VS化け物 その1
『ラゴス……一旦引くっていうのもありじゃない?
空を飛びはしたものの、あの様子を見る限りまともに動けないみたいだし……無理に私達が駆除しなくても、軍に任せるって手もあるんじゃない?』
ワイバーンの成り損ないというか、ワイバーンでは無い何かになりつつあるソレから距離を取る中で、アリスがそんなことを言ってくる。
「……どうだろうな。
軍を呼ぶとして、来てくれるまでに何日かかるか……確かに今はあのザマでまともに動けないようだが、成長してまともに動けるようになったら……大人になっちまったらどうなるかは……正直あまり考えたくないな。
下手をするとガルグイユ以上に厄介な存在となってここらを荒らし回るかもしれない。
……そしてここらの食料を食べ尽くしたなら俺達の島にまでやってくるかもしれない。
そんなことになるくらいなら、今ここで俺達がやってしまうのが最善だとは思わないか?」
と、俺が言葉を返すと、アリスは少しの間沈黙し、悩んでから……言葉を返してくる。
『あー……そっか、アレが更に成長する可能性があるんだったね。
成長して大人になって自由に空を飛べるようになったら……確かに、ガルグイユなんて目じゃないかもね』
「ガルグイユでも厄介だったのに、それ以上なんてのはゴメンだ……。
この辺りでそういった事態になればまた国から出撃してくれなんてお達しが来るんだろうしな……。
まだなんとかなりそうな状態の今のうちにやっておくべきだろう」
『うん、そだね。
ただアレだよ、無理をするのは無しだよ?
危なくなったら撤退して、グレアスさん辺りの力を借りて、戦力をかき集めての再出撃って手もあるんだから……安全に、命を大事にしていこうね』
「……ああ、死んだらバレットジャックを食えなくなっちまうからな。
ここらのバレットジャック料理は、ナターレ島の料理とはまた違うらしいぞ!」
と、そう言って俺は旋回し、再びあの化け物を視界に収める。
空にぷかりと浮かび、上下左右もなくただただデタラメに暴れながら回転し……そこら中に炎弾を吐き出す化け物。
アレに一体どう対処したものかと悩んでいると、アリスが大きな声を上げてくる。
『クレオさんから光信号! えーっと……『集中』『一つ』『首』
まずは一つの首を集中して攻撃しようってことかな? 確かにあの首が一つでも減れば楽になるもんね。
あ、また光信号! 『自分』『囮』……かな。
うん、クレオさんが囮になるって言ってるみたい!』
あの四本首相手に囮なんて意味があるのだろうかと一瞬訝しがるが……しかしこれといって良い手がないのも事実、俺はアリスに頼んでクレオに『了解』との返事をしてもらい、アンドレアとジーノに『同時』『一つ』『首』『根本』との信号を送って貰う。
するとそれを受けてクレオは、俺達の前へとぐいと進み出て……その赤い機体を煌めかせながらぐるりと回転し、何度も何度も回転しながら化け物の方へと突き進んでいって……クレオロールでの銃撃を化け物に試みる。
いくら相手が巨大だとはいえ、その数はたったの1匹。
たったの1匹が相手では横一直線の銃撃なんて効果が薄いだろうと思ったのだが……その派手な機体色と、派手な動きが化け物の目を見事なまでに惹きつけて、化け物の首四本全てがクレオのことを睨み始める。
するとクレオは、まるで蝶々かと思ってしまうような、目立つ形でのひらひらとした舞い飛び方を披露して……首達の意識を完全にひきつけ、俺達が居る方向から引き剥がす。
そうしている間も当然、炎弾が吐き出されているのだが……クレオはその全てを回避し、回避しながらも目立つ飛行をし続けて……俺達はその腕の凄まじさと、度胸のとんでもなさと、その献身に深く感謝しながら……化け物に感づかれないように少ない動きでもって近づいていって、そうして3機同時に化け物のことを射程に捉える。
狙いは一番手前の首の根本。
そこに銃弾を3機同時に叩き込み、再生力を上回る破壊力でもってその長い首をぶったぎってやると狙いを定めて……ぐいとトリガーを押し込む。
俺が発射したのを受けて、アンドレアとジーノもそれに続き、三機から放たれた銃弾が一箇所に集中していって命中し……血が吹き上がって肉がずたずたに引き裂かれる。
『ギュォォォォォ!?』
すぐさま化け物が声を上げくるが……その声は先程のそれより迫力がなく、明らかに音量が小さい。
先程のそれは4つの首からだった。
そして今回のは3つの首からで……銃弾をこれでもかと叩き込まれた首が力を失いだらりと垂れて……ぶつりと千切れて落下していく。
「良し! これでクレオも楽になるだろう!
残りの首もやっちまうぞ!」
それを見て歓声を上げた俺は……一旦機首を上げて高度を上げての旋回の態勢を取る。
……と、その時、俺達のすぐ側を3発の炎弾が凄まじい轟音を放ちながら掠める形で通り過ぎていく。
『ギュォォォォ!!』
そんな咆哮があって慌てて機体をロールさせると、更に3発。
背後を確認する余裕はないが、どうやら化け物は残り3本の首でもって俺達へと狙いをつけたようだ。
「今度は俺達が囮役か!
……アリス、舌を噛まないように気をつけろよ!!」
そう言って俺は回避行動に専念しようとトリガーから指を外して操縦桿をぐっと握り……エンジンを加速させながらの回避行動を取る。
真っ直ぐに飛んでいって距離を取ったなら安全確実な回避が出来る訳だが、それでは囮にはなれず、意味が無い。
距離を取りすぎず、化け物の周囲を旋回するような形で……3本の首から放たれる攻撃全てを回避する必要があるって訳だ。
それは言う程簡単なことではないというか、かなり難度の高いことだったが……アンドレアやジーノが狙われてしまうよりはマシだと言えて……クレオの機体をゆうに上回る、この機体の性能を活かしてやりさえすれば良いだけの話だ。
「やってやろうじゃねぇか!」
と、声を上げた俺は、気合を入れ直し、震える操縦桿をしっかりと制御しようと、握る両手に精一杯の力を込めるのだった。
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