不吉な影
※残酷描写注意です。
「わああ……!」
ミムは目を見張った。森の向こうに、普段なら根雪で眩いほど白い山々が今は淡い桃色に輝いている。朝靄のカーテンの向こうに茜色の朝が忍び寄り、やがて黄金色の光と共に太陽がその姿を現した。
セピアは羊たちの眠そうな声を聞きながら、ミムの嬉しそうな様子に顔をほころばせていた。他所者に対して煩い村の連中を避けるために、普段よりも早くに家を出たので、山の放牧場に着いたのは夜明け前だったのである。当のミムはブルーノから借りたスカーフで、目立つ銀髪を完全に覆った格好で、日の出の美しさに見とれている。
「……日の出を見たのは初めてかい?」
セピアはミムにそっと尋ねた。彼女は縦に首を振った。
「……私の住んでいたのは深い森の中だったから、こんな風に真っ直ぐにお日様の出るのを見たことがなかったの。小さい頃、私はいつも木々の隙間からこぼれる朝日を見つめていたわ……」
彼女はぼんやりとそう呟いた。もしかすると、案外早くにこの子の記憶は戻るかも知れないな、とセピアは思った。
彼が指笛を響かせると、それを合図に牧羊犬のエスとバスが羊逹を追いまとめる。いつもは甘えん坊のエスが凛とした表情で羊達を誘導し、足の速いバスがはぐれかけた仔羊達を先回りして群れに戻す。群れに混ぜられた賢い山羊が、安全に草を食める場所を見つけ出し、群れ全体を指揮している。見事な役割分担である。
日が昇り切ってしまうと、ミムの関心は風を切って走るバスのほうに釘付けになった。
「……私も、久しぶりに走りたい」
彼女は大事に抱えていた片手琴をその場に置いて、草原を走り始めた。頬に当たる冷たい風が心地好い。彼女は、自分が走るのが大好きだったことに気が付いて嬉しくなった。草の匂い、自分の息遣い、胸の鼓動、全てが鮮やかで懐かしかった。彼女は調子に乗ってスピードをあげた。犬のバスにも匹敵する駿足ぶりに、セピアは驚いて、一瞬我が目を疑った。しかし何度目を擦っても、気持ち良さそうに走る少女は現実だった。
「へえ。意外だなあ」
セピアは思わず呟いた。
「運動なんて縁がないお嬢さんだと思っていたけど……いやあ、どうしてどうして」
自分に見とれている黒い瞳に気が付かないまま、ミムは走り続けていた。心地良い開放感に、彼女は酔いしれていた。彼女は何気なく思った。
「飛べ!」
しかし、彼女の足が大地を離れることはなかった。突然、違和感が彼女を掠めた。ミムの心の中に、肌触りの違う感覚が蘇ってきた。走るリズムのずれ、風の感触の違い、そして……何かの欠如。ミムは、唐突に走ることを止めた。そして自分の足を見下ろし、「違う」と感じた。しかし、何がどう違っているのかは思い出せなかった。
「凄いなあ」
セピアが感心した表情で近付いてきた。ミムは振り返った。走ったせいばかりではなく、胸が苦しい。ミムは思わず目を伏せた。だが、黒い瞳に感嘆をたたえて、セピアは彼女を見つめている。
「……驚いた。あれだけ走って、息一つ切らしていないなんて。本物だね」
「え……本物って……?」
ミムは不審そうに首をかしげた。セピアは言った。
「多分、君は走る仕事をしていたんじゃないかな。俺はそう思うよ」
ミムは俯いた。何も思い出せない。そんな彼女の様子に、セピアはまずい事を言ってしまったと気付いた。
「……だ、大丈夫だよ、すぐに思い出せるって。先刻、君は思い出せたろ? 小さい頃に見た朝日のこと……。他の事も、すぐに思い出せるさ、絶対そうだよ!」
彼は慌てて、そうまくしたてた。何とか彼女を元気づけようとしたのだ。ミムはそれに気付いて、無理に笑顔を作った。
「ありがとう、セピア」
彼女はそう言って、置いてきた片手琴の方に顔を向けた。片手琴の弦の黄金色が、草の緑の中できらりと輝いて見える。ミムは琴を抱えあげた。ぴんと弦が張る。
ぽろん、ぽろんと弦を爪弾いていると、やがて気持ちが落ち着いてきた。
(……そうよね。気のせいよ、きっと)
彼女は自分に言い聞かせた。
(慣れないことばかりで、記憶が混乱しているんだわ。きっとそうよ……)
弦の奏でる澄んだ音が、羊達の鳴き声や鐘の音と混ざって、不思議な音楽となってゆっくりと空気に溶けてゆく。透明な音色に半ば酔って、彼女は目を閉じた。彼女の気分が落ち着いた様子なのを見て、セピアもようやく安堵し、群れからはぐれそうになった羊を犬逹が追う作業を見守った。
何事も無く時間が過ぎた。太陽が一番眩しく空を照らす頃、セピアは自分の弁当の包みを持ってミムの傍にやってきた。
「ミム、御飯にしよう。何処で食べる?」
「そうね……」
彼女は首を巡らせ、風のよく通る高台を選んだ。眼下に村が見えている。家々の屋根から煙が幾筋も風にたなびいている。何処も昼御飯にしているようだ。
「セピア、あなたの家はどれかしら?」
ミムは風に揺れるスカーフを片手で押さえながら、遠い村を眺めた。
「あなたの、なんて言うなよ。ミムも俺の家族なんだから……ほら、あの赤い屋根」
木々の間に、微かに赤い煉瓦の屋根が見える。ミムは満足して座り込んだ。遠くから眺める村はとても静かで、美しかった。隣でセピアが弁当を広げる。朝まだ暗い内に母親が焼いたパンの塊に、生ハムとチーズが挟んであった。
「美味そうだよ。ミムも食べなよ。喉が渇いたら、山羊にお乳を分けてもらえばいい」
彼はそう言いながらパンをふたつに割った。半分を彼女に手渡そうとして、彼は彼女を見た。ミムは吸い込まれるように村を見つめている。セピアは彼女の視線を辿った。
初めは何も気が付かなかった。村は静かで、ただ煙がたなびいていた。その煙が煙突から出ていないことに気が付いて、セピアは思わず立ち上がった。
「何だ! 何があったんだ……?」
彼は目を凝らした。遠過ぎてよく分からない。ミムがちいさく呟いた。
「……いや……やめて……」
目を伏せ、彼女は自分の琴にしがみついた。肩が震えている。
「やめて! もういや、殺さないで……!」
(人の悲鳴、誰かの泣き声、血の臭い、燃え落ちる家屋、……誰かの嘲笑、命乞い……)
彼女は絶叫した。目から涙が筋を引いて落ちる。村をすっぽりと覆う殺意の影に、彼女は怯えていた。
そのただならぬ様子にセピアは戸惑った。全財産である羊達を置いて行く訳にはいかない。だが、村には母親が、そして村の皆が残っている……。
彼は弁当の包みを放り出し、狼対策に持っていた剣を取り上げた。そのまま、村へ下る道に向かって走り出す。
「ミムはここに居て! エス、バス、羊逹を任せたよ! すぐ戻るから……」
走りながら彼は叫んだ。
「待って、私も行くわ!」
ミムも彼の後を追う。
村までの道程がもどかしく、二人は走った。山道を駆け降り、ぱっと目の前が開けた時、そこには静まり返った村の建物だけが佇んでいた。きな臭い、嫌な匂いが立ち込めている。
「……母さん!」
セピアは真っ直ぐに自分の家を目指した。赤い煉瓦がすぐ間近に迫る。その窓の中が赤く燃えている事に気付き、彼は硬直した。
どん、と物凄い音がして背後の建物の窓枠がふっ飛んだ。火が窓から覗いている。二人がはっと振り向くと、油瓶を持った小柄な人影がぞろぞろと姿を現した。……醜鬼族だった。皆、手に手に油瓶や得物を構えている。人間の死体からもぎとった首をぶら下げている者もいる。彼等は一様に冷酷な笑みを浮かべていた。
「何故……醜鬼族が?」
セピアは信じられないといった顔で目の前の亜人を見つめた。確かに、この村から少し離れた場所に、醜鬼族の集落があることは、村の誰もが知っていた。だが、集落の近くには良い猟場があったため、誰も彼等に襲われる事はないと信じていたのだ。事実、今まではなかった。
呆然と佇むセピアを庇うようにミムが前に出た。きっと醜鬼族を睨みつける。
「……この村はとても静かで美しいところだったのに……何をするの!」
丸腰のまま立ち塞がった彼女に醜鬼族は少し驚いたようだが、新しい獲物が来たとでも思ったのだろう、嬉しそうに舌なめずりをしながらじりじりと近付いてきた。囲まれる、セピアはそう思ってミムの背中を守るように剣を抜いた。だが、そんな彼等に、ミムはびくともしない。
「説明してよ、何故関係のない人を巻き込むの!……答えないつもりなら、私、怒るわ」
彼女は真っ青な瞳で彼等を睨み付けた。セピアは、彼女の思いがけない度胸の良さに驚きを隠せないでいる。醜鬼族もそれは同じだったのだろう。まず一人がたじろぎ、集団の結束力はあっと言う間に崩れ去った。だが、彼等の足は何故か竦んでしまい、逃げようとした者達は次々と地面に倒れてしまう。
ミムは黙ったまま、目で彼等を威圧した。自分は醜鬼族に勝てるという不思議な確信があった。怯えて腰を抜かしている彼等を見据え、ミムはじっと答えを待つ。
「……人間が……いけなんじゃ」
醜鬼族の一人が、どもりながら言った。
「おれらの猟場あらした……こども、ころすた、おれら、ふくすう、するじゃ」
「人間が先にやったじゃ」
たどたどしい言葉で彼等は言った。
「嘘だ! 俺達は、トラブ村の者は、誰もお前達の集落に手出しはしない! 昔からそう決めていただろ!」
セピアが叫んだ。
「嘘じゃなゃ! 鉄きてやつら、おれら、ころしに来てってた! おれらの村、かえせ!」
醜鬼族の方からも反論が上がる。
「鉄を着た奴等が……?」
口の中で繰り返して、セピアは俯いた。彼には心当たりがあった。……今この瞬間にも何処かで行われている、戦争という獣。父と兄を連れ去った嵐が、この近くに来ている……?
「……それでこの村を襲ったの!……復讐して、何が変わるというの! 皆が……哀しむだけじゃないの?」
ずっと黙っていたミムが口を開いた。
「もう戦いはいやっ! どうして憎み合うの? 何故……あの女は……あの女は……」
彼女は顔を両手で覆った。半分理性を失い、彼女は無意識に誰かの顔を思い浮かべていた。醜鬼族から闘気がなくなったことを感じて、セピアは燃え盛る自宅を降り仰いだ。炎の勢いは収まり始めている。
「母さんを探さなくちゃ……」
彼はミムをそこに置いたまま駆け出した。一縷の望みを掛けて、離れや納屋を覗く。母はいなかった。……この時間いつも母は、家で羊毛を紡いでいた……。
「やっぱり、燃えちゃったのか? 母さん……」
セピアは涙を目いっぱいにためて、火に遮られて今は入れない自宅を見つめた。
「……偶然でも、どこかに出かけていて欲しい……」
だが、自宅の敷地内には母の姿は無かった。うなだれてミムの処へ戻ると、醜鬼族はもう散り散りに逃げた後だった。
「……ミム……」
かあさんが……。セピアの言葉は途切れた。だがその時二人を衝撃波が襲った。咄嗟に伏せると、すぐ近くの建物が粉々になって破片が降ってきた。
「何だよこれ……魔法?」
「セピア、隠れましょう!」
身の危険を感じ、ミムはセピアの手を引いた。彼女の抱えた琴が微かに音を立て、二人を安全な場所へ導いて行く。彼等が村から少し外れた木立ちの茂みに身を隠すと、しばらくして、山道の方から、耳障りな音が近付いてきた。金属音、談笑……嫌な気配だった。
「……ったくよぉ、しょうがねぇんだからあいつは」
「よせよせ、下手なこと聞かれたら、俺達の頭くらいふっ飛ばされちまうぜ、ぱんっ、てな」
「しかし、助かったよなぁ俺ら。こんだけ羊がありゃあ、しばらくは腹一杯食っていけるぜ」
鎧を着込んだ兵士風の男達がぞろぞろと我が物顔に村を通っていく。彼等は返り血で体中に焦げ茶色の染みを付けていた。何処かから奪ったらしい大八車に、足を傷つけられた羊達が山のように積み上げられている。羊の呻くような泣き声が痛々しい。
「……あいつら……」
セピアの顔が怒りに歪んだ。だがミムが彼をそっと押し止める。
「おれらのふくすう!」
突然建物の影から先刻の醜鬼族が現れて、兵士達に向かって油瓶を投げた。
「おや、こんなところに鬼がいるぜ」
兵士達は動じない。笑顔のままで剣を抜き、ためらいもせずばっさりと醜鬼族を斬り捨てた。
「しかし、さみしいねえ。何があったか知らないが、持って行けそうな物は全部燃えちまってるぜ」
彼等は村を好き放題物色している。焼けた家の窓から覗いていた焼死体を見つけ、「……女も、な」と残念そうに唾を吐いた。
「……うちの羊達は……エスとバスは……? ハウローは……」
黙って見ているのに耐えられなくてか、セピアはそっと立ち上がった。ミムが心配そうに彼を見る。
「……助けに、いかなくちゃ……」
セピアは抜き身の剣を手にしたまま、ふらふらと歩き出した。兵士達に気が付かれないかとミムは用心しながら彼の後に続く。
山の上は、死臭で満ちていた。そこらじゅうに羊の死体が転がっている。二人で食べようとした弁当の包みが踏みにじられてぐちゃぐちゃになっている。兵士達は羊の中でも質のいいものだけ見繕って奪って行ったのだろう、だが、まだちいさい小羊までもが殺戮の対象にされていた。
「バス!」
愛犬を見つけ、セピアは駆け寄った。バスは力なく目を開いた。体中に刀傷があり、口には布が付着していた。恐らく、兵士に噛み付いたのだろう。
「エスは?……エスは何処にいった?」
セピアはバスをそっと横たえ、牧草地を見つめた。かつての美しさは何処にも無かった。しばらく歩いたところで、腹を裂かれて死んでいる愛犬が目に留まった。傍には幼い羊が事切れている。
「ハウロー……カイナ……皆は……皆は……」
悪夢にうなされているような呟きを繰り返しながら、セピアは走った。
「俺が……俺がここを守っていたら……もっと早く戻っていたら……」
僅かな希望を求めて遊牧地を駆け回る。しかし彼の目に映るのは、羊達と犬逹の亡骸と、ごみのように打ち捨てられた幼馴染みの死体。
世界が灰色に見えた。身ぐるみを剥がれ、全裸で死んでいたハウロー。頭を叩き割られ、全身に足跡をつけられて倒れていたカイナ。鉄錆にも似た血の匂いが、山を、村を包んでいた。遠くで匂いを嗅ぎつけたのか、狼の遠吠えが聞こえてくる。セピアはすすり泣き、がっくりと崩れ落ちた。
日が落ちようとしていた。いつもは夕御飯の香しい匂いでいっぱいになる紫色の空気が、今日は死の匂いと共に降りてくる。全てが息絶えた村の残骸を、肩を落として二人は歩いていた。燃え残った建物を巡ったが、生存者は一人も見つからなかった。
兵士達はもう居ない。危険は去った……二人の大切な全てを奪って。財産も家族も故郷も失い、彼等は孤独だった。村が良く見えるセピアの家の牧草場に、新しく立った墓標が夕日に染まる。沈みゆく暗がりの中、二人は村の人々の墓を掘っていた。その横に、小さく醜鬼族たちの墓も並んでいる。
「………」
目を真っ赤に腫らしたまま、二人は黙々と作業を続けた。肩が、腕が悲鳴を上げている。だが、二人は墓を掘り続けた。無名の墓標が次々と生まれた。
「……セピア……」
全てが終わり、星の全く無い、煌々と輝く月明りのもと、ミムがそっと口を開いた。セピアは黙ったまま、最初に掘った墓を見つめている……「ブルーノ」と一言だけ書かれた荒削りの墓標……。
脳裏に、村の人々の視線が蘇る。
「妖精族を拾ったそうだよ」
「何もないと良いが……」
彼女のせいじゃない、とセピアは首を振った。ミムは何も悪い事はしていない。
心配そうに自分を見つめる彼女の視線に気が付いて、セピアは無理に笑顔を作ってみせようとした。顔を歪め、泣いているような、苦しんでいるような複雑な表情が生まれる。だが彼にはそれが精一杯だった。
「……大丈夫だよ。俺が何とかする……何とかするから……」
彼は声を詰まらせた。しっかりしろ、男だろ! 彼は自分を叱った。俺がミムを守ってやらなくちゃ。今は、ミムが俺の……唯一の……家族……。
涙は止まらなかった。セピアは、ミムに見られまいと顔を伏せた。ミムは彼の哀しみの全てを感じた。彼女は心が押し潰されそうだった。自分がこの村に来たせいで、こんなことが起きたのではないか、という罪悪感が膨らんでいく。
『あなたのせいじゃない……』
優しい声が心をよぎる。
『あの人を、彼女を止めて……』
ミムは顔を上げた。聞き覚えのない暖かな声。彼女はそれを、セピアの母の声だと思った。『彼女』という存在に心当たりはないが、今は記憶の襞に隠れているのだろう……ミムは心を決めた。
「セピア。私、自分の記憶を探すわ」
彼女は立ち上がった。セピアが彼女を見上げる。
「私、自分の記憶を探す。そして……『あの女』を止めてみせる」
「『あの女』って……」
セピアは掠れた声で聞き返した。
「その答えを探すの。セピア、私と一緒に来て。私があなたを守るわ……お願い」
彼女は青く光る瞳で、真っ直ぐに彼を見つめた。無意識にセピアは頷き、ミムの手を取った。触れた瞬間に電気のような物が走る。彼は驚いて手を離そうとしたが、ミムはしっかりと彼の手を握っている。
「……あなたなら、託せる……」
彼を見つめたまま、ミムはうわ言のように呟いた。
「私、あなたを信じるわ。私の名は……」
彼女は何かを呟いた。その言葉は小さ過ぎて彼の耳には届かなかったが、セピアにはとても重大なことを聞いたように感じられる。しかし、自分を見つめるミムの目は虚ろだった。恐らく、彼女は今何を言っているのか分かっていないのではないかと彼は思った。
突然、彼女はかくんと崩おれた。慌ててセピアが彼女を支える。……ミムは眠っていた。彼は軽く溜め息をつき、彼女を近くの焼け残った建物の中に横たえた。そして、昏々と眠る彼女の寝顔を見つめながら、セピアは窓越しの暗い夜空に囁いた。
「……母さん、みっともないって怒ると思うけれど、今夜は泣いてもいいよね。だけど明日からはミムを守って頑張って生きるよ。……俺達の事、見ていてくれよ。……父さんや兄さんにも会いに行くから。絶対に会って、母さんの事、伝えるから……」
頬に星が、ついと流れた。