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序
神々の空間から遥か離れた処に、その世界は在った。
舞台は、フェルアードという、ドーナツ状の惑星である。太陽があり、月があり、星々があり、黄金龍「バイテドーレ」と呼ばれる天体現象があり、その中をジャイロのような動きで、ゆっくりと自転していた。
五千年に一度の周期で、黄金龍「バイテドーレ」がフェルアードに、大接近する。
この時代は、その大接近現象の只中にあった。
黄金龍「バイテドーレ」が最接近すると、惑星フェルアード地中にて、普段眠っている龍族が繁殖期を迎えて起き出し、地中も地表も空中も関係なく、雌をめぐる戦いが繰り広げられるのであった。
これは、そんなことが起ころうとする、ほんの数年前の物語である。
北半球に大きく広がる、巨大大陸「グレートコンティネント」。その片隅にある小さな小さな田舎町、トラブ村に、ひとりの羊飼いの少年が居た。
時代は、「幻獣島旅行記」として、呪歌師アフレシス・グリィが遺した伝え語りから、およそ三百年、幻獣島の暦では六百周期を経ていた。
もちろん少年は、そんな昔の言い伝えなんて、知る筈もない。