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汝ウサギなれど鷹が如く  作者: ふーろう/風楼


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ハイエナ狩り


 アリスがとんでもない腕を披露してくれた日から三日が経った。


 その間、俺とアリスは、適当な練習を繰り返す姿を見兼ねてクレオが作ってくれた練習スケジュールに従って飛行艇と機関銃の練習をし、アンドレアとジーノはレストアした飛行艇の慣らしと、これまたクレオに従っての練習をし……そうしてクレオは練習の方はほどほどにしてハイエナ連中の情報収集に徹してくれた。


 今回は流石に度が過ぎているということもあり、クレオだけでなく軍の方も本腰を入れて情報収集に動いてくれたようで……三日という短い期間ながら、かなりの質の情報が手に入ることになった。


 それによると今回やらかしてくれたハイエナ共は、あの化け物ワイバーンが出た島から逃げ出した賞金稼ぎ連中と、何処かの島で息巻いていたしょうもない小悪党共が合流した結果生まれた徒党であるらしい。


 拠点を捨てて逃げ出し、賞金稼ぎとしての信用を失い、飛行艇はあるものの稼ぎようのない連中と、島という狭い世界で燻っていた馬鹿共が出会い、協力し合い、補給拠点と隠れ家を得てのハイエナ行為。


 後先考えてないというかなんというか……兎に角暴れてやろう、兎に角稼いでやろうと暴走した結果が、生き残った者は僅かという惨劇という訳だ。


 戦力としては飛行艇が6機、小悪党共が数十人で……連中の隠れ家は既に軍が調べ上げてくれている。

 

 隠れ家が判明しているなら軍に任せてしまうというのも一つの手だったが、軍が来るまでは数週間はかかるそうで……そんなには待っていられないだろう。


 という訳で俺達はハイエナ共の6機の飛行艇を狩るという仕事を、正式に受けたのだった。


 飛行艇さえ落とせば、小悪党共に関してはグレアスがなんとかしてくれるとのことで……そちらは気にせず、兎に角飛行艇だけを狩れば良いという訳だ。


 国が連中にかけた賞金は1機100万で600万。ベルガマスからの依頼料が50万と燃料代と弾代。


 ベルガマスからの依頼料は正直言って、相場よりも少ない方だったが……賞金がそれだけ出てくれるなら全く問題は無い。


 問題があるとすればあくまで賞金は賞金なので、誰かに先を越されてしまったら貰えないという点であり……そういう訳で本日早朝、他に先を越されないようにと俺達は、早速連中の隠れ家へと出立したのだった。


 4対6で不利なように思えるが……連中の6機は全て旧型、こちらは規格外の最新機と、軍の最新機と、最新のエンジンと機関銃を積んだレストア機。


 質においては完全に有利だと言えて……油断をする訳じゃないが、まず問題なく勝てる相手だろうと踏んでいる。


「……無抵抗な回収船の船乗りまで殺す卑怯者共だ、負ける訳にはいかないよな……」


 連中の隠れ家へと向かって真っ直ぐに進む編隊の先頭をいきながらそんなことを呟くと、通信機の向こうからアリスが声を返してくる。


『意気込むのは良いけど慎重にね。

 ワイバーンとは違って賢い相手なんだから、油断は無しだよ』


「……ああ、分かってる。

 被害者のためにも、これ以上被害者を出さないためにも、油断せずにきっちりと、連中を落とさないとな」


『ま、今回は私も参戦する訳だし? 余裕だろうけどね!』


 なんてことを言い合っていると、前方に目標の島が見えてくる。


 小さめの横に細長い島で……数人で住むには良いのだろうが、町なんかはまず作れないだろう離れ小島。


 そんな小島の砂浜には4機の飛行艇が停められていて……その姿を見た俺は大きなため息を吐き出す。


『ん? どうしたの? 島になんかあった?』


「……いや、見ろよ、あの飛行艇……。

 海側じゃなくて、島側に頭を向けているだろう?

 確かにあの方が停めるのは楽なんだろうが、発進する際には反転させる必要が出てくる訳で……今みたいに敵襲が来た際には、それが致命的な出遅れになるぞ」


『え? あ、ほんとだ。

 海からざばーんて突っ込んで、そのまま停めましたって感じだね。

 ロープでヤシの木と縛って固定って……凄い停め方してるなぁ』


「縛っておかないと、飛行艇を波にさらわれるだろうなぁ。

 あんな停め方じゃぁ満潮の時に酷いことになりそうだが……」


 と、俺達がそんな会話をしていると、俺達の来襲に気付いたのだろう、砂浜が慌ただしくなる。


 慌てて何人かが駆けてきて、飛行艇をどうにか発進させようと、手で押したり引っ張ったりとし始めて……それを見たアンドレアとジーノが速度を上げて、島の方へと突っ込んでいく。


『アンドレアさんから光信号、『一番槍』『貰う』『周囲』『警戒』『願う』だって』


 回収戦の護衛といった仕事を、長い間やってきた二人には特別思うことがあるのだろう……アリスに頼んで『了解』と信号を送って貰うと、それを見たのか見ていないのか、二人は更に速度を上げて……飛行艇が飛び立つどころか、海に出る前に銃弾の雨を浴びせて、砂浜の4機を打ち砕き、その勢いのまま島の向こうへと通り過ぎていく。


「……あれはもう飛べないだろうな。

 残るは2機……思ったよりも楽に終わりそうだが、残りは何処だ?

 他所で仕事中か?」


 そんなこと言いながら俺は小島の上空を旋回し……空の警戒はアリスに任せて、島の様子をじぃっと観察する。


 木の陰に隠れた簡単な造りの小屋が数件、整備工場とかそれらしい施設はなく……飛行艇乗りの隠れ家としてはとても機能しそうにない環境だ。


 一度壊れたらそれまで、まともな手入れすら不可能だろうその光景に、唖然というか呆れというか、なんともいえない想いを抱く。


 砂も海水も機械の敵で、鉄の敵で、故障の原因で……。

 俺達が出撃する度に整備工場に機体を預けているのは、そういった原因を取り除く為なんだが……この島ではどんな優秀な整備員がいたとしても、まず不可能なことだろう。


 整備しようとエンジンルームを開いたなら、砂やら何やら入り込んで状況が悪化するだけに違いない。


 と、そんなことを考えていると、俺達の上を飛んでいたクレオの機体のエンジン音が激しく唸り……ほぼ同時にアリスが大声を上げてくる。


『敵! 5時の方向! 2機じゃないよ、6・7・8……多分10!!』


 それを受けて俺は舌打ちしながら高度を上げようとする。


 クロックポジションで5時ということは左後方……それだけの数に後ろを取られた訳で、急いで敵を正面に捉える必要がある。

 どうして敵が10機も居るのかとか、そんなことを考えるのは後で良い、兎に角今は高度を―――。


『ラゴス! 慌てないで!

 高度を上げるのは良いけど、ゆっくりで良い!

 後ろは私に任せて!』


 とのアリスの声と同時に、銃座がレールの上を走る音と、機関銃の安全装置が外される音が通信機の向こうから響いてくる。

 そうして敵に狙いをつけたらしいアリスは『食らえ!』との一声を上げて、機関銃を唸らせるのだった。


お読み頂きありがとうございました。


次回ハイエナ戦です

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