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汝ウサギなれど鷹が如く  作者: ふーろう/風楼


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バレットジャック


 翌日。


 遺跡を見たいと言っていた王様は、グレアスと共に遺跡に向かうことになった。

 色々話を聞きたいからと俺達にも同行して欲しかったようだが……俺達は俺達で仕事が入ってしまい、同行することは出来なかった。


「おらおらおらおらぁぁ、どんどんどんどん釣り上げろぉぉ!! 一匹も逃がすんじゃねぇぞぉぉぉ!!」


 と、そんな声が響き渡る沖合漁場が今日の仕事場だ。


 ちょうど今頃の時期、この辺りを回遊する魚、バレットジャック。


 群れでもって高速で回遊するこの魚は、雑な造りのルアーで簡単に釣れる上に大ぶりで、驚く程に美味く、栄養もあり、様々な加工食品に出来るというすぐれもので、漁師達にとってバレットジャック漁は、年に数回あるかないかの稼ぎ時だ。


 島中の船という船が船団を作って次々とバレットジャックを釣り上げていて……俺達は漁場からそれなりの距離を取った位置に飛行艇を浮かばせながら、飛行服姿で双眼鏡を手に周囲の警戒をしている。


「今日のお仕事は、のどかで暇で良い感じのお仕事だね~」


 通信機を通さずにそう言ってくるアリスに、俺は少し強めの語気で言葉を返す。


「アリス、しっかりと警戒するのも仕事のうちだ、油断するんじゃないぞ。

 美味くて栄養たっぷりのバレットジャックは、ドラゴンやワイバーンにとってもご馳走なんだ。

 そんなドラゴン達から船団を守るのが今日の仕事……しっかりと目を光らせろよ」


 本当なら空を飛んだ状態で警戒したほうが良いのだろうが、それでは無駄な燃料費がかかってしまう。

 という訳で海に飛行艇を浮かばせて……双眼鏡で周囲の空を睨み、敵を見つけ次第離水し、迎撃するというのが今日の俺達の仕事となる。


 とはいえ船団が襲撃されるなんてのは全国で年に1回あるかないかの話で……アリスの言う通り、のどかで暇な仕事だというのが正しく……稼ぎもそれなりだったりする。


 本来であればこういう仕事は、激しい仕事を苦手としているベテランの仕事になるのだが……そのベテラン達が別の仕事で出払ってしまい、ジーノもアンドレアも別の用事があるとかで、それで俺達に回ってきたという訳だ。


 太陽の光をたっぷりと浴びながら、波に揺られて、潮風を浴びて。


 漁師達の歓声やら怒声やらも気にならないこののどかさは、なんとも言えず眠気を誘ってくれて……俺は口の中で膨らもうとするあくびを必死に噛み殺しながら、双眼鏡の向こうをじっと睨み続ける。


 稼ぎが少ないとは言え仕事は仕事……それに島の生活を支えてくれている漁師達に何かがあったら大事だ。


 赤字にならないのであればそれで良し、しっかりと頑張らないとなと真っ青な空を睨んでいると……アリスが鋭く大きな声を上げてくる。


「ラゴス! 北に飛行艇! どうしよう!?」


 その声を受けてすぐさま俺も北へと双眼鏡を向ける。

 するとそこには太陽の光を反射しながら飛ぶ複葉機の姿があり……俺はどうすべきかと考え込む。


 ワイバーンやドラゴンが相手なら即離水だが……いや、空賊の可能性もあるか、何はともあれ離水して、それから対応を考えるべきだろう。


「アリス! 離水だ! エンジンを回すぞ!

 手回しライトで船団に報せろ! 『北』『空』『船』だけで良い!」


 通信機をしっかりとセットし、飛行帽を被り、ゴーグルを装着し……そうしながらの俺の声を受けて手早く飛行帽を被ったアリスが、光信号を船団へと放つ。


 光信号を長く灯し、短く灯し、その組み合わせでもって言葉を伝える光信号をアリスはしっかりとマスターしている。

 俺の指示を受けてすぐさま『北』『空』『船』を示す明滅が行われて……そうこうするうちにエンジンがスタートし、飛行艇が少しずつ速度を上げていく。


『えーっと……多分船団は、漁を続ける、こっちに任せたって言ってる。

 っていうかあの信号係の人、信号が雑! もっとしっかり明滅させてよ!!』


 そんなアリスの声を聞きながら、飛行艇を離水させた俺は高度を上げて……上げながら機体を揺らめかせ、太陽の光を反射させ、北に見える飛行艇へと自らの位置を報せる。


 真っ当な相手であるならば、このサインを受けてそれなりの……戦闘を避けるための行動を取ってくるはずだ。


 もしそういった行動を一切せずにこちらに近付いてくるなら、先制攻撃も辞さないが……。


『あ、光信号!

 えぇっと……戦闘の意思無し……軍、国軍、かな? 国軍所属。

 情報求む……? お話をしたいってことなのかな?』


 アリスが光信号を読み取りやすいようにと機体をゆっくりと安定させた状態で飛ばしてやる中、アリスはさらさらと、俺にはただの明滅にしか見えない信号を読み解いていく。


「……話をしたいってもなぁ。

 この状態で話も何も無いだろうに……。

 とりあえずアレだ、『着水』とそう伝えてくれ。

 それで相手が高度を下げたなら、こっちも下げて話とやらをするとしよう」


『はーい』


 そう言ってアリスは、手回しライトを回し始めて……それを受けてかすぐに飛行艇はその身を翻し、ゆっくりと高度を落とし始める。


 それを受けて俺も高度を落とし……一応相手のことを視界に収めながら海へと近付いていって……ゆっくりと着水する。


 するとプロペラをゆっくりと回しながら真っ赤に塗装された、木製と思われる飛行艇がこちらへとやってきて……声が届くところまで近付いてくるなりパイロットが立ち上がり、敬礼しながら大きな声を張り上げる。


「国軍所属! 飛行騎士隊、クレオ・ドルチェ少尉です!

 その特徴的な機体! ガルグイユ殺しの英雄殿とお見受けします!

 ……早速で恐縮ですが英雄殿! 陛下の所在に心当たりはございませんか!!」


 飛行服と飛行帽で隠れていたのと、それなりに距離があったのもあってそうとは分からなかったのだが、パイロットの声は女性のもので、名前も女性のそれで……俺は内心で驚きながら言葉を返す。


「あー、知ってるんだろうが俺はラゴス、後ろのはアリスだ。

 ……で、陛下ってのは、王様のことか?

 王様なら昨日、この近くの島にやってきて……今は遺跡観光をしているはずだ!」


 その言葉を受けてクレオは、遠目でも分かる程に歯噛みし……口元を歪ませ、口元だけで凄まじいまでの怒りを表現させる。


「あ、あー……島の位置を教えようか?

 俺達は船団の護衛があるからここを離れられなくてな、案内までは出来ないんだ!」

 

 そんな俺の言葉に対しクレオは、


「では、自分もその護衛に付き合いましょう!

 余計な燃料を使わせたお詫びです! 護衛が終わりましたら、案内の方をよろしくお願いします!」


 と、そんなことを言ってくる。


 あんな一瞬のこと、気にしなくても良いのにとも思ったが……何かがあった時に戦力が多いにこしたことはない。


 折角だからと、その善意に甘えることにした俺は「頼む!」と、そう返すのだった。


お読み頂きありがとうございました。


次回はクレオとの一幕です

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