インターミッション
船団とあれこれと話し合った俺達は……結局、船団と分かれてナターレ島へと帰還することにした。
軍艦が戦闘不能になり、いくつかの陣地が吹っ飛んでの壊滅。
それを受けて知事が雇っていた連中は軒並み意気消沈、戦う意欲をすっかりと失ってしまっていて……それ以上、連中と行動を共にする意味は無いだろうと判断したからだ。
ナターレ島から来ていた回収船と共にナターレ島へと帰還し、飛行艇は整備工場に預けて屋敷へと戻り……グレアスに事の次第を報告してから、ルチアが用意してくれていた風呂やら飯やらにありついての就寝。
……そうして翌日。
目を覚ました俺達が、飛行艇の様子を確かめるために整備工場へと向かうと……ナターレ島の港でちょっとした騒ぎが起きていた。
騒ぎの理由は二つ。
一つは大量の変異種の素材を回収出来たこと。
どういう経緯で手に入った品であれ、どういう存在の肉や革であれ、役に立つものは全て役に立てる。
解体し加工し、販売し……そうした作業に皆が励んでいるため、港全体が騒がしくなっていたのだ。
もう一つは、何人かの男たちが俺達も戦うぞといきり立っていたこと。
戦場から帰還した回収船の船員から詳しい話を聞いて……相手がとんでもない存在だと知って、まず勝てないと知りながらも戦う手段が無いと知りながらも、それでも故郷と家族を守るぞといきり立つ男達。
そんな男達を回収船の船長、獣人のベルガマスが懸命になだめている。
ベルガマスとは何度か仕事をした仲だ、それを手伝ってやりたいと思いつつも……俺達は俺達ですべきことをやらなければと視線を逸し、整備工場へと足を向ける。
見慣れた工場の見慣れたドアノブに手をかけ、聞き慣れた軋み音と共に開け放ち……そうして整備工場内から聞こえてきたのは、整備道具の駆動音……ではなく……、
「あ、ファルコ氏じゃないですか。
無事だったんですね、無事だったならそうだと一言、言ってくれたら良かったのに。
え? 昨日はいなかった私がどうしてここにいるかって?
嫌ですね、私こう見えて乙女なんですよ? かよわい乙女。
あんな怖い目に遭ったらもうぐったり、宿で寝るしかないじゃないですか。
帰ってくるなりぐっすりですよ、ぐっすり、朝まで熟睡。
疲れちゃったんだからしょうがないですよね。
でもまぁ、うん、皆さん無事なようで何よりです。おかげで私の作戦の確度が上がってくれましたからね。
え? なんですか? 作戦ですか?
そりゃぁもうあの巨大変異種を狩る為の作戦ですよ。
いやー、参っちゃいますよね、あの大きさ、あんなに大きくて首があんなにたくさんで、一体全体どういう構造の生き物なんでしょうね?
あれの素材が手に入ったらヤバいですよ、色々な研究が一気に進みますよ、科学、物理学、生物学の春、人類が進歩の日を迎えるんです。
いやー、ほんと、ワクワクしちゃいますよね、しますよね? するはずですよね? ね? ね?
と、そういう訳で作戦に協力してくださいね」
と、そんな風に放たれるランドウの言葉だった。
相変わらずいつ呼吸をしているのか分からない程の勢い。
こちらが何か言おうとするとそれに言葉を被せてくるアレさ。
瞬き一つしないでこっちをじっと見つめてくる不気味さ。
そんなランドウの言葉を受けて俺は……、
「まぁ、お前も無事で何よりだよ」
と、そんな言葉を返す。
「はい、無事です無事です、無事に決まってるじゃないですか。
あの素晴らしい発明、最高の破壊力を誇る人類の革命、魔導砲弾を作れるのは私だけなんですから、たとえ友人のファルコ氏達を囮に使ってでも生き残ってみせますよ。
え? そりゃぁそうでしょ、当然でしょ、私は賞金稼ぎじゃないんですから、戦場で命なんてかけたくないですよ。
そ・れ・に私がいない状態で魔導砲弾作れるんですか? 作れないですよね? 私にしか作れませんよね?
ならもうまっさきに、誰よりも先に逃げるに決まってます、それが人類への貢献ってものですから。
え? なんですか? 魔導を嫌ってなかったかって? 魔導を使うことを嫌がってなかったかって?
そんな昔のこと、とうに忘れましたよ、結果が全てですよ、分かってませんねぇ、ファルコ氏は」
更にランドウはそんな言葉を放ってきて……腰に手を当て胸を張り、むふーと鼻息を荒く吐き出してくる。
一体何をどうしたらそんなに勝ち誇れるのか……凄い精神構造をしてるんだなと呆れていると……そこで俺はランドウの目の下の化粧が濃くなって居ることに気付く。
……いや、そもそもランドウは化粧をするような女だっただろうか?
クレオもルチアも薄化粧だが、ランドウのそれは特に薄くしてるかどうか分からないレベルで……こんなに濃くなかったはずなんだがな……。
目の下ということは……隈か。
熟睡したと言っておきながら、徹夜でこそこそと何かをやっていたのだろう。
新兵器の設計か、魔導砲弾の再設計か、それに関する計算か……ランドウの薄汚れた白衣のポケットには、かなり分厚い紙束が丸めて突っ込んであり……恐らくはそれを書いていたのだろうな。
その事に気づいた俺が、
「……おつかれ」
と、そう言うと、アリスとクレオと、アンドレアとジーノがその言葉の意味と、ランドウの化粧に気付いて……それぞれに、
「お疲れ様!」「お疲れさまです!」「徹夜は美容の大敵だぜ!」「一緒に頑張りましょう!」
なんて言葉をかけてしまう。
そんな風に隠し事がバレてしまうことになったランドウは……胸を張ったままの体勢で化粧の上からでも分かる程に真っ赤な顔となり……勢いよくしゃがみ込み、丸くなり……余程に恥ずかしかったのか、そのまま動かなくなってしまうのだった。
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