新たな時代
まさかの形で化け物との戦いが終わり……ナターレ島へと帰還して、飛行艇を整備工場に預けて……港の方へと足を勧めていると、戦場に現れたあの空中軍艦が、波を起こさないようにしているのか、沖の方でゆっくりと着水し……そうしてから港の方へと向かってくる姿が視界に入る。
海上で運用していた軍艦を改造して作った為か、海上を船として進むことも出来るようで……そうやって港へと軍艦が入港すると、甲板上の船員から声が上がる。
「ご親征! 国王陛下のご親征!」
続いて王様が姿を見せて港へと向かって手を振り……反応に困った港にいた島の皆はキョロキョロと周囲を見回してから……まばらな拍手でそれに応える。
王様達としては何らかの作法に則った反応が欲しかったのかもしれないが……ここはど田舎の辺境地、王都の作法なんて誰も知りやしないって話だ。
その上王冠を頭の上に乗せているのは、以前この島にやってきて好き勝手に暴れていた顔見知りのおっさんで……皆の反応がそうなってしまうのは仕方ないことだった。
「おおおい、ラゴス! お前ちゃんと俺様が活躍したって皆に伝えておけよ!
俺様のおかげであいつらを全部倒すことが出来たんだからな! 俺様がお前らの命の恩人なんだからな!
これは王とかどうとか以前の礼儀の問題だぞ! そこんとこはわきまえておけよ! マジでさぁ!!」
そのおっさんがそんな声を上げてきて……それを受けて俺は、やれやれと頭をかきながら言葉を返す。
「俺達も今帰ってきたとこなんだ! そんな暇ある訳ないだろ!!
っていうかアンタ達は、俺の後を追いかけてたんだから、そこら辺のことは分かってるはずだろうが!」
そんな俺の言葉を受けて王様本人ではなく、周囲の人間が顔を赤くするなり青くするなりの反応を示し……そんな中王様は「わっはっは!」と笑い……笑いすぎて頭の上の王冠をぽろりと落としてしまう。
落ちた王冠はデッキでコツンと跳ねて、コロコロと転がっていって……それを慌てて追いかけた周囲の人間の一人が、転がって居た所を蹴っ飛ばしてしまい、盛大に蹴り上げられることになった王冠が、海へとぽちゃんと落ちる。
『ぎゃぁぁぁぁぁあぁぁ!?』
軍艦から湧き上がる悲鳴、王様は相変わらず笑っていて……俺達もまた笑うしかなかった。
そうこうして軍艦が騒がしくなる中……桟橋からのタラップがようやく軍艦にかけられ、王様が軍艦を降りて、こちらへとやってくる。
「おう、久しぶり」
そう言って握手を求めてくる王様に、俺が代表して握手を返すと……王様はいくらか真剣な表情になって、言葉を続けてくる。
「よくもまぁ、今の今まで持ちこたえたもんだ。
見た所被害らしい被害もないようだし……ここがここのまま、相変わらずのままで俺様は心底安心したぞ。
あのラインとかいう連中からの報せを受け取った時には肝が冷えたもんだが……とにもかくにも、無事で良かった」
それを受けてこくりと頷いた俺は、色々聞きたいこと言いたいことがあるなと少し悩んで……そうしてから言葉を返す。
「ああ、おかげで助かったよ、ありがとうな。
……王都とか他の地域は、どうなったんだ? 無事なのか?」
「全くの無傷って訳じゃぁないが、変異ワイバーンの撃退も無事に終わって、今は落ち着きを取り戻しているよ。
北西諸島の奪還も……そうだな、丁度今くらいには完了してるんじゃねぇか?」
「……肝心要の空中軍艦がここにあるってのに、奪還なんて可能なのか?」
「可能じゃなきゃこんなところまで来てねぇって話だな。
この軍艦は俺様の私財を投じて作った俺様の為の御召艦で、軍の主力じゃぁねぇよ。
主力の空中軍艦は別に建造したし……後の戦力は空中砲艦でなんとか補ってるな」
「……砲艦?」
「こんなことになって急を要するとなって、いちいち軍艦をこしらえてられねぇってんでな、そこらの漁船を改造して空中を飛べるようにして……積めるだけの砲を積んだ急造艦のことだ。
軍艦ほどじゃぁないとはいえ、飛行艇には積めない砲を3門か4門は積めるからな……それを並べて一斉掃射でどうにかしようとしたって訳だ。
飛行艇との連携を密にすれば、防御や回避のことを気にしなくて良いんでな……元が漁船でも問題なく戦えて、大戦果を上げまくってるって訳よ。
そこら辺のことに関してもお前らには礼を言わないとな」
「あ? 礼? 流石に砲艦だの何だのに俺達は関係ないだろ?」
「それがあるんだよなー。
飛行艇との連携を密にしようとなったは良いが、無線装置はまだまだ飛行艇に積める程小型化はしてねぇし……光信号じゃぁどうしても遅れが出るし、伝達ミスが出るってんで、どうしたものかとなってな。
……そこでお前とアリスのことを思い出したんだよ。
で、お前らの飛行艇みたいに複座を追加して、コクピットと複座を電線で繋いで……そして複座に魔法使いを座らせてみたんだよ。
魔法使い連中は、魔法で無線のような、遠距離会話が可能だからな……魔法使いと魔法使いが連絡し合って、連絡し合った内容を操縦席のパイロットに……お前とアリスのように通信機を使って伝える。
あえて名付けるなら魔法式無線連絡法って所か?
軍艦と砲艦と飛行艇の空中連携の要をそうやって解決したって訳だ。
これもまぁ、お前らのおかげと言えるだろうと思ってな……流石にこの程度で勲章はやれねぇが、それでもまぁ、王様直々のお褒めのお言葉をくれてやろう。
よくやったなこのウサギ野郎共め」
そんなお褒めの言葉を素直に受け取った俺達は……改めて空中軍艦と、まだ化け物共がいないかと警戒しているのか、空を舞い飛んでいる軍の飛行艇を見やる。
次世代の武器、俺達が苦戦した相手をあっという間に全滅させた新兵器。
俺達の目の前に新たな時代が到来していて……そして同時に古い時代が終わろうとしている。
「……賞金稼ぎとしちゃぁ飯の食い上げで困ります、ってか?」
そんな俺達の顔を見てか、王様がそんなことを言ってくる。
「いや? 頼りになるなって思って眺めてたんだよ。
賞金も命あっての物種……これがなきゃぁ死んでたんだろうし、困るも何も無いさ。
空中軍艦が量産されて空が平和になれば……空を今まで以上に自由に、遊び半分で飛び回ることが出来るんだろうし、俺はそっちの方がありがたいかな。
賞金稼ぎが出来なくなっても、手紙の配達とか、新聞の原盤の配達とか……飛行艇にしか出来ない小回りの良さを活かした仕事が何かあるだろうしなぁ。
……貯金も十分にしたし、余生は平和な時代を楽しんで過ごしたいもんだね」
「私もそう思うー!」
「自分もです」
「アニキの言う通り!」
「……家族との時間が増えそうでありがたいです」
俺の言葉にアリスと、軍人のはずのクレオと、アンドレアとジーノが続いてきて……王様は満面の笑みになって「わっはっはっはっは!」と大きく笑う。
「俺様もだ! 平和が一番! ゆっくり出来るのが一番だわなぁ!
……ただし、本当に平和な余生が過ごせるかはまだ分かんねぇぞ?
空中軍艦が空を制しても、人類未踏の地はまだまだ存在している。
深海に、お前らが見たという謎のドラゴンが住まう上空世界に、未知の大陸に……。
そこからどんな化け物がやってくるか、分かったもんじゃねぇんだからな!
……でもまぁ、空中軍艦が量産されて、空を制するにも時間がいるだろうからな……そこら辺は俺達じゃなく次代の仕事かもな」
と、そう言って王様は空を見上げ……遠くを見て、なんとも言えない表情をする。
「ぷふっ、真面目な顔が全然似合わなーい」
その顔を見てアリスがそんなまさかの一言を吐き出してしまい……クレオが吹き出し、アンドレアとジーノが吹き出し……俺と王様も、お付きの人達までが吹き出してしまって……そうして俺達はしばらくの間、笑い続けることになるのだった。
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