しょうじょティツィ
それから、ティアがもりへいくだびに、ルーンはすがたをみせるようになりました。
ルーンはとてもものしりで、ティアがしらないもりのことを、たくさんおしえてくれました。
ルーンとすごすじかんはたのしくて、どんなにつらいことがあっても、ルーンとあえばわらいあうことができました。
あかるいかおをみせるようになったティアに、だいじんもひとあんしんです。
ティツィアーナがいないとくにがまわらない。
おうさまやおうひさま、くにのうえにたつひとたちも、ティアをみとめ、うやまいます。
しょうちょうは、おうじとおうじひに。じっけんは、ティアに。
ひとびとのきたいに、ティアはこたえ、さらに、ひとびとはきたいします。
そんなティアのかつやくを、こころよくおもわないひとも、いました。
ティアはかしこく、ただしく、きよらかすぎたのです。
ティアをこころよくおもわないひとたちは、おうじさまにティアのわるくちをふきこみます。
ティアのことをよくしらないおうじさまは、わるくちをそのまましんじてしまいます。
わるくちをしんじたおうじさまは、ますますティアにひどくあたりました。
それでもティアは、じひぶかく、ただしく、きよらかでありつづけました。
でも。
いくらかしこくやさしくても、そくひでも、ティアはひとりのむすめです。
きたいはおもく、あくいはつらいものでした。
そくひとしてほほえむうらで、ティアのこころはないていました。
「……かえるのが、いやだわ」
あるひのもりのなか、もうそろそろかえらなければならないとき、ないたこころのかけらが、こぼれおちました。
ルーンがほほえんで、くびをかしげます。
「ずっとここにいても、いいんだよ?」
あたりまえのようにあたえられたことばに、ティアはめをみひらき、
「できないわ」
うつむいてくびをふりました。
「どうして?」
「ただしくないもの」
「ただしくない?」
ふしぎそうにみつめられて、ティアはおもわず、じぶんのことをかたりはじめました。
なんどもあっているひとでしたが、おもえばじぶんについてはなすのは、はじめてでした。
ここにいるのは、そくひティツィアーナではなく、ただの、しょうじょティツィだったから。
はなしてしまって、いまのおだやかなじかんがくずれてしまうのが、いやだったから。
だのにはなしてしまったのは、ティアがげんかいだったのか、それとも、はなすことですこしでも、ここにいるじかんをのばしたかったからなのか、わかりません。
じひぶかく、ただしく、きよらかでいるよう、そだてられたこと。そのおしえにしたがって、やくめをはたしていること。けれど、まわりのきたいがおもいこと。どんなにがんばっても、みとめてくれないひとがいること。そのひとたちに、あくいをむけられてつらいこと。
かたりながら、ティアはいつのまにか、ぽろぽろとなみだをこぼしていました。
ないてしまい、とぎれとぎれになっても、ルーンはせかすことなく、さいごまではなしをきいてくれました。
しろくながいゆびがそっと、ティアのなみだをすくいます。
「ティツィ」
やさしいこえが、あまくティアをよびました。
「ただしいとは、なにかな?」
「……え?」
きょとんとするティアを、ルーンがやさしくみつめます。
「あなたのごりょうしんのいった、ただしさ。それは、ただしいの、ひとつのかたちでしかない。けっしてまちがってはいないけれど、それだけがただしいわけではないんだ」
「わからないわ」
ルーンのいういみがわからなくて、ティアはぬれたひとみをすがめました。
りょうしんのいう、ただしさ。それしか、ティアはしらないのです。
そんなティアをしかることも、ばかにすることもせず、ルーンはしんしにティアとむきあいました。
「たとえばね」
おひさまとキャラウェイのかおりが、ティアをつつみこみます。かぐわしさとあたたかさに、ないていたこともわすれて、ティアはほほえみました。
ルーンが、うれしそうにわらいます。
「ティツィがわらうと、とてもうれしい。うれしいことはいいことだから、わたしにとってティツィをわらわせることは、ただしいことなんだ。でも、ティツィがわらうことを、うれしくおもわないひとも、いるのでしょう?」
こくりとうなずいて、ティアはかなしくかおをゆがめました。
ああ、そんなかおをしないで、と、ルーンまで、かなしいかおになります。
「わたしにとってはティツィがそんなかおをすることは、ちっともただしくないけれど、それがただしいことだとおもうひとも、いるんだよ」
でも、そんなのただしいとはみとめたくない。
ぎゅっとこぶしをにぎりしめて、ルーンはきっぱりいいました。
「わかるかい、ティツィ、あなたがかなしむひつようなんて、ないんだ」
ルーンがりょうてで、ティアのかおをつつみました。
「ティツィがそんなふうに、かなしいかおをしなくては、いけないところにおくりだすなんて、わたしにとってはただしくない。いかないでおくれ、かわいいわたしのおひめさま」
おどろいてなにもいえないティアに、ルーンはなおもいいつのります。
「ティツィひとりくらい、わたしにだってやしなえるからね。あなたはなにもしんぱいせずに、わたしのてをとってくれればいい」
「でも、わたくしは」
「やさしいティツィ。ごりょうしんのきたいは、うらぎれないかい?」
ルーンはティアからてをはなし、やさしく、けれどすこしさみしく、ほほえみました。
「わたくしがいまにげだしたら、たいへんなおもいをするひとがいるの。だから」
「こまらせてしまったね」
すまなそうにいうルーンに、ティアはそんなことはないのだと、くびをふります。
「すごく、すごくうれしかった」
「ありがとう」
にっこりおれいをいい、ルーンはつづけます。
「こまったときはなまえをよんで。ティツィなら、いつでもたすけるから」
「ありがとう、ルーン。でも、わたくしはなにもかえせないのに」
「わたしのおひめさま。あなたがわらってくれるなら、それがなによりのおれいだ」
さあ、わたしがあなたを、とじこめてしまいたくなるまえに、おゆき。
たちあがったルーンがてをさしのべ、ティツィをたたせます。
「また、あってくれる?」
「もちろんさ。わたしのかわいいおひめさま。いつでもここで、あなたをまっているよ」
いっておいで。
てをふるルーンにみおくられて、ティアはおしろにもどりました。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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