぐいと開けて、その中にあったのは、熱交換器と空気を吸い込むファンと送り出すファンなどで。
それらをじっと観察していると……アリスとクレオが「それは一体何なのか教えてくれ」と、そんな視線を送ってきて……俺は蓋をそっと閉じながら言葉を返す。
「冷房だよ、冷房。
王都暮らしのクレオなら、見たことくらいあるんじゃないか?」
その言葉に対しアリスが何のことやらと首を傾げる中、クレオは目を輝かせながら言葉を返してくる。
「い、いやいやいや、見たことなんてとてもとても……。
っていうかこれ、本当にあの冷房なんですか!?
お、お金持ちしか持てないっていう、あの伝説の!?」
「伝説って……そこまでのもんじゃないだろ。
飛行艇にだってエンジンを冷やすための空冷式の仕掛けがある訳だし……」
「あ、あんなのと、ただ風を取り込んでるだけのと一緒にしないでくださいよ!?
こ、こ、こ、これ動くんですか? 動いちゃうんですか?」
「見たところ問題なく動くようだな。
ポンプの確認をする必要があるが……んん? この排水管の配置を見た感じ、多分だがこれが設置してあるの、この部屋だけじゃないぞ?
1階の他の部屋と……2階の寝室にもあるんじゃないか……?」
そう言って俺は、冷房の背後から伸びる排水管へと視線をやる。
熱交換を終えた水を吐き出すそれは、当然屋敷の外へと繋がっている訳だが……その途中で、何処からか伸びてきた排水管が合流しているようで……合流しているということはつまり、まぁ、そういうことなのだろう。
俺は早速立ち上がり、他の冷房とポンプの確認をしようとするが……クレオがそんな俺の肩をぐいと掴んでくる。
「か、確認の前に、一回動かしましょうよ!
どれだけの効果があるのか、体感してみないと……!」
「いやいやいやいや、逆だ逆! 順番が逆だ!
まずは確認! せめてポンプの確認を終えてからじゃないと、怖くて動かせねぇよ!!
多分屋外にあると思うんだが……さっきぐるっと回って確認したときに見当たらなかったってことは、ここと同じ感じで、何処かに隠してあるんだろうな。
雨ざらしってことはないだろうから……倉庫か、食料庫辺りじゃないかな」
と、逸るクレオにそう言って俺は、一端リビングを出て屋敷を出て、ポンプがどこにあるかの確認をする。
すると屋敷の裏手に、よく見たら分かる取っ手のついた壁に偽装された開き戸があり……その奥に、電動式の、随分とご立派な作りの汲み上げポンプの姿がある。
それもしっかりと整備されていて、いつでも使えるように整えられていて……ポンプが問題なく動くことを確認した俺は、早速動かしてみるかとリビングへと駆け戻る。
そうして待ちきれないといったクレオをどうにか抑え込みながら、尚も首を傾げているアリスに「すぐに分かる」と声をかけ……冷房のスイッチをONにする。
すると電動モーターの駆動音が唸り声のように響いてきて、給水管を通る水の音が響いてきて……壁の中に仕込まれた冷房が唸り声を上げて、そのファンを回転させ始める。
「……なんか、全然冷えませんね?」
「いや、そんなすぐに効果があるもんじゃぁないだろ。そもそも今は真夏って訳じゃぁないしなぁ」
と、クレオと俺がそんな会話をしていると、首を傾げているのにも飽きたとアリスが近づいてきて……冷房の排気口を覗き込み……そして、
「うわっ、空気が冷たいっ!!
えっ!? これ、冷蔵庫!?」
と、声を上げる。
その声を受けて俺とクレオは、確かに水冷式の冷蔵庫と同じ理屈だけどもと、思わず笑い声を上げてしまうのだった。
お読み頂きありがとうございました。
もうしばらく屋敷の日々が続きます。




