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戦闘後の一幕


 ため息を吐き出し、飛行帽を脱いで耳を自由にし、両腕をぐったりと投げ出して……そうやって波に揺れる飛行艇の中で休んでいると、アリスが「お疲れ様!」とそう言ってくれて……俺もアリスに「お疲れ」と返す。


 フレアガンのことなど色々言いたいことはあったが……それは追々、休んでからで良いだろうと考えないことにして、ただただ脱力し体を休める。


 俺がそうしている間も、回収船の作業は着々と進んでいって……ワイヤーをガルグイユの身体にかけ、クレーンで引き揚げ、台船に乗せて……と、回収作業が進んでいく。


 そうやって波の音や回収船の作業音が、作用員達の掛け声が響く中、ゆっくりとエンジンを回す俺達を助けてくれたあの二機の飛行艇がゆっくりとこちらに近付いてくる。


 そうしてすぐ側までやってきた二機に乗る飛行艇乗り達に対し、俺は挨拶くらいはすべきだろうと、ぐったりと倒していた身体を起こし、耳を揺らしながら大きな声を上げる。


「さっきは助かった! ありがとうよ!

 入金があり次第、アンタらの取り分は払うから後で回収船の船長に連絡先を教えておいてくれ!」


 彼らが助けに来てくれなかったら俺達はどうなっていたことか。

 ガルグイユに勝てなかったかもしれないし、勝てないどころかガルグイユに殺されてしまっていたかもしれない。


 俺だけならまだしも、アリスもそうなっていたかと思うと……相応の金を払うのは当然のことであり、払わない方がどうかしているといえる訳で、それでそんなことを口にした訳だが……二人の男、俺と同じくらいの年の飛行機乗り達は目を丸くしながら驚愕の声を上げる。


「ま、マジか! お、オレ達も貰っちゃって良いのかよ!?」


「許可も取らずに余計な手出しをしやがってと文句を言われるかと思ってたんだがな!?」


 一人は細身の、茶髪青目のいかにも遊び好き女好きといった風体をしていて……もう一人はがっしりとした身体で、黒髪黒目、不器用そうなごつい顔をした男で。


 そんな二人の言葉に俺は……返事をするのが面倒で手を振ることでそれに応える。


 そうしながら俺は手の指を独特の形に曲げて数字を示すサインを送り……とりあえず俺の取り分の一割ずつを二人に渡すとそうサインでもって伝える。


 飛行艇乗りならば分かるだろうそのサインをしっかりと受け止めた二人は、一瞬呆然とし、直後に全力で破顔し、そうしてから思わず耳をふさぎたくなるような大歓声を上げる。


「マージーかー!!

 一割ってアンタ、払いが良いってレベルじゃねぇだろ!?

 だ、旦那! いや、アニキ! オレはアンタについてく! アンタが行くとこなら何処だろうとついていく……いや、ついていきますよ!」


「一割!? 一割っていくらだ、いくら貰えるんだ!?

 えぇっと、えぇっと、かみさんと娘っ子に腹いっぱい食わせられるくらいは貰えるってことか!?」


 仮にも高級品である飛行艇に乗っている連中が、なんだってそんなに飢えてるんだとか、金に困ってるんだとそんなことを思うが……飛行艇は燃料に弾丸、整備に停泊料など色々な部分で想像以上の金がかかるからなぁ、仕方のないことなのかもしれない。


 そういった払いに困ってハイエナや、空賊になる連中だっている訳だし……飛行艇を持ってさえいれば、それで金持ちになれるというのは間違った考えだったのかもしれないな。


「金が入ったらちゃんと払うから落ち着け!

 とはいえすぐには入らないからな! 国の依頼だからまずは国のお偉いさんに引き渡して、お偉いさんが誰かに売って、その金の一部が俺の下に入ってくるから、それからの話になる!

 引き渡すにしても売るにしても当分はかかるだろうから、すぐじゃぁないぞ!」


 二人があまりに煩くて、休憩の邪魔でしかなくて……とにかく黙らせようと考えてそんな声を上げると、二人がなんとも言えない、複雑そうな表情をし始める。


 そうして何かを言いたげな様子を見せ始めて……そんな二人の視線が何処かあらぬ方向へと釘付けになったかと思えば、そちらの方から聞き慣れない声が聞こえてくる。


「その件でしたらご心配なく。

 あなたのおっしゃる国のお偉いさんとやらはここにいますので……。

 受け取りはこれから迅速に、そして支払いの方も出来得る限り迅速に行わせていただきます。

 それと今回は依頼を見事にこなして頂きありがとうございました。

 あなたの勇戦と勲章に相応しい紳士的な振る舞い、確かにこの目で確認させていただきましたよ」


 そのしゃがれた声は、初老の男性のもので……声のする方へと、二人が見ている方へと視線をやると、そこには回収船に搭載していたらしい小さなボートの上に立つ一人の老人の姿があった。


 トップハットに仕立ての良いコートに、長いステッキに。


 こんな熱い地域でコートなんてよくもまぁ着れたもんだなぁと驚きつつ俺は、


「……そりゃそうだよな、依頼人が国となれば、見届人くらいは送ってくるわな」


 と、そんなことを呟く。


 高い金を払おうってんだ、しっかり仕事をこなせるかを確認するのは当然のことで、回収船に乗り合わせていたことを見るに、俺がガルグイユを他所に売っぱらったりしないようとの見張りも兼ねているのだろう。


 あるいは俺が何かやらかそうもんなら、それを理由の報酬の減額だとか、勲章の剥奪だとか、そういった難癖を付けるつもりだったのかもしれないな。


 そんなことを考えて俺が大きなため息を吐き出すと、そんな俺の態度を見兼ねたのかアリスが声を上げ、その老人に随分と丁寧な挨拶をし始める。


 挨拶をし、これからのことを確認し、支払いのスケジュールなどもしっかりと確認をして……そうやって老人とにこやかに談笑するアリスを見て俺は、あの老人の相手はアリスに任せた方が良さそうだと頭を振って……操縦席に体を預けて、だらりと脱力し、疲れた身体を休めるのだった。


お読み頂きありがとうございました。


次回はお金が入ったりなんだり、騒がしいラゴス君達のお話です。

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