次の仕事
一応あの後に、屋敷を管理しているという人に頼み屋敷の中を見させて貰ったが、中の造りも大したものだった。
何もかもが立派で、窓さえもが丁寧に作られていて、床も壁も今の家とは段違いに質が良く、窓を閉めれば外からの音を完全にシャットアウトしてくれる程で……長い間無人ということもあっていくらかの埃が積もっていたが、汚れも無く傷も無く、最高の状態のまましっかりとした管理がなされていた。
これはもう買うしかないだろうとなり、買うのであれば仕事をする必要があるとなり……そうして翌日、俺はアンドレアとジーノを我が家に呼び出しリビングに迎えて、アリスとクレオを同席させての作戦会議を行っていた。
「いやー! アニキの紹介してくれた店にあの子を連れて行ったら色々上手くいったし、仕事でもなんでも手伝いますよー!」
「……また声をかけていただいてありがたいです、家族の為にも雑用でもなんでもがんばります」
会議が始まるなりアンドレアとジーノがそんなことを言ってきて……俺はため息を吐き出してから言葉を返す。
「手伝いとか雑用だとか、そういった用事で呼んだんじゃぁなくて、一緒に稼ごうって話で呼んだんだよ。
……全部一人でやってしまえば良い稼ぎになるんだろうが、その分危険度も増す。
それで怪我をしたり、飛行艇を駄目にしたりするくらいなら、皆で協力して仕事をこなして、少ないながらも確実な稼ぎを得ていたほうが良い。
アンドレアとジーノはここらでの仕事が長いんだろ? その経験とかツテとか頼りにさせてもらおうと思ったんだ」
俺はまだまだ素人、クレオはよそ者な上に実戦知らず。
長い間怪我をすることなく、落とされることなくこの世界で仕事をやってきたアンドレアとジーノの方が頼りになると言っても過言では無く、二人が居てくれたら色々な面での助言や、色々な場面で力を借りることが出来るだろう。
「アンドレアさん達が居れば飛行艇は全部で4機!
またガルグイユが出ても楽々勝てちゃうかもね!!」
「良いですねー、自分もガルグイユ級のドラゴンを狩って、一旗揚げたいですね!!」
アリスとクレオがそんなことを言ってくるが……俺はそれをさらりと無視することにして、グレアスから受け取った依頼書を取り出し、テーブルの上にばさりと広げる。
「これが今の段階で俺達が受けることの出来る仕事だ。
この中から確実に成功できる仕事を選んでいこう。
依頼を失敗しても罰則金はないが……燃料と弾薬を消耗することになるからな、確実に成功出来ることが一番で、報酬に関しては二の次、赤字にならなければそれで良いくらいの感覚で選んだ方が良いかもな」
との俺の言葉に対し、ジーノが真剣な表情をしながら言葉を返してくる。
「ラゴスさん、それはよくないです。
安全を優先するにしても、報酬はしっかりと意識して出来るだけ割の良い仕事を選びましょう。
突然飛行艇が故障したり、病気で仕事が出来なくなったり……そういったトラブルはこの仕事につきものです。
金を稼いでこその仕事ですから、しっかりと稼いでいくことにして、稼げる中で比較的安全確実なのを選んでいきましょう。
そうやって稼いで貯金を増やしていくことこそがこの仕事で生き抜いていく為にもっとも大事なことなんです。
……ギリギリ黒字の仕事なんかはいっそのことを受けない方が、経済的にも精神的にも肉体的にも楽になれるはずです」
その言葉に「なるほど」と異口同音に呟いた俺とアリスが頷くと……依頼書を見ていたアンドレアがそのうちの半分程を取り除いてから声を上げる。
「ならオレからも一つ!
犯罪ギリギリとか、犯罪組織に近いようなヤバい仕事は避けていきまっしょう!
もー、そっち系はトラブルとかマジで面倒ですし、支払いとかでもほぼ100%揉めるんで、ロクなもんじゃねーです。
警察が紹介してくれただけあってどれもこれも表向きには白い仕事ばっかりですが、裏でヤバいとこに繋がってるとか、実はダミー会社だとか、そういうのも混ざっちゃってますね。
……あの署長のことだから、アニキの見る目を確かめるためにわざと混ぜた可能性もありますし、兎に角慎重に行っとくのが良いと思いまっす!」
その言葉に「なるほどなるほど」と呟いた俺とアリスは、こくりこくりと頷いて、そうしてからお互いを見合って、やっぱりこの二人を誘って正解だったなと笑みを浮かべる。
自分の手柄という訳ではないのだが、自分達が信頼し任せた人間がこうやって活躍してくれるのというのは、笑みを浮かべてしまうくらいには嬉しいことだった。
この頼りになる二人が居てくれたなら色々なことが楽になるに違いない……と、そんなことを考えながら、アンドレアが取り除かなかった残りの依頼書一枚一枚を丁寧にチェックしていく。
何処での仕事か、どんな内容の仕事か、依頼人は誰か、報酬はどのくらいか。
自分達の戦力や事情……色々なことを考慮して……さてどれにしたものかと悩んでいると、依頼書の束から適当に一枚の紙を抜き取ったクレオが、
「これなんかどうですか!」
と、その内容をロクに見ることなく声を上げる。
「おいおい、クレオ……くじ引きじゃないんだから適当なことはやめてくれよ。
そんな適当に抜き取った仕事が良い仕事な……訳が……訳がー……うん?」
クレオの声にそう返した俺は、クレオが掲げる依頼書の内容を読んでいって……そうしてその内容の良さに驚き、言葉を失う。
「どうしたのラゴス……って、うわ、ワイバーンが依頼主の住む島の近くに群れを作り、巣作りをしているから討伐してくださいだってさ。
数は10体から20体……かなり多い数だけど、ワイバーン退治なら私達が全員でかかれば、そう難しくはない仕事だよね。
そして報酬はー……ワイバーン一匹につき20万リブラ、ワイバーンの素材はすべてこっちのもの、依頼主の島で給油給弾するなら多少の経費も持ちます、だって……良くない? この仕事」
アリスがぐいと顔を突き出してきて、突き出したまま依頼書の内容を読み上げていって……そうして俺とアンドレアとジーノとクレオは全員同時に、力強くこくりと頷くのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回は次の仕事にレッツゴーの予定です。




