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デートの……練習? 3

 こんな時間に、こんな場所で、偶然出くわすはずがねえ。 

 俺がここに来たのだって、エリアス先輩が予告もなしに俺の教室の前で待っていたからだし、もちろん誰にも連絡なんてしてはいねえ。

 

「こんなあからさまな偶然があるわけねえだろ。学院からつけて来たんなら声かけてくれりゃあいいのに、なんで黙ってたんだよ」


 クレデールとリオンも一緒なら――ついでにディンも――俺がわざわざエリアス先輩の水着を選ばさせられたりすることもなかったと思うんだが。

 

「それは、その……心配だったと言いますか、間違いが起きないように、見張っていたと言いますか」


 間違いってなんだよ。

 こんな場所で……いや、こんな場所じゃなくても、攻撃されねえうちに俺から手を上げる事なんてねえよ。ましてや、相手は女で、先輩だぞ。

 

「まあいい。それより、せっかくここまで来たんなら――」


「そうだね。せっかくだから、皆の分の水着も選ぼうよ」


 ディンが俺の言葉の後を引き取ったため、冷ややかな視線が、俺に対しても半分ほど向けられる。

 

「先輩……」


「いや、違えぞ、クレデール。俺が言いたかったのは、女子の水着なんて女同士で勝手に選んでくれってことだ」


 そもそも、最初のきっかけはクレデールの言葉であり、今のこの状況は手段に過ぎねえ。

 別に俺は率先して先輩の水着を選びたかったわけじゃねえし、むしろ先輩に巻き込まれた形なわけで、文句を言われる筋合いはねえはずだが。


「この白い水着なんてクレデールさんに似合いそうだなあ。開いてる胸元の上に止めるリボンがお洒落だよね。足元から大胆に腰のあたりまでの布がカットされてるし、綺麗な足に惹きつけられそう。お腹の上が開いてるのもセクシーだよね。リオンにはこっちの薄紫のビキニかな。上も下も紐で結ぶタイプ。サイドの碧いリボンが良く映えると思うんだ」


 ディンの奴はすでに店内の水着を物色し始めていて、両手に掛けきれないほどの水着を持って、どれが良いかと悩んでいる様子だ。

 

「おい、まさかお前らまで水着を選びに来たとか言うんじゃねえだろうな?」


 エリアス先輩の相手だけでも大変だってのに、この上さらにクレデールやリオンの分まで水着選びに突き合わされたらたまったもんじゃねえ。


「え? もしかしてイクスってスクール水着がいいとか、そういう感じかい? たしかにスクール水着にはスクール水着にしかない魅力があるけれど、ここはやっぱり――」


「だー、もう。そんなわけねえだろうが。つうか、ディン。お前は、公共の場でスクール水着と連呼するんじゃねえよ」


 それから俺をスクール水着フェチみたいに言うのも止めろ。

 

「じゃあ、イクスはどんな水着ならクレデールさんに似合うと思う?」


 いや、俺はエリアス先輩の付き合いで来ただけで、水着を選ぶつもりは全然、なんて断れそうな雰囲気じゃねえな。

 何故か、クレデールが俺の方をちらちらと何かを期待するようにちらちらと見ていやがるし。

 この上さらにあの部屋に物が増えることを考えると、はっきり言って学院指定のスクール水着でいいと思うが、それだと直前のディンの発言も相まって、本当に俺がスクール水着フェチだと誤解されかねねえ。

 そして、残念ながら――この場合は助かるが、ディンのセンスは確かだ。


「あー、いや、ディンの勧めてたやつが良いんじゃねえか。白っぽいのはクレデールの色みてえな感じがするし、似合うだろ」


 問題はクレデールがそれをひとりで着脱できるかだが。

 さすがに、ネクタイとは違えからな。

 パッと見で、ワンピースタイプのそれは、紐を結んだりもしねえし、足やら手やらを出すところさえ間違えなければ、俺……リオンやエリアス先輩が手伝う必要もないだろう。


「そ、そうですか。別に興味はなかったですけど、先輩がそうおしゃるのなら、ちょっと試着してみますね」


 試着用の下着を受け取ったクレデールが試着室のカーテンの向こうに消える。

 中からは衣擦れの音と、パサパサと制服が床に落ちる音が聞こえてくる。

 俺は、ミスってクレデールが痴態を晒すことになるんじゃねえかと、さすがにそれは可哀そうだと、ハラハラしていた。

 

「あの、着てみましたけど、いかがでしょうか」


 数分の格闘はあったようだが、リオンやエリアス先輩が助けに介入するような事態にもならず、クレデールは試着を終えて、試着室のカーテンをおずおずと開いた。

 

「イクス」


 てっきりディンの奴が最初に褒めちぎるもんだと思っていたが、予想に反して、ディンは俺に最初に感想を言うように促してくる。

 は? お前は何をやってんだ?

 こういう時には最初にはしゃぎだしそうなディンの態度を不審に思いつつ横を見ると、エリアス先輩も、リオンも、俺に感想を告げるよう目で促してくる。

 仕方ねえ。

 

「い――」


「イクス。いいんじゃねーかは感想として、最低ではないけれど、褒められたものではないよ。せっかく、イクスのためにクレデールさんがお洒落してくれたんだから、男としてちゃんと褒めてあげなくちゃ」


 覚悟を決め、告げようとした矢先、俺の思考を先読みしたように、ディンに感想を封じられてしまう。

 ちゃんと褒めるって言われても、どうすりゃいいんだ。

 

「……ちゃんとひとりで着られるやつを選んだんだな」


 一応、感想らしきものは告げたが、どうやら合格は貰えなかったらしく、クレデールは眉を顰め、エリアス先輩とリオンは首を横に振り、ディンは首を竦めて俺の肩に手を置いてきた。


「イクス。それじゃあだめだよ。やり直して」


 感想にやり直しも何もあるか。

 しかしディンは、こと女の事に関いては妥協しねえ奴だ。

 くそっ。褒めるったって、どうすりゃいいんだ。


「あの、先輩。似合っていないでしょうか?」


 クレデールが不安そうな顔で尋ねてくる。

 いや、似合ってはいる。

 似合ってはいるんだが、俺の中の女の着ているものを褒めるという部分のボキャブラリーが足りず、それ以外に何と褒めたものか、全く思いつかねえ。

 なにしろ、こんなこと初めてだしな。


「いや、似合ってる。その、可愛い、と思う、ぞ」


 結局、可愛いとか、きれいだとかしか、褒める単語が思い浮かばなかった。

 

「そうですか」


 そんなもんで満足したのか?

 分からねえが、クレデールは笑っているみてえだし、これ以上負担が増えねえのは良いことだ。

 とにかく、クレデールはそれ以上他の水着を試着をするようなことはせず、買うことに決めたようだった。


「じゃあ、次は私のを選んでね」


 それから、エリアス先輩は数着、ファッションショーさながらに(実際に見たことがあるわけじゃねえから憶測だが)数着試着しつつ、ポーズをとり、いちいち、それに対してディンが絶賛するという一幕があった。

 俺は感想を言わなかったんだが、エリアス先輩は十分に満足したような顔をしていた。

 同じようにリオンの水着選びも進められ、最終的に女性陣3人はそれぞれ水着を買うことに決めたらしく、揃って会計に向かった。


「イクス。夏季休暇は楽しみだね。一緒にプールやら海やらに行けそうで」


「先輩は難しいんじゃねえのか。いや、本人は出かける気満々だったが」


 ここへ来るまでの会話を思い出しつつ、楽しそうに夏季休暇の展望を話すディンに適当に相槌を打ちながら、何故か先程のクレデールの水着がフラッシュバックしそうになり、俺は頭を振ってそれをかき消した。



  

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