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汝ウサギなれど鷹が如く  作者: ふーろう/風楼


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ドラゴンの世界


 周囲の空気全てを震わすかのような、ドラゴン達の咆哮に包まれながら俺は、操縦桿をしっかりと握り……ゆっくりと飛空艇を飛ばしていた。


 何か目立つことをしたらその瞬間に攻撃されてしまうのではないか。

 アリスはああは言ったもののやはり魔物は魔物なのではないか。


 ……と、そんなことを考えながら、上昇することも、下降することも出来ず、その場から逃げ出すことも出来ずにゆっくりと。


 そうやって浮島と浮島の間をすり抜けるように飛んでいると……大中小様々な身体を、赤白黄色と様々な色をした鱗を持つドラゴン達がなんとも言えない目をこちらに向けてきて、その視線がまた俺の恐怖心を煽ってくる。


『何なんだろうね、このドラゴン達……。

 ガルグイユみたいなドラゴンとかワイバーンとかはまた別の存在、なのかな?

 見た目はドラゴンだけど、中身はドラゴンじゃない……とか、ドラゴンの別の派閥……とか?』


 そんな俺の内心を知ってか知らでか、アリスがのほほんとした声をかけてくる。


「さてな……攻撃してこないのはありがたいが、それも攻撃する気が無いからなのか、ただの気まぐれなのかも分からないからな……。

 とりあえずこのまま通り過ぎて……浮島が無くなったら一気に速度を上げて逃げるぞ」


 俺がそう返すとアリスは、何故だか残念そうな声を返してくる。


『んー……そうだよねぇ、逃げた方が良い……んだよねぇ。

 でもこう、ドラゴンの居ない浮島に着地して、土とか持ち帰りたい気持ちもあるんだよね……。

 ねぇラゴス……どこかそこら辺に着地は無理かな?』


「……た、確かに土を持ち帰ればなんで島が浮いているんだとか、そういった研究をどっかのお偉いさん達がしてくれるかもしれないが……着地するってのは難しいぞ。

 俺がさっさと逃げ出したくてしょうがないってのもそうだが、そもそも今乗っているのは飛行艇だからな、地面に着地出来るようには作られていないんだ」


 ブイがあり、海に着水する為の造りになっているからこその飛行艇は、地面に着地するには向いておらず……やろうと思えば可能は可能だが、ブイを始めとした色々な部分が故障する可能性があるし、一度着地してしまうと離陸するのが非常に難しいという欠点もある。


 何より着地したせいでドラゴン達を怒らせてしまう可能性も否定出来ず……俺は絶対にごめんだと、そればかりは諦めてくれと、そんなことを口にしようとするが、それよりも早くアリスが声を上げてくる。


『あ、じゃぁじゃぁ、浮島の下を飛んでよ。

 出来ることならギリギリ真下の、手が届きそうな所!

 そこまでいったら、弾詰まり解消用の棒でつついて島の下の部分の土を落とすから! 落としたら私の席に土が入ってくるだろうから! それなら着地せずに浮島の土を回収できるよ!』


「……下を飛ぶくらいならまぁ、出来ないことはないが……棒で突くってのは止めとけ。

 飛行艇はそれなりの速度で飛んでいるから、その状態で何かに接触してしまうと相応の衝撃が返ってくる。下手をすれば大怪我をする可能性もあって危険だ。

 それともう一つ……仮に何もかも上手くいって、上から土が落ちて来たとしても、それなりの速度で飛んでいる関係で、アリスの席には落ちてくれないだろうな。

 本で軽く読んだ程度の知識だから確かなことは言えないが……はるか後方に落ちるのが関の山、尾翼辺りに当たってくれたら運が良い方なんじゃないか?」


『えー!? そうなの!?

 えーえーえー、じゃぁどうしたら良いのー!?』


「素直に諦めるか……浮島の下を飛んでる時にたまたま浮島から土が落ちてきて、これまたたまたま座席の中に入ってくるのを待つか、だな。

 今の段階で出来るのはそのくらいのものだろう」


『えー! えー! えー!

 そんなの絶対に無理じゃーん……ぶー! つまんないなぁ!!』


「安全第一だ、仕方ない。

 ……ほら、丁度前方の上の方に大きな浮島がある、その下を今から通るから……偶然落ちてくることを祈ると良い」


 そう言って俺が浮島の真下の……出来るだけギリギリの所を通れるようにと機首を調整していると、その浮島の上に居るドラゴンがこちらをじっと見つめてきて、まるで俺達の会話を聞いていたかのように口元を歪めてニヤリと笑う。


 まさかあんな所まで俺達の声が届いている訳が無い。声を発したその瞬間にエンジンの音や空を切る音でかき消されてしまっているはずだ。

 俺達が会話出来ているのは即座に声を拾ってくれる通信機があればこそで……あの位置のドラゴンに俺達の声が届くなんてそんなこと……。


 ……と、そんなことを考えながら俺は、ドラゴンの謎の笑みではなく機首の調整の方へと意識をやり……そうして飛行艇が浮島の下へと入った瞬間、まるでそれを見計らったように浮島の上からドラゴンの咆哮が響いてきて……まるで浮島の上で足を踏み鳴らしているかのような地響きが、俺達の頭上から聞こえてくる。


 慌てて俺は浮島から離れようと機首を下げる……が、それよりも早く浮島からパラパラと、土やら石やらが降ってきて……変な所に当たってくれるなよ、飛行艇を壊してくれるなよと俺が祈る中、アリスの歓声が響いてくる。


『ぺへぇっ、顔に土が被っちゃったよ!?

 でもやったよ! やったやった! ラッキー!

 土の塊が座席に落ちてきたよ! 石ころも何個か!』


「そうか! 良かったな! だがコレ以上はやばい! 飛行艇が壊れる前に逃げるぞ!!」


 アリスの歓声にそう返した俺は、機首を更に更に下げて……眼下に広がっていた雲海の方へと機首を向けて、一気に加速する。


 それを見て何を思ったのか、ドラゴン達が再度の咆哮を上げる中、機体が無事に雲海へと突っ込んでくれて……上下左右も何も無い、真っ白の空間が俺達を支配する。


 本来であればこんなに分厚い雲に入ったなら、真っ白ではなく真っ黒か灰色の世界となるはずなのだが……何故か周囲は真っ白で、驚くほどに明るくて……そんな世界がしばらく続いた後、急に雲が白さを失っていって……そして機体が雲を突き抜け、一気に視界が開けて……いつも通りの光景が、眼下に海と島が、頭上に空がある光景が戻ってくる。


 それを受けて俺は、すぐさま今自分達が何処にいるのかという確認をするために機体を水平にして、周囲へと視線を巡らせての確認して……そうして驚愕する。


 周囲にも頭上にも、空の何処にも……たった今突き抜けてきたはずの雲がなかったのだ。


 空にあるのは真っ青な空間と眩しい太陽のみ。


 至って快晴、雲ひとつ無い空がそこに広がっていた。


 一体何が何やらと俺が驚く中、海図と方位磁石を見ていたらしいアリスが声を上げてくる。


『あれ!?

 ここ、私達の島のすぐ側じゃん!? ほら、正面のあそこに見えるのが私達の島だよ!

 え、え、え? いつの間に戻って来てたの? ラゴス、凄いね!!』


 その声を受けて俺は……もう俺の頭で考えても無駄なようだと全てを諦め、島に戻るべく高度を下げて……ゆっくりと海に着水するのだった。


お読み頂きありがとうございました。


次回は、この続きとなります。

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