VSガルグイユ その1
飛行艇に乗り、通信機を装着し飛行帽を被って……俺達がそうする間に飛行艇を乗せた台車が押されてスロープを滑り降りていって……そうして着水を確認した俺はエンジンをスタートさせる。
アリスが工場の皆に「いってきます!」とそう言って手を振る中、飛行艇を前へと進めていって……港を出てからスピードを上げて離水し、一気に高度を上げる。
向かうのは西。5つの島が連なる一帯で……その中央の一番小さな島がガルグイユの住処となっているそうだ。
その島自体にはそれ程価値が無いそうだが、他の4つの島が問題で、十分に広く、開発の余地があり、更には資源の埋蔵まで確認されている。
そこを開発出来たなら一気に人の版図が広がるというのに、ガルグイユが縄張りとしているせいでそれが出来ない。
そういう訳で随分前からガルグイユを討伐しようとあらゆる手を尽くしてきたのだが……上手くいかず俺達に話が回って来たという訳だ。
その島にも勲章にも興味はないが、良い稼ぎになる。
その上、俺達の地位がそれなりのものになって、グレアスの顔も立つというのなら、まぁまぁ悪くない仕事なのだろう。
ならばと俺は操縦桿を握る手に力を込めて、西へと進路を取って……真っ直ぐに飛行艇を飛ばしていく。
『あ、ラゴス、ちょっとずれてる。
戻して戻して、もうちょっと左』
途中、海図と方位磁石を見ているらしいアリスにそんなことを言われながら飛行艇を飛ばし続けて……途中着水しての何度かの休憩を挟みながら3時間と少し。
例の5つの島が遠目に見えて……その手前に停泊している回収船と台船と、側に着水している2機の飛行艇の姿が見える。
緑色をメインとしたカラーリングの複葉機で、だいぶ使い込んでいるのか少しへこたれている……が、それでもしっかりと手入れがなされているようだ。
まぁまぁ良い飛行艇を雇ったようだなと眺めていると……回収船から手回しライトを使っての光信号があり、
『準備よし、奮戦を期待する。だって、契約金を無駄にしないためにも頑張らないとだね』
と、アリスが翻訳してくれる。
よくもまぁパッと見ただけで分かるものだと感心しながら、飛行艇を進めた俺は……目標の島を前方に捉えて、島とそこにいる化け物のことをしっかりと睨みつける。
他の4つの島は緑豊かな島だと言うのにその島だけが禿げ上がっていて……ガルグイユのフンなのか白い何かに覆われている。
そしてその中央には船や飛行艇の残骸と思われるものを集めた巣があって……その巣にガルグイユと思われる灰色の石の塊が横たわっている。
四足のドラゴン、石製の大きなトカゲに大きな羽根を生やしたといった姿のそれはなんとも凶悪な顔つきで、ワイバーンとは全く違う気配をまとった本物の化け物だった。
どれだけの船を沈めたのか、どれだけの飛行艇を落としたのか……それだけの強敵なのだろうと息を呑んだ俺は、手汗を飛行服で拭ってから操縦桿を握り直し「行くぞ」とアリスに声をかけてから、トリガーに指をかけて、スコープを覗き込む。
寝ているなら好都合、先手はこちらが貰うと照準を合わせて……狙うはその頭、まぶたを弾き飛ばし目を貫いてやると、射程距離に入るなり一気にトリガーを押し込む。
機関銃が唸り、弾丸が発射され……飛行艇が真っ直ぐにガルグイユの方へと進む中、放たれた弾丸が次々と着弾する。
直後聞こえてきた音は、まさに石を弾丸で削るような鈍い衝突音で……それを受けて目を覚ましたガルグイユが痛みに悶えながら、その羽根と四足をジタバタと暴れさせ始める。
「ちぃぃ、目は貫けなかったか!」
と、そう言って俺は一旦機首を上げて、島から……ガルグイユから距離を取る。
放たれた弾丸はガルグイユの肌というかなんというか、その石壁をいくらか剥ぎ取ったようだが、出血した様子は一切なく致命的なダメージは与えられなかったようだ。
更に数秒間、その剥ぎ取った一点に弾丸を集中させていれば、あるいは貫けたのかもしれないが……そんな悠長なことをしていれば反撃を食らってしまうかもしれないし、何よりガルグイユそのものに衝突してしまうかもしれない。
飛行艇はその機首から弾丸が放たれる。攻撃をしたければ相手に機首を向け続けるしかなく……いつまでもそれを続けていれば当然衝突という結果が待っている。
飛んで旋回し、相手を捉えて照準を定めて、射程距離に捉えて……相手に接近しすぎない程度の僅かな時間、たったのそれだけが飛行艇にとっての攻撃チャンスという訳だ。
『ラゴス、効いてる! 効いてるよ!
あれだけ効いてるなら、何度か叩き込んでやれば倒せるよ!』
と、そんなアリスの声を聞きながら俺は、飛行艇を上昇させながら旋回し……再びガルグイユを……どうにか起き上がり、空を飛ぼうとしているのか羽ばたいているガルグイユを正面に捉える。
確かにアリスの言う通り、何度か同じ箇所に弾丸を叩き込んでやれば倒せそうではあるが……それだけで勝てる相手ならそもそも他の連中がやられたりはしないだろう。
ガルグイユには他の賞金稼ぎや、国軍に勝つような『何か』があり、それが発揮されてからが本番だ。
……確か資料には、とんでもない旋回力があって、高速で空を飛び回りながら攻撃をしてくるとか、そんなことが書いてあったな。
それは他の飛行艇が負けてしまう程の旋回力であり……軍をあげても倒せない程の旋回力なのだろう。
果たしてそれに俺達が……この飛行艇が勝てるのだろうか。
と、そんなことを考えた俺は、実際に戦ってみれば分かることだと、いざとなったらアリスの為にも生きて帰ることを最優先にしたら良いと、そんな開き直りを決めて、ぐいとトリガーを力いっぱいに押し込む。
するとまたも機関銃が唸り、弾丸がガルグイユの頭目掛けて放たれていって……放たれた弾丸がガルグイユの頭に見事なまでに命中する。
眉間、鼻、額、頬。
それらの石壁を剥がれた痛みに身悶えし、長い首の先にある頭を振るったガルグイユは、
「ガァァァァァァァ!」
と、石を飲み込んだようなガラガラの声で咆哮を上げて、魔力を十分に充填させたのか一気に空へと……俺達の頭上へと飛び上がるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回もガルグイユ戦です。