白いアマランス
「……では……どうしても行くのか、ガイ」
「ええ。……ご心配なく、兄さん。必ず朗報を持ち戻って参ります」
「……気をつけてな」
ガイ公子は兄に臣下の礼を取り、部屋を出た。従士としてつき従うことになった騎士のバルドーがその後ろに続く。
「……大丈夫なのですか、ガイアルエス様」
バルドーが囁いた。
「案ずる事などありませんよ。私の持ち場は、兄が……いえ、ギルクリスト殿下が何とかして下さいます。それに、私は単に調査に向かうだけですから」
知的な顔に微笑を浮かべ、しかしガイ公子は決然と前を見つめていた。
「……それにしてもこの戦は分からない事だらけです。何故このような消耗戦になりながら、誰も和平交渉に応じないのでしょう。全ての土地で皆が苦しんでいるのに……私見ですが、何らかの原因があると思うのです。だって、そうでしょう? 得るもののない戦だというのに……私はそれが知りたいんです」
バルドーは黙って主人の背中を見つめた。もし主人が嫡子であったならば、恐らくは名うての領主として将来有望視されていたに違いない、と彼は思った。
「あ、そうそう。バルドー、私のことは外では騎士ガイと呼んで下さい。堅苦しいのは実は苦手なんですよ」
振り返り、ガイはそう言って表情を和らげた。
「御意に」
「……それも、屋敷を出たら禁止ですからね。私は騎士、あなたは従士ですからね?」
バルドーは苦笑し、頷いた。親子ほども年の離れた若い主人を、彼は嫌いでは無かった。
「……で……ここは……何処なんだろう?」
その頃、セピアとミムは、森を抜け、さびれた街道を歩いていた。何処かに集落でもあるのではないか、そこで父と兄のことが聞けるのではないか……と望みを持っての道中だったのだが……行けども行けども、街道沿いには荒野が広がるだけであった。
「まだ、森の中を徘徊していた方が良かったかも知れないわね……食べ物はあったもの」
「そ……」
ミムの無邪気な発言に、セピアは一瞬詰まってしまった。「そんなこと今更言わないでよ」と言いかけた言葉を飲み込み、彼は前方を指差した。
「だ、大丈夫だよっ。ほら、向こうに木が見える」
「あ……本当。良かったわ。食べられる木だといいな。私、お腹すいちゃって……」
あくまでも彼女の発言は無邪気だ。……セピアはこっそりため息をついた。
「……木の根や皮は食べ飽きたって言われるよりは、マシかなあ……」
寂しく自分を慰めてみるが、……空しい。たまには人間らしい食事を摂りたい、などとわがままも言えず、彼はひたすらミムの保護者を演じていた。年は自分の方がどう見ても下なのだが、やはりそこは男としてのプライドが許さないのであった。
やがて木の下に腰を落ち着け、二人は休息を取った。木の皮を調べていたミムが、がっかりして息をついた。その様子だけで、セピアには、この木が食用に適さないのだと分かった。急に疲労が二人の上にのし掛かってきた。
「……はあ……集落でもあれば、少しは何か分けて貰えるかとも思ったけれど……」
セピアはミムの大切に抱えている包みを見つめた。その中には琴がしまってあるのだ。
「ミム。少しは、上手くなった? 琴」
重たい気分を紛らわそうと、彼は何気なく尋ねた。
「え……?……分からないわ。私。……でも、この琴の音とても綺麗で、好きよ」
ミムは久しぶりに包みを開け、琴を取り出すとその弦を弾いた。ゆるやかな波紋が滑り出す。確かにいい音色だ。
「……くすくすくす……」
風の囁きが聞こえたような気がした。
「……くすくすくす……何処からきたの?……何処へいくの?……くすくすくす……」
「!……ミム、ちょっと止めて!」
セピアはミムに演奏を中断させ、耳を澄ませた。確かに空耳ではない。何か、別の気配がする。
「くすくすくす……僕は上だよ、おにいちゃん」
「誰だ!」
木の上を見上げるが、誰も居ない。しかし、声は確かに上から聞こえてきた。
「くすくすくす……鬼さん、こちらぁ」
手を叩く音がして、気が付くと真っ白な髪の女の子が自分のすぐ横に立っていた。セピアは驚き、ミムを見た。
「今……この子、何処から……?」
「え?……上から飛び下りてきたのよ? セピアには見えなかったの?」
どうやらミムには見えていたらしい。一瞬妖精族でも現れたのかと驚いてしまった自分が恥ずかしくなり、セピアは帽子を目深に被り直した。
「くすくすくす。顔、赤いよ、おにいちゃん」
まだ十歳にも達していないであろうその子供は、セピアの顔を見上げた。透明な緑色の瞳が春の山を思わせる。白い髪が風に揺れた。
「僕はアマランス。天界に咲くお花の名前。……おにいちゃん逹、何処からきたの? 何処へいくの? くすくすくす……この辺りには何にもないよ?」
風に踊るように少女は手を広げ、服の裾をはためかせた。ミムも琴を抱えたまま、ぼうっとアマランスを見つめている。この世の存在とは思えない程、少女は現実離れして見えた。それが不思議な髪と目の色故の錯覚だとは分かっている。だが、微かに精霊の香りが漂っていることに、ミムは鋭く気が付いた。
「あなた、妖精でしょう?」
ミムはおずおずと尋ねた。
「僕? ううん、違うよ。僕は妖精さんのお友達。でも、妖精さんじゃないの。僕の村、そこら辺にあったんだけど、燃えちゃったから。一人になっちゃったから」
アマランスはそう言って、荒野の一角を指した。瓦礫と焼け跡が、ぼうぼうとした草に隠れて転がっていた。
「あれはね、村のみんなのお墓」
少女が指した方向には、小さな花が置いてある。
「僕じゃ埋められないから、ちゃんとしてないけど、でも、お墓。でしょ?」
「……そうだね」
他に答える言葉が見つからない。セピアはそっとアマランスを見た。きっとあの澄んだ目を真っ赤に泣きはらして作ったんだろう、と想像して、彼は去りし日の自分の姿を見た。あの時自分は一人じゃなかった。すぐ横にミムが居た。でも、アマランスは本当に一人だったのだ。しかも、まだこんなに幼いのに……。
彼の感傷を崩すように、誰かのお腹が鳴った。
「くすくす。お腹すいてるの? 僕、食べるもの持ってきてあげるよっ。くすくす」
アマランスはおかしそうに笑い、そして荒野の方へ走っていった。しばらく見ていると、彼女の姿が空気の中に溶けたように思えた。
琴が鳴った。風の悪戯ではない。ミムは琴を抱えた腕に力を込め、アマランスの消えた辺りを見た。
「……妖精の気配……」
セピアは、ミムの呟きに彼女の視線を辿った。
「……穴が……開いてるわ。いけない……駄目よ、アマランス」
ミムは呟き、激しく弦をかき鳴らした。一瞬風が流れ、そして果物を抱えたアマランスが尻餅をついて二人を見上げていた。
「ああ、びっくりした。……どーしたの? ほら、食べるもの持ってきたんだよっ。ほらっ」
アマランスは腰の埃を払うと、にっこりして二人に果物を差し出した。
「でも、それは妖精の国の食べ物じゃないの? それを食べたら、私達もうこの世界に住めなくなるかも知れないわ」
果物をじっと見つめ、ミムは言った。
「違うよっ。僕、向こうの森に行ってただけだから。あのね、向こうの森が、とっても近くなるおまじないなの。妖精さんが教えてくれたの。だから、妖精さんの国の食べ物じゃないの。ないのったら」
アマランスは目を潤ませた。セピアは少し気の毒になった。よく見ると、確かに見慣れた果物ばかりだ。
「大丈夫みたいだよ、ミム。その子の言ってること、嘘じゃないみたいだ。この果物、どれも普通にこの辺で取れるものばかりだよ」
そう言って果物を受け取ると、セピアはさも美味しそうに齧り付いてみせた。赤い果汁が飛ぶ。
「うまい! 本当にうまいよ、アマランス。どうもありがとう。俺達お腹ぺこぺこだったんだ」
「セピア……」
ミムはやや不満そうに彼を見た。アマランスはにこにこして、「でしょ? でしょ?」と繰り返している。
「えっと、せぴあちゃんって言うの? せぴあちゃん、だーい好きっ! みむちゃんも食べてっ! 美味しいよってば、ほらっ」
アマランスは果物をミムにも差し出した。ミムも食欲には逆らえなかった。アマランスは二人の食べるところをにこにこして見ていたが、やがて夕方が近付くと少し寂しげな表情を浮かべた。
「……ね。明日も、この辺りに居る?」
ねだるような瞳で少女は二人を見た。
「そうだな、……今日は確かにそろそろ野営に取り掛からないと。もう遅過ぎるくらいだなあ」
「じゃ、明日の朝もここに居るのねっ?……あそぼっ! ね、いーよねっ! 約束ったら、約束ったらっ!」
急にはしゃぎ、アマランスは二人の腕を取った。
「……アマちゃんは夜はどうするの?」
どうせなら一緒に……と思い、ミムは尋ねてみた。だがアマランスは首を振った。
「僕、妖精さんとこに戻らないと。じゃ、明日、絶対、絶対だからっ!」
少し名残惜しそうにそう言って、彼女は風の中に溶けた。琴が鳴ったところをみると、異界にさ迷い込んだらしい。セピアとミムは不安になった。
「……あの子……本当に人間かなあ?」
「それは多分間違いないわ。でも、少し血が混ざっているかも知れない……精霊の匂いがするもの。……それよりも」
ミムは焚き火に顔を赤く照らされながら、囁くように言った。
「……あの子……掴まえられているのかも知れないわ。妖精に」
「えっ……?」
「しっ! 聞かれたら大変だから」
真剣な表情でセピアを諭し、ミムは小声で続けた。
「琴に教えてもらった歌の中に、『妖精騎士』っていうものがあるの。気に入った人間の子をかどわかして、永遠に自分の世界に閉じ込めてしまう妖精のお話。……何だかアマちゃんって、そういう状況にいるのかも知れないわ。だって、現実に会っている間も、何て言うのかしら……体温みたいなもの、気配っていうか……感じなかったでしょう? 彼女、向こうの『世界』に閉じ込められているんじゃないかしら」
お伽話のような説明に、セピアは少し背筋を凍らせた。魔法と余り縁のない、ごく普通の人間である彼には、この類いの話は何だか薄気味悪いのである。まだ、いつかの妖精族らしき娘が精霊を操っているあの状態の方が安心できる。目に見える方がほっとするのは、人間誰しも当然の反応だ。
だが、ミムには抵抗がないらしい。彼女は一体どんな生活をしてきたのだろうと、少しセピアは不安になった。そっと窺うと、彼女は琴を抱いたまま目を閉じていた。……『琴と話して』いるらしい。セピアは彼女の琴も何だか薄気味悪かった。
その夜は会話はそれきりになった。
「くすくすくす、おはよーせぴあちゃんっ」
笑い声で目が覚めた。セピアは身を起こした。既に起きていたミムが、食事の支度をしている。アマランスが自分を覗き込んで笑っていた。
「せぴあちゃん寝顔かわいーい。くすくすくす」
「なっ、何だよいきなりっ!」
思わずむきになってしまう辺りがまた笑いを誘ったらしい。セピアは笑っているアマランスを横目に、寝ぐせのついた髪を手で軽く直して帽子を被った。食用の野草類が香ばしく焼けている。湿った葉でくるみ、火に投げ込んで焼いただけの木の根も、なかなか上等な食事となるのだ。ミムとセピアはふうふう息を吹きながら食べた。
アマランスはじっと二人を見ている。彼女はもう、果物をたくさん食べたのだと言った。
「ねえ、妖精さんって、どんなひと?」
思い出したようにミムが尋ねた。
「妖精さん? 緑色の、いい人だよ? 優しいし、歌がとっても上手なの。暗くて怖い夜はずっと一緒に居てくれるの」
心底嬉しそうにアマランスは答えた。
「僕ね、お昼寝してたの。村を抜けてあっちの森でね、だけど寝過ごしちゃって。妖精さんが僕にね、ダンスを踊りませんかって誘ってくれたの。でも僕ダンス知らないの。そしたら、謎かけ歌しましょって言うからしたんだ。でね、僕負けちゃって、僕の金髪が気に入ったって言うし、髪の色をあげちゃったの。それから、僕ね、ずっと妖精さんといっしょなの」
特徴的な喋り方でアマランスは無邪気に続けた。ミムとセピアは食事を続けながら軽く視線を交わした。『妖精騎士』とアマランスの話はとてもよく似ている。
「私も妖精さんに会ってみたいな。駄目かしら?」
食事を終えて、ミムはアマランスに尋ねた。アマランスは「わかんない」と首を傾げた。
「金髪って綺麗だよね。ミムは銀髪だけど、銀髪も綺麗だよ」
セピアがややわざとらしく言いながら、ミムのスカーフを取った。さらりと長い銀髪が風に揺れる。ミムは驚いてセピアを見た。アマランスは目を丸くしてミムの髪を見つめている。
「すごいのっ、すごい綺麗なのっ! ほんとの銀の糸みたいなのっ! きらきらしてて、すっごい綺麗!」
手を伸ばし、ミムの髪を指で梳きながらアマランスは、はしゃいだ。スカーフに隠されて殆ど日に当たらないミムの髪は、長い野外生活にも関わらず美しい。
「妖精さんも見たいかな? 僕、今夜きいてきてあげるっ!」
何度もミムの髪を触り、はしゃぎ回ったアマランスは、去り際にそう約束した。ミムは再びスカーフを被り、風に溶けるように消えたアマランスの幻影をじっと見つめた。彼女の腕の中で、琴がぽろんと風に鳴った。
「どこなの、ここは……一体……」
ひとりで彷徨い続けるハーフエルフの娘は、道に迷っていた。
「メルロンは、何処にいるのよ……手がかりも無いし、見つけられないじゃない……」
精霊使いの少女は、心身共に消耗していた。
気を張り続ける生活が、彼女、ムアルを蝕んでいた。休んでも休めない、緊張し続けの日々。追っ手がいるらしいと気づいてからは、余計に心細さが増していた。
故郷に残した母を想う。無事だろうか。あの殺気だった連中の中で……。彼女は、最悪の想像を振り払った。
「見つけたぞ、ペレゼル(あいのこ)め!」
赤い髪に褐色の肌のエルフの少年が、森の茂みから駆け出してきた。
「俺ら、フレイムエルフ族の尊厳を踏みにじったこと、後悔させてやる!」
――そこは、まさにアマランスとセピア達が話をしていた、村の跡地だった。
琴がピンと警告音を発した。妖精の気配に、ミムは周囲を見回した。何処かで見覚えのある、尖った耳の青い髪の女の子。そして、赤い髪の少年から放たれる魔法の火の球。ムアルが気づいて避けるには遅く、また、精霊召喚で対抗しようにも時間が無かった。
スローモーションのように、火の玉がムアルに命中する――。
「「だめー!」」
ミムと、突如現れたアマランスが、ごうごうと燃える火球の中に、飛び込んでいた。両手を広げ、ムアルを守るように。
咄嗟にぎゅっと目を閉じたミムの瞼の下で、また青く目が光った。
そして……火球は、気配もなく消え去っていた。
「いつかのケレブリン(銀髪エルフ)!? どういうつもりなの?!」
「邪魔するな!」
ムアルと赤い髪の少年ファウが、同時に叫ぶ。
「けんかは、だめなの! なのったら! なのったら!」
そう訴えるアマランスの体が、輝きだしていた。
「おかしいわ、害なす魔法は消した筈なのに……」
無意識にミムが呟く。さらりと琴が音を奏でた。
『精霊魔法の気配をまともに受けて、彼女の血が目覚めたんだ』
そこには、見知らぬ狐耳の男が現れていた。男の下半身は溶けるように空気に馴染んでいて、見えない。
『妖精の枷が外れたようだな。迎えに来た、アマランサス。俺は精霊狐の王、パリスだ……お前の先祖にあたる』
『え、え、どうゆうことなの? 僕、どうなっちゃうの、おぢいちゃん?』
半透明の、白い狐娘と化したアマランスが、体をきらきらと輝かせながら、パリスに尋ねた。
『サークおにいさんと呼べ!……俺だって、先祖とはいっても、精霊の血に目覚めたのは、そんなに年齢いって無かったぞ!』
思わず生前の名を口走る精霊狐。
『さあちゃんは、僕のご先祖だから、おぢいちゃんでいいの!』
呼び方なんてどうでもいいけどさ、この、エルフ二人はどうするんだよ……。
セピアは冷静に、エルフ二人を見つめた。二人はナイフと短剣で切り結び、現在、大立ち回り中である。
ミムが何かしているのか、エルフ達は互いに魔法を使えない状態らしい。
「あたしのお母さんをどうしたの! どうなったの! 教えなさいよ!」
「知らねえよ! それより、森エルフはそんなに偉いのかよ! フレイムエルフの俺らを奴隷扱いしやがって!」
「初耳よ! 亡くなった長老様も、そんな指示は出していなかった筈だもの、何か誤解があるのよ!」
「誤解だと? 現場を見て言えるのかよ、同じことが! 俺の同胞がどんな目に遭っているか知らねえんだろ!」
「ええ、知らないわよ!」
カン、カン、と刀身のぶつかり合う音がこだまする。
技量は同等のようだ。
「そのくらいにしておけよ」
すらりと剣を抜き、セピアが仲裁に入った。
「理由をつけて憎み合うのは勝手だけど、俺は個人的に、誰かが傷つくところを見たくないんだよ」
セピアは、狼退治で鍛えた見事な腕前で、あっという間に二人を引きはがしてしまう。
『何かおかしなことがこの世界に起こっているんだ。皆が狂気に落ちて、暴徒と化している』
精霊狐パリスは、星の見えなくなった夜空について語った。
『世界を狂気から守るために、我々は空に蓋をした。だが、光の強い太陽や月、黄金龍を隠せなかったせいか、どこかから、漏れ出た狂気が世界中に広がっている。何処かで止めないと、この世界が滅ぶまで、誰もが争いをやめないだろう』
「……もしかして、あんたが、メルロン?」
ムアルは金色の精霊狐を見つめた。
『知らない名だな。俺では無い』
「その話は、本当なんですか?」
かぶりを振る精霊狐に、馬を下りて歩み寄る鎧の男がいた。
「私は騎士ガイ。従士バルドーを連れて、この戦乱を鎮めるための調査の旅をしています」
恭しく礼をとるガイ、手綱を押さえ控えるバルドー。金髪の青年と壮年の2人組からは、誠意が感じられた。
精霊狐の王は再度、詳しく世界の状況を説明した。
「何もかも狂っちまったって、そういうことかよ? 森エルフの豹変も、俺らの扱いの変わりようも、その狂気とやらの所為だってのか?!」
赤髪のエルフ、ファウが精霊狐に尋ねる。
金色の狐王は頷いた。
「ばっかばかしい」
ファウは短剣を投げ捨てた。憎しみをこめて、ぐりぐりと踏みつける。
「要は、そこのペレゼル(あいのこ)を始末しろって命令も、世界の狂気の仕業ってことなんだな。俺、何だよ。何なんだよ。誰だか知らねぇ奴に、踊らされただけじゃねえか」
『もう、喧嘩、しない?』
白狐アマランスが尋ねると、「ああ」と肩をすくめ、ファウは獣道を踏み分けて、去っていった。
「踊らされるのも、いいように操られるのも、ごめんだ。俺は、俺の道を探す」
この章の前半と後半でかなり長いブランクがあります。これ以降は諸事情で描写力が乏しくなっております。あっさりした展開にかわりますが、ご承知おきくださいませ。