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魔と、精霊と

「あなたは、自分が何をしたのか、わかっているのですか?」


 透明な悪魔は、樹エルフのフォスファーに、語りかけていた。


 フォスファーは、今や、孤独だった。


 仲間は、放浪者の忠告を無視して、戦死するまで戦い抜き、そして、滅びていった。


 戦争は悪化し、なくならなかった。


 抑止力にも、なれなかった。



 仲間から死者を多く出し、フォスファーの指導力は、地に落ちていた。



 誰も、自分達が狂気に巻き込まれたとは思わなかった。


 自分達だけは無事だと信じて、そして、フォスファーに命を託した。



 結果が……こうだ。



 フォスファーは、すすり泣いていた。


 世界樹から出なければよかった、と、悔いていた。


 自分に、この乱れた世界を、何とか出来ると思い上がっていた。


「僕は、どうしたらいい?」


 フォスファーは、泣き声で透明な悪魔に尋ねた。


「そうですね……転生して、改めて生き直すのは如何でしょうか。洞鬼にはチェンジリングという習慣があります。世界樹のエルフとしてではなく、一介の鬼族として、俗世を知り、新たに生を全うされては如何でしょうか? そうすればもっと地に足のついた考え方が出来るようになると思います」


 透明な悪魔が去ると、フォスファーは、自分を洞鬼の一人として生まれ変わらせた。


 でも、それだけで、犯した罪が許されるとは思えなかった。


 多くの命を奪い、多くの善意を踏みにじってしまった。


 僕は、僕を、封じよう。


 そして、次元のどこかに、漂えばいいんだ。



 ……彼は、三百年を遡り、南方に位置する大陸へと、その身を沈めた。



「あれで良かったの?」


 リスラウネは、フォスファーの落ち込んだ姿を、小さな背中を、異形の目に焼き付けて、尋ねた。


「これくらいしか、私には出来ません。彼の命を奪うことは簡単ですが、私がそれをするわけにはいかないですからね」


 幽霊は、これ以上、黄金龍を負の感情で穢したくなかった。



「さて、私も己の使命を全うすることにしますか。リスラウネ、有難うと先に言わせてください。あなたがいてこそ、私は生きられた、と」


 透明な悪魔は、半透明なリスラウネの胸に手を突っ込み、脈打つ心臓を引きずり出した。


 魂の双子であり、黄金龍への導き手たる生贄、リスラウネの体が闇に溶けていく。


 弱弱しく脈打つ小さな心臓を、一対の翼に変えて、透明な悪魔は、暗い空に身を投げた。


 目指すは、黄金龍そのものだ。

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