もりのせいねん
いずみのほとりにこしをおろし、ティアはめをとじました。
あたたかなこもれび、かぜのそよぎ、みずのせせらぎ、とりのさえずり、かぐわしいみどり。
ここには、ティアをかなしませるものなんて、なにもありません。
なにもせず、ただ、しぜんのおとにみみをすませるのが、もりにきたティアのいつもでした。
もりのどうぶつたちが、ティアのふくにじゃれつきます。
ティアがパンをちぎってあげると、うれしそうにたべました。
「やあ、こんなところにおひめさまがいる」
とつぜんかかったこえに、ティアはおどろいてかおをあげました。
おひさまのひかりみたいな、うすいきんのかみのせいねんが、きんまじりのみどりのひとみで、ティアをみおろしていました。
かがやくばかりのしろいはだに、ながいまつげが、かげをおとしています。
「わたくしは、おひめさまなどではありません」
このひとのほうが、よほどおうじさまみたいだわ。
じぶんのおっとをおもいだしながら、ティアはおもいました。
こげちゃのめと、こげちゃのひとみのおうじさまより、めのまえのこのうつくしいせいねんのほうが。
「あなたこそ、おとぎばなしのおうじさまみたい」
「おやおや、おひめさまにそういってもらえるなんて、ありがたきこうえいです」
せいねんはほほえんで、おおげさにかしこまったおじぎをします。
「わたくしは、にしのつき、しかづののルーン。あなたのなまえをうかがっても?」
「わたくしはティツィ、」
なのりかけたティアはおもいます。もしティツィアーナとなのり、それがそくひのなまえだときづいたら、このせいねんは、いなくなってしまうのではないかしら。
いくらめだたずとも、ティアはそくひです。くにのたみからすれば、くものうえの、おそれおおいひと。
せっかくのいきぬき、そくひでなく、ただのひととして、このせいねんとおしゃべりしたい。
とぎれたなのりに、せいねんは、にっこりほほえみました。
「ティツィ!いいなまえだね。となりにすわっても?」
「ええ」
ルーンとなのったせいねんは、うでがふれるほどのちかくにすわります。ふわりと、おひさまとキャラウェイのようなかおりがしました。
ティアとルーンは、しずかなじかんをすごしました。
かぜのさやかさ、こもれびのあたたかさにほほえみあい、ちいさないきものをめで、もりのおとにみみをすませて。
あったばかりだというのに、ルーンのとなりはここちよく、ちんもくさえもあまやかで、ティアはずっともてていなかった、おだやかなきもちが、むねにみちるのをかんじました。
けれど、すてきなじかんはあっというまで。
「もう、もどらないと」
かなしげにつぶやいたティアに、ルーンはやさしくといかけます。
「またここにくるかい?」
「ええ」
「それなら、まっているよ」
いつでもおいでというルーンのことばが、うれしくて、ティアはにっこりほほえみます。
「ありがとう。ルーン」
またかならずあおうとやくそくして、ティアはおしろにもどりました。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
グリム童話のルンペルシュツルツキンって
どのくらいの知名度なのでしょうね
長過ぎてタグに入りきらなかった悲しみ……
続きも読んで頂けると嬉しいです