最終決戦 その2
3本の首が落ちて、残り5本。
その5本でもってこちらに火球を吐き出しながら、奇妙な程に体を蠢かせる化け物。
それを見てアンドレアとジーノが機関銃を唸らせ、させるものかとばかりにクレオが魔導砲弾を打ち込む。
するとまたもあの鎖が迸り、化け物の体を縛り上げ……そこに数え切れない程の弾丸が打ち込まれる。
その様子を横目に見ながら、俺はいくらか簡単になってくれた回避行動に専念する。
首が減ったのもそうだが、明らかなまでに火球が熱と勢いを失っていて……どうやら化け物にも体力というか、火球を生み出すための燃料? の限界があるようだ。
その体はボロボロになっている、攻撃の手は尽きかけている。
これは勝ったかな……なんてことを考えながら回避に専念していると、蠢いていた化け物が動きを見せる。
減衰魔法によって硬さを失い、機関銃によって切り裂かれ、ボロボロになったその体が、更にというか、派手にというか、大きく裂けて……そこから『何か』が這い出てくる。
何か……小さな何か。
うぞうぞと蠢く……一匹じゃないらしい何か。
近づいてみないことには分からないが、大きさは恐らく手のひら程か、俺達の顔程で……数え切れない程の数が蠢いている。
それは恐らくは化け物の幼体で……即座にアリスとクレオが無反動砲を発射する。
直感的にヤバいと思ったのだろう、何の躊躇もなく発射し、すぐさま砲弾を装填し、また発射。
いつの間にか火球も止まっていて、俺はアリスが攻撃しやすいようにと、安定飛行に務め……そうしながら化け物がいたそこをじっと睨む。
砲煙に包まれてまだ何も見えない。
風が吹かないおかげで中々砲煙が晴れない。
何かが燃える匂いと、嫌な血の匂いが煙と共に上がってきて……瞬間、体毛がぞわりとした感覚を感じ取り、俺はわざとエンジンを唸らせ派手な飛行を、旋回をしながらその場を離れる。
それは体毛の無いクレオ達に、ヤバいことが起きているから回避行動を、と伝える為の行動だった。
そしてクレオもアンドレアもジーノも、俺の意図を手早く読み取ってくれたようで、すぐさまにその場から離れようとしてくれる。
そうやって距離を取り、高度を上げて……かなりの高度からあの島を見下ろす。
まだ砲煙は晴れない。
何も見えないし、音も聞こえてこない。
それでもどうにか何が起きているのかを探ろうと……島周辺の音を聞こうと、耳を立てる為に飛行帽を脱ごうとしていると……何機かのエンジン音が響いてきて……俺達の視界に飛行艇が、ライン達の物と思われる機影が入り込む。
「アリス! ヤバいと知らせろ!」
『今やってる!!』
俺は思わずそんな声を上げ、アリスは言うまでもなく光信号機でもってやってくれていて……だが、ライン達はそれに気付くことなく、砲煙を晴らすためなのか、わざわざそこに……何かがいる砲煙の中に突っ込んでいく。
プロペラが砲煙を絡め取り、絡め取られた砲煙が分散し……少しずつ視界が晴れて、島の様子が見えた所で、ライン達12機のうちの4機が失速し海に落ちるか島に落ちるかして、2機のマナエンジンが破損したのか、魔導砲弾のそれとよく似た爆発を起こす。
あっという間に半分が落ちて、ようやく事態を察したのかライン達が機関銃を唸らせる。
そこでようやく砲煙が綺麗に晴れて、見えてきた光景は……そこら中を飛び交い、群れとなって飛行艇に襲いかからんとしている『小さな化け物達』が作り出す地獄のような光景だった。
小さいからこそ素早く、旋回力もあり、攻撃が中々当たらない。
群れの中に機関銃を打ち込んだなら数匹、あるいは数十匹が弾丸に貫かれて砕け死ぬのだが……全部で数百か、数千か、いや、数万もいるのか効果が薄い。
いざ飛行艇に取り付かれたなら、飛行艇の翼をかじられ、プロペラをかじられ、尾翼をかられ……パイロットをかじられ、あっという間に飛行艇が戦闘不能に陥ってしまうようだ。
そうこうするうちに2機落ちて、残り4。
……助けるべきか逃げるべきか、様子を見るべきか……。
悩んで、悩みに悩んで俺は……舌打ちをしながらライン達に襲いかかろうとしている化け物達に機首を向けて、降下を始める。
『助けるのは良いけどどうするの!? 勝てるの!?』
「ありったけを打ち込む!
ありったけを打ち込んで出来るだけ数を減らして……そうしてから逃げる。
それでライン達が逃げられるかどうかは、アイツら次第だ!」
『ああもう、しょうがないなぁ!
じゃあクレオさん達に光信号を……『逃避行』で良いか!』
出来るだけ短く、さっと意図を伝える為なのだろう。
アリスがそんなことを言って光信号機を操作し始める。
そうするうちに連中との距離が縮まり、俺はトリガーを押し込んで機関銃を唸らせる。
小さな化け物は狙いをつけるまでもない程に多く、弾が当たれば即座に砕ける。
だがその数は圧倒的で……残りの弾丸、100か200で何処まで減らせるかは微妙な所だ。
だから……だからと俺は、降下の勢いそのままに、連中の群れへと飛行艇を突っ込ませる。
ただし機体にも俺達にもかじりつかせはしない、そんな隙は与えずに一切の躊躇をせずに連中の中を突き抜けてやる。
速度を落とさず、むしろ上げて、飛行艇の翼で連中の斬り裂きながら連中の群れを突き抜け……海面ギリギリで機首を上げて、海水をはねさせながらその場から離れていく。
右の翼を見る、血まみれ。
左の翼を見る、血まみれ。
「アリス、無事か!?」
『だいじょぶ! 何するか分かったから機体の中に引っ込んでた!!』
声での確認もし、計器を見て……ざっと飛行艇のことを見回すがどこにも異常はないようだ。
「ビビって減速しなければ追いつかれないし、食いつかれることもないみたいだな。
……その分燃料を食うことになるが、仕方ない。
これの繰り返しで数を減らして、ギリギリまで粘ってから逃げるぞ」
『それしかないか!
砲弾がまだ残ってるから、それももう適当に撃っちゃうよ!
あれだけの爆発ならそれなりに数を減らしてくれるでしょう!』
そんなことを言い合いながら俺は、高度を上げて旋回をし……戦場を、ライン達とクレオ達がいる空域を正面に捉える。
どうやらクレオもアンドレアもジーノも、俺の真似をしているのか、限界まで速度を上げながら敵の群れに突っ込んでいるようだ。
ライン達は……突然仲間を失ったこともあり、そこまでの勇気は持てないのか、ただただ島から距離を取る道を選び……速度を上げながら進路を北へと取っている。
北……北か。
ナターレ島のほうに逃げて、あの化け物を連れていかれると厄介だったが、北ならまぁ……良いだろう。
いや、本土があるから良くはないのだが、ナターレ島よりは戦力があるはずで、火器があるはずで、ライン達を追いかけていこうとしているあの小型化け物共をなんとかしてくれる……可能性が高いはずだ。
島を見れば小型を生んだあの化け物の体は跡形も無くなっていて……どうやら小型の餌になってしまったらしい。
ということは、後はこの場に残った小型をなんとかしたら良い訳で……何処まで減らせるかは分からないが、弾薬と燃料の限りやってやるかと操縦桿を握り直した俺は……戦場へと向かって速度を上げながら、飛行艇を突っ込ませるのだった。
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