いざ戦場へ
翌日、早朝。
壮行会でたっぷりと養った英気と島中の皆の声援を糧に、俺達はナターレ島を飛び立った。
新型飛行艇が4機、うちに2機に無反動砲が積まれていて……改良型魔導砲弾が装填されている。
ランドウが時間いっぱいまで頑張って改良してくれた魔導砲弾は単純に砲弾としての威力が増している上に、マナストーンの搭載量が驚く程に増えていて、より多くの魔法を込められるようになっている。
それによって無数の攻撃魔法を発動させられる訳だが……ナターレ島に集った魔法使い達はあえて攻撃魔法では無い、別の魔法を砲弾に込めてくれたそうだ。
攻撃魔法は確かに効果的だったが、トドメを刺すことはできなかった。
今回の改良でより多くの魔法が込められるようになったとはいえ、それでトドメを刺せるかどうかは実際にやってみないことには分からない。
そんな賭けに出るよりも、より効果的かつ勝率の高い方法が魔法にはあるとかで……魔法使い達はランドウと相談した上で、その魔法を砲弾にたっぷりと込めたという訳だ。
で、砲弾にどんな魔法が込められているかというと……それは減衰魔法だ。
相手の力を弱らせたり、その体を重くしたり、あるいはその鎧や鱗の強度を下げるなどの減衰魔法。
それらを詰め込んだ砲弾が炸裂したなら、あの化け物と言えど抵抗は難しいだろうとのことで……その動きを大きく鈍らせることが出来、更にはあの鱗や甲殻を木の板かと思うほどにもろくできる……との目算であるらしい。
もしそうなったならほとんど通用していなかった機関銃でも大きな傷を負わせることが可能で……全機による機関銃掃射でトドメをさせる……かもしれない。
実際に試したことはなく、あくまで予想でしかないのだが、それでもランドウや魔法使い達が考えに考え、計算した上での信頼出来る結論なんだそうで……俺達はそれを信じることにしたという訳だ。
「……ま、もし減衰魔法が効いてくれたらライン達も戦力になる訳だしな、効果時間もかなり長いらしいし……一撃だけの攻撃魔法よりも効果的なはずだ」
化け物が眠っている本部があったあの島へと向かう途中、飛行艇を操縦しながらそんなことを呟くと、通信機の向こうのアリスが言葉を返してくる。
『そのラインさん達だけど、本当に来るの?』
「どうだろうな。
ナターレ島に来ていた連中に今日決行すると伝えてるだけで、参戦の約束までは交わしていないからな。
来るかもしれないし、来ないかもしれない。なんとも言えないな」
『そっか……。
まぁ、来なくてもなんとかなりそうではあるけどね。
来なかったら来なかったで、化け物の素材は私達だけで独占できる訳だし?』
「まぁなぁ……。
ただ変異種の素材が山のように手に入って飽和状態な現状、独占出来たとしてもどれだけの金になるかは分からないがな。
全てが片付いて平時になって、市場が正常の動き始めたらあるいはって感じだが……それにはここらだけでなくて、本土なんかの戦況も関係してくるからな。
……件の空中軍艦が完成してくれたら、連中が……化け物がどんなにいようと勝てるとは思うんだが……。
本土や他の島々の状況がどうなってるかも、今は分からないからなぁ」
そう言ってため息を吐き出し、ふいに視線を右方向へと向けると……飛行艇と並走するかのように舞い飛ぶ、鳥の集団が視界に入り込む。
大きく力強い翼を振るう、鋭い目と鋭い嘴を構える鳥……鷹の集団だった。
「……アリス、右方向を見てみろ、鷹の群れがいるぞ。
……鷹って群れるもんなのか?」
『さぁ……?
なんか、前にもこんなことあったよね? 飛行艇に近寄ってくるのが鷹の習性なのかな?』
「そんな習性、自然界で一体何の役に立つんだよ……」
鷹のことを見やりながらそんなことを呟いていると、その目でもってこちらを一睨みした鷹達は……すっとその身を翻し、俺達の側から離れていく。
突然現れた魔物達に生息圏を奪われながらも、どうにかこうにか今まで生き延びて……そうして今ああやって空を自由に舞い飛んでいる。
そんな鷹達のことを見送った俺は……なんとなしに今の人類の状況とかつての鷹達の状況が似ているような……と、そんなことを思う。
……まぁ、こうやって新兵器を生み出して、意地でも戦ってやると、あいつらを殲滅してやると、反攻している点は大違いなのだが、それでも似ている部分があるだろう。
そんな人類を見て鷹達は何を思うのだろうか……空中軍艦が完成し、人類が空を支配するようになったら鷹達は人類をどう見るのだろうか。
そんなことを思い、思わず呟いた俺は……アリスの、
『鷹が何かを思う訳ないじゃん。
そこまでの賢さは鷹には無いよ』
との、冷静かつ現実的な意見を受けて、打ちひしがれる。
「もうちょっと夢のあるコメントが欲しかったなぁ……」
『夢ならベッドの上で見てよ。
化け物に勝って、戦勝会でたっぷり飲み食いしたその後でさ』
更に冷静な意見を突きつけられ、黙るしかなくなった俺は、正面をしっかり見やり……そろそろかと、そんなことを思う。
見慣れた島々が遠くに見えてきた。
更に向こうにあの本部……だった島がある。
そこで化け物は未だに眠っているのか、それとも傷を癒やしきって暴れまわっているのか……。
出来ることなら眠ってくれているとありがたいがと、そんなことを思いながら俺達は、奇襲を受けても良いように、大きく広がった陣形を取り周囲を警戒しながら慎重に……あの島へと向かっていくのだった。
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