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汝ウサギなれど鷹が如く  作者: ふーろう/風楼


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その後の二人


 王様が笑い出し、その笑いが止まらなくなった辺りで、俺とアリスはグレアスに「帰って良いぞ」とそう言われて、半ば追い出される形で帰宅することになった。


 どうも王様は俺が来る前からかなりの量のワインを飲んでいたようで……部屋についた時点ではかなりの飲酒量となっていたようだ。


 顔色的にはそんな気配は無かったのだが、それはそういう化粧をしているからだ、とのこと。


 男でも化粧をしなきゃいけないとは、王様っていうのも大変なんだなぁ。


「私もちょっとはお化粧をしたほうが良いのかな?」


 夕暮れの帰り道、アリスがそんなことを言ってくる。


「化粧もあれで中々大変らしいからなぁ……必要になったら、で良いんじゃないか?

 そもそも化粧をして学校にはいけないだろ?」


「あ、そっかぁ。

 んー……じゃぁ学校を卒業したら、かなぁ」


「働くようになったら、で良いと思うけどな。

 まぁ、好きにしたら良いさ。化粧の練習ならグレアスの奥さんのところにいけばさせてくれるだろう」


「あ、そっかぁ。ミランダさんに相談したら良かったんだ。

 ミランダさん、あんなにお子さんがいるとは思えないくらいに若々しいしねぇ」


 ああ、そう言えばそんな名前だったな。

 いつも奥さん奥さんと呼んでいるせいで忘れちまってたよ。


「化粧だとかオシャレだとかそういうことは、奥さんに相談するのが一番だろうな。

 何しろ俺はこの毛だからなぁ、化粧も何も無いんだよ」


「あー……そだね。

 出来て毛を染めるくらいだもんね。……カラフルな色に染めてみる?」


 そう言って俺の毛を……というか、俺の耳をじっと見つめてくるアリス。

 耳をカラフルにするのはごめんだなぁと、そんなことを考えていると、道の向こうに我が家が見えてきて……俺とアリスはそこで話を打ち切って帰宅し、飯の準備をしたり風呂の準備をしたりと、いつもの日常へと戻っていく。


 そうやって日常へと戻ったら、リビングのテーブルに作った飯、パスタを並べて席について……野菜たっぷりのパスタを食べながら今後についての話をしていく。


「正直、王様の話はスケールが大きすぎてついていけねぇって感じだったな、そんなことより俺達は足元を固めるので精一杯……何よりもまずは練習の再開だよな。

 なんだかんだあったせいで中途半端だったからしっかりとやっておこう」


「そだね。それとあれだね、私が座ってる複座にさ、銃座が欲しいかな」


「銃座……? そりゃぁまぁ、作れないこともないだろうが……」


「ほら、ガルグイユの時に私のフレアガンが活躍したじゃない?

 それを思うとさ、銃座くらいあっても良いんじゃないかなって?」


「……俺はまだあのフレアガンの一件を許してはいないんだがな?

 持っておくにしても一言くらいは言っておくべきだろうよ。

 それとあれだ、後部座席に銃座なんてつけて尾翼を撃たれたんじゃたまんないぞ?」


「撃たないよ!?

 そこまでお馬鹿じゃないよ!? 

 なら尾翼に当たりそうな位置には撃てない構造にしたら良いじゃない!! 前についてる銃だって、回転してるプロペラに当たらないように仕掛けがしてあるんでしょ!!」


「あー……そうだな。なら、そういう仕掛けも出来る、か?」


「出来るならそうしようよ!

 そしたら私も戦闘で活躍できるしー、銃が増えればそれだけ強くなるよ!」


「重量とか弾の問題もあるから、そう単純な問題でもないんだが……まぁ、上や背後を取られた時には助かるかも、な」


「そうそう、銃座が使えないような位置に敵が居る時は私のフレアガンが唸るしね!!」


「……まだ使う気なのか?

 というか、一体何発の弾を受け取ったんだ?

 ……飛行艇に乗るとき以外は、しっかりと金庫にしまっておけよ?」


 なんだかんだと実入りがあって、銀行口座の0の数もどんどんと増えて、ちょっとした小金持ちになったことにより買った金庫の番号はアリスも知っていて……アリスの日記なんかが収められていたりする。


 普段の生活の中でフレアガンなんかを振り回されたらたまったものではないから、後でしっかりとしまわせておこう。


「どうせならガンロッカーを買えば良いのに」


 頬を膨らませながらそう言ってくるアリスに、俺は顔を左右に振る。


「この島で銃が必要なことなんか起きやしねぇよ。

 この俺がこれまで死なずにこれた程に治安が良いんだ……ガンロッカーも必要ないさ」


「そっかな? 王様が変な人が狙ってるみたいなことを言ってたけど?」


「グレアスが目を光らせているうちは、この島にいるうちは安全だ。

 なんかあったら声を上げれば良い、島の誰かが助けてくれるはずさ。

 ……この島の連中は毎日毎日真面目に働いてるだけあって、誰も彼も体の造りがとんでもないからな。

 漁師も整備員も、パン職人に料理人までもが筋骨隆々で……銃があったくらいじゃぁどうにもならないさ」


 よく働き良く食って、よく騒いでよく笑って。

 この島の連中は誰もがそういう生き方をしていて……そういう生き方をしているからか、皆が皆、活力に溢れている。


 俺みたいなのがそこにいることを許してくれて、一つの事件をきっかけに受け入れてくれて。


 ……捨てられた直後に受け入れてくれなかったことに思う所が無い訳じゃぁ無いが……そういった警戒心の高さもこの島の良いところなのだろう。


「ふぅん……まぁうん。ラゴスの言う通りにフレアガンは金庫に預けておくよ。

 持ち出すのは飛行艇に乗る時だけ……ああ、でもグレアスさんがデートする時は絶対持っていけって言ってたから、デートすることがあったら持ち出すかもね」


「……グレアァス、お前はアリスをどうしたいんだよ……?」


 と、そんなことを言い合いながら食事を終えた俺達は、歯を磨くなり風呂に入るなりして……今日は色々あったなと、そんなことを考えながら眠りにつくのだった。


お読み頂きありがとうございました。


第一章完的な、幕間回でした。

次回からラゴス達の賞金稼ぎライフがまた始まります。

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